18話 アイドル部の危機⁉︎香織の退部(香織)
18話 アイドル部の危機⁉︎香織の退部(香織)
部室が今日から少し広くなるのを感じて寂しくなる。
昨日をもってアイドル部の二年生の先輩の内の三人が桜咲学園を辞めて、アイドル養成学校へと編入することになった。
その三人の先輩達が居なくなると、残っている先輩は桜田先輩と松崎先輩の二人のみになってしまう。アイドル部自体、去年突如出来た部活(昔はあったとかいう噂もある)だから中学三年生の先輩は居ないんだとか。
私はアイドル部の先輩の中では、主に桜田先輩と松崎先輩の二人としか関わらないので特に思い入れがあったというわけでは無い(冷たいのでは?と自分でも思ってしまう)けれど、人数が減るのは寂しいことだ。
桜田先輩と松崎先輩は三人が去っていく事を前から知っていたらしいが、私達一年生には教えること無かった。また、他の三人の先輩達も転校する雰囲気を漂わせることすら無かったので、私達にとって今回の出来事は寝耳に水のような事だった。
「先輩が松崎先輩と桜田先輩の二人だけになってしまったね……」
保真麗は寂しそうに私に話しかける。保真麗は先輩達からも可愛がられていたので、私と違い心の底から悲しんでいるだろう。
「三人の先輩達も頑張っているはずだよ、私達も頑張ろう⁉︎」
保真麗を元気付けようとしたけれど、やはり寂しいという保真麗の気持ちは中々ぬけないだろう。だけど、先輩達はもう別の学校に行ってしまったんだし仕方ないと思える気持ちも大事だと思う。
「そうだね……」
保真麗はやっと受け入れたのか、それとも私を心配させないためなのか、無理に笑顔を作って私に微笑みかける。
「あの……突然なんだけど二人に伝えときたいことがあるの」
やっと保真麗が落ち着いたと思った頃に、松崎先輩から話しかけられた。松崎先輩は何かあったのかいつもと違い冴えない顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「実は……私と華子に明日から仕事が出来てしまって……」
「え、羨ましいです!頑張ってください!」
松崎先輩は冴えない顔をしていたから暗い話なのかと思ったけれど、とってもおめでたい話だった。今まで、松崎先輩は表舞台から完全に姿を消してしまっていたから、寂しかったファンも多いはず。本来なら良いことのはずなんだけれど、やはり松崎先輩は何か喜ぶ素振りを見せる感じで無くて、どうしたのか気になる。
「ありがと……。でも、その仕事の間はほとんど部活に行くことが出来ないの……」
「え……?」
「ごめん!仕事が終わったらアイドル部に顔を出すから」
松崎先輩の言葉を私は信じられなかった。正しく言うと、本当は信じたく無かった。昨日に三人の先輩達が、アイドル養成学校へと編入して行くと言い桜咲学園のアイドル部をやめていったのに、松崎先輩と桜田先輩もアイドル部から一時的に離れるなんて……。
私は自分の聞き間違いかと思い、ほんの数秒前の場面を頭の中で再生する。それでも松崎先輩は確かにそう言っていた。
「先輩達が一人も居なくなるんですね……」
「ごめんね」
松崎先輩が悪いわけじゃ無いのに、松崎先輩は私に部活を離れることを謝っているのを目の前で見て、私の心が苦しくなった。
「見てみて!ほら、スポーツ誌の一面に松崎先輩の復活が載っている!」
あれから数日後の部活。走ってきたのか知らないが、息を弾ませながら楓が部室にスポーツ誌を持って入ってきた。私と保真麗しかいない部室に、楓が息を弾ませる音がしっかりと通る。
アイドル部には、本来あと二人一年生がいるのだけれど、「先輩が一人も居ないなら来ても仕方ないよ」と、昨日私に告げて部活に来なくなったため、アイドル部には私達だけが残された。そのため、こんなに広い部室は今は三人だけの部室になってしまっている。
「ほら!ここ」
楓が満面の笑みを顔に浮かべて、松崎先輩の載っている記事を指差す。
記事には『天才アイドル復活!』と書いてあり、松崎先輩と桜田先輩のツーショットが載っている。
楓と保真麗と私の三人でギュッとくっ付いて、新聞の一面を見る。記事の内容は松崎先輩の芸能界復活についてと、桜田先輩が期待の新人であるということ。
「松崎先輩も桜田先輩も凄いね」
私達はしばらくの間その新聞記事を黙ってみていた。
