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アクトヒーロー出張記  作者: 赤雪トナ
2/11

2 超インパクト客 後

「話がずれてきているから戻そうか」

「えと、引っ越しでしたっけ。えらく話が脱線してましたね」


 話がずれる前の話題を蒼太は確認する。

 仕方ないと佐見宮と宮路は苦笑する。色々と話さなければならないし、どれも好奇心を刺激する話なのだ。どうしても話がそれてしまうだろうと予想できていた。


「引っ越し先は隣の県になる。ミレジオリへと行くのにゲートと呼ばれる移動手段を使うんだけど、それが無人島にあってね。その近くの町に関係者を集めた寮がある。そこの部屋に入ってもらうことになる」

「一人暮らしに興味あったかもしれないが、蒼太君はわりと重要人物になるから身辺護衛もしないといけない。となると関係者と一緒に暮らしてもらった方がいいんだ。護衛は一般人に扮した自衛隊員やSPと呼ばれる者たちがやる」


 護衛と聞いて蒼太はぽかんとした表情を浮かべる。これまでそんな扱いなどされていないし、これからも護衛を必要とする人生など送らないと思っていたのだから無理もない。

 けれど先ほど佐見宮が言ったように国家プロジェクトなのだから、重要な人材には護衛の一つもつく。


「護衛に関してはそう気にしなくてもいい。どこか出かける際には事前に知らせておいてくれれば陰ながら守るから。急に予定がかわるときは携帯で連絡を入れてくれればいい」

「はあ」


 護衛に関しては蒼太からはなにも言うことはなく、こくこくと頷くしかない。

 護衛の携帯番号は今日渡される書類の中に書かれているので、あとで携帯に登録しておくように言われる。


「寮ってことは食事はそちらでやってもらえるんですよね? この子炊事はできないんですけど」


 母親の確認に佐見宮は頷いた。


「はい。大丈夫です。体調を壊さないようなきちんとした食事を作ることになっていますから安心してください。アレルギーとかなかったですよね?」

「ええ、多少の好き嫌いはありますけど、食べられないものはありません」


 放っておいたらコンビニ弁当やパンばかりで過ごすかもしれないと考えていた母親は、食事を作ってもらえると聞き安心したように胸をなでおろす。

 同じく蒼太も自分で作っていてはろくな食生活にならないとわかっていたので安堵していた。


「ちなみに掃除洗濯はどうなっています?」

「掃除は息子さん自身にやってもらいます。洗濯は寮を管理する者がやりますよ」

「そうですか」


 食事と洗濯を他者がやるのは、それらをやる時間を鍛練時間にあててもらいたいからだ。ほかに母親が心配したように栄養バランスを考えない食事で体調を崩されても困るという理由もある。


「通う学校ですが、私立青海張高校というところです。青い海の張りと書いて、あおみはりです。強制的に転校させるので当然学費はこちらもちです。食費や光熱費も同じくですね」

「そこって」


 聞き覚えのある高校の名前に蒼太が反応する。


「なにか都合が悪いのか?」

「いやそうじゃなくて何年か前に引っ越していった友達が通っていると年賀状に書いてたから」

「あー京子ちゃんね。もう何年会ってないかしらね」


 昔斜め前の家に住んでいた女の子でよく遊んでいたのだが、両親が海外に出張することになり、祖父母の家に預けられることになったのだ。二人とも忙しくなりそうで娘の世話ができない可能性があったので、見知らぬ土地で寂しい思いをさせるかもしれず連れて行かないことにしたのだった。

 蒼太と手紙のやり取りをしていたが、それも徐々に減って去年と今年は年賀状のやり取りしかしていない。


「幼馴染というやつか。知人と会えるのは嬉しいことかな」

「そうですね。話を戻しますよ。学校については、宿題免除とテストで赤点をとっても補習なしということになってますね。こっちのことに集中してもらいたいので、余計な時間をとりそうなものはなしということにしてもらいました」

