16話 あなたへの誓い(香織)
16話 あなたへの誓い(香織)
部活の途中なのに、先輩たちに気付かれないように私はこっそりと部室を抜け出した。猛暑日を記録する毎日で今日も猛暑日らしく、廊下はサウナのように暑くムシムシして気持ちが悪い。そんな中を、私は逃げるように部室から離れていく。
今の私はすぐに楓と会いたくてしょうがなかった。やっと楓も会見が終わって一息つけただろうから、私の願望に普段よりも耳を傾けてくれるかもしれない。今回の願いはどうしても叶えたかったから、他人様のいない二人っきりの時にそしてなるべく早くに楓に伝えたかったから、ここまでして楓が居るであろう更衣室の方へと向かうのだ。
ガチャリ。重い更衣室のドアを開ける。
「楓?遅いよ?」
別に何も遅くなかったのだけれど、ここに来るには何かしらの口実が必要だと思い適当な事を言って更衣室の中に入る。中に入るとジャージを抱きしめたまま固まっている楓と目があった。一、二秒間見合っていると楓がワタワタとしながらジャージを着始める。
「うわぁーーーっ⁉︎い、今着替えてる途中なんだけど!」
ジャージを抱きしめて何やってんだ?と、楓を変なものを見るような目で見てしまう。着替え終わった楓が笑顔をこちらに向けてきて私もその笑顔に微笑みが溢れた。
今なら落ち着いて話すことが出来ると思った私は楓の前にある横に長い椅子に腰をかける。
そして楓を上目遣いでじっと見つめて楓をドキッとさせ、成功すれば願い事を言う。そういう作戦でいこうと思ったけれど実際にやってみると、楓はさっきとは逆で私のことを変な目で見てきた。
いつもだったら成功するのにと思いながら楓のことを見ていると、楓は今の私に心を許したのか横に座ってくれる。
「……どうした?」
「私さ、ハッキリ言って嬉しいんだ。楓が《HOT beetle》の専属アイドルになったこと」
違う、そうじゃない!願い事を言うんだ、私!確かに「おめでとう」と祝福の言葉を楓には伝えたいけれど、そんなのはいつだって出来るし、先を越されたって何の影響もないから構わない。
願い事を言おうとはするけれど、それが私の身に何か悪い事を感じているのか口が先走って本来の言いたいことを言えない。
「ありがと……」
楓は私のことをどこか疑っているのか、それとも唐突に言われたことに困惑しているのか微妙な顔をして言う。ここまで来ると一旦この話にケリをつけないといけなくなってしまうので私は、青春だなって思える展開になった時に言おうと思っていた言葉をぶつける。
「私さ、たまに陰から見てたんだよ?楓がガチ練習してるとこ。保真麗からも話は聞いていたし、楓にどうか良いことがありますようにって祈っていたよ?」
「そ、そうなの……?」
私の予想とは違い、楓は私の返事に普段より用心深くなっている気がした。
「そうだよー、だって楓は私の憧れだからさ」
そう言うと楓はようやく疑うのをやめたのか、嬉しそうな顔をしてくれた。事実、私の憧れは楓だった。楓のリーダー性、根性、やる気、かっこよさ、可愛さ、など私には無いものを多く持っているから相当羨ましいし憧れの存在である。だから楓は友達でもあり私の好きなアイドルでもある。
今その楓は多分私にこころを許してくれているはずだ。私は楓の右手に触れゆっくりと手を絡めながら楓に話しかける。
「それよりさ、楓……」
「どーしたの?」
「………楓ってさ、今度のペアオーディション誰と出てるか決まっているの?」
私の願い事……。それは楓と一緒にペアとして出場することだ。私が誰よりも楓と一緒に頑張ってきたと思うからこその判断であって、私は楓とならきっと成功すると思っていた。
言い出すタイミングなんていつでも良かったのだけれど、楓が今日の会見に対して結構プレッシャーを感じていたから後になってから話を持ちかけた方が良いと思っていた。
「え、あー。あれか………」
今、思い出したかのようにしている楓も本当は知っているに決まっている。
ペアオーディションの部門のみがあるけれど、学生アイドルにとっては夏の甲子園のようなものだと松崎先輩から話を聞いている。そんな一大イベントについて、楓が忘れているはずがない。実際そんなことはどうでもよくて楓がOKしてくれるかどうかの方が大事だ。
