14話 アイドルのオフタイム(楓)
14話 アイドルのオフタイム(楓)
朝から外は暑く、浅い角度から入る眩しい日差しに思わず私は目を細めてしまう。
私もやっとアイドルらしく成れたのだから日焼けしないために日焼け止めを塗って、少しでも可愛く見せるためのオシャレをして……と、準備は大変だった。保真麗が朝早くから起こしてくれなかったらきっとこんな早い時間にここに辿りてけては居なかっただろう。
「四人で遊びに行くって、そういえば初めてよね」
思い返せば今までみんなの都合があまり上手く合わずに、この四人でどこかに遊びに行ったことは無かった。今日は部活が休みの日で香織と保真麗の仕事もない日。伶良の入っている陸上部も今日は休みなんだとか。
「私、今日部活が休みになって遊びに行けて嬉しい」
伶良はその言葉を言ったのを照れているのか知らないけれど、少し顔を赤らめていた。
伶良は今まで部活に入っておらず、私達三人はそれが心配になって部活に入るように説得しようとしていたけれど、その前に伶良は突然陸上部に入った。
「私さ、陸上部の短距離に入ったんだ。長距離はやっぱり貧血とか怖いからさ」最初聞いたときは私達三人は喜びよりも驚きの方が強かったけれど、本当に嬉しかった。伶良は私達とは違う部活に入ったけれど陸上部で頑張っている。だから私は素直に応援してあげたい。
「私達も部活が休みで良かったよー」
保真麗は伶良にピッタリくっ付いて伶良と二人で話していた。私は、「こんな暑い中くっ付いて暑く無いのかな?」とか思いながら微笑ましい二人の後ろ姿を眺めていた。
「楓、そういえば楓ってHOT beetleの専属アイドルになれたんでしょ?めっちゃすごいじゃん」
香織があまり周りに聞こえないようにか、私にギリギリ聞こえる位のボリュームで話かけられた。保真麗や伶良にすら聞こえていないような小さい声だった。
HOT beetleは、最近注目のブランドであるため専属アイドルになったら噂になるだろうと思うけれど、公式からの正式発表は後日になるので一般人は知らない。きっと田崎先生に聞いたんだろうなと思いながらも一応念の為にきいてみる。
「それって田崎先生から聞いた?」
「うん、田崎先生がとっても嬉しそうに話していたよ?」
「公式の発表があるまでは秘密よ?」
「わかった、それまでは秘密にしておくよ」
公式からの発表があってからで無いと自分から言うのは自慢みたいだし、まだ個人的に秘密にしておきたいからである。香織は聞き分けの良い人であるため口外しないことを私に約束してくれた。
「私さ、楓に憧れてしまうよ」
香織の、はにかんだ顔に何故だか一瞬見惚れてしまって、すぐに返事を返す事が出来なかった。純粋に褒められたはずのに、私は香織の言葉を何か別の感じに捉えてしまっている気がして少し恥ずかしくなった。
「着いたー!海!」
学校前のバス停からバスに乗ること一時間程度。ここの県の半島の方に位置する海辺の町(村?)へとやってきた。ここの海は街中に近い割に青く澄み切っていて綺麗であるため、県外からでも人を引き寄せれるくらい魅力的且つ有名スポットなんだとか。実際、近くの駐車場はほぼ満車、私達の乗ってきたバスも人は結構多く、近くの駅から出てくる人も多かった。なんと言っても浜辺は人、人、人………。
「こんだけ人が多いと少し困るよねぇ……」
香織はそうは言うものの何も困っていなさそうで、逆に楽しそうですらあった。
正直言うと私は人混みは嫌いでは無い。街中の人混みはウンザリしてしまうけれど、遊びに行く先が人が少ないのは嫌だし多い方がテンションが上がってしまう。
「やっぱ夏だし多いのは仕方ないよ」
伶良は半分諦めたような顔をして浜辺で遊んでいる人達を見ていた。
「というわけで!」
「海だー」
水着に着替え終わって四人で浜辺に出ると、浜辺ではビーチバレーをしている人達、パラソルを立てて休憩をしている人、砂浜で遊んでいる親子などが多く見られる。けれど,こんなに暑いのでもう我慢はできない。
