20話 文化祭トリック(香織)
20話 文化祭トリック(香織)
アイドル部は廃部の可能性があると話が挙がっていたけれど、鈴音のおかげ(?)でそれを回避することができた。本人、鈴音は以前から部活がしたかったけれど、家庭の事を考えると部活に入れないと考えていた。だが、父親に直に話に行きやっと部活に入ることを決めれたとのこと。それで、私達アイドル部へと入部をしてくれた。
「私が居れば、アイドル部が廃部になることは無いし、少し興味もあったからね」
そう私達に告げて、鈴音はアイドル部に入ってくれた。
最初の方は、私と保真麗は《大宮さん》と呼んでいたけれど、本人が下の名前で呼んで気軽に接して欲しいと言ったので、私達も鈴音と呼ぶようになった。
桜咲学園は九月の体育大会が終わり、今月になってから文化祭ムードに突入している。
五月から学校としての文化祭の準備が始まっていたのだけれど、私達のクラスはお化け屋敷担当ということなので、クラスメイト誰一人として焦る様子が無く、私達の文化祭準備は九月から始まった。
そのせいで、最近になり文化祭までの時間が無いことに気付いて、クラス全員で急いで準備をしている。
文化祭の準備が忙しいせいで、私と保真麗は部活に行ける時間が短くなってしまう。
今日も文化祭の準備に追われて、部室に着いたのは五時半だ。
最近、この時間帯になると夕陽が空を赤く染め始めている。それを見て、夏から秋、そして冬へと時間が流れていくのを感じる。それに夏から秋になり過ごしやすくなったのもあり、より一層時間の流れを感じてしまう。
「二人ともお疲れ様」
「お疲れ様、A組は大変だね……」
部室に着くと鈴音と楓が部活をしていた。
ここ数日、鈴音は楓と二人でアイドル部の練習を頑張っている。本来なら私達が居なくても、先輩達と楓の三人で鈴音と練習出来るけれど先輩達は今日も居ない。
楓の話によると、先日に桜田先輩と松崎先輩がアイドル部に来たらしいけれど、二人ともまだ仕事のが多く詰まっていて、これから部活に戻れるのがいつになるか予定が立たないんだとか。
「文化祭の準備が終わらないよ……。ただ、面倒なだけだし……。ねぇ、保真麗」
A組の文化祭への準備状況に不満を口に出して保真麗に同情を求める。保真麗も毎日「疲れたー」とか「終わるのかな?準備……」などと愚痴っているから同情してくれると思った。
「私は……楽しいかな……?」
「えっ⁉︎」
保真麗は顔を紅く染めて、モジモジとしている。保真麗なら同情してくれると思ったのに、私とは真反対の意見だった。
「どこが楽しいの?あんなに面倒な作業なのに……」
「住川君と話せるから……」
その理由を聞いて納得してしまう。好きな人と長く居たらそれは文化祭の準備も楽しくなるだろう。
そういえば保真麗は、文化祭の準備が武琉と同じ担当で一緒に作業することが多かった気がする。保真麗は準備中、いつも武琉にベットリとくっ付いていて、武琉と楽しそうに話している。私は別に武琉の事を恋愛感情で見ることは出来ないけれど、武琉の幼馴染みとして少し保真麗のことが羨ましく思える。
私も武琉と話す時間が欲しいけれど、保真麗を邪魔するわけにはいかず、遠くで武琉を見つめることしか出来ない。
「好きな人が居たら文化祭の作業って楽しくなるの?」
楓が顔に疑った気持ちを露わにしつつ保真麗に聞いた。
「そうだね、楽しいよ。私、住川君と一緒に作業できて楽しいんだ」
本当は彼の幼馴染みとして、武琉と楽しそうに話す保真麗のことが羨ましいけれど、純粋で眩しい笑顔をする保真麗を見ていると、保真麗の恋を心の底から応援したくなる。
そして、保真麗には友達として恋愛を手伝ってあげたいという気持ちにもなる。しかし、親しい仲だからこそ「応援するよ」と言うには結構勇気がいるもので、なかなか言えない。
私が保真麗に声をかけれなくただ突っ立ていると、楓がそっと保真麗の方に近づいていった。
「私達、頑張って保真麗の恋を応援するよ。手伝えることがあったら何でもする」
「へっ……?いいの?」
「いいよ、私達は友達でしょ?」
「ありがとっ!」
保真麗が幼子みたいに楓に抱きつく。
私はその二人を見て、良い友達を持つことが出来て良かったと感じることが出来て、心の中でホッとする。
「香織、鈴音。一緒にさ保真麗の恋愛を応援しよ?」
私は鈴音と顔を見合わせた。鈴音は、まだ保真麗と仲良くなって日が浅いけれどすぐに「応援するよ」と言ってくれた。
今まで保真麗と一緒に過ごしてきて、保真麗からは目が離せないなと感じることが多くあった。
桜田先輩がアイドル部に居ない今、自然と保真麗が私達の妹キャラになっていた。私には家に妹が居るけれど、保真麗は友達であるのに私の妹よりも本物の妹っぽく感じる。
だから私は保真麗からは目が離せないなと思うのだろう。
そんな気持ちと応援したい気持ちが私の心の中で合わさった時、私はようやく言葉にすることができた。
