表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/47

長倉ハルセの帰り道

 何はともあれ女子の二人連れだったと判明し、帰り道大丈夫? と店を出る前に先輩達が気にかけてくれた。

「No problemヨ。僕が送るネ」

 ロディ氏がゆるっと椅子から立ち上がると、余計心配そうになった先輩が増えた。ハルセは苦笑気味に言う。

「アシュフォードさんは兄の友達です」

「そそ。テツから送りオオカミ頼まれてマース」

「危ねぇじゃねーか!」

 数名の先輩が声を合わせたが、笑い声も同時に起こって、気をつけてなー、と見送られた。


 店外は夜の帳が降りていて、雑多な気配が蠢いていた。夕方の雑踏とは雰囲気が違う。学生らしき若者だけでなく、会社員っぽい人も大勢行き交っている。早くも足取りがふらついている人も居るし、より大声で話している人が多い気がする。

 ストレッチをするようにロディ氏が腕を曲げ伸ばした。その動作で、周りの人が避け気味になった。いい感じに筋張った腕のタトゥーがチラ見えしてチンピラ感が出たからだろうか。サングラスに、辺りの店の明かりがぴかぴか映っていた。

「先ず(とも)チャンちネ。テツんちの近くだって?」

 はい、と首肯したハルセは智が建物寄りになるように位置取って、歩幅を調節して歩き出す。その斜め前にほんの少し出るようにロディ氏もぬるっと歩き出した。

(背の高いちょい(ワル)系の人が味方として傍に居ると、結構安心なんだなぁ)

 あまり気を張らずに済んで、ハルセは智と、もう一度参加してみるかどうかといった相談をしながら歩けた。

 智は胸元に手をやって、ぽつぽつと言う。

「できれば、メンバーの人全員に会っておいた方が、いいんだろうけど……全然お金を払ってないのが、気になってしまって」

「二回目なのでって、割り勘にしてもらうのが無難かな」

「うん、それいい。今日のは、幾らぐらいしたんだろう」

 自分が頼んだドリンクの値段は覚えているが、料理の方が判らない。うーん、とハルセが首を傾げると、ロディ氏が大まかな金額を口にした。

「あの店、学生には少し高いネ。けどアルコール抜きならそこそこ平均的になるネ」

「居酒屋のイメージと違ったもんなぁ」

「うん、何だか、お洒落なお店だった」

 取り分けてもらった小料理も美味しかった。何が美味しかったかという話でハルセと智で盛り上がっているのを、ロディ氏は緩く口角を上げて聞いているようだった。

「そういえばアシュフォードさん、食べてました?」

「んーん。胸がいっぱいネ、お腹いっぱいヨ」

「事前に食べてたって事です?」

「食べるより、見てたいネ」

「盛り付けが素敵で食べるの勿体無かった?」

 ハルセが首を傾げ、智も小首を傾げている。ロディ氏は笑みを深めた。

「そーかもネ」


 曲がり角が近づいたら、智がハルセの腕にそっと触れてきた。

「ファルさん、アシュフォードさん、わたし、ここまでで大丈夫」

「え、でもまだ結構あるよね」

「ここで真っ直ぐ行けば、駅に行けるもの。電車込むから、早めに帰った方がいいよ」

 智の住むマンション周辺の治安が良さそうなのは昨日知ったばかりではあるが、ハルセは諒承していいのか迷う。と、ロディ氏が、駄目ネ、とすかさず言った。

「テツから頼まれてる。智チャンも家まで送り届けるように、テツから」

 ロディ氏は問答無用と言いたげに、曲がり角を曲がった。くいくい手招いて、ぶつぶつ続ける。「僕の今後がかかってる。絶対無事に送る。テッさん、アニキと呼ばせていただきヤス」

 任侠モノを始めたロディ氏に苦笑し、ハルセはぽんと智の背を促してついて行く。

 そして彼はマンション前に着くと、今度は宅配の人になった。

「ハイ、智チャンそこに立って。ちゃんと届けた、テツに送るネ。証拠証拠」

 おろおろする智をエントランス前の明るい場所に立たせ、ロディ氏は携帯端末を取り出してカメラ機能を立ち上げた。「ハイ、一タス一はー?」

 ワケが解らないようで涙目になっていく智へ、ハルセは口パクで、二、と告げて、Vサインも加えてジェスチャーする。

 ハッとした様子で顔を綻ばせたところを見事に逃さず、ロディ氏はシャッターを切っていた。

「So cute! よーしよし、テツに送、信。智チャン、今夜はもうオウチから出ちゃ駄目ヨー。あっ、着いたよ、てテツに知らせとくとテツ安心ネ。コレ、テツのアカウントー」

(何故か(あに)ぃがオカンにされてる……)