「きゃー!」
私と香織は多くの人を避けながら海に向かって走って行った。砂浜には小さな貝殻とかも普通に落ちているので裸足では痛いけれどそれでも走る。
バシャバシャという音と水しぶきをあげながら私と香織は海に入った。浅いとこをどんどん進むにつれて、暑くて焼けそうな肌に冷たい水が沁み渡って体を冷やしてくれて気持ちがいい、となる予測だったのだけれど実際はあまり深いところまでは入りたくないのでお腹の辺りくらいまでしか浸からないことにした。香織はさらに奥の方へと進もうとしていたけれど、私のことを察してくれてのか私と同じところで止まってくれた。
「やっぱ海って気持ちいいねぇ」
上も下も赤できて決めた香織はこの眩しい日差しに目を細めながら言った。
香織は身体が細めのくせに出るとこ結構出てるうえにどんな顔をしていても可愛いから、私は香織と水着でのツーショットとかは撮りたくないなとつくづく思うし、並んでもこちらが虚しくなるから近くにはあまり居たくない。決して嫌いでは無いのに、どうしてこういう複雑な気持ちになるんだ……?
「うん、海の水が冷たくて身体が生き返るぅ」
綺麗な海の水がここに来るまでにかいた汗を綺麗にしてくれいる気がするけれど、それってよく考えると他の人達も同じようなことなんだなと考えるとこの海水浴場は一気に汚く見えてくる。ほとんどの人が海水に入るとき事前にシャワーなんか浴びてきていない。逆にそんなことをするのは小学生までだと思っているのでもう諦めた。
「ちょっとー、サッサと行かないでよー、迷子になったら怖いもん」
伶良がスク水の保真麗を連れてバシャバシャと音を立てながら私達のところに追いついた。スレンダーな体格をしている伶良は(他人に対して相当失礼な言い方)一緒にいても「貧乳同士だな」と思われるだけだけど、香織や保真麗といると「隣の子、胸無いねー……」なんて思われそうで今回だけは伶良と行動したいと願うばかり。
「ヤーッ!」
そんな惨めな事を考えていると(思春期だから気にするけれども)突然、香織からバシャっと海水をかけられた。
「うわっ!もーっ!」
私はすかさず香織にかけ返す。こういう遊ぶ時はノリが肝心で、何もしないと相手も気まづくなるし雰囲気も悪くなるのでノるしかない。香織にかけると保真麗も私達に参戦し始めて三人での海水のかけあいが始まった。
「あ、危ないよ?海で暴れたら」
伶良は少し私達から離れて海水のかけ合いの様子を見ている。伶良はそういえば田舎暮らしであまりこういうのは好きじゃなかったっけと思いながらも、香織と保真麗へと水をかける。海水が目に入ると痛いし口に入るとしょっぱいし、良いことなんて一つも無かったけれどそれでも楽しいという気持ちの方が上回っている。
「伶良?一緒に遊ぼうよ」
保真麗がパシャパシャと近寄って伶良の手をグイッと掴んだ。伶良は手を引かれ一瞬ギョッとした顔をしたけれど、抵抗もせずに保真麗にグイグイと私達の所へと引っ張られてきた。
「……えいっ!」
私と香織はかけ合いを止めて伶良の様子を見た?伶良はおずおずとしながら両手で水をすくって、その水を見つつも私達三人の顔をチラチラと見て様子を伺っている。
「さ、私にかけてごらん?パシャッて」
保真麗が両手を広げて小さい子と遊ぶかのように伶良に話しかける。伶良は恥ずかしくなったのか顔を赤らめて、極わずかな水を保真麗のスク水のお腹辺りにかける。
「あとさ、子どもっぽくて恥ずかしい…」
ゴニョゴニョと遠慮がちに小さな声で言う伶良を見ると何だかこっちまで急に恥ずかしくなってくる。周りからしてもきっと「子供だなぁ」と思われているんだろうな。
「れ、伶良にだってさ苦手とかあるんだし、みんなで遊べるもので遊ぼ?」
香織と保真麗が互いに顔を見合わせたけれど「そうだね」「水のかけ合いなんてすぐに飽きるし」と私の意見に便乗してくれてのでこれで四人で遊べる。
「もし良ければ砂遊びがしたい……」
伶良が遠慮がちに私達をチラチラ見ながら言う。え、そっちの方が子供っぽいのでは……?