「応援するよ、保真麗」
鈴音と私の言葉を聞いた保真麗は無垢の笑顔で「ありがとう」と言った。
それから保真麗はいつも以上に武琉と話すようになった。文化祭の準備中、休み時間などで、保真麗と武琉が楽しそうに話しているのを見て、保真麗の友達として嬉しい気持ちと武琉の幼馴染みとしての羨ましい気持ちが私の中に共存してしまっている。
武琉に対して恋愛感情なんか全く無いと思っているのだが、何故だか心のどこかで保真麗に対して嫉妬する気持ちの方が膨らんできていた。
その理由がわからずに、私は文化祭当日を迎えることになる。
文化祭当日。クラスのお化け屋敷も無事に完成することができ、天候の方もスッキリとした快晴で、最高の状態で文化祭を迎えることになった。
「私、明日は住川君と一緒に文化祭をまわるんだ」
昨日、保真麗は嬉しそうに私に報告しに来てくれた。
もし、私が好きな人と文化祭を一緒にまわるのならデートコーデをするのだけれど、保真麗は制服を着て武琉と文化祭をまわることにするらしい。
保真麗と武琉はお化け屋敷の仕事の担当が朝だったため、昼あたりからデート(?)を始めるらしい。あいにく、私は昼から担当の仕事が入っていて朝と夕方しか文化祭をまわれない。
結局のところ、朝に仕事のシフトの無い楓と鈴音と私の三人で屋台をまわることにしていた。
「保真麗、今日は住川君とまわるんでしょ?保真麗、上手くいくといいね」
鈴音は、昨日まで保真麗のことを常に考えていて、「保真麗なら大丈夫よ」「住川君も保真麗の感情に気づいてくれるはず」などと、自分のことのように考えて、保真麗に親身になって話していた。
「保真麗なら、必ずデートを成功させて帰ってくるはずよ。だって可愛くて優しいじゃん、住川君も墜ちるんじゃない?」
楓も自分のことのように、保真麗のことを自信満々に話す。二人みたいに他人の事を自分の事のように考えることが出来る人は、普通に凄いなと思う。
「保真麗なら武琉とのデートを成功して帰ってこれるよ」
保真麗の恋愛を応援して、手伝ってきた身としては成功させて欲しい気持ちもあるけれど、何故だか成功すると寂しいなと思う気持ちが私の心のどこかにある気がする。
「そういえば、香織って住川君のことを『武琉』って呼んでいるけれど、どんな関係性なの?」
横に並んで歩いている鈴音から唐突に聞かれて、どう答えればいいか困ってしまう。
鈴音に本当の事を言えば、鈴音が幼馴染みである関係の事を深く考えてしまいそうで、保真麗の恋愛に支障が出るかもしれない。
また、嘘をつけば今度は私と武琉がコッソリと付き合っている、と勘違いをされるかもしれない。
「私は……」
「幼馴染み、なんでしょ?」
私が反応に困っていると、楓が鈴音に本当の事を言った。
「幼馴染みなの……?意外ね」
「へへっ……意外でしょ?」
私は、幼馴染みであることが何事も無いかのように振舞う。
鈴音は私の想定していたより、結構あっさりとした反応を見せたので、ひとまず安心した。
深く考えられずに良かったなと思っていると、鈴音が少し眉を下げ心配するような顔をして私に話しかけてきた。
「香織の声のトーンが今日は寂しい感じがする。弱い感じ、寂しい気持ちに包まれて悲しい音色……。何かあったの?」
「えっ……⁉︎」
唐突な言葉に私は上手く反応できない。鈴音に自分が寂しい気持ちを感じられてしまってた。
「あ、ごめんごめん……。音色とかじゃ上手く伝わらないよね?別に自慢ってわけじゃ無いんだけどさ、私は前にピアノをしていて、人の声から感情を読むとその人の感情を音色で表現してしまうんだ。ま、そんなことはいいとして、少し気になったんだよね。普段よりトーンの低い香織の声が……勘違いだったらごめん……」
「べ、別にそんなことないよ……?気にしないでいいよ」
改めて言葉にして言われると、心の寂しさが余計増してきて耐えられなくなる。それに耐えきれないとわかった途端武琉と話したい気持ちになってしまった。
昼からは私達三人はそれぞれの仕事があるので、仕事のシフトに入る。
私はお化け屋敷の入口で入場者整理係をすることになって、休んでいる暇が無い。これが夕方まで続くことを考えると、軽く絶望を覚えてしまう。
教室の前に並んでいる人はそこそこいて、お化け屋敷が結構な高評価だったことがわかる。並んでいる人達を眺めていると二、三組のカップルが楽しそうに話しながら並んでいる。その人達を見ると、今頃楽しそうに話しながら文化祭を満喫する保真麗と武琉のことを想像してしまう。
私が保真麗の立場だったらどうだったんだろうな………。
そんな事を考えてしまうほどに、私は二人のことで頭の中がいっぱいになっていた。楓と鈴音も私と同じなのかもしれないけれど、私と彼女らとは違う考えなんだろう。
