45話「スモールフィンガーナイト」
「さて、いよいよこの奇妙な状況の原因が分かりかけてきたわ」
シェーヌは対峙する敵を見据えつつ、そう言い放つ。
「分かりかけて……って何がです?」
エルスは、シェーヌを守る為の防御魔法を発動する態勢に入りつつ、そう質問。
「この6人の幹部連中、どーやら同時に同じタイミングでこの組織に戻ってきたらしいじゃない? そんなことありえる?」
「6人一緒に出かけていたんじゃないですかね? たぶん」
「それも考えられるけど、私はどうも……『何者かがこいつら6人を呼び寄せた』と考えてるわ」
「誰が、どうやってです?」
「テレパシーかなにか、それを潜在的に使える人間が、この6人のきもちに入り込んで呼び寄せた、とかかしらね。いいや、今は今の戦いに集中しまっすか! こいつらを呼んだ戦犯が居るならばそのうち勝手に姿を見せるはずよ」
「わ、分かりました! いざ参りましょう!」
シェーヌとエルスが対する敵幹部の名は『ヤミア・ルクトシグレ』とにかく外見も雰囲気も黒い、だんまり無口の男。
「さて、あんたが何を考えてるかは知らないけど、倒させてもらうわよ」
シェーヌは光の弓矢を生成し、ヤミアを見据える。
「……」
一方のヤミアは黒のロングコートの内ポケットに右腕を突っ込みながら、ツカツカと歩いてシェーヌ達に近付く。
「シェーヌさん、奴の攻撃がいつ来るか分からないので、ハードネス(硬質化魔法)をかけておきますよ」
「さんきゅー助かるわ、短期決着させてもらうわよ黒男!」
矢を放つ直前、それよりもほんの数コンマ早く……銃撃音。辺りに響く。
シェーヌは突然の衝撃で、頭が後方に仰け反り、いくらか血を眉間から噴き出した。
「うああ! シェーヌさん!」
「能力よりも……」
ヤミアは淡々と歩みながら、淡々とした口調と低い声で語り始める。
「大抵の能力よりも強いものがここにある、敵の能力を考察したり、能力同士の駆け引きをするよりずっと手っ取り早く敵を殺せるものがここにある」
彼が右手に携えるソレは『銃』であった。シンプル。この上なくシンプルに殺傷能力の高い武器で、シェーヌを殺そうと試みている。
『能力バトルなんて、死角からスナイパーライフルで狙撃すれば能力使う前に殺せるじゃん、銃が最強!』なんていう素っ頓狂な持論で割り込んでくる者の如く、邪道に見せかけた王道の、戦法ッ!
「奪われるととても困るのが『武器』の辛いところ、だがその心配も……」
突然彼の周りに黒色の瘴気が煙のようにはびこり、辺り一面シェーヌ達の周りを覆い、ヤミアの姿はその闇の中にスッと消えた。
「俺には、皆無」
辺りに広がるは、しつこいほどの闇の空間。いわば『ここだけ夜状態』
だがヤミアの声も、足音も、銃弾の装填音も未だ聞こえるというのがひとつの不思議であった。いなくなったのではない、単に姿が見えなくなったのみ。
「消えた!? というか夜に閉じ込められた! 幻覚なのか? シェーヌさんどうすれば……!」
「がふっ……やたらめったらに撃ちまくったら当たりそうなもんね、音があるってことは、透明になってるだけのようだし」
「シェーヌさんよかったご無事で!」
「ええおかげさまで、しっかしハードネスの魔法も最強じゃないんだから銃弾なんて飛んできたら出血もするわよ。めちゃくちゃな挨拶してくれるわねまったく!」
シェーヌは衣服で自身の顔の血を拭いながら、弓矢を生成しエルスの前に立った。
「下がってエルス、できれば岩場の影にでも隠れて……防御魔法は私にしか作用してないからあんたが狙われたら」
シェーヌの声を掻き消すように銃撃音、おおよそ連続で四発。『やたらめったら』はヤミアの専売特許かの如く、それこそ下手な鉄砲。
「アッ!」
「エルス!」
…数打ちゃ当たる。2発の銃弾をその身に受けたのはエルス。ヤミアは既に回り込んでいた。順当に、エルスが狙える位置に。
「丸腰の女を撃つやつがあるかあんたはァ!」
即座にエルスの元へ走り、生成していた光のナイフを銃弾が撃ち込まれてきた方向に振り投げ、エルスを岩場の影へとすぐに運ぶ。
だが! 家畜をムチで打って弄ぶが如く非情な追撃、もとい銃弾がまた2発撃ち込まれてきた!