「そこまでするなら一年休みってことにしてもよかったんじゃ?」


 蒼太の疑問に佐見宮は頷く。


「そういった意見はあったね。ですが慣れない環境に移って、さらに慣れない作業を続けるからストレスが溜まりやすいのではという推測が立てられてね。息抜きという点から見て、これまでと同じ日常を送る場として学校に通うことはプラスになるだろうと」

「なるほど」

「そういった学校生活だと成績の方が不安になるんですけど。進学の方も」


 母親の不安も予想していたのか、大丈夫と佐見宮は言う。


「一年浪人してもらうことになりますが、その一年間評判のいい家庭教師を準備しますので、抜け落ちた知識などは十分取り戻せます。就職する際に浪人したことがマイナス点になるのなら政府から事情を説明もします」

「いたれりつくせりだなぁ」

「本来なら一年でやるようなことじゃないからな、今回のことは。こっちの都合に付き合わせるんだからフォローも充実させるさ」


 宮路がそう言い、ジャスティーも申し訳なさそうに小さく頭を下げた。


「学校に関してはこれくらいでしょうか。あとは大学に行くのなら受験費や入学にかかる費用もこちらもちなどがありますが、またのちほどでいいでしょう。学校が始まってからは、学校に通いながら鍛練や撮影を始めてもらいます。鍛練メニューや撮影の詳しい内容は当日説明があります。撮影はミレジオリでやるので向こうに行ってもらうことになりますね」

「異世界に行けるんだ。どんなところかちょっと楽しみだ」


 異世界に行くということに積極的な姿勢を見せる蒼太に、佐見宮たちは安堵の思いを抱く。地球での海外旅行は少なからず危険を伴う。それと同じようにミレジオリ行きにも危険を伴うと考え、不安を抱きストレスを感じるようでは困るのだ。


「町中はこっちとほとんど変わらないよ。電柱がなく車が少ないことに違和感を感じるくらいかな。着ているものもあちら特有の民族衣装とかじゃなくてごく普通の洋服だし。ああ、でも鎧姿の兵には新鮮さを感じるかな」

「へー鎧着てる人が」

「ジャスティーさんも向こうでは鎧姿だよ」

「一目で兵だとわかりますから。あれが兵の正装なのです」

「日本人が鎧を着ると違和感があるだろうけれど、彼女たちは普段から着慣れているからそういったものを感じさせないんだよ」


 ほーとジャスティーを見つつ蒼太は頷き、見られる機会を楽しみにする。


「話を鍛練と撮影に戻すよ。それらは来年の二月終わりくらいまで続くことになるから、受験勉強は諦めてもらうことになるんだ。だから浪人してもらうと言ったんだよ。おおまかなスケジュールはこんな感じだね」

「鍛練と撮影に関してなんですけど、それらはみっちりと詰まってるんですか? 休みとかなし?」

「いや休みはあるよ。休みなしだと倒れるのは確実だしね。鍛練後はマッサージとか受けてもらって疲労が残らないようにする。ただまあ、通常の高校生よりも休みが減るだろうね」

「どうせ高校三年は受験勉強で休みが減りますからどっこいどっこいな気もします」


 それもそうかと佐見宮と宮路が笑う。


「さて最後は蒼太君に使ってもらう物について説明しよう。この資料を見てくれ」


 佐見宮が蒼太に見えるように置いた書類には『両世界技術使用特殊全身装甲β型-1・ホープ』と大きく書かれていた。その下に、両世界の技術でなにができるかということの試行の一つ、災害救助や暴徒鎮圧に使用予定と書かれていた。

 一枚目はそれのみで、めくっていいのかと佐見宮たちを見ると頷きが返ってくる。

 二枚目にはメタルヒーロー系特撮番組を思わせるフルフェイスヘルムと全身鎧の前後姿。ほなに鎧の下に着る黒一色のダイバースーツのようなイラストが描かれていた。鎧の特徴的な部分は背面だろう。背中に畳んだノートパソコンほどの板がくっついていて、その下の腰辺りには一,五リットルペットボトルほどの筒がくっついていた。