彼女らは保真麗のことを応援しているというプラスの気持ちなのかもしれないけれど、私の感情は気がつけばマイナスの気持ちへと傾いてしまっている。
友達として保真麗のことを応援していたのに、今は保真麗を応援する気持ちにはなれない。
夕方になり文化祭も終わりを迎えようとしていた。多くの屋台が完売で閉まって朝や昼みたいな賑わいも無くなった桜咲学園の文化祭を一人で歩いている。
私達のクラスも客は殆ど居なくなって、クラスの皆はゆったりと休み駄弁っているに違いない。私も教室に戻ってクラスメイトと駄弁ろうと思い教室に急ぎ足で戻る。
「結局、何もしなかったなー今年の文化祭」
あまりにも早く終わってした事などは殆ど思い出せない。ただ、時間が矢のように過ぎ去っていた文化祭だった。
武琉と保真麗のデートは上手くいったのか分からないし、私が何故武琉と話したいのかという詳しい理由も分からないまま終わってしまった。
そんなことを考え教室へと戻っていた時、職員室の近くの階段を降りていた時、階段の前の廊下を一人で歩いている武琉を見つけた。
「武琉……」
会えたことの嬉しさのあまり、頭が働かずに名前を呼んだきり台詞が続かない。私が突っ立っていると武琉が階段を上ってきて私の近くまで来る。
「どーしたんだ、突っ立って」
普段なら何も思わないのに、夕方で周りが暗くなって武琉がいつもよりかっこよく見えて緊張してしまう。
私に近づいた武琉が心配そうな顔をして私のことを見ている。
「香織……?どーしたんだ、顔が赤くない?」
「ゆ、夕陽のせいだから!」
恥ずかしくて緊張して顔が赤くなっているなんて本人の前では言えるわけないし、よりによって相手が幼馴染みとなると余計言いづらい。
ただ私を見ている武琉の視線に耐えきれずに私は視線を逸らしてしまう。
「あのさ、香織……」
「何……」
「今日、蒼原に告られたんだ。付き合って欲しいって言われたんだ……」
「……そう」
保真麗が武琉に告白するなんてわかっていた。わかりたくは無かったし、この現実を受け止めたくない。私は友達として保真麗の恋愛を応援してきたはずなのに、何故ここまで悔しい気持ちになってしまうのだろう。
悔しくて上手く返すことが出来ずに、つい愛想の無い返事を返してしまう。
「返事を返したいけれど、俺にはまだ返事を返してない奴が居るんだ……。やっぱり先に告ってきた方に返すべきだよな……」
武琉は悩んでいるように見えるがそれに答える気にならない。武琉はモテる男子なんだ。保真麗以外にも告白した人が居るんだ。
私とはただの幼馴染みで友達でそれ以上は無い。武琉は私よりも素敵な女子と仲良くしていくんだ……。
そんなことを考えてしまう自分が嫌になって仕方が無いけれど、今は自分を責める以外に気持ちのぶつけ所が無い。
「香織……。やっぱり俺は、お前とは友達でしか居られないと思う。だから、ごめん……」
黙りこんだ私に武琉はそう言った。
ん……?私の考えていることが読まれた……?
もう私は覚悟は出来ていたからそんなに苦では無かったけれど、ひとつ気になるワードがあった。
「私、何かしたっけ……?」
気になるワードとは『だから、ごめん……』のこと。突然に謝罪をされて何があったのか私にはよく分からなかった。
武琉は、何のことなのか見当もつかない私をみて暫くの間、様子を伺っていたけれど溜息をついて「やっぱり覚えてないか……」と言い、その言葉に続けた。
「お前は小四より前の記憶が抜けている。以前そういう風に自分で言っていたよな」
「そうだけど……」
私は原因不明なのだが、小学校四年生の時より前の記憶が完全に無い。薄らぼんやりと覚えていることは、武琉が幼馴染みであること。
以前、武琉は「いずれわかる、過去の一部の記憶が思い出せない原因が」と言っていた。
だから何かしらの原因はあるのかもしれないけれど、私にはわからない。
「小三の頃に俺、お前に告られたんだよ」
「え……?そんなことあったの?」
もう一人の告白した人物が自分であったことに驚いたのと、自分が昔に告白していたことだ。
幼馴染みであるならば、いずれかそういう感情が芽生えてもおかしく無いはず……。
「あぁ……。お前の過去について、許されるならば全てを話す時が来るかもな……」
昔の自分について考えていた私に武琉はそう告げて階段を降りて行った。
私には武琉の言っていたことが理解できなかったけれど、多分私の記憶の抜けてる理由をいずれか話すということだろう。
武琉は教室の方へと戻って行って、その場で呆然として階段に立ち尽くした私は取り残されてしまった。
校内ではちょうど文化祭終了の放送が流れた。
「武琉、どう返事するのかな……?」
神様が私のことを可哀想だと思い助けてくれる訳でも無いのに、言葉に出して自分の中で暴れる負の気持ちを吐き出すしか無かった。
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