「砂のお城作りたーい」
「私もそうしよっかな」
保真麗が言ったのと同時に香織もそれに賛成した。
「じゃあ私も!」
伶良の意見に全員で賛成したことにより、浜辺で砂遊びをすることに。当然ながら水面上でもないのでジリジリと照ってくる日差しが熱い。もう熱中なんて懲り懲りだから、ぬるくなったお茶を小まめに取りながらの作業だった。
「うわ、中学生で砂遊び?可愛い」
「小学生なんじゃねーの」
そんな声がチラホラと聞こえて結構恥ずかしくなるし不快にもなったけれど、伶良の活きいきとした笑顔を見ると何故だか自然とこっちまで楽しくなって不快な気持ちも吹っ飛ぶ。
そんな状況下で、砂を海水で固めてお城を作成すること約一時間程度。
「出来たー!」
やっとの思いで四人で作り上げたお城はまぁまぁ大きいく本格的なものになった。伶良は目をキラキラさせて出来たお城を見ていた。
「おい、東田。何やってんだ」
誰かから呼ばれた気がして声の主の方を振り向くとそこには笹岡達男子四人が立っていた。笹岡とは今の私の席の隣の男子で、普段は冷静沈着で硬派で冷たい人間だけれど、たまに優しいところがあるから私の中ではいい奴判定の男子。背が高くて細いし顔はシュッとしていてイケメンなんだけれど、色恋沙汰に興味が無さそうなのが勿体無いところ。
今はグラサンまでかけていて、側から見ればただのヤンキーだ。
「笹岡じゃん、あんたもここに来てるの?」
「コイツらと夏休みを満喫してんだよ」
他の三人もレベルの高いメンバーで女子の間で確実に噂になりそうなメンバーばかりだ。てか、笹岡って腹筋割れてんの⁉︎日焼けして黒くなった肌にその筋肉のつき方に少しだけ目がいってしまう。
男子が女子の胸を盗み見る感じだからいいよね、別に。
「おい、変態。人の身体ジロジロみんなよ」
「な、男子だって女子の胸見るじゃん!」
「お前さ……」
「何……」
「もういい」
はっきり言って恥ずかしかった。ただでさえ外は灼熱地獄なのに、他の六人から見られてる恥ずかしさから体が熱くなって汗がさらに噴き出る。ここまでくると,冷や汗なのかただの汗なのかすらわからないくらいにまでなっている。
「ところで,お前らこっからすぐ近くの夏祭り行く?」
「夏祭り……?行きたい!」
「他の奴らは」
「みんなも行く?夏祭り、楽しそうだよ」
私が三人の方を振り向いて尋ねると、三人は「行こ!」と笑顔で言った。ただ気になったのが、保真麗がやけにニヤけているのは気のせいだろうか……?
