46話「ブラッドアーム・バニッシュ その1」
「……自殺行為か」
無残にも弾丸は、シェーヌを庇ったエルスが覆い被さるという結果となった。
「エル……ス……!」
「シェーヌさんが無事で……良かった……」
「庇って死んだか……だが、これでシェーヌを一応に守るバリアーは無くなった、次の弾丸で、シェーヌは死ぬように、なった。得策ではなかったぞ、庇って死ぬのは」
ヤミアは確実に、近づき、シェーヌへのとどめを刺そうとその銃を向ける。
「ばか、エルスは死んじゃいないわよ」
その瞬間、シェーヌの体が突如、強い光に包まれた!
「ヌッ、発光か! こいつの能力は『光の具現化そして武器の生成』だったな。光を集め形作る前に能力使用をやめて純粋に光だけを放出したな!」
「私たちは『冒険者』ってもんよ、冒険ってのは常に挑戦と成長の連続でね! 私もエルスも、能力にバリエーションが出来てしようがないのよ!」
「なるほど、その成長とやらで、その死んだと思っていたバリア女は『自分で自分にバリアをかけることが出来るようになった』と言ったところか」
「その、通りです……アクアトップコートの水を岩に張り、水に反射した自分の姿を見て、ハードネスを発動したら、成功しました」
むくりと起き上がりながらエルスは、自身の安否をシェーヌにもヤミアにも伝えた。
だが、防御できたという事実はあっても、ヤミアへの攻撃には繋がっていないつまり。まだ勝利には遠い!
「よく、耐えたわエルス……後は私の後ろに隠れてなさい」
「こちらにはまだ弾がある……一撃防いだなど、一夜限りの性的営みに溺れ、それを純愛だと信じて疑わない夜の亡者と同義! じき朽ち果て身は滅ぶ!」
ヤミアは闇の中から銃を構え、およそ約束された勝利に確信し、勝利と言う名の夜明けを脳裏に見る!
「あぁ? 性的営みィ〜? 急に下ネタですかあんた、暗い奴の急な下ネタほど反応に困るものは無いわっ! と同時に撤回してもらおうかしら、滅ぶなんて言葉は。滅ぶのは今現在これからあんたなんだからね!」
「ぬかせ、俺に二度目の過ちも、命中も無い、お前は俺の居場所を『なんとなくの範囲』でしか分からんわけだ。そして俺は静止もしない……光と闇は一方的に闇の征服だ! 光の世界から闇は見えぬが闇の世界から光は! 舐めるように可視だぞ!」
「今からでも、必死こいて逃げれば命は保証できるわよ」
シェーヌは光の弓矢を携え、そして『矢を2本』構えながらヤミアの方を向いて喋る。
これが警告だと彼女は言うのだ。しかしヤミアはそんなもの気にも止めない。シェーヌの攻撃が自分に命中することは、絶対に無い! と踏んでいるからだ!
「闇に沈め……二度と東から上がってくることも無いが、俺のボスへの貢献という聖夜になる、さあ死ね……!」
無慈悲な銃を向け、確信の勝利に胸を高鳴らせ……放つ!
「『歴史は夜作られる』この勝利が俺の人生の伝説となるんだッ!」
弾丸の連打! その弾幕は容赦なくシェーヌ達に向かい刺さる!
一方彼女達が取った、それに対する行動は……!
「アクアトップコート!!」
エルスの防御魔法、水属性のクッションを対象の体に張るその技を……シェーヌに!
「うっ、ぐああっ!!」
「やった! シェーヌの手首と腹に弾が命中したぞっ、これで弓矢は放てまい。そしてその出血、その水属性のバリアは先程の硬質化の魔法よりも『守る力が弱い』というわけか、土壇場で判断をミスったな、勝った!」
ヤミアは暗闇の中で勝利の確定を悟った。
「まだ、よ……既に構えていたこの2本の矢は……お前に放てるんだからね。弦を引く腕の力はもういらない……離し、放つ、だけだからだ……!」
「クク、2本だと! たったの2本、同時に放ったところで俺に当たるとでも? 『当てずっぽう』にもなりやしないぞ、お前の夜は満ちた。死という名の獣が、お前を狩る時だ!」
「アクアトップコート解除!」
エルスはすかさず水の防御魔法を解除! シェーヌの体から水が弾け飛び、当然、矢の軌道上にも『水』が!
「まず一本!」
そこに光の矢を放ち、その水に影響され、光は『乱反射』する! 一本のはずの光の矢はさながら矢の雨と化し、ヤミアが居るであろう一帯全てに、降り注ぐッ!!
