22話 新ユニット結成、前編(楓)
22話 新ユニット結成、前半(楓)
昨日にライブイベントがあったからとは言えど、私達は新たな目標に向かって今日も部活を休まない。その新たな目標とは《全国スクールアイドル・トーナメント》で優勝すること。
その前にまず、桜咲学園アイドル部の代表の座を勝ち取らなければいけない。普段は部活仲間ではあるが、共にライバル同士になることを忘れてはいけない。
桜咲学園アイドル部の代表になって、里見学園と決勝の場で勝負したい。
《全国スクールアイドル・トーナメント》までは残り三ヶ月になってきたので、そろそろ準備をしなければ間に合わない。
ということで、今日から部活をしているというわけだ。
「楓ちゃん、香織ちゃん、田崎先生が私達四人に話したいことがあるから来て欲しいって」
ダンスの振り付けの確認をしていると、田崎先生のところに部活の出欠確認を報告に行った保真麗と鈴音が帰ってきた。
田崎先生から個人個人で呼ばれることはあっても、四人が一斉に呼ばれる事なんて普段は無いので少し緊張する。あの田崎先生が怒るなんて事は無いだろうし、全く見当が立たない。
「まぁ、行ってみよ?」
香織にそう言われて緊張や不安を拭きれないまま、私は四人で職員室へと向かった。
田崎先生のところに行くと、先生は体育のダンスの授業の動画を見ていた。
田崎先生は体育の授業のダンス教師としてこの桜咲学園にやって来た。以前、本人は「私は他には何も出来ないから、この授業無くなったら私の職が無くなるわ」と言っていた。
ダンスの授業を継続させるためにいろいろな工夫をしているんだなと感じる。
「田崎先生、楓ちゃんと香織ちゃんも連れてきました」
「ありがとうね、保真麗ちゃん。四人揃ってるね?」
ダンスの動画を止めて、私達の方を振り向いた。田崎先生は前まで『〇〇さん』って名字にさんをつけて呼んでいたのに、気がつけば『〇〇ちゃん』って言う風に呼び方が変わった。まぁ、それだけ親しくなったという事なんでしょう。
田崎先生は普段あまり見せない堅い表情をして、私達四人それぞれの顔を見る。
「あのね、《ミュージックスターズ》っていう芸能事務所からあなた達四人にも声がかかったの。今回は四人にその事について話そうと思って呼んだの」
田崎先生の言葉に一瞬の間、自分の耳を疑った。そんな事があるわけないと思った。
緊張と驚きで声が上手く出ないが、田崎先生に恐る恐る聞いてみる。
「えっ⁉︎《ミュージックスターズ》って……ユアユイの所属する事務所ですよね……?」
田崎先生は首を一回縦に振って応える。日常生活は能天気な保真麗でさえも、田崎先生の言葉を聞いて、喜ぶ表情を全く見せない。
「そうよ、楓ちゃん詳しいのね。多分、楓ちゃん以外は芸能界についてあんまり詳しく無いと思うから細かに話すけれど、《ミュージックスターズ》っていう芸能事務所があるの。その事務所はアイドルの世界の中では大御所で、スカウトなんて滅多にしないところなの」
「えっ……?」
保真麗と香織と鈴音は三人同時に絶句していた。まるで、明日地球に隕石が降りますよと言われたかのように。そんな三人を見ながら先生は続ける。
「それで、四人にはぜひこの機会を使って欲しいの。だから私的には四人とも事務所に所属して新たな道を切り開いて欲しいと思うんだけど……」
「はい、私達四人で挑戦してみたいです」
私はこの機会を逃したく無かったし、新たな道を四人で切り開けるならどこまで行けるか挑戦してみたかった。
私は自信を持って返事をしたのだが、先生の表情はイマイチ良くない様子。
「あなた達四人がそれで良いのならいいけれど、学校に来れる時間は一気に減ることになるわ。和美ちゃんと華子ちゃんのように、ほぼ毎日仕事漬けになる可能性があるの……」
先生の話を聞いて先生が何故あのような表情をしていたかがわかった。
部活のために学校生活の時間を割く事がどれほどな事なのか私は知らなかったけれど、田崎先生が教えてくれたから、なぜ先生がこの事を私達に勧める事に対して慎重な姿勢を見せているのか、私にはわかる。
