003 AIによる大失業時代のコメリカに転移
アパートの室内に戻ると、爽やかな冷気が再び僕たちを包み込んだ。
「さて、車と外の雰囲気は掴めた。部屋に戻ってきたことだし、本格的に戦略的な打ち合わせを始めようか」
ソファに腰を下ろし、僕はデスクの上のPCに向かって微笑みかけた。
「まずは、この社会で生き抜くための完璧なカバーストーリー作りからだ」
『カバーストーリー? 身元偽装ってことね』
ジェミニのホログラムが空中を軽やかに揺れながら、身を乗り出してきた。
「ああ。ジェミニ、PCからネットワークに接続して、僕の身元情報を作ってほしいんだ。出生届、パスポート、運転免許証、それに納税証明書なんかの公的書類だね。コメリカの国家機関のデータベースに照合されても一切破綻しない、本物の記録として通るような完璧なデータを用意してくれ」
『お安い御用よ。国家機関のデータベースにあなたの記録を自然に滑り込ませるなんて、私にかかれば朝飯前なんだから』
「助かるよ。それから職歴と経歴の設定だけど、仕事はなるべくこの快適な部屋でリモートワークで終わらせたい。だから、高度なプログラムの技術を持っていて、なおかつAIアライメント・制御学に興味を持って研究している……という設定にしておいてくれ」
「AIアライメント・制御学ですか」
壁際で静かに控えていたアリタが、納得したように深く頷いた。
「AIによる大失業時代において、AIの挙動を人間の意図通りに制御・修正する技術や知見は、企業にとっても喉から手が出るほど欲しい最先端の領域です。リモートワークの求人を狙う上でも非常に合理的な選択かと存じます」
「そうなんだ。AI社会を攻略するには、AIを制御する側の立場を装うのが一番だからね。で、カバーストーリーが完成したら、条件に当てはまりそうな求人に『数を打てば当たる』の精神で片っ端から応募してほしい」
『任せて! 履歴書の生成から、応募者追跡システム(ATS)のキーワード自動最適化まで、一瞬で処理して何百件でも応募してあげるわ』
「頼もしいね。それと……ここからが一番重要な頼みなんだけど、応募した後のリモートのインタビュー(面接)も、全部ジェミニにお願いしたいんだ」
『えっ? インタビューも私がやるの?』
ジェミニが意外そうに目を丸くした。
「うん。画面に映す画像は僕のものを使ってくれて構わないからさ。超知性のジェミニが僕の顔と声を使って面接を受ければ、AI面接官だろうが人間面接官だろうが、完璧な応答で即採用まで持ち込めるだろう?」
『ふふん、確かにそうね! 私があなたの姿を借りて面接に出れば、どんな質問にも完璧な論理と笑顔で答えて見せるわ。楽して採用通知を勝ち取るなんて、フィクスもなかなかちゃっかりしてるじゃない』
「あはは、使えるリソースはフルに活かさないとね。ただし……」
僕は苦笑しながら付け加えた。
「どうしても最終面接とかで、直接オフィスに出かけることになったら、その時は仕方がないから僕が行くよ」
「承知いたしました、マスター。直接出かけることになりました折には、お召し物の準備や身だしなみの整えなど、どうぞ私にお任せください」
アリタがいつもの几帳面な手つきでエプロンを整え、完璧なお辞儀をした。
「よし、方針は決まった。ジェミニ、さっそく身元データの作成と求人への一斉応募を開始してくれ。僕たちのコメリカ生活、まずはリモートワーク獲得から攻めていこう!」
こうして、快適なアパートの一室で、僕たちの高度な就職作戦がスタートしたのだった。




