21話 結ぶ四つの星(楓)
21話 結ぶ四つの星(楓)
十月になって涼しい季節となり、嬉しい気持ちでいっぱいなのだが、これから後二ヶ月もすると冬になって寒く感じる季節になると嫌な気もする。
この時期はファッション誌で、秋から冬にかけてのコーデが多くのページに掲載されてあるのを見かけるようになった。そのためか、私が属しているブランド《HOT beetle》も今の時期に合う服を販売に向けて頑張っている。
《HOT beetle》は、やっと社員が集まって専用のオフィスも作ることが出来たとのことで、やっと始動すると言ったところだ。そんな中でも、デザイナー兼オーナーである桐山さんは張り切って仕事を進めている。
昨日、私のところに桐山さんから
『今度の週末にファッション誌に掲載するために試着とか撮影をするから、HOT beetleのオフィスに来てください。よろしくお願いします』
という内容の連絡が入った。
「やっと私にも仕事が入り始めた!」
と喜んだは良いものの、このような事をデカデカと公言しては自慢しているようにしか聞こえずに、苛々してしまう人もいるかもしれないので、他の人には言っていない。
個人的には仕事が来て嬉しいのだが、怖いのはアイドル部がまた廃部になりそうなことである。私が仕事に行ってしまうと、アイドル部は香織、保真麗、鈴音の三人となり部員数の少なさが原因で廃部になりかねない。
鈴音に何とか言って廃部だけは避けたいところだが、交渉が上手くいくか怪しいので、心の内では期待をあまりせずに頼むぐらいが丁度良いのかもしれない。
「はい、オッケーです!」
やっと何時間にも渡った撮影も終わった。
カメラのフラッシュは苦手で、写真を撮る時にフラッシュが出るといつも目を瞑ってしまう。
ファッション誌に掲載するための秋物コーデの撮影している時も、普段のクセが抜けずに思わず目を瞑ってしまうことがあって撮り直しが多かった。慣れたら何も問題ないが慣れるまでに時間がかかって、ただ撮影されるだけでも何時間も奪われた。
そのせいで、『つかれた』の四文字が頭に思い浮かぶ。だが、アイドルであるため人の前では常に笑顔を心掛けているため、疲れていても表面では笑顔を見せるしかない。
「やっぱり仕事大変だなぁ……」
そう言葉に漏らしながら私はLINEを開いて連絡が来ていないか確かめる。すると『中1桜咲学園アイドル部』のグループに一件だけ通知が入っていた。
アイドル部の練習でやるトレーニング方法などをネットから拾ってきて、その記事を貼ろう。そんな目的の元に作られた『中1桜咲学園アイドル部』なんてグループなのだが、そんなことをしていたのは最初の方だけで、今では雑談するためだけのグループになっている。
また、しょうもない話題でも挙がってんだろうな、と思いながらトーク画面を開く。
『私と保真麗がアイドルのライブイベントに招待が来たんだけど、鈴音と楓も合わせて四人で出ようと思うんだ。忙しいところごめん検討しといて』
なんと普段とは違い大真面目な内容が書かれている。
この前なんか《カッコいい男子ベスト10》なんてわけの分からないことを話していたが故にハッキリ言って少し驚かされた。
今は、実質四人だけしかアイドル部には居ない。二人だけに来たライブへの招待なのかもしれないけれど、四人と一緒に進んでいきたいと思う。その為、私は四人でライブに出たいと思っている。
ただしライブは全員初めてだし少し不安なところがあり、二人に任せた方が良いのかなと思うところもあった。だけど、せっかくの機会を逃すわけにはいかない。
そう考えた私は、『四人で出たい。良い?』とグループに送った。
送るとすぐに既読マークが付いて、保真麗から《嬉しい!》と描かれた可愛いアザラシのスタンプが送られてきた。
「ただいまー」
結局、私は寮に帰ったのは夜七時になってからだ。寮の部屋に帰ると布団で保真麗がクスクスと笑いながら漫画を読んでいた。ここ最近の保真麗は、小学生の男子が見るようなギャグ漫画を読んでいる。保真麗が読んでるような漫画はどの世代の人でも笑えるようなギャグ要素が多く、シリーズに全く興味が無くても笑えるところがいいところだ。
「あ、楓ちゃんおかえりー。今日も撮影お疲れ様」
私が机の上に荷物を置き始めたところでやっと保真麗は気づいた。やけに夢中になって漫画を読んでいるものだ。
「うん、ありがとね」
私は保真麗に返事をしつつ荷物を片付けた。撮影だけではあるが、そこそこの量の荷物を持っていかなければならない。学生証・財布・スマホ・お茶・タオル・撮影の日程表・ジャージ・それに宿題も。
なぜ宿題も持っていくかというと、撮影の休憩中に宿題を終わらせるようにしているから。撮影が終わって寮に帰ってくる頃には体も疲れていて、週末の宿題をやる気にならないのでそうしている。
そんな荷物もキレイに片付け終わった私は、疲れた体を休めるために布団にゴロリと転がり目を瞑る。疲れた後の布団は気持ち良くて、入浴するのも忘れて寝てしまいそうだ。
「楓ちゃん、今から一緒にお風呂行かない?」
その声に目を開けると保真麗が上から私を覗き込んでいた。保真麗はさっきとは違い、相談に来る時の不安そうな顔をしていた。
私は今、声をかけてあげようかと思ったけれど、ゆっくりとお風呂で話を聞こうと思った。
「そうだね、一緒に行こ」
いつに声をかけてあげればいいかわからずに、シャワーを浴びていた。この時間帯は都合の良いことに人が少なくて、他の人にも相談内容とかも聞かれづらいので普段よりは話しやすいのだが、声をかけづらい。
「あのね、楓ちゃん。私、今日は楓ちゃんに二つ相談したいことがあってね……」
「……いいよ、どちらからでも」
やはり相談事か……。この前の文化祭に何かあったのかな?