少し前の放課後のこと、私は先生のところに先輩達二人がいつ戻ってくるかを聞きに行った。
その時、先生はシャーペンを持ってノートに何かを必死に書いていた。
「先生、ちょっといいですか?」
「あっ、うん……。どうしたの?」
私が声をかけると田崎先生は急いで机の上に広げていたものを後ろに隠した。その時の先生はそれを隠してバレていなかったつもりだろうけれど、私にはそれが何か見えてしまった。
「……保健体育教員養成課程?」
私が先生の後ろに回り込んでその手に持っているものを確認する。私がすぐに回り込んだため、先生は咄嗟に反応出来ずに、それを隠せないまま私に見られてしまった。
先生の手には、小難しそうな参考書とノートがあった。
「ふぅ……。仕方ないわ……、これから言うことは他の人には言わないでね」
田崎先生はため息をついてそう言い、先生がこの歳になって勉強をしているか理由を話し始めた。
田崎先生は《double・T》としての活動を私達と同じくらいの歳の時から始めていたらしい。その当時はアイドル自体多くなかったらしく、二人がアイドルとしてデビューするとほんの僅かの間に大ブレイクまでなったのだとか。
そのため中学生であっても、仕事の予定が朝から夜まで予定がビッシリと埋まっていたらしく、学校なんて行く暇が無かったらしい。
中学や高校での友達は少なく、自分の将来について話す人はいなかった。その時に周りの人たちと違い、アイドルとして活動していくことしか考えていなかったから、なりたい職業や未来像もなく生きてきた。そのことをずっと後悔し続けているんだとか。
そして、いざアイドルを辞めるとただの無職のお姉さん状態。
現在は、桜坂学園からの誘いで特別に非常勤の教師になっているが、正式な職として保健体育の教員になるために、非常勤講師をしながら通信制の大学に通っているらしい。そして、そのための勉強を隙間の時間にやっているんだとか。
「だから、もし仕事とかが多く入ってきても簡単にあなた達に勧める事が出来ないわ。本当はたくさん経験積んで欲しいんだけどね……。何かを経験するためには何かが犠牲になるってことなのよ」
その時の田崎先生の寂しげな横顔を私はきっと忘れる事ができない。普段の先生とは差がありすぎて頭の中にしっかりと残っている。
まぁ、田崎先生の話を聞いてからは、私は日々を少し大切にしようと思い始めた。
私は挑戦してみたい気持ちはあるけれど、部活のために将来を犠牲にするのは躊躇う。自分がアイドルとして飯を食っていく、というわけでも無い。
私の心の中で「やっぱりやめようかな……?」と思う気持ちの方がだんだんと強くなり始めた。
「私、それでも楓と同じく挑戦していきたいです!」
自分の心の中で二つの思いが闘っていた私に香織の言葉が響く。顔を見らずとも香織の声から伝わってくる……香織の真っ直ぐな思いが。
「その思いはわかったわ……。他の三人はどうするのかしら……?」
先生はまず私をみて、保真麗、鈴音の順でしっかりと目を合わせる。先生は少し不安そうな顔をしていた。
私は香織の言葉に……思いに心を動かされてしまった。部活だろうと構わない、自分のやりたいことをやらずに後悔するよりも、やって後悔した方がいいと思えるようになった。
「香織に賛成です」
私は言い切ったけれど、さっきから悩んでいる様子である保真麗と鈴音は口を固く結んだままだ。
ここで、保真麗と鈴音がオファーを拒否するのなら、それはそれで個人の自由だし悪くは無いと思うけれど、私はここのメンバーで……部活の仲間として一緒に歩んでいきたい。
私的には……というより香織も今の私と同じことを思ってくれているはず。
「一緒にやろ?四人で!」
私は拒否られるという可能性を、頭の中にしっかりと入れて受け入れる覚悟をして二人に提案する。
保真麗と鈴音は共に心配そうな顔をして互いに顔を合わせる。数秒の間、二人は顔を見合わせたまま相手の様子を伺っていたが、決意をしたのか二人とも田崎先生の方を向く。
「私、挑戦したいです」
「私も三人と同じです」