「一緒に出たい……楓と」
「ごめん、そのオーディション私は保真麗と出る約束していて……」
一瞬、楓の言葉を私が聞き間違えてしまったかと自分の耳を疑った。私は楓の顔をじっと見つめるが、楓は真顔で黙ったままだったので私は諦めた。
楓に嫌な思いをさせまいと、私は自分の気持ちとは裏腹の笑顔を楓に見せる。楓はハッとしたけれど多分本心には気づかれていない、大丈夫なはずだ。
「ごめんね、別の人を探してみるね。保真麗と一緒に頑張ってね」
私はそう楓に告げて立ち上がり、楓の前で心が苦しくなる前に早足で更衣室から出て行った。その時は、楓は何もせずに私のことを見つめることしかできなかったんだなと今になればわかる。
私はあの後も暗い気持ちのままだった。
同室のルームメイトは夏休みなので家に帰っていて、夏休みの間は寮の部屋は私一人だ。二人部屋であるが故に一人になると、夜になると急に寂しく感じる時があるのだけれど、今日はあんなこともあったから余計に寂しく感じた。
消灯前、私は寂しさを紛らわそうと窓の外を眺めることにした。自分は意外と寂しがり屋なんだなと気づく時がチョクチョクあるけれど、今は特にそういうことを感じてしまう。
周りのマンションやビルの灯りがついていて明るいが、私の部屋は暗くて結局余計に寂しさを感じてしまう結果となってしまった。
「私、楓の一番は私だと勘違いしていたのかな……?」
部屋の窓にそっと触れて窓に反射して映っている私の顔へとそっと手を伸ばす。窓に映っているのは私だけれど、楓がそこにいるかのように「楓とが良かったな……」と呟くことで自分の気持ちを吐き出してスッキリとしようとしたが、どうも私の気持ちはスッキリしない。
「私、誰と組めばいいの……?」
楓、保真麗と組めないなら私にはもう他に宛がいない。他の一年のアイドル部とはあまり話さないから声も掛けづらいし……。
ハァっとため息をついて目を瞑った時、私のスマホから電話の着信音がした。
「誰から……?ん、柚葉?」
あの合宿が終わってからも柚葉とはLINEを使って話していたけれど通話などはしたことなかった。
唐突で少し戸惑ったけれど取り敢えず応答ボタンを押して電話に出る。
「もしもし……柚葉……?」
「ん、香織?久しぶりにあなたの声聞くなぁー」
おずおずと通話に応答すると懐かしい柚葉の声が聞こえてきた。にしても、どうして突然電話してきたんだろう……?
「柚葉の声も久しぶりだよ。それより、今日はどうしたの?」
「実は香織に頼み事があって電話したんだ」
「頼み事?」
合宿の時に莉音と和泉が言っていたけれど、柚葉は学校では人には頼み事をしないから頼られる姉御肌らしい。その話を聞いていたから私としては少し驚いた。
「うん……」
少し遠慮がちに応える柚葉の声を聞いていると、本当に頼み慣れてないんだなと感じる。でも、そんな柚葉の頼みだから少しだけ気になった。
「どうしたの?遠慮せずに言っていいよ」
少しの間私と柚葉の間に電話越しに沈黙が続いたけれど、柚葉が「あの……」と沈黙を破って話してくれた。
「私とオーディションに一緒に出て欲しいの!」
「えっ……⁉︎」
「ペアオーディションに一緒に出てくれる?」
柚葉はきっと今日の部活中の私と同じような立場なんだろうな。まるで今日の部活の時の自分と話しているようで柚葉のことを私は見捨てることが出来なかった。それに私は今度のペアオーディションに出る人が決まっていなかった。
「一緒に出よっか?」
「ありがとう、香織!感謝するよ」
柚葉はさっきより明るい声でそう言ってくれたのだが、私としては柚葉とペアを組むとはなっても不安な点が一つ残っている。
「私達、どこで練習するの……?」
「あっ……」
柚葉が固まったのが電話越しでもわかってしまう。さて、ペアを組んだだけだとまだ大きな課題は解決出来ないようだ。
オーディション三日前。
私と柚葉の都合の合う時がこの日しか無く、私達が二人で一緒に練習出来る日はこの日しかなかった。