 三枚目には全身鎧の分解図と各所の名称。四枚目には三枚目の詳しい説明が書かれていた。背中の板は管制ユニットと書かれていて、筒は小型発電機と書いてある。

 漫画やアニメのロボ設定図にも思えて現実感がなく、本当にこれが作られているのかと蒼太は聞く。


「試作型は一年以上前にできて、何度も実験されている。それは試作型から得たデータを元に作られた正規型実験作。それを使ってどのくらいが限界点なのか調べて、量産型に反映させていくという流れなんだ。ホープ自体も実験から得たデータを元に調整させていく予定だよ」

「試作型でどこまでできたんです?」


 実験は宮路たち自衛隊員が担当しており、そのときの記録を思い出し口を開く。


「特に鍛練していない女性で、バーベル百キロを持ち上げたな。鍛練している人だと、三百キロを持ち上げたまま歩き回ったはずだ」


 地球の重量挙げ世界記録だと最大で二百五十キロ辺りなので、記録を超す三百キロを持ち上げたうえでさらに動いたとなるとかなりの余裕を感じさせる。

 試作型でそれなのだから、正規型はこれ以上の性能を期待されている。


「ほかには百メートル走も世界記録並か少し遅いといった感じか」

「走るのはそうでもない?」

「いや装甲重量がそれなりだからな? むしろそれだけの重さで世界記録並までいけたというのはすごいことだぞ。まあ試作型よりもホープの方が重かったりするが。資料に重さが書いてあるはずだ、見てみるといい」

「……六十キロ!? 人一人分じゃないか!? こんなの着て動き回れないですよ!」


 自身を貧弱というつもりはないが、そこまでの重荷を負っての撮影は絶対無理だろうといった顔で蒼太は三人を見る。


「そこらへんは大丈夫だ。魔法仕掛けで軽量化がされている。ほかに身体能力強化の魔法もかけられるから動きにくさはないだろう。これ以外にも魔法がかけられている。そういった仕掛けを組み込んだからお前さんのように大量の魔力がないと複数の魔法を発動させられない」


 ミレジオリの平均的魔力の持ち主どころか日本の平均的魔力の持ち主でも鎧の性能を生かせない。体を鍛えていれば動くことは可能だろうが、それだけでは着心地の悪い鎧でしかない。といって性能を生かそうと魔力を注いでも、起動すらしないで魔力を使いすぎて疲労困憊といった状態に陥るだろう。

 ホープの性能を生かすには最低でも魔力値五百は必要なのだ。そしてその魔力値だけでは三十分動いて停止する。性能をフルに生かそうとすれば稼働時間はもっと減るのだ。


「着る人を選びすぎだと思う」

「実質蒼太君専用といっていいよ。両方の世界技術を使ってどこまでやれるか試してみたらそうなっちゃったんだ。その分性能はすごいだろうけど」

「俺みたいに大量の魔力を持ってる人がいなかったら、誰も使えないなんて可能性もあったのかな」

「あったんだろうね。ところでこれにはまだ色が塗られていないんだ。なにか要望があればその色にできるよ」

「じゃあ青で、名前に蒼が入っているんで」

「わかったよ」


 佐見宮は色について書き込み、ついでのように名前の部分にブルーと付け加えた。今後はブルーホープと呼ばれることになる。ちなみに試作型はレッドプロトと名付けられている。主に試作型を使ってテストしていた者が赤が好きだったのだ。


「話すことはこれくらいかな。あとは宮路からあったかな?」


 話をふられた宮路は頷いて、書類を蒼太の前に置く。


「今日から体作りを始めてもらいたくてな。一人だから難しいことをやれとは言わない。やってもらいたいのはジョギングと柔軟だ。詳しいことはその書類に書いてある。あとで読んでおいてくれ」

