40話「やってくる」
間一髪。レイジの体力が限界ギリギリののち、組織最深部のガラス窓に到着! テレポートにて水中から室内へと移動し生き延びた。
「ぷっはあ〜! つっかれたわもおおおん! ちょっとレイジ生きてる平気?」
「生きていなければテレポートしていないだろう……」
「それもそうね、しっかし嫌になるわこんなびしょ濡れに晒されるとは、しかもここどこよ、ずいぶん地下に……うわぶっ!?」
突如レイジが起き上がりシェーヌを抱きかかえ押し倒し口を押さえる。
シェーヌが目をぱちくりさせて恐る恐るレイジの顔を見ると今までにないくらい深刻真剣な顔をしておったそうな(なぜか過去形)
シェーヌは内心ビビってしまった、そうか水濡れの女子は男の子を男の子たるものに変貌させてしまうと聞いたことがあるがここまで即効性があるとは。
「んっ、むう、う〜!」
「静かにしろ」
こわい。
よく考えれば男女入り混じって冒険ってそりゃあ……あっちの方向への冒険ならいつあってもおかしくないではないか。ああさらばシェーヌのヴァージン、略してさらヴァージン。
「ふう、もういいぞ」
「ぷはあっ! え!? 早漏?」
「なんのはなし」
「え、だって濡れ女の私に男になっちゃったんじゃ……」
「言ってる意味がわからないんだが」
しっちゃかめっちゃかな言動と態度になってるシェーヌに戸惑いつつも、一度息を吸って状況を説明するレイジ。
「さっき向こうの階段をのぼっていく人影があったんで隠れただけさ、背中にとても大きい異物を背負っていた……ドアを持ち運んでいたパドラルとかいう男とたたかったこともあるが、恐らくはオーパーツ使いだろうな」
「あっ、あ〜……なるほど」
「こちらの消耗があまりにも激しいから連戦は困る、のぼっていったあいつは上を目指していたし恐らくは俺たちに差し向けた新たな刺客と言ったところか」
「じゃあ……それをジャント達に知らせないといけなくない?」
「その前に組織のボスの様子を見てこようじゃないか、スカーレット達もこの奥に居るはずだしな」
蹴破り開けられた無残な扉。その向こうには薄暗い明かりが点いていた。
「能力の封印が成功したのならトシマ1人でも仕留められそうだし、もう終わっていそうねえ」
レイジ達が部屋の中に足を踏み入れると、その部屋にまた一つの壁穴が空いていた、そこには明かりがしっかりあるようで、薄暗い部屋では眩しく感じる光が漏れていた。
「この部屋にスカーレット達は居ない……あの光が差す部屋か」
レイジとシェーヌは駆け足でその穴をくぐり抜け、ガラスの散乱した殺風景な研究施設的な部屋に辿り着いた。
しかし散乱しているのはガラスだけにあらず。血だまり。そして倒れている2人の人間。
それを視認するや否や、シェーヌは叫んだ。
「トシマ! ノドカ!」
すかさず2人に駆け寄るが、出血多量で意識は無い。ほっておけばすぐ死ぬ状態だった。
レイジはすぐさま周りを警戒する、だが誰も居ない、彼らが戦ったはずの組織のボス、チロシンキナーゼはもうここに居ない。
「あいつか」
レイジは即座に理解した、レイジが目撃した階段をのぼっていく人影。それは……ノドカ達と戦い終わったチロシンキナーゼ本人!
「どうして!? ノドカは敵の能力を封印できるはず! なのになんでこうなってるのよ!!」
「理由は分からんが……能力の封印に耐性があるのか、それとも……能力を使わずしてノドカ達を仕留めた、か……!」
レイジはその瞬間、天井に空いた穴を目撃する。思えば何故かスカーレットだけはここに居ない。もしやあの天井の穴から逃げ延びたのか? とても人が通れる穴には見えないが……!
「俺のテレポートは先の風景が見えてさえすれば移動できる……あの穴から上の階の天井と壁は、見えるッ!」
レイジはテレポートで天井の小さな穴から上の階へと移動した! そしてシェーヌに向かって声をかける。
「シェーヌ、そこで待っててくれ! 俺はスカーレットを探し……」
その瞬間、レイジは見てしまった。地面に転がるものを。
異質そのもの、その地面には……血だらけの腕が、転がっているではないか!
「う、なんだ!? これは、誰の、だ!?」
これこそ、スカーレットが最後に託した希望らしい。それはスカーレット自身の、腕。
スカーレットは下の階からここに自分の手を投げていたのだ!