バスと西鉄を乗り継ぎ一時間程度、私は朝から隣の市にある里見学園へと出向いた。
里見学園自体は行ったことが無かったので初めて見るところだったけれど、学校が住宅街の中に場違いな程にドンと大きく存在していても違和感を感じない。それは里見学園だからだと思う。私有している旅館があるほどのお金持ちの学校からそれも考えられる。噂によると、うちの学校は経営はそんなに良く無いとのことなので「さすが里見学園はすごいなぁ……」と羨ましく思ってしまうのは仕方ないか。
校舎はうちの学校よりも新しそうでレンガ造りが多く、桜咲学園の近くにある大学みたいな雰囲気である。
「香織ー」
学校内に入っていいのかわからずに校門の周りをウロチョロしていると柚葉がやってきた。これから早速練習しに行くためか柚葉は里見学園のアイドル部のジャージを着ていた。一方の私は制服で後でジャージに着替える予定だったので、柚葉とのやる気の差を感じて柚葉に対してなんだか申し訳なさを感じる。
「柚葉、もう着替えてんだ早いねー」
「うん!早く練習したいからね」
柚葉は拳をギュッと握ったことから、柚葉が今日の練習に相当な気合い入っていることがわかる。私もやる気出さなければ、出るからには頑張りたい。
「今日はよろしくね、柚葉」
「こっちもよろしく!私の方から頼んだ分香織の足は絶対に引っ張らないようにする」
私としては柚葉の足を引っ張らないかが心配だ。だからこそ今日の練習は全力でやらなければいけない。
私達は里見学園から歩いて少しのところにある大きな公園についた。ここで練習しようと昨日、柚葉に提案されていた公園。
夏休みということで、公園には小学生達が男女一緒になってわちゃわちゃと遊んでいた。そんな楽しそうな小学生達を見ると、微笑ましい気持ちと少しの羨ましい気持ちが混同してしまう。自分が小学生の頃は人付き合いが良く無かったからみんなで遊ぶなんてこともほぼ無かった。
「香織、あの子達ずっと見てどうしたの?」
私が小学生達をポケーっと眺めていたら柚葉が横からヒョコッと顔を覗いてきた。そこでやっと我に返った私は柚葉の顔をみて「何もないよ」と答えた。
「私、そこのトイレでジャージに着替えてくるよ」
バッグを持って公園のトイレへと着替えに行った。
着替え終わって楓の元へ行くと柚葉はこの前の合宿の時ように小学生達から囲まれていた。
「あ、ごめん香織。みんなごめんね。私、今から用事あるから」
柚葉が囲んでいた小学生にそう言うと、小学生はさっきの場所へと戻って行った。柚葉はしばらくあの子達を見つめていて離れたのを見て、私の方を向いて「ごめんね、練習始めよ?」と言った。
「柚葉、さっきの子達は?」
結構仲が良さげでお互い楽しそうに話していたから、柚葉はあの子達知ってんのかなという疑問が私に浮かんできたのだ。
「あの子達は私の後輩的な?私はこの町でずっと育ってきていてあの子達とは昔からの仲なの。小六までは一緒に遊んでいたのに今は学校が忙しくて遊べてあげれてないから、久しぶりに私を見て『柚姉、遊ぼー』って私を遊びに勧誘していたんだ」
話を聞いて改めて、柚葉はやっぱり姉キャラなんだなと感じる。今日は沢山練習したいけれどこの話を聞いていると、柚葉はもしかしたら彼らと遊びたいのかもしれないと思う。少なくとも、彼らの方は柚葉と遊ぶことを望んでいる。私と二人の時間よりも昔からの仲の方を優先してほしいと思った私は柚葉にそっと質問する。
「柚葉はあの子達とあそばなくていいの?」
柚葉の顔色を伺っていると柚葉は「え?」と少し驚いていたけれど、私の言ったことの意味に気づいたのか微笑んで私に答える。
「んーん、香織との練習を優先するよ。彼らはしっかりと私の事を理解してくれているから、私が用事があるって言えば素直に聞いてくれる心の広い子達だし。それにあなたと一緒に練習出来る日は今日しかないでしょ?」
歳上である柚葉がしっかりとしているから、きっと彼らもしっかりとした人間に育ったのだろう。彼らの楽しそうな様子と柚葉話を聞いて私は安心した。
「じゃ、今から練習しよっか?」
「始めよっか」
