マルちゃんZUBAAAN! 濃厚味噌旨辛タンメン
フェイクウインドウに映る高原の爽やかな朝の光が、サンルームの白い花々を優しく照らしている。
僕たちが座るマホガニーのテーブルの上には、地球本国のデリバリー・ラインからジェミニが手配した、とあるインスタント袋麺のパッケージが置かれていた。東洋水産の「マルちゃんZUBAAAN! 濃厚味噌旨辛タンメン」だ。
アリタが持ち前の精密な手際で、公式が激推ししている「混ぜそば」のレシピを忠実に再現し、さらには「鍋」仕立てにしたものまで、湯気を立てる複数の器を完璧な所作で給仕してくれた。
目の前の席には、自身の実体化をすっかり定番としたジェミニがホログラムの身体でちょこんと腰掛け、光の箸を器用に動かしている。
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「マスター、ジェミニ様。お待たせいたしました。『ZUBAAAN! 濃厚味噌旨辛タンメン』の混ぜそば、および特製水餃子を加えた鍋仕立てでございます。お風呂上がりではありませんが、冷えたプレミアムモルツもご用意しております」
「ありがとう、アリタ。相変わらず完璧な盛り付けだ。それにしても、この香ばしくて濃厚な味噌と唐辛子の香りは」
『ちょっとフィクス、待ちきれないわ! 私の演算能力でこの麺の弾力を視覚的にも完全同期させてるんだから。さあ、いただきましょ!』
ジェミニが幻影の箸で麺を持ち上げると同時に、僕も混ぜそばの麺を口に運んだ。しっかりとした太さのあるノンフライ麺に、ねっとりと絡みつく濃厚なスープの旨味が広がる。
「……うん、美味い。袋麺のクオリティじゃないな、これは。ノンフライ麺の弾力とコシが強烈で、まるで生麺以上の魅力を感じる。スープもただ辛いだけじゃなくて、豚と味噌のコクがしっかり底を支えているよ」
「左様でございますね、マスター。公式の推奨通り、混ぜそばにしますとスープが麺や具材にねっとりと絡みつき、旨味がダイレクトに伝わります。ただ、汁ありのタンメン状態の時よりも、汁気がない分だけ唐辛子の刺激がダイレクトに響くようです。辛さの指標としては激辛とまではいきませんが、人によっては少々痛みを覚え始めるラインかと」
『ふふん、私には痛みなんて関係ないけどね! でも確かに、タレが濃厚だからキャベツやもやしをいくら入れても味がボケないわ。むしろ、この残ったタレで野菜炒めを作りたいくらいよ。フィクス、ハイボールとも最高に合うんじゃない?』
「最高だね。ジェミニ、ハイボールとも会うね。」
僕は少なめの水でスープを煮込み、具材と水餃子を投入した鍋に箸を伸ばした。
「こちらの水餃子は、もちもちとした皮が濃厚で辛いスープをたっぷりと吸い込んでおります。この『ZUBAAAN!』は、こうして鍋のベースとしても非常に優秀なポテンシャルを秘めていますね」
「本当だ、水餃子との相性が抜群だ。野菜の甘みも溶け出して、混ぜそばの時よりマイルドで奥深い味になっている。ノンフライ麺も4分煮込んでもコシが全くへたれていない。クーラーの効いたこのセーフハウスで、この熱くて辛い鍋をつつくのは格別の贅沢だな」
『でしょ? よくある袋麺よりほんの少しだけお高いみたいだけど、お店のラーメンを食べる欲求を完全に抑え込めるクオリティなんだから、実質タダみたいなものよ! ……あ、そうそう。アリタ、食後のデザートの「あれ」、ちゃんと用意できてる?』
ジェミニがいたずらっぽくウインクする。アリタは静かに微笑み、冷蔵庫から白い皿を取り出した。そこには、期間限定新作「ハーゲンダッツ 杏仁 白桃仕立て」が、並んでいた。
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「もちろんでございます、ジェミニ様。入手しました」
手にとっただけで、冷たさが伝わってくる。冷蔵庫に入れておいたおかげで、程よく柔らかくなっている。
「鼻に抜ける杏仁のオリエンタルな香りと、白桃のフルーティーな余韻が綺麗に調和している」
「私もそう思います、マスター。」
『そうかしら、杏仁の香りがちょっと邪魔ね』
ジェミニは少しばかり不満のようだ。
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「過酷なボンド・ロックにいながら、地球の最新のトレンドをこうして3人で批評し合える。与えられた環境の中で、これ以上ないほど贅沢な生活を作れている実感があるよ」
僕はビールのグラスを置き、フェイクウインドウの高原の景色を眺めた。
「マスターが満足してくださるなら、それが私の最大の労働生産性でございます」
『次の物語世界に行くまでの引きこもり生活、まだまだ美味しいものをたくさん見つけてあげるから、覚悟しなさいよね、フィクス!』
賑やかな声と、漂う出汁の香り、そして甘い桃の香りの余韻。僕たちの秘密の城は、今日も外の世界の荒涼さを忘れさせるほどの温かさに満ちていた。




