霊美ちゃんの初めて
「このピザ美味し〜」
ハーフサイズをさらに二人で等分した
シンプルなマルゲリータ。
大して選ばずに入ったイタリアンにしては、
値段も安くて美味しい。
これはかなりの当たりの店だ。
「ん?」
霊美ちゃんがピザの一切れを前にして、
何やら躊躇している。
「あ、嫌いなものとかアレルギーとかあった?
ごめんねー聞くの忘れてた」
「いえそこは大丈夫なの、ありがとう。
ただこういうお料理をあまり食べたことなくって」
「あー⋯」
確かに霊美ちゃんの家は
毎日和食ばかり出されそうだ。
「ちょっと最初は戸惑うかもだけど、
ガッツリ手でやっちゃって」
「え、ええ」
霊美ちゃんがピザを両手で持ち上げて、
上品に先端を少量口に入れた。
「ん〜!」
美味しさが口を閉じていても漏れてきていて、
こっちも嬉しくなる。
「んー、ん?んー!?」
「あらあらあら」
霊美ちゃんがゆっくり味わっていたら、
チーズが離れずに伸びて
楽しそうなことになり始める。
それを皿で受け止められるようにしつつ
様子を見守る。
「んっんっんっ」
霊美ちゃんが伸びたチーズを全て口に入れ終え、
噛みきった。
そしてゆっくりと噛んで飲み込む。
「ふぅ⋯ごめんなさいね、
口に入れたものを噛み切ることが少なくって⋯
麺類とか」
「大丈夫だよー可愛かったし、
ここのピザのチーズよく伸びるね」
「ええ本当に、なんだか演技が良さそう」
「お餅みたいだね」
そんなことを言いつつ食べていたら
あっという間に完食してしまった。
「もう一枚同じやつ頼む?それとも他のにする?」
「そうね⋯こっちのキノコのピザなんか
すごく美味しそうだわ」
「おーいいね、それにしようそれにしよう」
注文してしばし待つと、
メニューの画像よりも厚みのあるピザが来た。
「これは⋯かなりボリューミーね」
「ね、かなり食べ応えありそう」
お互い二枚ずつ取り冷ましながら
一枚目を口に運ぶ。
「う〜ん」
先程のマルゲリータよりもよくチーズが伸び、
パンチの効いたサラミの旨みと
キノコの肉感が口の中に
確かな満足感をもたらした。
「⋯」
霊美ちゃんが目をつぶってしっかりと
ピザを味わっている。とても上品だ。
何度も噛んでそして飲み込んだ。
「⋯美味しいわ、すごく」
ソムリエが下を巻いた時のような、上品な唸り方。
今まで食べたものの中で十指に入ろうか、
或いは人生のフルコースのひと品に
加わろうかという衝撃だろうに、
その慎ましやかな反応には愛らしさを感じる。
「偶然だけど、ここに来てよかった」
「ええ、連れてきてくれてありがとう、
これも運命ね」
多少大袈裟なくらいが丁度いい。
これからの彼女の人生がより
拓けることを心から願う。
できることならそれの力添えをしていたいな。
感慨に耽りながら食べ終え、会計をすませる。
「次はどこへ行こうかしら?」
「そうだねー⋯」