彼らが楽しそうに遊んでいる横で私達も暑い中練習し始めた。
それぞれでやっていたためリズム・タイミング等全く揃わなかった。オーディションが近いのに一緒にする練習が初めてという事で、間に合うか気が焦っているからか合わせようとしても全く合わない。
「ごめん、わたしの方が早かったかな?」
「いや、今のは私が遅かった。もう一回いこっ!」
あの日以来楓との事が気になって今日も練習に集中ができていなかった。
私が集中できていなかった為、自分の反省点を直そうとしてもうまく直せずに何回もやり直すハメになる。
昼になって気温もぐんぐんと上がってきていてジャージが汗でビチャビチャになっている。ただでさえ暑いのに運動するから暑くなって余計に体力が吸われていってしまう。
「休憩しよ?休憩」
「そだね。ちょっとさすがに暑いかも……」
荷物を持って大きな木の下にあるベンチに二人で並んで休んだ。陰の場所に入っているから直接日光を浴びるよりは暑くないにしてもやはり夏であるため暑い。
水筒に入れて持ってきていたお茶もここに来る時はキンキンに冷えていたのに、炎天下の中ずっと置いていたから氷が全て溶けた上にぬるま湯になっていた。そんなぬるま湯を飲みながら休憩を取っていた時のこと。
柚葉が心配そうな顔をしてマジマジと私の顔を見ていた。
「ど、どうしたの?」
私が質問すると柚葉はウーンと唸りながら何かを考えている。そしてしばらくして私にそっと言う。
「香織さ、悩み事とかあるんじゃないの?もし何かあったら私に言ってね」
もしかしたら柚葉に心の中を見透かされていたのかもしれない。確かに今日の私は練習に集中できていなかったからそんな事くらいお見通しだろう。だが、ここで柚葉に心配をかけるわけにはいかない。
だからそれを否定しようとした時、突然後ろから話しかけられた。
「香織ちゃん、柚葉ちゃん!」
あれ……?この声……。
「ま、松崎先輩っ⁉︎」
後ろを振り向くと私服姿の松崎先輩の姿があった。偶然なのか何なのかは私の頭の中ではよくわからなかったけれど、柚葉は平然としている様子であった為偶然ではないのかと理解する。(ただの自己解決)
にしても、何故松崎先輩がここに居るんだ?
「実はね、私はここの町に住んでんだよ」
「へぇ、そうなんですね」
そういえば松崎先輩は通学生だったっけ?ここから学校までなら通学できる範囲だし、通学生であるのにも納得いく。毎日夏休み、ここから学校まで通うの大変そうなのによく頑張ってるなー、と思う。
「そして、松崎先輩は私の先輩でもあるんだよ」
「松崎先輩って柚葉の地元の先輩なんだ」
どうやら柚葉があの子たちの先輩であるのと同様に、松崎先輩は柚葉の先輩でもあるんだ。そう考えると世の中そこまで広くないんだなと感じてしまう。
「あなた達さ、昼ごはん食べた?もし食べてなかっらうちで食べていきなよ」
私自身練習でお腹が減ったし、せっかくのお誘いだが急に先輩の家にお昼ご飯を食べに行くなんて申し訳ないと思った私は松崎先輩の誘いを断った。
「いや、いいですよ。私達は昼飯をコンビニで買いますから」
言い終わった途端に私のお腹が鳴ってしまう。柚葉と松崎先輩が私の方を少し驚いた顔で見ている。さすがにお腹空いている事を誤魔化せないな、と思った私は今回は松崎先輩のお言葉に甘えることにした。
「先輩、よろしくお願いします」
私は立ち上がって深く頭を下げて松崎先輩にお願いした。松崎先輩はクスクスと笑いながらも「別に良いよ」と言ってくれた。
公園から歩いて三分ほどで松崎先輩の家に着いた。一軒家で大きく白くて綺麗なお家だった。
「おじゃまします……」
「おじゃましまーす」
私はあまり他人様の家へと入ったことが少ないので緊張してしまうが、柚葉の方は他人の家に入り慣れているのか緊張する様子もなく普通に入った。
「あ、そうだ。二人とも汗が嫌だったらシャワーしてサッパリしてくる?」
松崎先輩には手間暇かけさせて本当に色々と申し訳ないと思ったし、とても感謝をしている。
「ありがとうございます……」
