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ファルセ・リーベルトのライフはゼロ

 ところで芳月(よしづき)タクトをウェブで調べた時に、ハルセは『EX(エクストラ)』のタクティー画像が既に出回っていると知った。

 出所(でどころ)は自称婚約者ヒロイン、ハニー・アンダルアである。

 ゲーム世界の住人はスクリーンショットを“記録魔法”と認識している。魔法とされているが実態はゲーム内の一機能であって、ヒロインは初めから使えるヤツだ。

 ハニーの中の人はゲーム経験が無かったようで、最初はSNSで画像無しのヒロイン自慢を発信していた。故に一部ファンからは嘘つき扱いをされて半ば炎上していた。

 とはいえ流石に一ヶ月以上もプレイしているとハニーは記録魔法に気が付いた。

 今現在、意外にも優しく目を細めたタクティーがアップされている。

 ハルセの持っているスクショ以上に表情が親し気だ。それなりに関係が進んでいると判る。

 ファンは燃え上がっている。ハニーではない何か別のモノを見ているに違いない、とか、タクキューン、とか、それぞれに燃え上がっている。

 一方ハルセは、ロディの中の人は実はこの顔なんだなと思い至ってしまい、どぎまぎしてしまった。

 ロディも乙女ゲームの攻略対象として例に洩れず美形だ。けれど童顔でほんの少し背も低めだから全体的な印象は弟感がある。だからこれまでハルセも、例え欲望に忠実で隙あらば色気を垂れ流してくるとしても、ある程度は平静を保っていたところがあった。

 今となっては、あれは魔法師団の新星の演技なのだと思い込まないと、もう耐えられる気がしない。

 そしてあれをタクティーの姿でやられたら、ハニー並の強心臓でなければ耐えられる気がしない。



 芳月タクトがロディの中に居ると知った(とも)は、【あの桃色感をAIが出すのはおかしいと思ってた!】とメッセージに返信してきた。

【でも王子様は全然違和感無かった。いつもログインして演じてるとしたらスゴイなと思ってたくらい。本当はAIがずっと担当してたってことになると、それはそれで王子様のAIもおかしいレベルだと思う】

 確かにその辺どうなっているのだろう、このゲーム。どうも芳月タクトは、どの攻略対象にも入れるような……?

 首を傾げつつ、ハルセは日曜日の昼下がり、月曜以来AIに任せていた『EX』にログインした。

 智は小まめにログインしていて、既に累計五十時間ミッションは折り返しに入っているのだとか。ハルセはまだ二十二時間ちょいである。

 苺イベントでタクティー攻略に至ったヒロインは出なかった。その為、ロディは攻略されたもののゲームサービスは継続中だ。できればハルセも五十時間到達させたかった。コンシューマー版を貰えるなら貰いたいのだ。

 恋愛は一人で楽しむ方が格段に健全でいられると絶賛実感中なので。


 ゲーム内は夜だった。

 真っ暗な自室のライティングデスクの上に、赤い冊子状のアイテムが光っている。

(うわ、これ、一週間前に終わっちゃったヤツのじゃ……)

 ボーナスイベントで使用する筈だったアルバムだ。

 手に取って詳細を確かめてみると【記録魔法で記録した物を見ることができる】と出て来た。VR対応PC(エクストラキューブ)のフォルダだけでなくゲーム内でも閲覧できる正真正銘のアルバムになったようだ。

 (ともしび)の魔法を使ってから開いてみたら白紙だった。一枚も撮っていないからだ。

 ファルセはアルバムをポケットにしまいながら、いつの間にか表紙の色が変わっていると気づいた。青くなっている。

(赤いと使用できないってお知らせに出てたっけ。青って──え、もしかしてロディに芳月タクト君がインしましたってこと?)

 アルバムをポケットから今一度出して開いてみたけれど、何も起こらない。

 ちょっぴりしょげたファルセは、己の感情に慌てた。

(いやいやいや、きっと結婚式みたいなのをさせられたじゃん。無理無理無理)

 結婚式なんてなったら、それこそキスしたいキスしたいと迫ってきたに違いない。

 何気に正解を導き出していたファルセは、アルバムを急いで片付けた。

 

 自室を出て階段を降りていたら朝になったようで、雀らしき鳴き声が聞こえてくる。

 食堂が開いていた。

 AI学生達がちらほら集まり食事を始める中、ファルセも紅茶のカップを手にして席に着いた。

 ダージリンの香りと味をストレートで少しずつ楽しみつつ、このあと何をしようかと考える。

 喫緊の課題はAIの色ボケを治す件だろう。学園に行くなり婚約者の所へ向かうのはおかしいと学習してもらわねば。

「ファルさん、おはよ」

 ちょうど食堂に入ってきたトモミが笑顔で手を振ってくれた。おはよー、とファルセも相好を崩す。

 トモミも紅茶を持ってくると向かいに腰かけた。ほわほわした表情で口を開く。

「こっちでは久しぶりだね。ロディ君とデートでもするの?」

「んにゃ、ちょっとAIがロディと居過ぎてるから、行動を変えてほしいなぁと考えてるトコだった」

「そ、そういえば、この頃、セットでしか見かけてないね、確かに」

 目を泳がせて証言されるとファルセは居たたまれなくなる。トモミは顔を赤らめてぽつぽつ続けた。「ロディ君、外では、居るのか居ないのか、巧く隠してるなぁと思うよ」

「外では……」

「ごめんね、つい居るのかなと思ったら、こっそり観賞しちゃって……図書室の二人は、目の毒だね」

 ファルセは両腕で熱い顔を覆う。

「運動設定にしてんのに真っ先に図書室行くんだよ、ウチのAI()ー」

「え、そ、それは、相当だね……」

 トモミは少し引いたようだ。「婚約直後にファルさんがログインしてない時、いつ見かけてもロディ君とAIファルさん手を握ってじっと見つめ合ってたから、ちょっと変な気がしてたんだよね」

「何ソレ洗脳? 夜も呼び出されてたんだよ、オカルト集会みたいな恰好で」

「オカ──あっ……い、言われてみれば……」

 一瞬トモミは失笑しかけていた。「お、お揃いみたい、で、可愛かったん、だけど……彼にこんな一面が、あったなんて」

 新発見、とでも言いたげにトモミは胸元に手を当てて感じ入っている。新星の役柄を演じていたとは思えないようだ。

 ファルセはカップの残りを一気飲みすると、決意した。

「今日はもう絶対ロディとは会わない。わたし、ダンジョンにでも行ってくる」

「あ、じゃ、わたしも行っていい?」

 顔を輝かせてトモミが身を乗り出した。「わたし、癒しの他に魔法を三つ覚えたよ」

「えっ、スゴイ、そんなに?」

「二人を遠くから眺めてるだけなのもナンだったから、本をめくってたの。そしたらね」

 トモミの説明を聞いた瞬間ファルセは悟ってしまい、テーブルに突っ伏しそうになった。

 ちょっとやそっとじゃ覚えられない魔法を三つも覚える程の時間、AIファルセは図書室でロディといちゃついているらしい。

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