「わかりました。筋トレはしなくても?」

「それもやるにはやるが、あまり重視しないな。力は鎧を着こめば問題ないくらいにつく。力よりも技術を重視する。まあ、技術指導は引っ越してからだ。春休み前までは書類に書いてあることをやってくれ」


 宮路が言うように書類には難しいことは書かれていない。ジョギングだと全力ではなく一定速度で朝夕一時間ずつ走れと書かれているだけだし、柔軟も新体操選手ができるようなことは求められていない。あくまでも本格的に指導する前の準備段階といったものだ。

 さっと書類に目を通した蒼太もこれならば大丈夫だと考える。


「ほかにはなにかあったかな。蒼太君は聞きたいことはある?」

「ええと。引っ越しは春休み前までに準備、高校のことも聞いて、護衛の携帯番号を登録、体作りは今日から……あとはそうですね、荷物をつめるダンボールとか迎えはいつになるのかとか」

「ダンボールは春休みになる一週間前に送ることになっている。迎えは終業式が終わって帰ってきたら来ているはずだ。ジャスティーさんもその場にいるだろう。いなかったらなにかしらのハプニングが起こっているということになる。その場合確認の電話をしてほしい。ないとは思うけど、蒼太君を誘拐するために引っ越し業者に偽装しているかもしれないから」


 誘拐と聞いて蒼太と母親は不安そうな表情となる。


「大丈夫ですよ。今日から護衛がつきますから、誘拐の可能性はほぼないです。こちらがよほど油断した場合に起こりうることですね」

「そして油断はするつもりはありません。安心して日々をお過ごしください」


 断言した佐見宮と宮路に母親はよろしくお願いしますと頭を下げる。任せてくださいと宮路が頷きを返す。


「あと聞きたいのは……今回の話って誰かに話しては駄目なものですよね?」

「うん、そうだね。引っ越すことを話さなければこっちでは急な引っ越しを不思議がられて聞かれるようなことはないだろう。向こうでは青海張高校の教員に軽く事情を話しておくから、それに合わせてほしい。おそらく家の都合ということになるんじゃないかな」

「わかりました。あ、今ここにいない父さんには話しても?」

「それは大丈夫。あとで会社の方に会いに行って話をするから。確認の電話が来ると思うので了承した旨を伝えてください」


 後半は母親へと向けて言う。

 蒼太はほかにないか考えて制服はどうなるのか思いつく。向こうとこっちの制服に違いがあれば買いなおすのかと思う。それに佐見宮は多少の違いはあるものの通うのは一年もないのでこのままでよいと答える。違いが気になるのなら佐見宮たちが用意しておくと言い、蒼太は少し考えまあいいやと断った。


「ではこの書類を確認してサインを。細かいけれどしっかりと読んでわからないところは質問してほしい」


 三枚ほど重なった書類を渡され、蒼太は読み飛ばしたくなる気持ちを抑えつつ読む。表現でよくわからないところはあったものの、内容的には佐見宮たちが話したとおりのもので不満はなかった。ただ一つ単語に下線部が引かれていて目立つようにされている部分を聞く。


「この拒否権って」

「大事なものだから質問されなくても説明するつもりだったよ」

「こういった契約をかわしたことないんで、詳しいことはわからないんですけど、契約すればそれに従うようにするものじゃ?」


 佐見宮はその言葉に頷いた。


「そうだね。なにかあっても話し合うようにって書かれるくらいで、はっきりと拒否権って書くのは珍しいかもしれない。この契約はミレジオリでも有効なんだ。地球とは違った場所故の差異でなにか不備があって、その時にできないけれど契約だから仕方ないと無理をさせることを避けるために用意した部分なんだ。これについては各所の了解を得ている」