「うおおお!! こいつウゥ、マジに私らを殺す気だアァ!!」
銃弾を受けたのはシェーヌ! エルスを抱えるその二の腕に1発、直撃!
「ぐああ私の柔肌二の腕(右)がああ……! あんのやろうエルスを狙ってやがったわね、私が運良く盾になって……残念ね!」
半ば強引にエルスを岩場の影に放り込み避難させたのち、光の弓矢を構えシェーヌは辺りを睨みつける。
「さあ、来な……透明色のネクラホマミキサー」
辺りに物音は無い……ヤミアは依然、視界から消えている状況、この真っ昼間のはずの闇の中、草と木と自然の生い茂るのみの空間で。
「もっとも、あんたなんかと踊ってあげる人、物好きしか居ないでしょうけどね」
……ヤミアの声は帰ってはこない、辺りに広がるは風の音のみ……。
「ぐおおっ! ウオッ!?」
いやもうひとつ。ヤミアの悲鳴。
ヤミアは勉強不足だった、シェーヌの生まれ持った『武器』と言える特性を。
「殺意を持って私に向き直しなさんな、私は生まれつき『人の殺意とか悪意』に敏感でね、噛みつかずにはいられないのよ」
「ぬっ! フッ! ふぅっ、はぁっ……!」
シェーヌの生まれ持っての特性がここに役立った。ヤミアは渾身に物音を殺したつもりであろうが、シェーヌは殺意と敵意を察知できる特性がお有りである。
「しかし相性最悪ね……周りが夜となれば、私の能力の『光』の力は普段よりも弱まる……」
シェーヌが次の弓矢を生成し、構えた瞬間。更なる銃撃が襲う!
「ちィ~! どんだけ弾あんのよこのボケナス~!!」
シェーヌの脚に一発、銃撃が撃ち抜かれた!
体勢が崩れ、膝を地につく。弾数も威力も確実に向こうが上ッ。
「ぐあっ脚がぁ! こんな泥試合、私に一番似つかわしくない戦闘ね! ちくしょー!」
シェーヌはヤミアの殺意と敵意を頼りに、弓矢を闇に撃ち放つ!
「……フン!」
だがヤミアは辛うじてソレを避ける。シェーヌは大雑把にしか位置が分からない、ともなればヤミアは『攻撃するときのみ大きく移動していれば』シェーヌの攻撃は正確には命中しないというわけである。
「フフ、フ、夜は俺の味方だ、夜の獣に、人は勝てない……」
「こんの野郎……今は昼でしょ! 夜なのはあんただけよ!」
シェーヌは度重なる銃撃と、光の具現化を行いにくいこの環境により、みるみると体力を奪われていた。
暮れの太陽に目を奪われてるうち、時を数える間も無く沈み行き消える太陽の如く。今この戦いは、ヤミアという『夜の月』に支配されていた。
「フ、夜は、就寝と休養の時間だ……脳漿をブチまけてソレを頂け……永遠に、な」
ヤミアは弾を装填し終えた拳銃で、シェーヌの頭部を狙い、ある限りの銃弾をぶちまける!! シェーヌという冒険者の人生は、ここで『日暮れ』を迎えてしまうのかッ!
「うおわあああ! やめろおおお!」
「エ、エルス! 何してんの!」
突如岩陰から飛び出したエルスが、シェーヌを庇うようにして立ち塞がった!
ヤミア・ルクトシグレ
能力名『スモールフィンガーナイト』
オーパーツはN『Night(夜)』辺りを真っ暗な夜に変える。