シャワーを浴びた私達は松崎先輩の用意してくれた服に着替えた。松崎先輩のお母さんが私達のジャージを一回洗濯してくれるらしく、その間は松崎先輩の服を借りることになる。
「昼ごはん持ってきたわよ。沢山食べて行ってね」
松崎先輩のお母さんが先輩の部屋にご飯を持ってきてくれた。松崎先輩のお母さんは先輩と同じくロングヘアでとても美人。実年齢は40前後だろうけれど、見た目は30前半に見えてしまう。
唐揚げにサラダ、美味しそうな食事が松崎先輩の机の上に並べられていく。色とりどりで美味しそうなので、お腹の減った私はものすごい食欲をそそられてしまう。皿を並べながら先輩のお母さんが話す。
「柚葉ちゃん久しぶりね。里見学園でも頑張ってる?」
「はい、私もアイドル部として頑張っています」
「さすが!柚葉ちゃん。えっと、それから香織ちゃんだっけ?」
さっき松崎先輩が私の事を紹介してくれたけれど、早速フレンドリーに話しかけてきてくれる。
「はい、上林 香織です。先輩にはいつもお世話になっております」
「あら、和美は『香織ちゃんのお陰で楽しく部活出来ている』って言っていて、本当に感謝してるの。ありがとう」
「ちょっ、お母さん……恥ずかしいんだって」
松崎先輩が少し頬を赤く染め恥ずかしそうに声に出す。あれ?今、私のお陰って先輩のお母さん言っていたよね……。どういう事なんだ?
「ごめんごめん、じゃ、ゆっくりして行ってね」
先輩のお母さんは松崎先輩に適当に謝って部屋から出て行った。松崎先輩は顔を赤くして私の顔をじっと見ている。そして私と視線を離して別の方向を向いて、「あ、ありがと。いつも」と言ってくれた。
松崎先輩が恥ずかしそうにしていたからこれ以上突き止める必要も無いなと思った私は「どういたしまして」と気にして無さに言った。
「じゃ、昼ごはん食べましょ?私もうお腹すきました」
柚葉が「いただきます」と言って早速唐揚げを一口パクッと食べた。朝からの練習のせいでお腹の減った私も「いただきます」と言って唐揚げをもらう。私達の様子を見た松崎先輩も「いただきます」と手を合わせ食事を始めた。
食事中は互いの学園のことについて話していた。里見学園の現状を聞いたり先輩達の学年のことについて聞いたりして、意外な事や新しく知れたこともあり個人的にとても楽しかった。
食事後も学校のことについて話した。他にはアイドルのライブ映像を見て楽しんだりと充実した時間を過ごしながら洗濯の終わるのを待っていた。洗濯した後に乾燥機にかけるらしく結局仕上がるのは相当な時間がかかった。けれど、私は洗濯してくれたことにとても感謝をしている。
洗濯し終えたジャージを松崎先輩の弟が持って来てくれた。前々から松崎先輩には弟がいるって聞いてはいたけれど、弟さんも先輩に似て顔が整っていて異性とは言えど羨ましいなと思う。
洗濯が終わったばかりのジャージに私達は着替えた。
まだ完璧では無いからこの後もあの公園で揃うまでお互い帰れない。「お邪魔しましたー」と告げて私達はあの公園へと向かった。
夕方の四時くらいになっていたので、もうあの子達はそれぞれの家に帰ったのだろう。あの子達が居なくなってすっかり人の居なくなった公園は大きく感じられたと同時にどこか寂しい雰囲気もした。
「じゃ、改めて始めよっか」
「そうだね、頑張って完璧にしないと」
それから私達は辺りが暗くなるまで練習した。
寮に帰り着いたのは夜七時半くらい。夕食の時間にはギリギリ間に合ったし風呂の時間も充分にあったので疲れた身体をゆっくりと風呂で癒すつもりだ。
シャワーを浴びて今日の汗をいると隣に保真麗が来た。保真麗は昨日と今日で久しぶりに家へと帰っていたからなのか、いつもより楽しそうだった。
「保真麗、いつもより楽しそうだね」
「久しぶりに家族のみんなと会えて嬉しかったんだ」
保真麗はそう言っているが私は自分の家に帰りたいとは思わなかったし、仮に家へと帰ってもいい結果が出るとは決まっていない。私は私なりの事情がある為、余程のことがない限り家に帰らずに寮に残っておくつもりだ。
「ところで、最近楓ちゃんと仲が良く無いと思うんだけど……何かあったの?」
「え……」