本来なら部活の時間なのだけれど、部活を引っ張ってくれていた先輩達が居なくなると私達は何もしないことがわかってしまう。でも、私達は先輩達が居ないとやる気が起きないのだから仕方が無い。松崎先輩と桜田先輩は頑張っているのにな……。
「何もすることが思いつかないよね」
新聞を読み終わると保真麗が部室の窓の前に立ち一人でそっと呟いた。保真麗は寂しそうな顔をして窓の外を眺めて突っ立っている、楓の方を見ると楓は体操座りでうずくまっている。
二人とも、これからアイドル部でどうやって活動していくのか先が見えなくて不安になってしまっているんだろう。
先輩達が居なくなり、あとの二人の一年生も辞めてしまい、部活に残されたのは私達三人のみ。仮に、松崎先輩と桜田先輩が部活に帰ってくるとしても、帰ってくるのはほんの数日だけなんだろうな……。
そう考えるま私達が部活に残る意味なんて無いに等しいはず。そんな考えが心のどこかで芽生えた瞬間、私はアイドル部を辞めようと思った。
「もう、いいよね?私、帰る」
私は二人にそう告げて、二人には止められもせずにアイドル部の部室を後にした。
その次の日、私はアイドル部を辞めた。
部活を辞めると身体には疲れが無くなり、授業中も寝ることがほとんど無くなった。おかげで授業をしっかり聞けて勉強をゆっくりと出来るので、少しずつ勉強がわかるようになってきた。
昼休みに真面目なクラスメイトの元へと行って、わからなかった問題を教えてもらい、放課後には職員室で先生に授業で理解できなかった所を教えてもらう。
このようにして、小学校の時に不登校だった私は徐々にその分を取り返していき、気がつけば勉強面で落ちこぼれでは無くなっていた。そうなると、自然と心に余裕が出来て面倒だった勉強も楽しく思えるようになった。
だが、何か足りないような気がしつつ学校生活を送っていた。
クラスでは話す人にも恵まれて、暇だと感じる事は無いのに……。時間が無くて大変だと思うこともない。勉強だってしっかりと出来ている。
それなのに何故か……何かが足りない気がしていた。
ある日の放課後。
いつものように、寮の部屋に帰るとすぐにベッドに寝っ転がりスマホのソシャゲをしている。
部活を辞めてから、時間が出来てゲームの時間を多く取れるようになった。やり込み度が高ければ高いほど強くなれるゲームをしている為、プレイ時間が大事になってくる。そのため、ゲームを長い時間やれるのはわたしにとってはとても嬉しいことだ。
コンコン
ちょうどステージをクリアしたところで私の部屋をノックする音が聞こえた。
「誰だろう……?」
この時間帯は寮生のほとんどは部活に行っており、残っているのはあまり居ないはず……。
そう考えながらドアを開けると、ドアの外には保真麗と楓が立っていた。部活を辞めてからは保真麗と楓とは全く話していなかった。
「久しぶり……」
この時間帯は部活があるはずなのに何故か二人揃ってここにいる。二人とも、何か言いづらそうな顔をして黙ったままだった。
「どうしたの?」
二人でわざわざ私の部屋に来てどうしたのだろう?と思う。
「部活に戻らないの……?」
「えっ……?」
保真麗の言葉に思わず本音が出てしまう。部活を辞めた人に対して『部活に戻らないの』はタブーなのではないかと思う。辞めた人にはそれなりの理由があるから辞めたのであって、部活には戻らないに決まっている。
私だってそうだ。
アイドル部に私が入る意味なんて見当たらない。いくら、この学校で部活に入らないのは御法度と言われようが、アイドル部にあのまま残っているよりは断然マシだ。私にはあの部活での存在価値が無くなってしまったのだ。
だから私はアイドル部を辞めたのだ。
「私は戻らないよ、あの部活に」
「なんでなの……?」
楓は悲しそうな顔をして、私を見つめてくる。きっと楓も保真麗と同様に私に部活に戻ってきて欲しいんだな。
あの部活は今では実質この二人しかいないため寂しく感じるだろうし、このままだと部活の廃部は充分にあり得る。
それでも、私はあの部活には戻らない……、いや、戻れないんだろうな。自分の気持ち的にあの部活には戻れない。
私の目指していた何かが心の中でガラガラと崩れた時、私はそれに諦めがついてしまった。
「私があの部活に居たって何も始まらない。私、一人の力でどうこうなるのなら戻るよ」
「でも、香織が居てくれたら……」
「私が居たら、私の居たあの時のアイドル部に戻るって言うの?」
「香織なら出来るよ、私にはわかる」