「ちょっとレイジ! スカーレットは見つかったの!? おい! 返事ィ!」
レイジにその声は聞こえては居なかった。
と、言うよりレイジは既にシェーヌの声が届く所からは消えていた。
レイジはまたテレポートを使い、その場から消えたのだ。 直前にシェーヌに向かって『黙ってそこで待っていろ、ぜったいにしゃべるな』と念による言葉を送って……!
「ハア……ハア……どうかしている、俺はどうかしている、なぜこんなことを……!」
レイジが余裕もなくその場からテレポートで逃げたのには理由があった。 レイジが腕を発見した直後、彼の背後には既に彼が現れていた。そう、スカーレットの腕を確認しにやってきた『チロシンキナーゼ』が……!
そしてレイジが逃げ走りながら焦りの声と吹き出す汗に悩まされているのにもひとつ理由があった。
彼は無意識のうちに持ってきてしまっていたようだ、スカーレットの腕を。
なぜ回収したのかわからない、そもそも誰の腕かわからないのに無意識のうちにその腕をもって逃げ出してしまっていたようだ。
「だが運がよかった、この階はずいぶん入り組んだつくりをしているようだな、テレポートを駆使すればボスからはひとまず逃げられそうだ。チロシンキナーゼの能力がわからない以上真っ向からの対峙は危険だ、さて早くシェーヌと合流しなければ、ノドカとトシマも助けられる方法がひとつある」
入り組んだ廊下の壁に力なくもたれ、息を整えこれからの行動を模索するレイジ。
周りにじゅうぶん警戒し走り出そうとした瞬間。
「う……?」
レイジの両膝はパックリと裂かれ血が吹き出していた、気付けば立てなくなり地面に力なく倒れる。
「いやあテレポートはやめておくれよ、止まった時の中でずっと君を探していたんだよ」
チロシンキナーゼの声がやってきた。
一方ここは外。組織OPT本部の入り口付近。
ティミミアとエクセルが『門番』をやってる状況だ、冒険者達は組織の幹部を全員倒したわけではない、遠征している幹部がフラッと本部に帰ってきて、ボスに加勢されてしまうかもしれない。
「と、いうことで私たちはまだ門番をやっているのです! しっかし誰も来ないねぇティミミア」
「そうだなエクセル、しかしこの虚無の時間こそ油断ならぬ瞬間だ。冒険者達がボスを倒してもどってくるのを信じよう、特にスカーレットとは一杯やると約束している」
「げっ、ずりぃ」
「私はエクセルも愛している」
「どんなタイミングで言ってんのあんた。もしかして私も連れてってくれるってこと?」
「そうそう、そういうこと」
「約束してよ? 私は組織無くば独り身なのだから、私はかなり賢くて節制も利くけど寂しいのはきらいだ」
「口上の約束なら飽きるほどしてあげよう、独り身は私もだ。できればき、きみと二人身になりた……ん?」
「急に何を言おうとしてたんだろうねえ……どうかしたのかい」
ティミミアは目を凝らしキョロキョロと辺りを見渡し、疑問の表情で後ろ髪をさわさわと掻いた。
そしてエクセルに顔を向け、首を傾げながら質問する。
「今……なにか不明瞭な、煙とも蜃気楼とも言い難い物が見えなかったか?」
エクセルに疑問の表情が感染した、そしてため息をつく。
「あぁ、またいつものポエム? どういう意味なん?」
「ち、ちがう! そのまんまの意味だ、さっきうっすらと何かが私たちをすり抜けてどこか遠くへ消えて行ったのだ! 人の形をしているようにも見えたぞ……」
「うーん、オーパーツ能力の何かじゃあないかなぁタイプGでゴースト、霊能力者だったりしてね」
「Gはグラビティーのアビスが居るだろう、あと幽霊なんて幻だ、この世に居るわけがない」
「急に主観で語るのやめなさい、てか多分ドラゴンも基本的に夢幻だと思うんですけど? あ、でも通り抜けて私たちに影響ないってことは……幻か、タイプFのファントムってとこか」
「ファントムの頭文字はPだ、しかもPはプロトスだ」
エクセルは舌打ちして斜め下に顔を背けた。
「とにかく私には何も見えなかったっ! ティミミアの空目だよ、そらめ!」
「……そら、め?」
ティミミアは眉間にしわをよせ、エクセルをじろっと睨みつけた。
「あわわっ! 怒んないでごめん! ち、ちがうちがう、えとっ見間違いだよ見間違い! 重傷あがりだから仕方ないよーアハハ」
「そらめって初めて聞いた、どういう意味?」
「もうお前と会話したくない」
……そんな彼女らのもとに、遠方から何人かの男女が歩き迫っていたのだが、まだ彼女達は気づかない。




