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アクトヒーロー出張記  作者: 赤雪トナ
3/11

3 初日 前

 ジャスティーたちとの出会いから時間が流れ、蒼太の通う高校も終業式を迎えた。

 昨夜のうちに荷物はダンボールに入れており、部屋の中はいくぶんか殺風景になっていた。

 帰り際に友達が遊びに誘ってきたが、用事があると断り家に帰る。家の前にはトラックがありダンボールを運び終えていた。

 リビングに入ると、蒼太を待っていたジャスティーがおかえりなさいと声をかけてくる。

 ピンッと背筋の伸びた綺麗な正座をして湯呑でお茶を飲んでおり、外見ではなく一つの風景として見惚れるものだった。


「ただいま、です。早速出ますか?」

「昼食食べてからでも大丈夫」


 昼時で腹が減っているだろうと考え、もう少し待てると返す。それに甘えることにして蒼太は部屋で着替えて、制服を入れた紙袋を持ってリビングに戻る。

 テーブルには煮魚とほうれん草の和え物とだし巻き卵という少しばかり手の込んだ料理が並んでいる。


「いつもの昼みたいに手抜きじゃないね」

「今日くらいはしっかり作るわよ」


 いつもは手抜きという自覚があるので母親は苦笑を浮かべつつ茶碗を蒼太に渡す。

 早速食べ始め、しっかり味わっていく。別に今生の別れというわけでもないので味わう必要はないのだが、なんとなく記憶に刻むように食べていった。

 満足感のある昼食が終わり、出発の時間となる。


「じゃあ行ってきます」

「うん。しっかりと頑張ってきなさい。病気には気をつけるのよ? 体調がおかしいときは周りの人に言って早めに休みなさい。あとお金はきちんと考えて使うこと。勉強も力を入れなくていいとはいえ、ほかの人は受験なんだしある程度は真面目にやらないと邪魔になるんだからね」


 まだ言い足りないという雰囲気の母の言葉を遮る。


「わかったよ。そんなに一度に言わなくてもなにか言いたいことがあれば携帯で連絡すればいいんだし」

「まあ、そうなんだけど。そうそう、お父さんからも無理しない程度に頑張れって伝言預かってるわ」

「うん」


 蒼太は頷くともう一度行ってきますと言い玄関からでる。

 その背を母親はぽんと叩いて見送る。蒼太が車に乗って家から離れても、見えなくなるまで見送っていた。これからきっと大変であるだろう時期を思い、健やかに過ごせるように祈りながら。


 蒼太の乗る車には運転手とジャスティーの三人が乗っている。その後ろを引っ越し荷物を載せたトラックが走る。

 蒼太を乗せた車はすぐに生まれ育った町を出て、高速道路に上がる。

 見慣れない風景に変わったことで蒼太は外を見るのを止めて前を向く。少し静かなまま時間が流れ、ずっとこのままというのもっ気まずいのでジャスティーに話しかける。


「ジャスティーさん、今日向こうについての予定は決まってるんですか?」

「荷物を部屋に運び込んで荷物整理したあとは夕食前まで身体測定的なものをするわ。夕食後には魔力の覚醒をするつもりよ」

「身体測定って握力とか走る速さを計ったりするかになにか特別なものってあります?」

「ええと、こちらのことに詳しいわけじゃないからなにが特別なのかわからないの、ごめんなさい」


 頭を下げるジャスティーに慌てて両手を振り謝らなくていいと示す。


「じゃあ魔力の覚醒ってどういうことをするのか教えてください」

「それなら教えられるわ。といっても簡単なことよ。専用の道具があるからそれに手を置くだけ」

「それだけ?」

「ええ、私たちの世界では魔力は絶対使えた方がいいからスムーズに覚醒させる方法は昔から研究されていたわ。昔は魔法陣の上に座って二時間瞑想しなくちゃいけなかったらしいわよ」


 これは千年以上前の話で、もっと楽に目覚めさせられないかと研究された結果、現在のお手軽方法が生まれたのだ。

 もっと昔数千年前だと覚醒を促さずとも自然に魔力を認識していたという伝承がある。けれど神の怒りに触れ、魔力への適正をなくされた。人々は当たり前に使えていたものが使えなくなり、もう一度使えるようになるため魔法陣式の覚醒方法を生み出したのだった。


