53話「ホール・イン・ザ・アース その2」
「ルゥザーか……もはや幹部でもヒトでもないただの岩、こんな奴を使えた程度で良い気になってるとはお笑いだな……フフ」
アクィマは長い剣を一気に振るい、飛びかかってくるレンガ群を迎え撃つ。だがその剣をレンガに当てて斬ったり、弾いたりするわけではない! ただ振るうだけでそのレンガに剣は全く触れていない、だが、しかし。
「な、なんだぁー!? アクィマに向かってたはずのレンガが、私たちの方へ飛んでくる! 私たちは飛んで空に居るのに……重力を無視してこちらに飛んでくるぞ! 速度も落ちてない!」
「撃ち落としてくれる……!」
アクィマのその言葉と同時に、ティミミアは爪を振るいレンガ群を次々と砕く。
「ふん! この程度、念力のようだが、パワーは無い能力と見たぞ。ならば私の装甲をもってすれば怖くない!」
「見えていないのかな? ドラゴンというのは首が長い……自分のハラが死角になるところが面白いのだ」
「なにっ!」
慌てて腹部を確認するティミミア。彼女の腹部にはアクィマの剣の『鞘』がへばり付いていた!
「へ、なんだ驚かせた割には刃も棘も無い鞘か! ティミミア、ちょっと待っててくれよ今引き剥がしてあげるよ!」
「ま、待てエクセル! 触るな、触ってはいけないはずだ……腕力ではない、アクィマは何か特殊な力で鞘を私の体に付けたのだ。この鞘には何か罠のようなものを感じる、今はあえて放っておくのだ、いいな」
「ぐ、う、そうか、そうだね」
確かにその説はありうる。例えばノドカは物体に磁力を帯びさせ、触れた相手も磁石に変える。ジャントは触れた物に色の特性を与える能力であるし、触れたそばから相手に影響を与える能力は珍しくない。
「遠征組と敵対するとここまで気疲れするとはな! 一堂に会する機会が無いゆえに、あらゆるものが不明のままだ! 能力だけじゃない、人間としての弱点も!」
「来ないのならこちらから仕掛けるが、良いな」
アクィマは瞬時に地面を飛び立ち、空を飛んでいるティミミア達の眼前まで迫った!!
「な、に……この跳躍力! 人間業ではない!」
「前もって言わせてもらうと、私の能力なんて取るに足らないものさ、私は常に自分のこの腕だけを信じてきたからな、だがボスに言われたよ『私の能力は無限の可能性を秘めた最強の能力』だとね」
「ティミミア……こいつ、空中で剣を構えてる、斬る気だ……ドラゴンの装甲を!」
そのときティミミアは思ったッ!
「(こいつ、斬れると思ってるのか……巨大な鉄の塊の打撃力も大剣の斬撃も弾く竜の装甲だぞ、勝てると確信しているからこその構え、なのか? エクセルを狙っているわけでもない、私の胴を狙っている……腹なら捌けると思っているのか?)」
その考える時間にさえ割って入るほどのスピード、速度の違いを見せつける斬撃をアクィマが放った!
「グェアアァ! ばっ、バカな! 斬られただと、私の装甲が、ウグゥゥ!」
斬られた、ドラゴンの装甲が! ティミミアは慌てて翼を起動させその場から逃げる事を選ぶ、剣で斬られるという衝撃的初体験はティミミアに逃亡を余儀なくさせた!
「ティミミア! 大丈夫か!? 血がっ!」
「安心しろ、傷は浅い、腹部を裂かれはしたが装甲も厚いからな、だがこのような傷でも積み重ねるとマズイ」
「逃げられると思ったか? 私に背を向けた事を後悔しろ!」
翼で逃げ切ったと悟った直後! すぐ背後! そこにはアクィマが既に追いついていた! この女……『飛行』している!!
「ひぃぇあぁぁぁ!! ティミミアに追いつけるほど速いスピードで飛んでいるゥゥ!」
「背後に居るエクセルから斬り殺すッ!」
ティミミアの背中に騎乗しているエクセルが狙われるのは必然だった! ティミミアはとっさに尻尾を振り上げアクィマからエクセルを庇う!
「馬鹿が」
その一瞬のアクィマの表情で察した、尻尾だけでは防ぎきれない! エクセルを守るためにはさらなる盾が必要!
「エクセル! お前を死なせはしない!」
「ち、こいつ両翼まで振り回して私からの攻撃の盾にする気か!」
アクィマの二斬撃目は放たれた。その威力、ティミミアの尻尾と両翼を切断し、落とすほど! 三重の壁の後ろに居たエクセルの額には……コンマmmほどの切り傷が! もし、ガードを一枚でもケチっていればエクセルは。
「頭部を裂かれ脳を両断されていた……こいつ、異常だ、強すぎる!」
「仲間の心配をしてるばあいか? ティミミア、お前は翼を失った、落ちろ!」
「ぐ、マズイ……もう飛んで逃げることはできない……!」
落下するティミミアとエクセル、だがアクィマの攻撃は!
