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【番外編完結】確かに愛はあったはずなのに  作者: 篠月珪霞


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3

妊娠に関して、センシティブな内容が含まれます。嫌な予感がした方は、どうぞ回避を。

7度目の閨を経て、妊娠を侍医に告げられたときは、心から安堵した。

少なくとも、出産までは触れられずに済む。あんな業務のような、いやフィリクにとってはそうなのだろう。

心どころか、思いやりの欠片もない行為から、しばらくは解放される。

もちろん、王家の血筋を絶やしてはならないので、最低でも2人、望めるのならば3人は産まなくてはならないにしても。


いっそ側妃でも娶って、そちらと作ってくれないだろうか。

そう考えた自分に驚いた。

そんな考えが浮かんだことに。


以前なら、フィリクが自分以外に向ける視線にすら嫉妬していたというのに。

人の心は移ろうものだというが、自分にも当てはまるとは思わなかった。

ずっと、殿下だけを想っていたから。愛してきたから。

他の女性を想う殿下を見ても、自分の心は変わらなかったから。

変わることなどないと、思い込んでいた。

──けれど、今の変わりようときたら。

滑稽で、惨めで、笑うしか、ない。











体調が安定してきた時期に、母が訪ねて来た。

大した用件があるわけでもないのに、幾度となく王宮へ足を運ぶ母。父は何も言わないのだろうか。いくら娘が王太子妃とはいえ、あまりにも頻度が高すぎる。

今日は正妃様の私室へ招かれているのでそちらにと、案内される。

いい加減、諫めるべきだろうか。

言って聞くような人ではないけれど。


「正妃様にご挨拶いたします」

「ああ、来たのね」


ほどなく着いた正妃の私室では、既にお茶会は始まっていて、会話も弾んでいた。むしろ私は邪魔では?と思ったのだが。


「それにしてもこの子、在学中に一度、婚約解消できないかなんて言ってきたのですよ」


これまでの話の流れは分からないが、何故それを正妃に言うのか、母の神経を疑う。


「お母様、」

「まあそれは、フィリクに何か不満があったということかしら?」


止める間もなく、正妃に鋭い目で見られる。その目は、わたくしの完璧な息子のどこに不服を?と如実に語っていた。


「いえ、殿下に不満など…」

「それはそうでしょう。フィリクは側室が産んだ子たちと違い、非の打ちどころがないのですから」

「娘は思春期特有の不安でもあったのでしょう。正妃様が気にすることではありませんよ」

「あらそう? でもよかったわ、婚約解消などならずに」

「ええ、今は殿下のお子も身籠って、夫婦生活も順調みたいですし」


どこを見て、そんなことを言っているのだと言いたかった。しかし、正妃の次の言葉ほどの衝撃はなかった。


「婚約解消になどなったら、アマンダともこうして気軽に会えなかっただろうし」


アマンダ…()()()()()()()()()()()()()()()


「本当に。娘が王家に嫁いだおかげで、様子を見に来る名目で、正妃様にお会いするのも以前ほど難しくなくなりました」


何を、言っているのだ、この人たちは。


「王は頼りにならないし、側室はいつでもわたくしの地位を狙っているわ。信頼できるのはアマンダだけよ」

「もったいないお言葉です、正妃様」

「いつものように、イリアと呼んでちょうだい」

「はい、イリア様」


嬉しそうに会話する、正妃と母。

私はどうしてここにいるのだろう。

何のために。













その後、どうやって正妃の私室を辞したのか覚えていない。

あの会話は、どう聞いても、どう解釈しても、母が、母たちが、自分たちのためだけに、私と殿下を結び付けようとしたとしか思えなかった。

殿下の意思も、私の意思も、一切考慮せずに。


正妃のように、確固たる地位にいても、いつ足元をすくわれるか分からないのが、王宮というところだ。まして、現国王には複数の側室がいて、フィリクの他にも王子がいる。

それは、とりもなおさず、代わりがいるということ。

心から信頼できる人間というものが貴重な存在ということも、理解できなくはない。

理解、できなくもない。けれど。


だから?

だから何だというのだ?


だからといって、私たちを、子供を、道具のように利用していいとでも?


母たちに、その意識はないかもしれない。

自分たちの子供が結婚すれば、気兼ねなく会うことができるし、友人としてより深い付き合いができるといった、そんなものだったのかもしれない。


それが、私を今、こんなにも苦しめていると、母が思い至ることは絶対にない。きっと少しも、考えすら及ばない。

私のこの、やり場のない、虚しさともやるせなさともつかぬ、感情はどうしたらいいのだろう。









日々、王太子妃としての執務をしながらも、心の中の迷宮からは抜け出せず。──自分の存在意義を見出せず。


何のためにここにいるのだろう。

誰のためにここにいるのだろう。


公爵家のため?

国のため?

母のため?

正妃様のため?

殿下のため?


──誰も、私のことなど、見てはいないのに…?


私でなくても、王太子妃はそれなりの身分と器量があれば、誰でもいい。そう、私でなくとも、よかったはずなのだ。

それこそ、殿下の想い人である、アドリエ嬢であっても。子爵家で家格に問題あるが、殿下が望めば叶ったのではないか?

むしろその方がうまくいったのではないだろうか。


私が、王太子妃でいる意味は、何…?










懐妊していようが、執務がなくなるわけではない。臨月近くなれば話は違ってくるが。

つわりのせいか、食欲はなく頭痛もひどい。ろくに食べてもいないのに、吐き気がして気分も悪い。片付けなければならない書類があるのに集中できないのが辛い。

それでも、私の執務の肩代わりなど期待できないことは、誰より私自身が知っている。


意味も意義も見いだせず、機械的に過ごしていた私の転機は、それからすぐにきた。


執務の合間、休憩時に何気なく飲んだお茶に、毒が入っていた日。

それが原因で、流産したと告げられた日。


このときに、私は決めたのだ。

これからのことを。

自分が、何を選択すべきかを。














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― 新着の感想 ―
いきなり王妃に娘が婚約破棄したかったとか言い出すの頭湧いてんのか?って思ったけどそういえば親友同士なのか……しかし、結婚前に「あなたの幸せのため」とか言ってたのが空々しすぎて笑う。まぁお母様意識してな…
流産ではなく死産では…?
臨月近くにつわり? 臨月近くに流産? ありえなくはないのでしょうか⋯
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