「魔力を感じられるようになったら活性という技術を覚えてもらって今日やることはおしまい。活性というのは魔力のみで体を強化する方法。強化率は低いけど、習得はわりと簡単なの」

「活性を覚えることに意味はあります? 次の技術に繋がるとか」

「あなたにとっては特にないかな。簡単に覚えられるからついでに修得しておこうってところ。格闘家にとっては遮断っていう技術の前段階技術になるのよ。遮断は全身から魔力を噴出させて魔力を使った攻撃のダメージを減らすの。あなたはプルーホープっていう最高級の鎧があるから遮断は必要ない」

「最高級って聞くと値段がちょっと気になってくるな」

「たしか聞いたことある……兆っていう単位に届くとかなんとか」

「兆!? 億超え!?」


 自分が扱うものの値段に驚いているが、当然といえば当然だろう。異世界の物質や技術が用いられた未知の代物だ。それにプラスして日本の最高技術と高品質の鋼などが使われている。そんな代物が数百万円や数千万円という値段になるわけがない。

 だがその金額で人類滅亡が防げるのなら安い買い物ともいえる。


「そんな高価なもの壊したりしたらいっきに借金生活!?」

「むしろ壊してほしい」

「え? なにか今回のプロジェクトに不満でも?」

「ああ、そうじゃないのよ。ただしくは壊すくらいに酷使して、問題点を発見してほしいということ。次に作る物がよりよくなるから」

「そういうことですか。一瞬鎧を壊してプロジェクトを台無しにしてほしいのかと」

「そんな思いは微塵もないわ」


 計画を壊すということは災害種討伐失敗となること。破滅願望などジャスティーにはないので望むのは成功だ。

 成功のためにはブルーホープが少しでも高品質にならなくてはない。無茶して壊れてもそれがより良い品を生むのならば大歓迎だ。きっと開発関連の者たちも嬉しい悲鳴を上げることだろう、おそらく。


「話がかわりますけど、これから行く町や異世界ってどんなところなんですか」

「町はこれといって特徴のない港町よ? 以前一度行ったトーキョーと比べたら小さい」

「東京と比べたらほとんどの場所が小さくなると思う」

「首都らしいし当たり前だったわね、ごめんなさい。でもあなたの故郷と比べても大差ないはずよ。最近はサクラがほころび始めていて、もう二週間もたたずに満開になるんじゃないかって話しているわ。私も楽しみにしている」


 日本と接触を持って何度も花見が開かれているため、ジャスティーたちにも馴染み深い花になっている。

 ミレジオリにも新種の木を他所の土地から持ってきたといって挿し木で植えられていた。

 そういった持ち込まれた植物は、地球との成長の差異を観察するため、自然のままに育たせる方法と魔法で成長を促進する方法がとられている。


「ミレジオリ側は全部説明するのは時間がかかりすぎるから、主に滞在する場所について話すわ。滞在するのはサーファス大陸カミジア王国王都。国の中心地だから人も建物も多い。その王都にある大神殿に滞在することになる」


 蒼太は数度頷き、一つ一つ聞きたいことを聞くことにする。


「サーファス大陸にカミジア王国以外に国はあるんですか?」

「ないわね。以前は小国が大陸のあちこちにあったんだけど、カミジア王国が吸収していって一つになっている」

「じゃあ大陸全土が王国の治める土地ってことか」

「いえ、大陸右半分が王国の土地になる。左半分は魔物たちの領域。これは自然とそうなったんじゃなく、魔物との話し合いの結果、住み分けがなされたの」

「魔物って好き勝手暴れるものだと」


 ゲームに出てくるようなそこらを歩けば襲いかかってくるようなものを蒼太は想像していたが、知性ある種族なのだろうと考えを改める。


「そういう魔物もいるけど、頭のいい魔物もいる。住み分けしようと言ってきたのは魔物の方で、それを受けたことを後々後悔したのは人間」

「どういった経緯が」

「簡単に言うと誰にでも使える強い武器が作られて、それを見た魔物がその武器の発展先を思いつき、このままだと魔物が絶滅するかもしれないと考えて、武器が未発達の今のうちに交渉を持ちかけて住み分けることにしたの。その当時はその武器の可能性を把握している上層部はいなくてね、提案を受けたという流れ。そしてその武器が発展していく様相を見て、魔物のトップは自身の推測を確信に変えた」