楓は必死に私を部活に戻そうとしているが、今は楓の言葉を信じることなんて出来なかった。あの時、私一人の力でどうにかなっていたならこんな事にはなっていない。だから、私の力があった所で何も変わるわけ無い。そんなことは、楓も保真麗もわかっていたはず。
それをわかっていながらこんな話をされているとするならば、私は完全に舐められたものだ。
「本当に私が居て解決する?あなた達は気づいているんじゃないの?私があの部活に戻ったところであの部活の現状が変わらない事くらい。わかっているならもう来ないで!」
私はつい頭に血が上ってバシンと部屋のドアを閉めた。
「香織ちゃん!お願い、部活に戻って来てよ!」
「うるさい!帰ってよ!」
私はドアを開けられないようにその場にしゃがんでドアを体で押さえながら言う。
ドアをいつ開けられるのかずっと構えていたが、ドアを開けられる事はなかった。
「やっと、諦めてくれた……」
少しホッとした気持ちと同時にドアを開けようとされなかった理由がすぐにわかってしまった。
それは、私が二人から諦められた、見捨てられたということ。
楓にはキスまでして誓ったのに完全に離れられてしまった……。
それからは二人とも全く私の元へと来なくなった。それにより、完全に部活のことを忘れていつもの日常へ戻ることとなった。
「香織、今日さカラオケ行かない?」
「ごめん、私さお金無くて……家がさ全くお金入れないの」
「あら……じゃ、お金入るようになったら遊び行こうね」
遊びに誘われても断ることしか出来ない私が少し嫌になるけれど、それでも毎日は充実していた。
うちの母親は私が寮に入る際に寮内の預金に十万円をいれていた。私が家を出る際に渡された手紙には、『これで中学三年間は我慢して下さい』と書かれてあった。
いくら仲が良くても、お金が無くて遊びに行くことをどうしても躊躇ってしまう。何かあった時のために残しとかないといけないと感じているからだ。
それなのに、どうしてだろう……。
あの日は素直に『遊びに行こう』と了承してしまった。普段は躊躇うのにその時だけは何も躊躇わずにOKを出来た。
「楽しかったなぁ……」
思わず心の中で思っていた言葉が出てしまった。
楓と保真麗どう伶良どう行った海水浴とお祭り。少し前のことなのに、昨日あったかのように思い出せる。
あの時から大きく変わったものだな……。
あの時は私には、今の現状など想像出来なかったし考えられなかった。
あの頃は、いつも通りアイドル部に入っていていつかデビュー出来るように頑張ろう、なんて心のどこかで考えていた。それに、この四人でこの青春を過ごしていくんだなとも考えていたのに、今の現状は全てがその真反対。
私って何しているんだろうな……。
今の生活には何一つ困っていなかったけれど、本当に大切なものを失くしている気がする。それが何かも分からずに、どこか寂しげな感情に駆られてしまう。
「香織、ちょっと話できる時間ある?」
私の目の前に、いつもとは違い厳しい表情をした伶良が立っていた。
伶良に連いて行き辿り着いた場所は人の気配の無い校舎裏。私が松崎先輩と会ったところだ。
「ここに呼び出したのは他でも無い、あなたアイドル部辞めたの?」
伶良が突然止まり、私の方を振り返らずに聞く。声には静かな怒りが込められていることがわかる。きっと、保真麗か楓があの話を伶良に話したのだろう。ならば、嘘をついて誤魔化しても仕方ないし、別にアイドル部を辞めたことに罪悪感をかんじていないので、正直に話す。
「辞めたよ」
私は伶良の背中を見て答えると、伶良が私の方を振り向く。冷たい目で私をみている、というより睨んでいる。
「なんで辞めたの?」
伶良の口調は冷静であるけれど、彼女の目には確かな怒りが込められている。
私がアイドル部を辞めても、陸上部の伶良には全く関係が無いのに、なぜ伶良が怒っているのか私にはわからない。
それに、私としても関係の無い人に関わられるのは嫌だった。
「あなたには関係ないじゃん!」
私が声を荒げて言い返すと、伶良は一瞬ハッとした。結局、「上辺だけでもいいからそういう表情で香織を脅かしといて」なんていう事を二人から吹き込まれたんだろう。
それならば、そんなことを伶良に早くやめさせるために私はさらに言い立てる。