「例えばどういった状況で使うことになりそうですか?」


 蒼太にはこれを使う場面を想像できず、例をあげてもらい理解しようとする。


「んー……向こうには貴族が存在している。彼らが地位をかさに着て命令してくるかもしれない。そんなとき断れる。拒否権はあちらの女王様に話を通してある。どの貴族よりも上の存在から了解を得ているんだ、断ってもなんの問題もない」


 ほうほうと頷く蒼太に付け加える。


「なんでもかんでも断られると困るんだけどね。たとえば怠いから訓練を拒否されるとスケジュールにずれが生じる。その怠さが病気からくるものなら問題はないけど、たださぼりたいからなんて理由だとちょっとね」

「無茶ぶりされたときに使うようにすればいいのかな」


 そんな感じでいいと佐見宮は頷く。

 聞きたいことは聞いてサインをして佐見宮に返すと、佐見宮はそれとブルーホープの説明書を一緒にファイルにしまう。


「私たちはそろそろお暇させてもらいます。蒼太君は怪我のないように過ごしてほしい。大怪我なんてしたら予定が狂うからね」

「気をつけます」

「ジャスティーさんはなには言うことありますか?」

「そうですね……プレッシャーがかかるかもしれないけれどあえて言います。あなたの活動に大きな期待がかけられています。私も期待している一人ですし、ほかにも期待している人はいます。良き結果となるよう、努力をお願いします。もちろん私たちも協力は惜しみません。ともに頑張っていきましょう」


 そう言いジャスティーは手を差し出す。握手だろうと蒼太も手を出す。

 ジャスティーは握手したあと、蒼太の手を動かして自身の掌と蒼太の掌を合わせ指を絡ませる。


「えっと?」

「私たちの世界の握手の形です。指をからませてください」


 蒼太はこくこくと頷き指を絡ませた。ほっそりとして見えたジャスティーの手は剣ダコがあり、鍛えている痕跡がある。そういった鍛練してきた手の中にも女性特有の柔らかさがあり、女性なのだと意識させた。

 笑みを浮かべたジャスティーは手を放し立ち上がる。一緒に佐見宮たちも立つ。

 三人を玄関まで見送り、姿が扉に遮られ見えなくなると蒼太は自身の頬をつねる。


「痛い。夢じゃなかった」

「そう思うのも無理ないわねぇ」


 よくわかると母親が頷く。説明を受けた今でも嘘でしたと言われれば、怒る前に納得できるような出来事だったのだ。


「引き受けたからには最後までやり通しなさいよ?」

「やるけどさ。まだ実感が湧かないんだよなー」


 それほどまでにこれまで培ってきた常識からかけ離れた話だったのだ。実際にブルーホープを身に着けたときこそ、実感が湧くのかもしれない。

 リビングに戻るとテーブルには三人が使っていたコップと鍛練メニューの書かれた書類が残っている。

 蒼太は書類を手に取り、しっかりと内容を読んでいく。そして予定を決めた。


「とりあえずジョギングかな」

「その前に昼ご飯よ。お腹すいてるでしょ」


 その母親の言葉にあっさりと予定変更して、着替えるため部屋に戻る。

 

 ◆


 二島家を出て、車に乗り込んだ三人は蒼太が引っ越す先へと向かって車を発車させる。運転手は宮路、助手席に佐見宮、後部席にジャスティーだ。

 佐見宮はすぐに別の場所で待機している同僚に電話し、了承してもらえたことを伝え、二島父への話を頼む。


「そうだ、こっちは上手くいった。そっちも頼む」


 そう言って佐見宮は電話を切る。


「ようやくスタートラインか」

「そうだな」


 佐見宮の言葉に運転をしつつ宮路が短く返し、ちらりとミラー越しにジャスティーへ視線を送る。


「待ち遠しかったですかね?」

「はい。一日千秋の思いというのでしたか。今日この日を待ち望んでいました」


 ふっとジャスティーの瞳が過去に思いをはせるものへとかわる。

 