保真麗の唐突な一言に驚いて体が固まった。保真麗はさっきとは違う真面目な顔になって私の顔を見ている。まるで私と楓の間を何か知っているかのようだった。
体の石鹸を洗い流していた途中だったけれど、その保真麗の言葉に驚き体が金縛りにあったかのように動か無かった為、ボタン式カランであるシャワーの勢いが弱まって止まる。
「私、プライベートにはあまり関わらないようにするけどさ。一つ言わせて欲しいことがあるの」
保真麗にしては珍しくどこか寂しげな顔で私を見るものだから、保真麗が今、私に言いたげにしてることは聞かないといけない気がした。
「うん……」
「楓ちゃんってああ見えてメンタル弱いんだ。だからきっと楓ちゃん心が苦しくて辛くて一人で蹲っているかもしれない。だから楓ちゃんを安心させてあげて欲しいの」
あの日から私は楓とすれ違うたびに何かを感じていた。目を合わせないようにはしていたけれどチラ見ぐらいはしていたが、楓は私と無言のまますれ違う度に何故か辛そうな顔をしていた。
そこから、楓が私への気持ちを表面には出すまいとしていることは私にも伝わってきていた。私はそのことがわかっていたのに何もすることが出来なかった……?
「私、明日楓に今の気持ち伝えて来る」
保真麗は私の左手を握って「頑張ってね」と優しく励ましてくれた。
次の日。部活途中に楓が泣きはらした顔をして桜田先輩と部活に戻ってきた。楓が泣いているところを直接見たことは無いけれど楓の泣いている姿が想像できた。
部活後、私は制服に着替え終わっても更衣室に残った。
鍵当番だった楓は遅くに更衣室に入った。他の人が着替え終わって更衣室を出て行く中、私は楓に思いを伝えるべく更衣室に残った。
「私、残っていい……?」
私は更衣室の椅子に座って楓に聞く。
私が下を向いて言ったからか楓には聞こえていなかったみたいだ。こんな事を聞く事自体恥ずかしいのにそれが聞こえてないなんてもっと恥ずかしかった。だから私はさっきより大きな声で続ける。
「残っていい……⁉︎」
「いいけど……」
私はどう切り出せばいいかわからずに座ったまま考えている。その間にきっと楓はジャージから制服に着替えているだろう。
本当はこんな状況じゃいけないんだとはわかっているけれど、うまく言葉が出てこない。楓が先に言ってくれるのを待とうと思ったけれど『楓ちゃんってああ見えてメンタル弱いんだ』という保真麗の言葉が頭を過ぎる。
私が何とかして楓に先に話しかけなければいけないんだ。
私は覚悟をして楓と私の間の沈黙した空気を破る。
「なんかごめんね?楓さ、私のことを考えてくれていたんだよね……」
これは部活の後に桜田先輩に呼ばれた時に、サラリと言われたこと。『楓ちゃんはあなたの事を心配しているらしいの……。もし良ければあの子と真正面から向き合って欲しいの』
その時に初めてあの楓の泣きはらした顔の意味がわかった。その意味を初めて知った時、急に心が苦しくなり私は目蓋の裏が熱くなった。
メンタルが弱くても必死になって私との事を考えてくれていたのに、当の本人である私はあの時の楓を見て何もできなかった。
「あ、いや…………私の方こそごめん。あれ以来香織にうまく接することが出来なくて……。私、本当はあなたに離れて欲しくないの」
その言葉を聞いた時に初めて理解した。楓は私のことを本当に大切に思ってくれていだということを。
人の離れていく怖さを私は知っている。原因は小学校で何かあったのだろうけれど、私が小学生だった頃に何があったのかは何故か詳しく思い出せない。でも、私はそのことだけは心にしっかりと染みついていた。
きっと楓も怖いんだろうな。
それがわかった私は楓に誓いたいことがあった。その誓いを絶対に忘れない為、恥ずかしかったけれど緊急の策に出る。
私は楓の方へと一歩ずつゆっくりと近づく。近づけば近づく程、楓は緊張した顔になっていたが私はそのことを気にせずに近づく。
楓の近くに行き、楓の手を両方恋人繋ぎする。そして、顔をゆっくりと近づけ誓う前にゆっくりと目を閉じる。
「わっ、わっ⁉︎ちょ、な……んっ……」