二人の反応を見て、ほっとした表情を見せた田崎先生は、机の引き出しからプリントを取り出して私達四人に一枚ずつ渡した。
十月も終わりに差し掛かり世間ではハロウィンモードに突入し始める時期になってきた。
街中では典型的な白色のお化け、オオカミ、ガイコツなどを付けた看板や旗などを見かける。また、電化製品店などではお菓子を子供達に配ったりして客を呼び込んでいる店も見受けられ、世間がハロウィンムードである事を身にしみて感じる。
そんな風に世間がワイワイガヤガヤ楽しそうに盛り上がっている街中を、私は緊張で心臓をバクバクとさせながら、香織、保真麗、鈴音と四人で、人混みの中を歩いている。
私以外の三人も緊張をしているようで、顔が強張っている。そのせいか、楽しそうに街中を歩いている若いカップルや、親子で遊びにきている人達が、私達とすれ違う度に不思議なものを見るような目で、あるいは心配そうな目で私達を見てくる。
まあ、そんなことになったって仕方がないだろうと私は思う。
街中は楽しいハロウィンムードに包まれているのに、今から受験に行ってきますみたいな顔をしている人が居たら、それはもうヤバイ奴以外に何も無いだろう。
そんなふうに周りからヤバイ奴認定をされているであろう私達は、昔のロボットみたいに固い動きで《ミュージックスターズ》の事務所を目指している。
「おい、東田」
「ひゃっ⁉︎はいっ!」
緊張で常に心臓が飛び跳ねそうなのに、突然横から声をかけられて、驚きのあまり心臓が本当に跳ね上がったかと思う。
誰から声をかけられたのかと思い、右を見るとそこにはメガネをかけて学ランを着ている笹岡が立っていた。
「なっ、何よ⁉︎ビックリさせないでよね?声かけるなら正面から話しかけてよ!」
こういう時に限って苛立たせてくるんだから……。冷静沈着である彼に対して「ほんとに冷めてんなー」って感じでたまにイラッとくる時はあるけれど、今回はそういう問題でもない。
私がムッとして笹岡に文句を言ったけれど、涼しげな顔をして私のことを見下ろしている。
「今のお前の場合、正面から話しかけても同じ反応をするだろうな。で、お前ら四人揃って固い動きでどこに向かってんだ?」
「もう……。そんなことあんたには関係ないでしょ」
「あぁ、そうだな。俺もお前に構っている暇なんて無い、じゃあな」
そう言うと、笹岡は私達の行こうとしていた道を歩き出した。何で、地味に行く方向が似ているんだろう……。
まだ、あまり苛立ちを抑えきれない私が進もうとした時、後ろでクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「なっ、何よ⁉︎」
振り返ると、さっきまで固かった三人が私の方をニヤついて見ている。
「笹岡君だっけ?今の男子」
香織は、何か悪い事を思いついた時の子供のような顔をして私に問いかける。その表情から何かの怪しいものを感じとった私は慎重に答えることにする。
「うん、そうよ……」
「好き?あの人のこと」
何を言い出すかと思えば……。ここ最近、色恋沙汰で問題を抱えていてシクシクと泣いていた割に、人の恋愛には興味を示してくるんだな。
「全くもって違います」
笹岡のどこに、私が惹かれる要素があるのかわからないし、まず好きにはならないのでキッパリと拒否をさせてもらう。
好きでないなら別に焦ることも無く冷静に対応できるのだが、なぜかそんなことが今は出来そうにないので、「ふんっ、そんなこと言ってないで早く行くよ」と言って私はサッサと歩き出す。
「楓、顔が紅くなってるよ」
私に追いついて横に並んで歩く鈴音が、ニヤついた顔をして私の顔を指差して言った。普段の鈴音は笑顔や、愛想笑いなどを浮かべたりすることはあるけれど、こんな表情をしたのを初めて見たので少し意外に感じる。
な、ことはどうでも良くて、顔が真っ赤になってるって……?恥ずかしさのあまり顔が熱くなることを感じる程度になってきた。
「ちょっ……じゅ、十月でも早く歩くと暑くなるのよ!」
言ってから気づいたが、今のセリフは何の言い訳にもなっていない。それでも、とりあえずこの悪い流れを止めたくて何か言い訳するしかなかったのだ。