私は結局、保真麗とのデートの結果について何も聞かされないままであった。だから、保真麗がその事で相談をしに来たのかと考える。
私は敢えて保真麗の顔を見らずに応える。私が保真麗の顔を見ては、保真麗は話づらくなり黙り込んでしまう可能性があるためである。
にしても、相談事は一つだけだと思っていたが、二つもあるとなると時間がかかってお風呂の時間だけで解決出来ないかもしれない。
そんなことはわかっていたけれど、保真麗の気持ちを優先させたかった私はゆっくりと聞いてあげようと思った。
「私ね、この前の文化祭で住川君に告白して付き合えることになったんだ。ごめんね、応援してくれていたのに結果の報告が遅れて。嬉しくて恥ずかしくて言えなくて……」
あれ?相談事と聞いて身構えていたのだけれど、とても良い報告ではないのか……?良い報告に思わず保真麗の顔を見てしまう。保真麗は顔を赤くしていた。
「おめでとう!良かったじゃん!」
アイドルは恋愛禁止だとは思っているが、表面に出さなければいいと思うし、友達として応援してあげたかったからその事は今回は黙っておいた。
さ、これで一個目の相談(?)みたいな報告も終わったし、このペースで行けば二個目までは余裕で終わるはず。
「ありがとう。でね、私、住川君の予定の無い日に二人でデートしようねって話していたんだけど、住川君の空いている日が私達のライブの日しか無くて……。残りは部活や大会でどうしても行けないらしくて……」
え?あ、これが一個目の相談ということになるのかな?
住川君は確かバスケ部だったはず……。
桜咲学園はバスケの強豪校で、毎年県大会の上の方までコマを進めているらしい。年によっては全国大会優勝とか、準優勝とかの年もあるんだとか……。それ故にバスケ部は自然と練習が厳しくなるんだと私はわかった。
それならば、住川君に無理を言うわけにはいかないだろう。でも、私は友達として保真麗の気持ちを優先させたい。
だとしたら……、保真麗は……。
「だからね、私は住川君に『その日に大切なライブイベントがあってごめん』って言ったら、住川君が『俺はお前のオーデション観に行ってもいいか?』って言ってくれて……。だから、その、みんなにも住川君が見るけど良い?ってことを聞きたくて……」
考えの纏まっていなかった私に保真麗はそう言った。
脳裏に『ごめん、ライブには出ないかも』とか言われるかと浮かんでいた為、想定よりも可愛い相談事で安心した。
「私達は別に問題無いよ。私も鈴音も香織も全然平気よ、それくらい」
「そ、そう?ありがとね」
「いいよ、それくらい。で、あと一つあるんだっけ?聞いてあげるよ」
これで、難なく一つ目の相談事はクリアしたが、あともう一つある。さっきのみたいに可愛い相談事であればいいが、二つ目がキツイ内容であれば大変である。
保真麗は何故だかお葬式にでも行くような暗い顔になって黙って俯いてしまった。保真麗はさっきまではまだ動いていたものの、二つ目の相談の話をすると急に固まってしまった。俯いている保真麗の頭にシャワーがお湯をかけているが、シャワーがボタン式である為やがてそのお湯も止まり、保真麗の髪からポツポツとお湯が滴り落ちる。
その様子を見て、直感的に二つ目の相談事は重いのが来るなと思った。
「実はね、住川君が私に相談してきた用件があってね……」
「うん……」
住川君の問題らしいので、私が直接関わりそうな内容では無いけれど、保真麗がここまで深く考えそうなことなんて滅多に無いので慎重に話を聞くことにした。
「香織ちゃんの過去についての話なんだけどね……」
香織の過去……?