「ティミミアァァッ!! アクィマが私たちの落下のスピードにピタリくっついてきているぞぉぉぉぉ!!」
「なん、だと! 私の落下スピードと全く同じ速度で! 落ちている、こいつも! これ以上の斬撃はふせげん!!」
まだ終わってはいない! アクィマの攻撃は続く! とっさに手の爪を振り回しアクィマを振り払おうとするが、その攻撃さえも避ける! アクィマは空中で移動しながら、尚も一定の距離を保ちながら、そして落ちている!
「なん、だ……私にずっとくっついている……おかしい! まるで『衛星』だ、地球に対する月のように!」
「ティミミア! 私たちはアクィマの術中に完全にハマってしまったんだ……いつからなのか、さっきもレンガが『無重力』かのように私たちの方向へ飛んできた!」
「無重力……衛星……まさか、いや! 今はこの状況を打開する!」
ティミミアは尚も両腕を振り回し、アクィマを狙う! だが両腕を、アクィマを追い込むように、Cの字を描くようにして追い込んだ! 一定の距離を保ち続けるアクィマも、こういう風に追い込まれては距離を取るしかあるまい!
「マヌケか貴様? 間に合わんさ、今切り裂くからな!」
「いいや、お前が追い込まれてるのは『下』だ、地面に落下するのが仮に平気だとしよう……だが即座に私の巨体がお前を潰す!」
「チィ!」
ティミミアへの攻撃が間に合わん。そう判断した瞬間、彼女の体は引っ張られるように高速で移動し、ティミミアから大きく距離を取り着地した。飛行といえば飛行だが、なんとも不気味な動きなのである。
ティミミアは外殻を盾に着陸し、ダメージも無く体勢を立て直しエクセルを背中から降ろし、そしてアクィマを見つめながらポタリと汗を垂らした。
「あいつは……『剣の達人』なんかではない……とても達人の剣の振りでは無かった、ぶざまで隙だらけだった、剣も上等でも妖刀でもない、斬られたからわかる、皮膚も肉もズタズタな切り口だ……!」
「ティミミア、ドラゴンの装甲を修理しないのか? オナカががら空きだ、アクィマとの距離をとっている今なら」
そのセリフに割り込むようにアクィマは張った声で言い放つ。
「それはできないことだよな、ティミミア! お前の能力は確かに強い! だが『変身』という持続力が求められる……一度の戦いに二度も三度も使えはしない! そうだろうッ」
「チィィ、ィ……」
ティミミアは深く舌打ちをした。まったくもってその通りであったからだ、知り尽くしている。相手は私の能力を!
「腹を晒したまま、戦うほかあるまい」
ドゴォォン! 言葉を発するティミミアの背後で爆発音が起こる、無数に。
「なんだ!?」
エクセルは咄嗟に背後を振り向く、だが黒いカスが残っているばっかりで、何が爆発したのか、それは不明だった。
ティミミアは正面に居るアクィマの顔面を凝視した、こいつ、慌てる様子も爆発に対するリアクションも無い。つまりこいつの仕業だ、こいつがなにかやらかしたのだ。
「向かってこい、ティミミア」
「考えてもらちがあかない! このまま、今突っ込む!」
ティミミアは腕の爪を構え、全速力で走り、アクィマへ向かう!
その瞬間、またも爆発が起こる。それはティミミアの腹部で。あまりに突然で、ティミミアは体勢が崩れた。そして同時に背後からエクセルが叫ぶ!
「ティミミア! 今、見えた! 爆発したのは……アクィマの剣の鞘だ! ティミミアのお腹に張り付いていた鞘だ、それが爆発したんだ!」
「なんだと……? 鞘?」
「そうだ、鞘が爆発したんだ! でも、妙だ、鞘を爆発させることが出来るのなら、さっきの落下するときにティミミアの反撃をさせない為に爆発させたはずだ……なぜ今なんだ?」
「なるほど『自動』か、アクィマ、お前のこの爆発の現象は自動で起こる仕組みだな? 制限時間か何かか、寸尺間違えたなッ!」
ティミミアが爆発でたじろいだのはアクィマの10メートルほど手前、一瞬の隙を突いて攻撃をねじこませるには少しばかりアクィマにとって遠かった! それゆえかアクィマは何もしなかったのだ!
「そうだ、向かってこい……!」
ティミミアの爪の一撃を剣で受け止め流し、アクィマはティミミアを蹴り、跳んで距離を取る!
「のがさん!」
今度は大口を開け、跳躍中ゆえ空中に居るアクィマを噛み砕こうと突撃する、一方アクィマは空中で剣を構え、そして。
「『突き』も、お前を貫くのだよ」
「ふん! 私の装甲を斬り裂けるお前に、なんの策もなく口を開けると思ったか!」
ティミミアの口、一見隙だらけに見えるその空洞から飛び出してくるものがあった! それは無数の岩! 溜め込んでおいた岩をマシンガンのごとくアクィマに放つ!