「ぐおわあああああ!!」
「おー良い声で鳴きなさる、どこに何本刺さったかは知らないけど、もう動くこともままならないってとこかしらね。そして、今の鳴き声であんたの居場所は正確に分かった」
「ひいいいいい!!」
「さっき『獣があたしを狩る』とかなんとか言ってたっけ? むしろあたし今『獣をハンティングしてる気分』よ?」
シェーヌの『残った一本』が撃ち放たれる。もう外すこともあるまい、とどめの一撃。
「あ、シェーヌさん周りが明るくなりました、やった! やりました!」
周りの闇の景色は消え、元の昼の景色に変わる。残るのは倒れる血だらけの男のみ。
「どーにか勝ったわね、全く死にそうになったわ」
シェーヌは流石に疲れ果て、膝を地につき大きな息をひとつ吐く。
「夜なんてものは、人類がとっくのとーっくの昔に火という名の光が克服してんのよ。あんたの能力が闇の時点で、光のあたしに勝てるわけがあるかっつうの、バァカ」
このぐらいの悪態はつかせなさいよ。かのごとく、言ってやったりの顔でシェーヌは倒れこむ。
またエルスは、そのシェーヌに覆い被さり勝利を喜んだ。
ヤミア・ルクトシグレ……敗北。
残る幹部『3人』
「スカーレット気をつけな! こいつはかなりシンプルにパワフルで、スピーディーだぜ!」
一方ジャントは飛び回りながら、スカーレットにそう叫び忠告する。
「分かっているわ! だが心配ご無用、私はドラゴンとも戦ったことがあるの、だからこいつくらいの動きは避けられるわ!」
「ドラアァァァ!! 貴様らは俺がぶっ潰す! その頭がい骨をクルミのようにカチ割ってやるわア!」
既に戦いは始まっている! ジャントとスカーレットが協力して挑む敵は、ガイルゼという名の巨漢! 怪物のようなその巨体でパワー&スピードアタックをかけてくるのだ!
だがそれは序の口、忘れてはならないのがオーパーツ能力の存在だ! 彼のその能力は未だ不明!
「ちい、あいつの能力の正体を恐れて防戦一方になっちまってるぜ! あいつが手の内を見せてくる様子は無え……攻撃するしか無え! 鬼神色……炎ッ!! 燃やし尽くす!」
ガイルゼの振り抜いた腕、その隙を縫って繰り出された炎を纏った剣の一撃。確実に、ガイルゼの胸部を捉えた!!
「ウオオッ!」
しかし! ガイルゼの体を蝕むはずの炎は!
「こいつ! 俺の炎が体に引火しねえッ! 体に冷気を纏ってんのか!?」
「スキだらけだぞ! 貰ったア!」
「貰わせねーぜ!」
ガイルゼの至近距離での反撃、もとい拳を剣で受けきるジャント。その剣が纏う鬼神色は、青!
「熱がダメなら冷気で凍らせるぜ! 氷像にでもなりやがれ!」
「フハハ! 無駄だア、熱も冷気も! 効果は無イイィ!!」
「何ッ!?」
もう一方の腕を振りかぶり、ジャントの腹部を捉えたブローをおみまいする。この一撃、ジャントを軽く吹き飛ばすほど!
「ぐおわあぁ! コイツには氷も効かねえッ! こいつの体は冷えねえ、氷を瞬時に溶かしやがった!」
「取ったア! 死ねい!」
吹き飛ばしたジャントに追いつく跳躍力で眼前に迫るガイルゼ。
しかし瞬間、スカーレットの放つ銃弾に阻止され火花を散らし地面に崩れ落ちる。
「危なかったわねジャント! 私には亜空間から取り寄せたマシンガンがあるわ、頼って頂戴!」
「ゲホッ……助かったぜスカーレット、しかしあいつのマツボックリみたいな巨大な腕、銃弾も弾く硬度とは驚きだぜ」
地面にうちつけられたジャントだが、すぐに体勢を立て直し、ガイルゼに応戦するため剣を構える。あの腕は強度速度ともに殺傷能力高めの鈍器と道義。まともに食らわばとてつもない。
「だが、肉体は人間レベルだな、俺の剣とスカーレットの銃弾を受けたゆえの出血は多量みたいだぜ」
「グッ……ヌヌヌゥ……!」
ガイルゼは立ち上がり、垂れゆく血をものともせずジャントに飛びかかる!
「こいつ! 肉弾戦の直球攻撃しか脳がねえのか!? その腕力は確かにすげえことに変わりは無いが、それ以上に胴がガラ空きだぜ!」
ジャントは腕に目一杯の力を絞り集め、ガイルゼの胴、それもさきほど鬼神色の炎で斬りつけた深い傷のある部位を確実に狙う!