『お姉ちゃんについて聞きたいことがあるんです!』
そんなセリフが頭をよぎった。確かこのセリフは香織の妹の……琴音ちゃんだっけ……?
私はあの話とこの相談事との接点がわかってしまった途端、この相談事が香織の運命に関わる大事な相談事だと気付いた。
ライブイベント一週間前となり、出るメンバーのステージの順番が公式ホームページにて発表された。部活中に私達四人は、どこの順番になるかを見るためにそのページを見ていた。
ライブに出ることが決定した後で聞いた話によると、このライブは《全国スクールアイドル・トーナメント》の次くらいに有名なアイドルのライブイベントらしく、芸能界のお偉いさんとかも見に来ているんだとか。このライブイベントで注目を集めて芸能界の仲間入りを果たした人は多くいるとのこと。例として挙げるならKYU48のセンターの人とか、ユアユイの二人とか……。
「だいぶ後の方なのね」
ステージ順では後ろから二番目となっており、さすが招待されただけあるなー(香織と保真麗の力だけど)と感じる。にしても、最後の大取りは誰になるのだろうとラストの枠をみる。
「ねぇ、楓ちゃん……、まさかだけど本物の二人?」
ラストの枠には《特別ゲスト、ユアユイ参戦!》と堂々と書かれていた。
私は自分の目を疑い目を大きく開いてから画面を見たけれど、確かにそう書かれてある。
「ユアユイの二人が出るんだ……」
緊張のあまり声が掠れてしか出てこない。このような大きなライブイベントにおいて、私達のような新参者が日本のトップの前のステージに立たされるとは思ってもいなかった。ここで下手にやらかせば……いや、相当完璧なパフォーマンスをしなければ桜咲学園の恥となるだろうし、自分達としても恥ずかしい。
「練習するしか無い……」
私はそう自分とみんなに言い聞かせて、緊張で震えている手でスマホをポケットにしまい込んだ。
そこからは普段よりも多くの練習をした。
練習時間が多く必要なため、どうしても今週だけは仕事を休みたかった。
そのため仕事を休みたいと桐山さんに事情説明をしに行くことにした。《HOT beetle》がやっと活動を始めたばかりのところを、本当に申し訳なく思っているけれど今回はどうしてもこちらの方を外したくなかった。
「桐山さん、少しお話があるんですが、少し時間よろしいですか?」
桐山さんはデスクに座ってコンピューターで仕事をしている最中だった。桐山さんのこんな姿を見ると、私は罪悪感の塊に襲われてしまう気分になる。
「どうしたんだい?」
桐山さんが私の方を向いて顔に優しい笑みを浮かべて応えてくれる。
「実は今度ライブイベントがありまして、それに四人で出るんです。そのために今週はどうしても多くの練習時間が欲しくて、仕事を今週だけ休みたいのですがよろしいですか」
私は桐山さんの目をしっかりと見て言った。桐山さんは私の話を聞くとマジな表情をした。
「ライブイベント……。あれか……。休むのは別にいいが、そのライブで着る衣装は決まっている?」
もしかしたら桐山さんがダメだと言ってくるかと思っていたが、そこは許してくれたので安心した。だが、桐山さんは休むことより私達の出るライブについての方を重視している様子。
そういえば、田崎先生にライブの時の衣装について聞きに行ったけれど『もう少し待っていて』と言われ、まだ決まっていなかった。
「決まってません」
「ライブイベントには衣装が必要になってくる。ルール上は無くてもいいが暗黙のルール的にあった方がいい。決まっていないなら、《HOT beetle》が四人の衣装を作る事にしてもいいけれど、どうする」
「い、良いんですか?」
「あぁ、いいさ。ただし、四人のイメージに合う衣装にしなくてはならないから、一回練習するところを見学させて貰えないかな?」
桐山さんは涼しい笑顔で私にそう言った。
学校外の関係者が学校に入るには少し手続きが必要だったような気がするので、そこは田崎先生と話し合わないといけない。
「ありがとうございます!あとで学校に帰ったら先生からの許可を得て来ます!」
「よろしく頼むよ」
私は桐山さんに深く頭を下げて感謝の気持ちをしっかりと表してから、《HOT beetle》のオフィスを出た。
ライブの本番三日前になって、私達宛に《HOT beetle》から衣装が届いた。黒と青を基調とした《HOT beetle》らしくクールに決まっていた。
試着をしてみたらサイズも丁度良く動きやすかった。
「まさか、桐山さんが私達のために作ってくれるなんて……」
香織は目を輝かせて《HOT beetle》の衣装を見ていた。保真麗も同様に目を輝かせていた。