「クッ! うおわぁぁ!」
咄嗟に剣を振るって岩を弾こうとしたアクィマだが、無数に咄嗟では対処できない! いくつかの銃撃で血を噴き出し吹き飛んだ!
「そして追いつき噛み砕く! 死ねアクィマ!」
「くぅぅぅいぁぁぁ! この下衆女ァァァァ!!」
剣を持ってない方の左手を大きく振り回し、アクィマは『自身の血しぶき』を操り、ティミミアにぶつけた!
「クォッ! 目がッ!」
「後悔するぞ……私を追いかけてきた事を……!」
グシャ! 肉の潰れる音。目視が血によって阻害されたティミミアはがむしゃらに見当をつけて噛み付いたが致命傷にはなっておらず。アクィマの左腕、の薬指と小指、そしてその付け根をえぐり噛みちぎったことに留まった!
「ウグッ……ぐ、くれてやる、その指は手向けの花だ……私に『たてつくことだけのことはあった』証だ……ハァー、ハァー」
アクィマは着地がてらに刀を地面に思い切り叩きつけ、先端の刃をへし折り、その刃を手に取った。
投げようというのだ、鞘を投げた時と同じように、同じく着地し血を拭ったティミミアは理解した。しかしドラゴンの装甲がある今なら投げてきたその刃など、取るに足らないものにも見えた。
「ティミミア、お前は大した奴だよ、冒険者たちがやってくるまでの間、私達遠征組6人を同時に相手して負傷した、その体で私に傷を負わせた」
アクィマの左手の切断部分は、突如気泡と煙がブクブクと立ち、焼かれるようなその現象ののち、傷は溶接され血は止まった。
「きさま……やはりその能力」
ティミミアは目撃した。傷を治すその瞬間、アクィマの損傷部の周りを、超小型の、豆粒のように小さな、飛行している無数の『隕石』を! 赤く燃えており、熱と火の軌道を描きながら飛び続けるそれは、隕石としか言いようがないッ。隕石による熱治療、それがこの女にはある!
「無重力……衛生……隕石、繋がった気がするぞきさまの能力、オーパーツタイプUとは、宇宙だな? 『Universe(宇宙)』の意味をもつオーパーツだな、嫌なことだがそうとしか言いようがない」
「その通りだが、私の能力は実態が分かったところではどうしようもないものだ、そして」
アクィマは刀を振り抜き、背後からやってきた石の軍勢を切り裂いた。その石とはエクセルが発射させたレンガ群である、その石はまたしても無重力に放たれたがごとく、空中に離散していった。
「ティミミア! 私は何かものすごく嫌な予感がしている! ティミミア、きみは誘われてると思うんだ、追いつけそうな距離を保ってアクィマはきみを誘ってる、何か嫌な予感がする!」
「チィ、エクセルありがとう、だがアクィマが何か企んでいることは私も勘付いている、よく見ればこいつの体全身には無数の隕石がずっと飛び交っている、この隕石の役割は治療だけなのか?」
「そうだ、慎重になれよティミミア……貴様さっき私に『寸尺間違えた』だとか言ってたな、今のこの私の態度、間違えた者のように思えるか?」
「私は慎重さ、確実にお前を殺してやろうと考えている。お前が間違えていようがいなかろうが、私には関係無い」
「思い上がるな、お前はもう私に追いつくことはない、衛星が永久に惑星に触れられないのと一緒でな」
その瞬間、空中遥か遠くで爆発音が複数あった、地が少しだけ震える。ほぼ同時の爆発。この夕方に花火なんてありえない、ティミミアもエクセルも気付いていた、あの爆発は……。
「さっき私が発射させたレンガ群だ……! 空中を進んでいって同時に爆発したんだ」
「エクセルのレンガが爆発した……アクィマの持っていた鞘と同じように、だが早い……爆発までが早い、制限時間で爆発するのではないのか? まさか……」
ティミミアは歯を強く食い締めながら瞳孔開き息を荒くした。
「距離か! こいつの剣の風圧に触れたものは一定の距離を進んだのちに爆発を起こすということか! 一番最初の爆発もエクセルのレンガだったんだな、私が叩き落としたのちに爆発したものだったんだな」
「ティミミアのお腹で爆発した鞘は、ルゥザーより手前に居るアクィマが投げたものだったから、ティミミアが地面に落ちて、しばらく走った後に爆発したんだ……だ、だがっ!」
エクセルはたまらずティミミアに向かって駆け出しだ、スカートを両手でたくし上げ全力で走り向かった、嫌な予感が的中してしまう!
「剣にさわったものが、爆発してしまう現象……次に爆発するのは……直接斬りつけられたティミミアなんだ!! ティミミア、そこを動かないでくれっ!!」