「一撃で胴は落ちるぜ!!」
「バカめが……勝った気で居たな……この俺にィ〜!!」
しかし! その剣は! ガイルゼの胴を傷一つ付けることは出来ていなかったのだ! 血塗りの胴に勝てぬ剣!
「こい……つ……何をしやがったッ!! 硬すぎる! こいつの体は硬すぎる!! 刃が立たねえ!」
ガイルゼの胴に刃が立たないということは、ジャントの上にガイルゼが覆い被さっている状況。丸腰のジャントの身に、巨大な拳の一撃走る!
「ぐあああぁ!!」
次は吹き飛ばないよう、ジャントの体を押さえ付けながら攻撃する!
「ジャント!」
スカーレットの銃弾がそれを阻止しようと向かうが、しかし!
「効かん、効かんなアァァ〜〜!!」
「そんな、体までもが銃を弾くだなんて、硬質化なの!?」
「この野郎ォ! 鬼神色! 電気と炎! 次はお前の体丸ごと火だるまにしてやるぜ!」
ガイルゼが銃弾に気を取られていた一瞬、反撃に一転。自らも危険だが、爆炎を巻き起こし先ほどを遥かに超える火力で挑む!
「ムダだ……効かんのだ、燃えんのだ、死なんのだ負けんのだァー!!」
「効いてない! こいつ爆炎すら効かねえのか! なら……!」
「遅いわァ!!」
ガイルゼの渾身の拳はジャントの首を捉え、そしてめりこむ!!
「ぐぅあああぁ!! 首がッ焼ける!」
おぞましいことに、ガイルゼの拳を受けた首は、高熱の鉄板に押し付けられたが如く『火傷』を負っていた。
またたくまに2撃目の拳も振り下ろされる!
「こい、つ、やはり高熱に耐性がある熱の能力なのか……! 鬼神色・青!」
冷気の刃でその一撃を受け切る事に成功! ジャントの体をガイルゼが掴み押さえつけているこの状況をどうにかしなければ、死ぬ!
「温度は相殺されたようだな、このまま距離を取らせてもらうとするぜ!」
防御成功を確信したジャントは、剣による速攻の2撃目をぶち当て、その反動でガイルゼと距離を取る作戦を実行する。
まずスカーレットと合流し、近距離と遠距離における役回りを練らなければならないからだ、とにかく距離さえ取れればどうにかなる!(と、思う)
しかし!
「なんだ!? 俺の剣が凍りついて……俺の腕ごと凍りついていく! いや、殴ってきたこの野郎の腕も凍っている! なんだ一体おかしいぞ、こいつの能力は『熱』じゃない!」
「フッ……熱も冷気も無駄だということだ!」
ガイルゼは凍りついたその腕でジャントを固定し、掴んでいた方の腕を離し、拳に力を込め振りかぶる!
「甘いな、鬼神色は青だけじゃないぜッ! 鬼神色の紫、毒もお前の体に送り込んでやったんだ! 麻痺毒で停止しやがれ!」
だがその拳は一切の静止を見せる事なく大胆に、ジャントの顔面側頭部にクリティカルヒットした。
「ぐおぁぁあ!! 毒も、効かない! 熱と冷気を操るだけじゃなく、毒もこいつには効かねえ!!」
その衝撃で氷が砕け、吹き飛ばされるジャント。タイミングよく駆けつけたスカーレットがその体をキャッチする。
「大丈夫!? ジャント!」
「なんとかな……だが俺の攻撃が通用しねえ……奴の体には刃が通ったり通らなかったりしやがる、一度傷をつけたところを狙うと異様に硬くなっていて刃が立たねえ……熱も冷気も毒も、無駄だったぜ」
「ええ、でもそれだけで分かったわ、彼の能力の本質……彼は自分のオーパーツのイニシャルを『B』だと言っていた。温度への適応、毒の無効化、出血した部位の硬質化」
その特性から導き出されるひとつの能力、それは!
「『blood(血)』ッ! あいつの能力は血を操る能力!」
「ホウ、分かったようだな、俺の能力……その実態を。マア分かったところでどうしようもないがなア」
血液。それは、ほ乳類、鳥類、爬虫類、さらには昆虫。大多数を占める生物に、無くてはならないとされる体液である。その特性、老廃物の運び出し、すなわち毒物の体外除去、免疫効果。そして体温調節の役割。
怒りと赤色の象徴であり、外傷への防御も血液のひとつの役割である。生物の象徴とも言える赤き能力を、ガイルゼは操るのだ!!