 人間はこの力があれば大陸統一ができると考えた。

 約束は破ればいいと考えたが、そこに身内から二つの理由でストップがかかる。現状を推測していた魔物がなんの対策もとっていないはずがないと。実際に対策をとるための時間もあった。もう一つは平和な時期が続いたことで、民の間に戦いへの嫌気が生まれていた。以前は生き残るため否が応でも戦わなければならなかった。だが常に襲われることを意識せずともよくなったため、民は攻めの考えではなく守りの考えへと変わっていったのだ。これでは民はついてこないし、反感を買うだけだろう。

 これらにより上層部は統一をひとまず諦め、開拓に力を入れて国力をつけることにした。人間の領域となっている部分もまだまだ未開発の部分が多かったのだ。

 そうして魔物と不戦協定が結ばれ約八十年が過ぎて現在に至る。エモールドさえ出てこなければ、これから先魔物の実物を見ずに一生を終える者がでてきてもおかしくないほどの平和だった。


「一を聞いて十を知るといった感じだったんだ。その魔物は頭がすごく良かったんだね」

「そうね。時間稼ぎと戦闘意欲を削ぐこと、これらを両立させて見事大陸の魔物を守り切ったわけだしね。賢策の巨人とか策士巨人と呼ばれているわ」

「巨人かー」

「ホワイトジャイアントという魔物でね。自分からは人間を襲うようなことはなく、自分の領域に入ってきた人間と戦っていたらしい。強さ的には最上位というわけじゃない。強いけど竜種には負ける。だから最初ホワイトジャイアントが人間の武器の危険性を説いても竜種は聞かなかった。その結果、進歩した武器にぼろ負けしたわけだけど」

「やっぱり竜もいるのか。でももう雑魚認定されてる?」


 魔法があるなら竜ももしかしてと蒼太は思っていたが、その立ち位置に微妙なものを感じる。


「雑魚ではないわね。剣や魔法で戦えば人間はやはり負けるもの」

「その武器があるからこそか。なければ今でも住み分けされてなかったんだろうか」

「その可能性は高いと思う」


 頷き、いまでも敵対していた場合の世界をジャスティーは考えてみる。確実に今よりも発展していなかっただろうなと予想できた。

 獣はいるものの魔物の襲撃がないため開墾やものづくりなどに尽力でき、様々な物が行き渡るようになって生活に余裕が生まれた。その余裕は新たな物を生み出す気力となって発展にプラスとなった。

 安定した生活が手に入り、人口も増えてさらに生産量が上がり、住み分けされた時期から良い方向へと動き出した。

 敵対したままならば、ハングリー精神や警戒心は保たれただろうが、発展は期待できなかっただろう。

 そんなことを思いながらジャスティーは別になにか聞きたいことはないかと聞く。


「向こうの世界に行って注意することありますか?」

「それは行く日に話そうと思ってたけど、まあ先に話しても問題ないかしらね。犯罪行為はこちらと同じように罰せられる。傷害窃盗などは駄目ということ」


 蒼太も始めからそういったことはやる気はないのですぐに納得する。


「バスのような大人数を乗せる乗り物があるから道を歩くときは真ん中を歩かないようにすること」

「バスだけなんですか? 車は」

「車もあるけど少ないわ。動かすのに魔力を使っているのだけど、一般家庭で車を動かす魔力は準備できないの。魔力は明かりをつけたりお風呂を沸かしたりといったふうに生活でも使うからね」

「だとすると乗り物はバスか馬車くらいかな」

「町と町を繋ぐ魔力列車もあるわ。ほかに自転車も発売され始めたわね」

「自転車は地球技術を取り入れて作られた始めたんですか?」

「ええ、町中を移動するだけなら便利よね。レーサー育成も始められて新たな娯楽としても期待されているわ。自転車に慣れる人が多くなったらバイクを使った競技もやりたいと聞いたわ」