 素直な智はこくこく頷いて、アシュフォードさんもありがとうございました、と頭を下げた。

「遠回りさせちゃって……ファルさん、気をつけてね」

「わたしも家ついたらメッセする」

 うん、と手を振り合って、智とは別れた。



 駅の人込みと改札を抜け、ホームで列に並んだ。

 同じく並ぶ大多数の人々は、携帯端末を手にして何かしている。

 ロディ氏も先程取り出してしまわずにいた端末で、メールか何かのチェックをしたようだった。サングラスに液晶ディスプレイの光が一瞬映って消える。

 ハルセも隣に知人が居る安心感でアプリをチェックをする事にした。端末を取り出して、何気なく浮かんだ問を口にしつつ、点滅していたメッセージアイコンを押す。

「アシュフォードさんの誕生日って六月七日だったりします?」

「僕は万聖節ネ」

「ばんせいせつ……ハロウィン?」

「ソレ前日」

「すると十一月一日か」

 ロディ氏は含み笑いをした。

「するとハルは四月三十日ネ」

「──あ、はい」

 ロディ氏のアカウントに“六七〇〇”と数字が入っていたから何となく訊いてしまったら、ハルセのアカウントに入れている“〇四三〇”で察せられてしまった。

「ウェーイ、セーフ」

 いきなりぴょんと垂直に跳ねたから、ちょっとびっくりした。体力測定の数値が高そうだった。

 ラップでも歌いそうな様子でまた端末を弄り始めたので、ハルセも届いていたメッセージに視線を落とす。久しぶりに陽毬(ひまり)からだった。

 タクティーのスクリーンショット請求だと困るなと思う。

 ハルセが持っている写真の彼はほんのり穏やかに笑っている。あれは小柄な美少女ヒロインしか居ない状況でもって、三週間以上かけて引っ張り出せた表情だ。男装女子如きが、他にもヒロイン複数の状態で早々見せてもらえる顔じゃない。送るのは時期尚早だった。

 緊張気味に文面へ目を通して、ハルセは肩の力が抜けた。

【お久ー

 ナガちゃん居ないと男子が寄って来て鬱陶しいよぉ】

 そう思っているとは微塵も窺わせない笑顔で、たくさんの若者達とグラスを掲げた写真が添えてあった。陽毬の大学も新歓コンパ中なんだろう。男子怖いと常々言っていたのに男性の割合が高い。何のサークルなのか。

(あれ、待って、これ飲んでないよね? だいじょぶか、陽毬)

 陽毬の持つグラスの中身が琥珀色で、周りが持つモノと変わりない色に見えるのが気になる。しかし彼女は頭脳明晰で物怖じもしない、要領のいい子だ。乗せられて飲酒するタイプでは無い筈。

 万が一羽目を外して飲んだとしても、彼女は一人っ子。親も恐らくハルセの家より過保護なので、迎えに来てくれたりするとは思うが……


 高校生の頃、放課後にハルセが家まで送ると陽毬の母親はニコニコして玄関口に出て来てくれていた。

『いつも悪いね、ホントありがとね。ナガちゃんクンと一緒なのが一番安心できんのよ』

 ハルセが会釈したり、いえ、とか何とか一つリアクションを返せば倍以上に返してくれる感じだった。『いつもありがとね──あ、車に気をつけて帰んのよ、危ないからね? 危ないから気をつけて。気をつけんのよ? ありがとね』

 陽毬も、ありがと、とにっこり手を振って、ハルセが歩き出しても小母さんは、気をつけんのよ車──ありがとねー、と後ろから声をかけてくることも多かった。大体が毎回同じやり取りだったので、簡単に思い出せる。


(うん。あれだけ余所の子に気をつけろ気をつけろって繰り返してたんだから、その辺は言い聞かせてるよね)

 それにしてもこのメッセージ、どう返信したものか。

 天体観測同好会では誰も写真を撮ろうとしなかった。ハルセも撮ろうとは思いつかず、こっちはこんな感じ、と返せない。それにこちらは既にお開きとなっているのに、着信の時間からして陽毬の方はまだ参加中っぽい。どうにも雰囲気の違いが明らかだ。

 悩んでいると、電車キタ、とロディ氏の声が降ってきた。

 ホームに滑り込んできた電車内は外から見ても混み合っている。

 わあ、と思わず漏らすと、しゃーないネ、とロディ氏は笑った。人の流れに従って二人も乗り込み、二駅目で降りるから出入口の辺りに留まっておく。

 ハルセが何とかポールに捕まると、後ろからロディ氏も同じポールを片手で掴んだ。ごく薄っすらとシダーウッドの香りが届いて、振り仰ぐ。どした? と言いたげにロディ氏は顔を傾げた。彼はもう一方の手を高い位置の吊り革に引っかけていた。これほど混んでいる中で、自然にハルセを包むように立っている。

(そういやこの人、外国人の割ににおいが殆ど判らない。でもやっぱり外国人だけあってスマートに動くなぁ)

 車内は色んなにおいが混じっていて、ほっとするシダーウッドがよぎったのはポールに手が伸びた一瞬だけだった。

 電車が動き出すと、斜め後ろから小声でロディ氏が訊いてきた。

「何か困ってたネ」

「あー……高校の友達が、まだ飲み会続いてるみたいだったから……どう返すべきかと、思って」

「友達、楽しんでる?」

「うん……多分」

「んじゃ飲み過ぎんなヨって軽く返しとけば?」

「……飲んじゃってるのかなぁ」

 ふふ、とロディ氏は低く笑った。

「自己責任ネ」

「そいや、アシュフォードさんもまだ二十歳じゃなかったんだ」

「二十歳になっても酒は嗜まないと思うけどネ」

「ラッパ飲みしそうに見えます」

「酔拳して見せよか? ふざけてコピーしたことあるヨ」

 何それ、とハルセは笑みをこぼす。

 ロディ氏は車窓に顔を向け、ややぼんやりした口ぶりで言った。

「飲まなくても酔えるからね」

 拓人のハル専用アカウントの末尾数字はフィンガー5から。かなりオールディーズなのでハルセは卒業までに気づけるかどうか……

 因みにテツは【ついでにあいつの友達も頼むわ】としか拓人に送っていなかった為、智の激カワショットと本人からのメッセージが届いて大変動揺した模様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