「私がアイドル部を辞める話に全く関係ないのに入ってきて、どういうつもり⁉︎いくら保真麗や楓、伶良になんと言われたってもう戻らないから!存在価値が無い所にいつまでも居たって何も生まれない、何も楽しくない!ただ、それだけの理由よ!帰って!」
私が言い切ったの同時に伶良が私を睨みながら近づいてくる。
バシッ……
伶良が手を挙げてそれを振り下ろす。私の左の頬に鈍痛が走った。
私は伶良に右手で平手打ちをされた。
「あなたは何も理解してない、何も裏で起きた事を考えずに浅はかな考えで、物事を決めつけている!あなたには想像出来ない、出来るわけない!」
私達の前では、普段は大人しい伶良が物凄く怒りの感情を私に剥き出しにして、私に声を荒げて言い返す。私は目の前の現状に驚いて返す言葉が何一つ思いつかない。
そんな私を怒りの籠もった目で睨みながら私に向かって言葉を並べる。
「保真麗と楓が大泣きしながら私の元にやって来た。『香織ちゃんから見捨てられた』って保真麗は言って、楓は『香織が私達から離れていってしまう』と言っていた。あなたがあの場面で、二人のことを全く受け入れなくてあの二人は心に相当な傷を負っていた。二人から懇願されて私は今、あなたの前に立っている。私の知っているあなたは真っ直ぐで優しい女の子。お願いだから見捨てたままにしないで!」
伶良は、怒りを込めた言葉を私にぶつけきると私に抱きついた。そして力を込めて強くギュッと抱きしめる。
「お願い……二人を……私達のことを決して見捨てないで……」
私を抱いている伶良の体が小刻みに揺れ始める。そして私の肩に制服に染み込んで伶良の涙が伝わる。
「香織のことが私達は好きなんだよ⁉︎だからこれからも四人で一緒に過ごしていきたいよ!」
伶良の必死な訴えが私の心に刺さる。
私は今までこんな残酷な事をしていたんだ。自分のことしか考えずに他人の事を全く考えられていなかった。
あの時、保真麗と楓を二人のことを考えずに見捨ててしまっていた。
見捨てたのは、保真麗と楓の方では無く私の方だったんだね……。楓にはキスまでして誓った事なのに、私が自分のことしか考えておらず、楓の方から離れていったと勘違いしていたけれど、本当は自分の方から離れてしまっていた。
「ごめんなさい……、必ず謝りに行くよ。決して見捨てたりしないと誓うよ!」
私は伶良をギュッと抱きしめた。
これからの私が決して自分勝手な人間に成らずに他人の事をしっかりと考えることの出来る人間になれるように心の底から願う。
それに、保真麗と楓から許されることを……。
放課後、私はアイドル部の部室に行くことにした。ドアのガラス越しに部室の中を覗いてみる。
「香織ちゃん……今日こそは戻ってきてくれないかな……?」
「香織に見捨てられしまうとはね……。どうすればいいのかな……?」
ドア越しに彼女達の姿が見えて、声も少しだけ聞こえる。
保真麗と楓が二人で寄り合って並んで窓の外を眺めていた。その様子を見ていると心が苦しくなって、今の自分の思いをぶつけたくて仕方の無い気持ちになった。
ガチャ
気がつけばドアを開けてしまっていた。二人がゆっくりとこちらの方を振り返る。二人とも私の姿を見て驚いている。
「ごめんなさい!私が……自分の事しか考えていなくてあなた達の気持ちを全く考えることができていなかった。こんな私を許してください!」
保真麗と楓に、大きく頭を下げて謝る。そして頭をあげると、二人は呆然として私のことを見ていた。
それはそうだよね、急に何言い出しているんだってなっちゃうよね……。
私はまともに彼女らのことを見る事が出来ずに思わず視線を逸らして下へと俯いてしまう。
「香織……」
「香織ちゃん……」
二人に呼ばれたかと思うと二人が走って近寄ってくる音がした。その足音に思わず顔を上げたと同時に私は二人から抱きつかれた。
「香織……もう行かないでよ!私達とずっと一緒にいて……」
「香織ちゃん……離れていかないでー!」
二人が私を抱きしめて泣き声で私に言う。今の私には、二人が泣いている事が顔も見らずにわかる。それは二人のことをしっかりと考える事ができる私へと成長できたからだ。
「ごめん……これからもよろしくね……」
何も上手い言葉の思いつかない私は、その言葉でしか思いを伝えることは出来なかったけれど満足はしている。
きっと、私の思いが伝わってくれるはずだから。
諸事情により投稿日遅れて申し訳ありません
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