 地球文化学習の際にフリースタイルモトクロスショーへと連れていかれたミレジオリ人がいて、その動画をミレジオリへと持ち帰ったところ多くの者が関心を持ったのだ。


「魔法を組み込んだらもっとすごいパフォーマンスが見れそうですね」

「現状でも十分すごいのだけど。魔法なしであれだけやれれば観客は満足するでしょ」


 二人はこのまま雑談していき、どのような町かという話題から外れていった。そうして話しているうちに車は目的地に到着する。

 車を出た蒼太はかすかに潮に匂いを嗅ぎ取り、海の近さを実感する。

 

「今日からここで暮らすのかー」


 そう言う蒼太は築三年ほどの四階建てアパートを見上げる。

 一階は食堂や風呂や倉庫といった共同フロアで二階から上に九部屋の私室がある。蒼太の部屋は三階の真ん中だ。アパートというよりは寮といった方が正しいかもしれない。

 蒼太が見上げているうちにアパートの左にある出入り口を通って荷物の入ったダンボールが次々と運ばれていく。


「私たちも入りましょう」


 ジャスティーが先導しアパートに入る。

 玄関すぐ近くに二階へと上がる階段があり、右に扉がある。そちらにジャスティーが進み、中に入ると十人以上で囲めるテーブルと椅子が置かれていた。奥からは水の音が聞こえている。


「ここが食堂。朝食は七時、昼食は十二時、夕食は七時。それくらいに準備されているわ。ユウナ、ちょっと出てきてくれるかしら」

「はいはい」


 返事が聞こえて水の音が止まると、三十手前の女が手をふきながらでてきた。

 セーターにロングスカートといったごく普通の服装で、そのうえにエプロンをつけている。


「おかえりなさい。その子が?」

「ただいま。うん、フタジマソウタ君よ。紹介するわ、彼女はクガハラユウナ。ここの管理人。ご飯を作ったり掃除をしたりと世話してくれる人」

「初めまして久我原夕菜よ。これからよろしくね」

「初めまして二島蒼太です」


 互いに頭を下げ合う。夕菜の長髪がお辞儀に合わせて揺れた。


「彼女の作る料理は美味しいから期待していいわ」

「素人の料理だからあまり期待させるものではないわよ。不味いものは作らないからほどほどに期待しててね」

「素人なんていうけど母方の祖父が料理人でしっかりと料理を仕込まれたらしいわ。だからこれからの食生活は満足できるはず」


 蒼太が期待していますと言い、少し困ったように笑みを浮かべ夕菜は頷く。

 少し三人で話した後に蒼太とジャスティーは三階に上がる。


「ここがあなたの部屋。八畳ちょっとの部屋が二つ。風呂と本格的なキッチンはない。荷物は既に運び込まれてるはず。荷解きの手伝いは必要?」

「それくらいは自分でやれます」


 Hな本も持ってきているので、それがばれるのは恥ずかしかった。


「そう? じゃあ、私は部屋にいるわね。私の部屋は隣だからなにか困ったことがあればいつでも訪ねてきて。相談相手は私じゃなくてユウナでもいいし、他の人でもいいわ」

「わかりました」


 蒼太が頷くとジャスティーは自室へと入っていく。蒼太もどんな部屋なのかと楽しみに思いつつ中に入る。

 最初に目に入ったのは床に置かれているダンボールだ。数えるときちんと荷物を入れた分がある。

 部屋の南側に簡易キッチンがある。コンロが一つとシンクがあり、お湯を沸かしたり簡単な料理は問題なくできる。包丁やフライパンや鍋もシンクの下に入っていた。キッチンの横には小さめの食器棚と同じく小さな冷蔵庫がある。

 部屋中央には縦横一メートルのテーブルがある。奥には襖があり、さらに奥に窓が見えた。部屋の西には扉があって、そこは閉じていて今は見えない。

 靴を抜いて置かれていたスリッパにはきかえ、西壁の扉を開ける。


「ああ、トイレか」

 

 扉の向こうには洗面台とトイレがあった。扉を閉めて、奥の部屋に入る。

 ここは寝室のようで、西壁にベッドが置かれている。東壁にはタンスとクローゼットがある。この部屋の中央にもテーブルが置かれていた。こちらのテーブルはもう一つのものよりも小さめだ。