「私がこの衣装着ていいの?」
一方の鈴音の方は少し不安げな様子で衣装を見ていた。香織と保真麗が喜んでいる分、鈴音が不安そうにしているのがより一層際立った。
「大丈夫よ、鈴音に似合ってるよ」
香織は優しく鈴音に話しかけるけれど、鈴音はまだ不安げな顔をしている。香織の言う通りこの衣装はクールな感じの鈴音にはピッタリな気がするから多分別に何かあるのだろう。
「私みたいな新参者がこんな素晴らしいのを着ていいのかなって……。それに私みたいなのが、あんな大きなライブイベントに出ていいものなのか……」
鈴音は衣装を元どおりにハンガーにかけ、部室の衣装専用のロッカーに掛ける。鈴音は掛けた後も同じ表情をしてその衣装を眺めている。
きっと心の内で何か考えていることがあるのかもしれない。まだ入ったばかりで練習期間が短くて不安なところも多くあるのだろう。このような場面では相手を慎重に扱わないと、余計不安にしせる可能性がある。
だから私はどうしようかと頭の中でいろいろと考えていたが、どうすればいいか全く思いつかない。
「心配なんて不要よ、自分を信じれば成功できる」
「安心していいんだよ、私達はわかっているから。あなたが……あなた達が頑張っていることを」
その声に思わず私は声の主の方を振り向く。聞けば安心するこの声……今まで私達を導いてくれた……。
そこには松崎先輩と桜田先輩が立っていた。
「先輩っ!」
私は嬉しさのあまり二人の元に駆け寄って二人に抱きついた。二人ともとても懐かしかった。この前会ったはずなのに、居ないとやっぱり寂しくて二人のことを私はずっと待っていた。
「楓ちゃん、かっわいい」
「よしよし安心してね」
私は松崎先輩と桜田先輩から頭を撫でられた。それが、少しでもまた前のような日常に戻れたことが嬉しかった。
「先輩、帰ってきてくれてありがとうございます」
「先輩、おかえりなさい」
香織と保真麗も先輩の元に近寄ってきた。二人とも嬉しそうな表情をしている。
「ただいま、二人とも。それで、あなたは新しくアイドル部に入ってくれた鈴音ちゃんだったっけ?」
「はい、大宮鈴音です。よろしくお願いします」
鈴音は松崎先輩と桜田先輩に慣れていないようで、(さすがにこの前の一回だけで慣れるのは無理があるか)少し固い感じがする。
「ごめんね楓ちゃん。あとでまた抱いてあげるからちょっといい?」
「は、はい」
私は先輩達からサッと離れる。松崎先輩と桜田先輩が鈴音の前まで歩み寄った。そして、鈴音を安心させるためか少しゆっくりとした口調で話し始めた。
「私さ、中一の頃にこのアイドル部を作ったんだ。メンバー集めから始めて部室の確保、顧問の先生を集めること……。最初は周りからやっても無駄だろって散々に言われたけれど、やってみなくちゃわからないものでさ。今はこうしてちゃんとした部活になった。だからね、挑戦することを恐れないでほしいんだ。物事は始まる前から決まる時もあるけれど、そうで無い時もあるんだよ」
松崎先輩はそう告げると私達の方に笑顔で振り向いた。
「そういえば、ユアユイの二人との勝負なんだね。頑張ってね四人で、なーんて無責任な事は言えないし、今から私達と一緒に練習しない?」
「いいんですか?」
「もちろんだよ、一緒に頑張ろ」
松崎先輩と桜田先輩と部活が出来るなんていつ振りだろうか。仮に一日だけでもよかった、ライブイベント本番の前に安心する時間が私も欲しかったのかもしれない。
先輩達二人と練習すればきっと上手くいくと思った。
本番まであと三日、私はまだ緊張があるけれど先輩達と練習できて少し安心することができた。
けれど、私はまだ完全には安心できていなかった。
その日の夜、私は香織の部屋に行った。
ここ最近の香織について少し気になることがあるのだ。あの過去のことについては、保真麗と話し合ってまだ話さない出来おこうと決めたのだが、それとは別案件で用事がある。
寮の中の多目的室に入って香織と話すことにした。
「どうしたの?楓」
「最近、何か調子悪くない?」
最近の香織は明らかに様子がおかしい。文化祭が終わって以来、保真麗と二人で話すところを見ていないし、部活の練習にもイマイチ集中が出来ていない様子だ。
それに今週は、香織が一人で窓の外を見て黄昏ている場面によく出くわす。
そんな香織の事が心配で今回は呼び出すことにした。
香織は多目的室の大きな窓まで歩んで行って「バレちゃった……」と一言呟きながら窓の外を眺める。
「なんか、武琉のことがどうしても頭から離れなくって……」
唐突にどうしたのかと思えば住川君の名前が出た。確か、香織と住川君は幼馴染みだったっけ……?
