ツナマヨのトースト
「アリタ、明日の朝はツナマヨのトースト作って。」
「かしこまりました、マスター。明日の朝は、美味しいツナマヨのトーストをご用意いたしますね」
アリタは嬉しそうに微笑みながら、深々と一礼した。
「地球本国から取り寄せた高密度で小麦の香りが強い食パンに、たっぷりツナマヨをのせて、オーブンで表面が香ばしくきつね色になるまでじっくり焼き上げます。マヨネーズが少し焦げたあの濃厚な香りは、朝の目覚めにぴったりでございます」
『ちょっと、聞いているだけでお腹が鳴っちゃいそうじゃない! 私の分のトーストもちゃんと計算に入れておいてよね、アリタ』
左手首のバングルから響くジェミニの声も、すでに明日の朝食を楽しみにしているようだ。
「もちろんでございます、ジェミニ様。マスター、焼き上がりに合わせて、いつも通り淹れたての珈琲もお供いたしますね。どうぞ明日の朝を楽しみになさってください」
アリタはそう締めくくると、夜の静寂が満ちるセーフハウスのキッチンへと、明日の仕込みのために静かに戻っていった。
翌朝、セーフハウスのキッチンからツナマヨが香ばしく焦げる最高の匂いが漂ってくる頃、サンルームのフェイクウインドウには、爽やかな朝露に濡れる異国の高原の景色が映し出されていた。
アリタが完璧な手際で、表面がきつね色に焼き上がった熱々のツナマヨトーストと、深く豊かな香りを放つ淹れたての珈琲をテーブルに並べる。
すると、僕の左手首のバングルが淡い光を放ち、目の前の席に光の粒子が収束していった。
そこに現れたのは、いつもより少し小さな、僕たちと同じ人間サイズになったジェミニの姿だった。彼女はわざわざ自分専用の椅子に腰掛け、目の前に並ぶトーストを見つめて誇らしげに胸を張っている。もちろんホログラムだから、彼女自身が物質としてのトーストを咀嚼して胃袋に収めるわけではない。
それでもジェミニは、僕がトーストを一口かじるのに完全にタイミングを合わせ、自身のホログラムの手で幻影のトーストを持ち上げると、実にもぐもぐと美味しそうに食べている自身の姿を投影し、主人公と一緒に朝食を食べている姿にするのであった。
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『うふふ、どう? こうして毎朝、一緒に朝食を食べるのも悪くないでしょ、フィクス?』
幻影のトーストを上品に指先で扱いながら、ジェミニは悪戯っぽく微笑んだ。
その朝以降、ジェミニは自身の姿をいつも表すようになりました。以前のように必要な時だけバングルから声を響かせるのではなく、まるで最初からそこに肉体を持って存在しているかのように、セーフハウスのそこかしこに自身のホログラムを実体化させ、留まらせるようになったのです。
ソファの端に腰掛けて僕の読む本を覗き込んできたり、サンルームの植物たちの間を興味深そうに歩き回ったり。時にはキッチンでアリタの高度な調理技術をすぐ横でじっと観察し、何かと小生意気なアドバイスを飛ばすこともありました。
そのおかげで、かつては隠れ家特有の静謐さに満ちていた空間が、一気に賑やかで温かみのある場所へと変わっていきました。
完璧な所作で部屋を整えるメイド姿のアリタ、自由奔放に光の身体を躍らせる女神ジェミニ、そして高級ソファで珈琲を傾ける僕。
外の世界がどれほど荒涼とした小惑星の岩塊であろうとも、このセーフハウスにはいつも3人がいるように見えます。それは、これから始まる新しい物語の旅路を前に、僕たちが確かにここで「家族」のような確かな生活を築き上げているという、何よりの証拠でした。