 北窓の上に大きなエアコンがあり、これ一つで二部屋用なのだろう。

 窓の横には空っぽの本棚もある。

 電化製品はテレビやブルーレイプレーヤーもあった。これはリビングに置かれていて、どの電化製品も新品だ。

 冷蔵庫の中身やテレビ番組の確認をして、ダンボールを開けていく。さくさくと作業を進めて、空になったダンボールをたたみ、この後の訓練のために青のジャージへと着替える。


「着替え終えたし、ジャスティーさんを呼びにいけばいいのかな」


 初めての訓練ということで緊張と興奮が混ざった様子で部屋を出る。

 インターフォンを押すとすぐにジャスティーが扉を開ける。蒼太と同じように黒のジャージに着替えていた。


「着替えてるってことは訓練を始めてもいいのね?」

「はい」

「じゃあ、裏庭に行きましょう」


 そう言ってポケットから携帯を閉じだすとどこかへメールを送る。


「誰に連絡したのか聞いてもいいんですか?」

「ミヤジに訓練を始めると連絡したのよ。すぐに彼も庭に出てくるわ」


 話しながら移動し裏庭に出る。ちょっとした広さが確保されていてテニスコートほどの広さがあるだろう。隅には物置があった。

 柔軟をやりましょうと言うジャスティーに頷き、一緒に体をほぐしていく。そうしているとすぐに宮路が出てきた。こちらはTシャツにズボン姿だ。


「久しぶりだな、蒼太君」


 柔軟を止めて蒼太も挨拶を返す。


「体はほぐれたか? うん、大丈夫なようだな。それじゃ始めるか。予定は聞いているか?」

「身体測定をすると」

「聞いてるようだな。一応学校からデータをもらっているんだが、念のため現状のデータもほしいからな。早速始めようか」


 宮路は物置から握力測定器など様々な道具を出す。どれも高性能品だ。

 それらを使って一つの検査を三度行い、正確なデータを求めていく。道具を使う検査が終わると、次は腕立て伏せといった肉体のみの検査が始まる。


「はいっもう一本」


 宮路が手を叩き、蒼太は十メートルダッシュの二往復を行う。自己鍛錬のためかジャスティーも一緒に走っている。

 数メートルの差をつけてジャスティーが先にゴールした。


「また負けたーっ」

「昔から体力作りしてますからね」


 蒼太は全敗していることを悔しそうにするが、兵として何年もの訓練を受けているジャスティーの体力はそこらのスポーツ選手にひけをとらない。これまで鍛えることなく過ごしてきた蒼太が勝てないのは当然だった。


「よしっ。一度休憩だ」


 蒼太は大きく息を吐いて呼吸を整える。

 そこに水差しとコップをお盆に載せた夕菜がやってきた。


「水持ってきましたよ。いかがです?」

「ありがとう夕菜さん」


 宮路が早速受け取る。

 さほど動いていない宮路がありがたそうに水を受け取っている姿を見て、喉が渇いていたのかと蒼太は不思議そうな表情となる。それを見てジャスティーはこそっと蒼太に教える。


「ミヤジはユウナが好きで、ユウナも悪くは思ってない」

「あ、そういうこと」


 納得したように頷く蒼太に夕菜が近づく。


「なにを頷いているの?」

「ちょっとした疑問が晴れたので。水ありがたくもらいます」

「私も」


 どうぞと渡されたコップを受け取り、少しずつ飲んでいく。


「訓練はどう? 順調に進んでる?」

「どうなんですかね。宮路さん」

「大丈夫だ、問題はなにも出ていない。あとは長距離走だけだな。それは俺とジャスティーさんと一緒に走る。簡単にここらの地理を理解してもらうためでもある。その後は筋肉痛にならないようにマッサージして体を動かす鍛練は終わりだ」

「ということらしいです」


 ふむふむと頷いた夕菜は訓練の間の蒼太の様子を尋ねたり、体のどの部分をよく使ったかと尋ねる。

 これらを聞くのは夕菜がマッサージを行うからで、重点的に揉み解すべき個所を探っている。今日のところは特別どこかがおかしくなるような動き方はしていないので、全体を適度にマッサージすればよかった。

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