楓の柔らかい唇にそっと私の唇を重ねる。深くはしなかったけれどしっかりとしたキスを楓にする。
これで私も楓も絶対に忘れない。別に恋愛的に好きというわけでは無いけれどこうすればお互いが忘れないと思って取った行動だ。
ゆっくりと離して楓の顔を見ると真っ赤に染まってボーッとしていた。この様子だと勘違いしている可能性が大いにある。
「楓……?」
「キ、キスッ……したのはどーゆーこと……?」
「誓いのキス。私はあなたから離れないよ、っていうキス。決してイヤらしいためのキスでは無いから」
何も無かったかのような普通の顔して答えなければ、楓が別の勘違いをして更に気まづいままになってしまう。
「ちょっと⁉︎ど、どーゆー?」
楓はまだ頭の整理が出来ていないのかあたふたと慌てている様子だった。
「だから、離れないって言ってるじゃん?私はあなたから離れないよ」
「香織……」
楓は今にも泣きそうな顔をしていた。普段は私とかよりも断然お姉さんらしくて頼れるのに今日の楓だけはどこか幼い気がして普段より可愛かった。
私は楓の手から手を解いて、今までの謝罪の気持ちと優しく包み込んであげようと思った気持ちを抱いて楓に抱きつく。
抱きついた私を楓はゆっくりと包み込んでくれた。きっとこれでいいんだ。
私達は、しばらく二人で何も言わずにその場で抱き合ったままだった。
「香織さ、何か嬉しいことでもあったみたいね。この前よりもキラキラとしてる」
もしかしたら、柚葉にも少し心配をかけさせてしまっていたのかもしれない。
「うん。私、すっごく心がスッキリとしているの」
本番の前日になって、やっとオーディションへの気合いが入ったけれど今の私なら大丈夫だと思う。何故、こんなに自信に満ち溢れているのかわからないけれど今ならできると思う。
「香織、最高のライブにしよう」
「うん!」
もし、ここが楓だったらどうなっていたのかな?と一瞬考えてしまった。
だが、柚葉の顔を見て柚葉でよかったんじゃないかな?と思う。
柚葉はあの日からも私のことを気にかけてくれていた。そんな優しい気遣いが出来る柚葉が、ペアで良かったなと心の底から思いつつ、私は柚葉と共にステージへと上がった。
アイドルアニメ『アイカツ』新シリーズ発表が行われました。
あの作品は2021年1月から完全新プロジェクトになり、二次元と三次元の共存するアニメとなりました。完全な新プロジェクトになり、困惑している方が非常に多く見受けられました。
考えに考えた結果、そうした理由は客の確保が必要になったからだと思うんです。
作品は見てくれる方がいなければ続きません。
その為アイカツシリーズもこのような決断を取ったのでしょう。
そういうことを考えながらこの小説を書きました。
(ここから内容が絡んできます)
今回は香織編再びスタートです
前回の話を香織の視点から見たお話になります
今回話のタイトルは上手いのが決まりませんでしたが、コンセプトは『支え』です。
この話で香織は、柚葉、松崎先輩、保真麗に支えられながら楓との気まづくなった関係を修復していくまでを主にして描いています。
前回の話では楓は桜田先輩に助けられていました。
このように人の支えがあって初めて何かが上手く成り立つと思うんです。
この小説を初めの回からずっと読んでくれている方々がどれくらいの数いらっしゃるのかは僕にはわかりません。
ただ、投稿すると読んでくれている方々がいるのはとても嬉しいことです。
他のなろう作家さんがほぼ毎日のように連載を投稿している中、僕は一週間に一回とかなりのローペースでの投稿となってしまっているのが現状です。そんな中でも読んでくれている方々ありがとうございます。
この小説を読んでくれている方々がいてくれるから、僕もこの小説を最後まで描こうと思います。
僕は自分の表したい事を最後まで描いていきたいと思います。
ですのでこれからも僕自身、初の連載小説『ギャルズメロディー』をよろしくお願いします。
長くなり申し訳ありません
Twitterのキスよりルミナスも今後もよろしくお願いします
誤字脱字・内容のおかしなところが有れば僕に報告宜しくお願いします