 全ては約十五年前に始まった。

 見慣れぬ魔物がいると報告があり、人と魔物の領域が重なり合う境界に現れる魔物よりも強いとも報告された。小隊が向かい、カジェル携帯砲を使いどうにか倒したが、その三週間後に虎を模した白い魔物が別の場所に発生。今度はカジェル携帯砲ではダメージにならず、その上のバートシンク砲でどうにか倒すことに成功。以後世界のあちこちに白い魔物が現れるようになり人的被害も出始める。

 この魔物についての情報を人間は調べたが過去の記録にはなく、普段は接触しない知恵ある魔物に話を聞きに向かい、魔物ではないとわかる。

 ではなんなのか、『エモールド』と名付けられたそれを解明する前に人間をさらなる脅威が襲う。最初のエモールドが現れた三年後、それまでのエモールドとは比べものにならないエモールドが現れたのだ。これまで成果を上げていたバートシンク砲もまったくダメージにならず、さらに上のジェーグ爆缶すら軽傷を負わせるだけで精一杯だった。

 ジェーグ爆缶は地球でいうところの核爆弾に近く、ジャスティーたちの持つ兵器の中では一番の威力を持つものだ。

 これを受けて人間はひとまず倒すことは諦めて封印で対処することにした。封印が成功した頃には、十万人以上がこのエモールドによって殺されていた。以後五体現れたエモールドは封印で対処されることになる。

 ここまでならば人間もまだ希望を持っていた。ジェーグ爆缶が傷を負わせていたのだから、それ以上の兵器を作れば倒せると。

 その希望を打ち砕くがごとく、神からお告げが下される。最初のエモールド誕生から十六年後に危険種と名付けられた六体以上の力を持つ個体が生まれると。

 これを聞いた人間たちは絶望したくなるような予感を抑えながら予測を立てる。今ある兵器の威力を上げて対処できるかどうか。その結果は「無理」という希望すらない断定だった。

 その断定には根拠があった。エモールド発見から数年たっており、少しは情報も集まっていた。それでいくつかのことがわかっていたのだ。

 一つ、エモールドは魔物よりも優先的に人間を狙う。二つ、エモールドは学び進化する。三つ、もともと魔力への耐性を持っている。

 これらの情報を統合した結果、魔法が無効化されるほどの耐性を得た、最上位の魔物以上の化け物が出現すると出た。

 魔法を中心とした現文明では、いずれ現れるエモールドに対して人間は無力とわかってしまったのだ。


「災害種の出現を示す神のお告げがあった日は絶望の日とも呼ばれています」


 過去から現在へと思考を切り替えてジャスティーは顔を上げて口を開く。


「だが人間は滅びをよしとはしなかった」

「はい」


 宮路の言葉にジャスティーは頷く。諦めていたら自分はここにいないのだから。


「多くの人間が希望を求めてあがき、その中の一つが異世界に希望を求めました」


 自分たちでどうにかできないのならば、異世界の技術を用いればどうにかなるのではと思い、異世界移動魔法を創り出したのだ。

 もともと異世界へのアプローチは研究されていた。それを支援し実現したのが約五年前だ。

 異世界はジャスティーたちが思っていた以上に多種多様だった。その中から自分たちに近いされど魔法を持たない文化を持つ世界を探すのに一年近い時間をかけていた。

 刻々と迫る災害種誕生の日に焦りを抱く中で、ジャスティーたちはついに地球を見つけ出した。

 魔法による視界越しに見慣れない光景が広がり、人々が多く生活する世界。見えたのはゲート近くにあった国である日本とユーラシア大陸東部だけだ。求めるものがこの世界にあるのか、見ただけではわからなかったが、いい加減条件に合った世界を探すことのみに時間をかけるわけにもいかず接触することにした。

 そうして日本にとっても衝撃の日が訪れた。


「ミレジオリの急な訪問であったと聞いています。それでも日本側は話し合いで対応してくれた、そのことを感謝していると当時日本を訪れた人から聞いています」

「いきなり侵入したことは警戒心を抱かせたと俺は聞いたな。それでも侵入したことの謝意といった丁寧な行動のおかげで、まずは話を聞いてみようということになったらしい。高圧的な行動や敵対行動をとっていたら、当時の政府関係者も反感を抱いていただろう」