香織は私の方を向かずに夜の街を眺めながら続ける。
「私、保真麗が付き合い始めてから保真麗のことが羨ましくて……。それとなんだか悔しいんだ……。武琉の事をただの幼馴染みだと思っていたはずなのに……それなのに……誰かの彼女になったら、私……寂しいのっ……。それで、私っ……気づいてしまったの……。保真麗のことをっ……恋する乙女だななんて見ていた私もっ……恋する乙女だったんだなって……」
香織は私に打ち明ける内に徐々に涙声になって言うのもやっとなくらいに泣き出した。
話によるとどうやら香織も住川君のことが好きだったというわけか……。そういえば、香織と鈴音に住川君が見に来ると言った時も、香織だけはなんか泣きそうな顔していたし……。
幼馴染みのことを好きになってしまうってのはよくある話だが、そんなことに気づかないまま他の女子に取られて、その時に初めて気付いてしまうような話はあまり聞いたことがない。
でも、もし自分がその立場なら何となくだがわかる気がする。
「それで、練習に身が入らないってことね……?」
「うん……保真麗と居るとつい思い出して練習に身が入らないんだ……」
本来なら「三日前なんだし、そんな事言っても仕方ないよ」なんて突き放すのだが、今回に至っては事情が事情なため、そう簡単にはいかない。
友達のこんな姿を見ると自分も心が苦しくなりそうで、慰めてやりたい気分になる。
私は香織の後ろからそっと抱きついて、言葉をかけることにした。
「寂しくて辛かったのね、苦しくなったらいつでも私に言っていいんだよ?私は香織の友達だからね」
香織は泣きながらも私の言葉にふふっと笑う。何かおかしなとこあったっけと思ってはいたけれど、香織が少しでも元気になれたらそれでいいやと思った。
「楓って優しいんだね。にしても、私ったら何で武琉の事を好きなのかな……ただの幼馴染みなのに……。幼馴染みや友達と思っている親しい人って意外と好きになりやすいものなんだね……」
香織はそう呟いてからも暫くさめざめと泣いていた。
本番のライブは近くのドームで開かれる。普段は野球の試合に使われているところで、今回の動員数はザッと4.5万人といったところだと、場内アナウンスで流れていた。さすがユアユイの二人の力と思いながら私は控え室で待っていた。
私達は少ない人数の中、今日まで本当に頑張ってきたと思う。
このライブに四人で出ることが決まってからいろんなことがあったな……。
保真麗の相談事を聞いた、松崎先輩と桜田先輩が部活に来てくれた、香織が心の内を明かしてくれた。
私達の出番が近づいてきたので持ってきた《HOT beetle》の衣装に着替える。
本当ならどうなるかはわからなかったけれど、桐山さんのおかげで無事に衣装も準備できた。
「大丈夫かな……」
鈴音はこの雰囲気にも慣れていないらしく、ガチガチに固まっている。
私達もオーディションはいくらか受けてきたとは言えど、こんな大勢の前でのステージは初めてになる。それに、後にユアユイが控えているというプレッシャーにも押しつぶされそうになる。
「大丈夫だよ、だって私達四人じゃん!いろんな事を乗り越えてここまで来れた。だから大丈夫だよ」
香織もあの時から完全に立ち直り、いつもの元気を取り戻した。
『エントリーNo.14のチームは準備をよろしくお願いします』
「さぁ、行こっか」
私がそう言うと、保真麗がギュッと私の左手を握った。それを見た鈴音が保真麗の反対の手を握り、香織が私の反対の手を握る。
「私達なら大丈夫だと思うよ」
私達は互いに顔を見合わせてからステージに上がって行った。
本当に申し訳ありません、ぶっ通しでやりましたが、終わりませんでしたm(__)m
内容のおかしなところ誤字脱字などありましたら報告よろしくお願いします。
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