私が少し早めに歩く後ろで、また三人のクスクスと小さな笑い声が聞こえてくる。だが、今のやり取りのおかげで、後ろの三人も私も緊張が解けた気がした。
ようやく私達は《ミュージックスターズ》の事務所についた。召集時間には三十分程度の余裕があるけれど、再び心の方には余裕が無くなっていた。
田崎先生から教わった事務所に入る時の作法を思い出しながら、しっかりとした手順を踏んで事務所内へと入った。
その後は受付のお姉さんから案内してもらい、私達は大きな会議室へと案内された。中には私達と同い年くらいの一人の女の子が椅子に座っていたが、私達が入ってきたことに反応して私達の方を振り向いた。
「あれ、香織じゃん?」
振り向いた女子は私達の方を見て、香織の名前を呼んだ。私はあまり視力が良くないので見た目だけでは誰かはわからなかったけれど、その女子の声を聞いて誰かわかった。
「柚葉!久しぶりー」
突然、私の横で香織が大きな声を出したため、一瞬心臓が止まってしまうかと思った。香織はそこにいるのが柚葉だとわかると、飼い主のところに走っていく仔犬のように柚葉の元に走って行った。
「香織……、もしかして香織達も《ミュージックスターズ》にスカウトされた?」
「うん、もしかして柚葉も?」
「そうだよ!」
お互いがスカウトされてここにいるというだと分かった途端に、二人は喜んで抱き合った。
保真麗と鈴音と私の三人で、そんな微笑ましい場面を見ていると会議室のドアがガチャリと開いた。
「みんな揃ってる?」
その聞き覚えのある声に私は思わず振り向いた。
「優亜先輩、結衣先輩⁉︎」
そう、そこに立っていたのは私の憧れの優亜先輩と結衣先輩。《ミュージックスターズ》の誇るアイドルユニット、ユアユイの二人である。
ユアユイとは優亜先輩と結衣先輩の二人による双子のアイドルユニット。
優亜先輩の方が姉で、結衣先輩が妹。優亜先輩は天才的な歌のセンスを持っていて、結衣先輩は天才的なダンスのセンスを持っている。二人とも、それぞれの得意分野に関しては百年に一人の天才と呼ばれる程の実力者。
昨年、ブレイクしてから日本のトップアイドルユニットとして現在も活動中。
なんでいう風にWikipediaで見たけれど、殆ど正解である。そう、二人はまさに天才である。そんな二人と合宿で一緒に部活をしたと考えると、私って運のいい女だなって思う。
「まーまー、そう緊張なさらずに。今回は私達とあなた達の七人だけでの会議になるから、リラックスして欲しいんだ」
優亜先輩はそう言ってくれているけれど、二人と同じ学校の柚葉をはじめ、保真麗、香織、鈴音も私と同様にガチガチになって固まっている。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
私は、緊張していることがバレないように注意して挨拶をしたつもりだったけれど、隠しきれていなかったみたいで、私の挨拶を見て優亜先輩と結衣先輩はクスクスと笑っていた。
「楓ちゃん、ガチガチだよー、アハハハハハ」
優亜先輩は笑いを止めきれないようで私の様子を見て笑っていた。なんか失礼なような気もするけれど、親近感を持てるようになって少しだけ気が楽になった。
「今日はそんなにやる事重くないから安心して。今日はね、あなた達に五人ユニットを作って欲しいんだ」
ん……?ユニット……⁉︎ってことは……。
私は香織、保真麗、鈴音、柚葉の四人の様子を伺う。四人とも突然のことに困惑を隠しきれていない。
「えーーーーーーっ⁉︎」
私達五人でユニット……?大変なことになってしまった……。
私は、今まで想定していなかった事を目の前にして、驚きを隠すことが出来なかった。
これからは配信日を日曜日or月曜日にしようと思います。遅れて申し訳ありません。
これからもギャルズメロディーをよろしくお願いします。
誤字脱字、内容のおかしなところがありましたら報告よろしくお願いします
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