「今ほどではないにしろ切羽詰まった状況でしたからね。交渉をスムーズに行うために慎重に行動したのだとか」


 ようやくみつけた条件に合った世界なのだ。くだらない見栄で時間を無駄にするようなことは避けたのだ。それが両者にとって良い方向へと動いた。


「交渉は上手くいき、こうして未来へと希望が持てたわけだ」


 滅びの危機にあると聞き、日本政府は救わなければという善意のみで協力を決めたわけではない。ミレジオリの話を聞き、利益があると判断したのだ。

 一番の興味は蒼太との話でも出たように魔力だった。特に数年前の地震で発電所に被害が出てからは安全なエネルギーへの関心は一層強くなった。

 魔法に関しての関心もある。前述した発電所に対する対策として魔法が役立った。透視魔法で状況がわかり、解毒や浄化魔法で放射能被害も科学の力のみで対応するよりも汚染が抑えられた。

 地球にはない鉱石や薬の材料も魅力的であったし、日本に好意を持つ国が増えるということもありがたいものがあった。

 これらの理由でミレジオリに対する協力は惜しみないものになっている。

 ミレジオリとしても地球から持ち込んだバズーカ砲が、エモールドにカジェル携帯砲よりも効果を出したことから地球技術への期待は高いものになっている。


「ですが私たちの都合のために彼に苦労を押し付けることになり申し訳なさもありますね」

「仕方ないと言ってしまえばそれまでなんですが、そちらの世界が救われる可能性を上げるにはこうするほかないと」

「わかってはいるのです」


 頷いてはいるもののやはり表情は暗い。


「まあ、たった一人に背負わせるには世界は重すぎるか。上手くだまし続けられるといいんだが」

「そこは彼の母親や小中学校での担任の言葉を信じるしかないでしょうね。思い込みが強いということらしいですし、スーツアクターだと思いこませ続けて計画通りに全て終われば良しですね。だましたことは全てが終わったあとに謝ればいいのではないでしょうかね」


 三人がだますと言っているが、害意あっての言動ではない。二ヶ月前に蒼太を見出し、彼についての情報を集めてこうするのがいいだろうと判断したのだ。蒼太の母親とも今日ではなく一週間前に接触しており、蒼太に求められている役割について説明していた。学校の担任にも省庁を通じて情報を収集していた。

 それらの情報から大きすぎる役割に問題なくたちむかえるほど心が強くないと推測された。

 なので蒼太に真実は知らせずに事態に当たってもらって解決まで導くという手段が採用されたのだ。もちろん周囲のフォローはしっかりと行うという方針でだ。

 人間絶滅という難事から救うことに対して報酬が安いのも、スーツアクターという仕事に対しての報酬と勘違いさせるためで、問題なく解決すれば追加報酬が支払われることになっている。

 上手くだますために今日の話には本当のことも混ぜられている。第一目標は災害種の討伐だが、両世界の交流による発展も視野にいれているのだ。ブルーホープに使われる技術ものちのち災害対策や宇宙活動に使う気はあるので、データ収集が無駄になることはない。


「そうですね。解決したあとにこの身を捧げることも視野にいれておきましょう」

「日本側でも美人さんの準備はしておいた方がいいのかねぇ」

「人身売買とみられかねないから注意が必要ですね。これから一年の付き合いで彼が欲しがるものがわかるかもしれません。報酬に関しては急ぐ必要はないでしょう」


 まずは蒼太に違和感を抱かせず鍛えていくことが大事だと佐見宮が言い二人も頷く。

 きつすぎず軽すぎずといった絶妙なバランスでの鍛練について話し合いながら三人を乗せた車は高速道路に入り、拠点へと走っていく。

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