002 AIによる大失業時代のコメリカに転移
「よし、まずは外の様子を確認しに行こうか」
僕の言葉に、アリタとジェミニが頷いた 。僕たちはアパートの重厚なドアを開け、玄関ポーチへと足を踏み出す。
一歩外へ出ると、青く澄み渡った空と、どこまでも続く乾いた空気が僕たちを迎えてくれた。
街並みは、映画や写真でよく目にするごく一般的なアメリカの郊外そのものだった。
ゆったりとした片側二車線の道路の両脇には、青々とした芝生の庭を持つ二階建ての住宅や低層のアパートメントが綺麗に整列している。少し離れた大通り沿いには、大型スーパーやファーストフード店、ガソリンスタンドの大きな看板が立ち並び、巨大なピックアップトラックやSUVが時折エンジン音を響かせて走り去っていく。
「ふむ……見た目はいかにもアメリカの静かな郊外、という雰囲気だね」
僕が呟くと、隣に並んだアリタがその静けさの裏にある違和感を察知し、視線を巡らせた 。
「はい、マスター。しかし、高度な解析を行うと、一般的なアメリカの風景の中に『異質な要素』が複数検出されます」
『異質って言ったら、ほら、あそこを見てよ!』
ジェミニが指差した先——道路の向かい側を、一台の白い自動運転タクシーがスムーズな加速で走り抜けていった。ドライバーの座席には誰も座っていない。
「自動運転タクシーの密度が極めて高いです」
アリタが指先を顎に当てて解説を加える 。
「さらに、あちらのファーストフード店のドライブスルーや、スーパーの荷下ろしスペースをご覧ください。人間の作業員ではなく、自律型のピッキングロボットや小型の物流AI端末が稼働しています。表向きの静けさは、AIと自動化システムによって省人化が極限まで進んだ結果です」
僕たちはアパートの駐車場に移動した。指定された区画には、やや年式の古いシルバーのセダンが停められていた。メモにあった「準備された車」だ 。
僕はキーを解除し、ドアを開けて運転席や車内を見回した。綺麗に掃除されており、ダッシュボードのホルダーには給油用の電子カードと車の登録書類が整然と収められている。
「車も問題なさそうだね。状態は悪くない」
『見た目はフツーのアメリカだけど、仕事を探そうとした瞬間にあのAIシステム(ATS)が壁になって立ちはだかるわけね……』
ジェミニが腕を組んで、大通りの方に目を向けた 。
「ええ。ですが、街のインフラや流通システムは機能しています。まずはこの車を使って周辺の安いスーパーや生活拠点を把握しつつ、PCでの職探しに取りかかりましょう」
僕はセダンのドアを閉め、二人に向かって爽やかに微笑みかけた。
「快適なセーフハウスから一変してAI大失業時代のコメリカだけど、生活の土台を一つずつ整えていくのは悪くない。さあ、部屋に戻って戦略を練ろう」