「暇なら後で来い、連絡先この前教えたよな」
とだけ言って笹岡は他の三人を引き連れてどこかに行った。男子四人が完全に見えなくなったのを確かめて三人に問いかける
「多分知らない男子ばっかりだけど大丈夫?」
そういうと、香織が手を挙げて、「私、武琉知ってる、まーまー話す」と答えた。続いて保真麗と伶良の方を見るけれどこちらの二人も何も困った様子はなく、「私と伶良は、橋本君と金崎君と同じ小学校」と保真麗が言った。
あれ、世界ってそんなに狭いもんなんだ……。
夏は日が長いので、夕方六時だというのに未だに太陽は普通に出ていて空を薄くオレンジ色に染めている。
「東田、待たせたな」
男子グループは全員が袴みたいなものを着て登場。笹岡以外の三人は、清純派の男子っぽく見えるけど笹岡はグラサンを未だにかけていて一人だけ随分と怖いイメージがつく。
「別にいいよ?さ、行こっか」
香織は住川君と、保真麗と伶良は橋本君と金崎君と話している。他三人に少しでもアピールしたい気持ちはあったのだけれどそれぞれが盛り上がっていて中々声かけづらい。
「あのさぁ、グラサンは怖くない?」
話す相手が居ないわけでは無いし、笹岡とはよく話すからまぁいいかと思いつつ話しかける。
「俺さ、昼間みたいにあんなに明るいとまともに目開けらんねーんだよ。ま、グラサンくらい気にすんな」
私の方は笹岡のこと見てるのに笹岡は前の方を向いてブツブツと呟いて答える。笹岡は背が高いから私は話すときに、見上げなければならない。なんだか普段は見下ろされてる感じがして正面から目を合わせて話すのは嫌だけれど、こういう態度を取られると逆にモヤモヤしてくる。
「東田、アイドル部だっけ?お前」
唐突にこちらを向いて話しかけて来た。何故か一瞬ドキッとした。普段は見下ろされてる感じがして嫌なのだけれど、日が沈んで黄昏時になったからかもしれないのだけれど、少しだけ心が惹かれたような感覚になった。もしかしたら黄昏時が男子全員に色気を醸し出しているのかもしれないと思ったくらいだ。
そんな状況下でも、相手が勘の鋭い笹岡だから動揺してはいけない。また何か言われてしまう気がして仕方がないからだ。だからなるべく顔を見らずに下の方を向いて話すことにした。
「そ、そうだけど……?」
「じゃ、恋愛はできねーんだな」
「そうだね……」
唐突な質問にまたドキリとさせられたけれど何故だか恋愛が出来ないと思うと寂しく感じてしまう。それと同時に私は笹岡の方を見てしまったため、突然に目があってしまう。
「どーした」
「いや、なんでも……」
今、私が思っている気持ちが何なのかは私にはよくわからないけれど何故だか胸が苦しいような感じがした。
消灯後。心が何故かあの時からドキドキとして心が落ち着かずに眠れない。だから、少しでも心を落ち着かせようと保真麗と今日のことを話していた。
「今日の男子達との祭りとっても楽しかったね」
「そう?それなら良かった、私もだよ」
ウンウンと首を大きく縦に振ってうなづくことができるくらい、保真麗は本当に楽しそうだった。表現が悪いかもしれないけれど保真麗は〈ビッチ女〉そのものだった。男子にべったりくっ付いて話していて、私が見た限りでは初対面らしい住川君の手まで握っていた。その時の住川君は顔を紅くして照れていたから「確実に保真麗に墜ちたなぁ……」と思った。
保真麗は可愛いし胸も大きいしで、結構な男子がチラ見しているのを学校の廊下や教室で見かけるくらい。
「来年も行きたいね?夏祭り!彼氏と行ってみたいなぁ、アイドルって恋愛禁止だけどさ」
「そうだね、今度行くときには彼氏とか作って行ってみたいよね……」
そう言った時に、グラサンをかけた笹岡の顔が思い浮かんで少し緊張した。まさか私は笹岡に堕ちてしまったのかもしれない……?
「眠いから寝るね」
「おやすみ楓ちゃん」
とりあえずこんな事寝て忘れてしまってやると思いながら布団の中に潜り込むと、疲れたせいもあってかすぐに眠ってしまった。
結構遅れてごめんなさい
夏休みなんで積極的に書いてゆきます
Twitterのキスよりルミナスもよろしく




