41話「邪悪なリベンジ その1」
組織内のはるか地下。チロシンキナーゼと対峙してしまったレイジは!
「うッうおあああぁ! テレポート!」
両膝を裂かれ噴き出す血、歩行不可能を表すその怪我でまともに戦闘など不可能である! よって、逃げるしかない!
「テレポートは俺の気によって使える移動手段、足は使わない、この体力尽きるまで逃げることができる!」
レイジはテレポートを力の限り連続使用、なんと言われようとも逃げる、今はそれしかない。休みさえしなければまず追いつかれることは、ないはず!
そしてその逃走の最中、レイジはチロシンキナーゼに対し一つの恐怖を秘めていた。
「あいつは時間を止める的な発言をしていたが……それは違う、あいつは『止まっているに近い速度まで時間を遅くできるのだ』もし本当に時間が止まれば、物に攻撃したり移動させたりすることは不可能なはずだ、最悪、自分自身も動けないかもしれない。攻撃するとすれば、攻撃する寸前に時間停止を解除するはずだ、だが俺は瞬間で両膝を裂かれていた……あいつは、能力として最悪の力を持っている!」
しかしこのまま逃げ続ければ自ずと上階へ、上階へと進み、最上部に居るジャント、ガレン、エルス、アリシア、ウツリにチロシンキナーゼの被害が及ぶ。
時間をほぼ止める奴の能力に対抗できる能力者は……今は仲間の誰にも居ない。
「上に上り切る前に、戦わなければならない、ケリを付けなければならない! 勝たなければ、ならない!」
レイジは意を決しテレポート移動をやめ、地面にサイコビームを放ち地面をぶち抜く!
爆音、辺りに響く。それはチロシンキナーゼにとってはレイジの居場所をあっさりと割る現象であった。
「来い……チロシンキナーゼ、音を嗅げ、獲物を感じろ、命を焦がしにやって来い。けりはつける、ここで終わらせなければならない!」
レイジは両手を構え、両手から『サイコビーム』を放つ、それも絶え間無く放つ!
張り詰めた糸の如く、絶え間無く二つのビームを振り回しチロシンキナーゼを待つ。
両腕からのビーム、名付けるならば『サイコ・トゥー・ストッパー』!
レイジの思惑通り、チロシンキナーゼはやって来た。 もちろん、ほぼ止まったその時間の中で。
そして彼はレイジを視認する……エネルギーを放出し続けるレイジを!
「ほう、考えたなこれは、止まった時の中でもエネルギーは存在するし、つまり熱もある、この止まったレーザーに当たったら俺は死ぬな、さて回り込んで背後から殺すことにするか」
チロシンキナーゼはレイジのレーザーを避け、腕をレイジの首に近づける。
「いや、殺した瞬間に体が仰け反ってレーザーがこちらを向くかもしれない。一旦時間を動かしてレーザーを出すのをやめるまで待つか?」
床や壁にあるレーザーによる破壊痕を見るに、時間を動かしたところで振り回されるレーザーにおおよそぶち当たるのは明確だった。
「ふん『オーパーツ』を使うしかあるまい、俺のオーパーツ……タイプ『S』を!」
するとチロシンキナーゼの背負う大きなオーパーツが怪しく光り出し、そして『レイジのレーザーを吸い込む!』
エネルギーを吸い込み尽くすその様は、まるでチロシンキナーゼへの献上! 当たり前のように、当然のように! エネルギーは全てチロシンキナーゼのオーパーツタイプSへ吸収され消えた!
「なッ……サイコビームが、消えた!?」
動く時の中、レイジはようやく自分の状況を知る、サイコビームは消え、自身が地面に這いつくばりになっている現状を。
「バカ……な、こいつ、普通じゃない……!」
「普通じゃないのが能力者というものだ、そして、一番普通じゃないこの俺が、この世界で一番強い」
「オーパーツの力で俺のサイコビームを消したか、ならこれはどうだ!」
レイジはチロシンキナーゼの隙を見て必殺の『エクストラビーム』を撃ち放つ!
圧倒的至近距離、勝ち誇りの時間を設けたチロシンキナーゼの圧倒的な『油断』! この距離での必殺技を許してしまったというわけだ!
「オーパーツはタイプS……その意味はひとつ」
……しかしチロシンキナーゼは死んではいなかった。
「そんな、効かない!」
「Sacrifice(生け贄)ッ! 生け贄とは無限の供給と恐怖を意味する。人知を超えるものへの献上、人類を超越しものへの降伏、俺が持つオーパーツはその証を現す。全ては俺という人間に供給される、それが能力」
「まさか、エネルギーの吸収と、活用か……俺の『気』によって放出したサイコビームさえも吸収するとは、勝てるのか……こいつに!」
「勝つ必要は無い、いわゆる俺はお前らにとっての『無敵キャラ』ってやつだな」
「俺たちは……その『無敵』かとも思える敵を幾度も倒してきた、俺たちはお前を倒せる! その気持ちだけは決して揺るがない!」
「気持ちというのは揺れるものではない、欺くものだ。心情に変化などありえない、レイジ、お前は生まれたその時から孤独なのだ、仲間など最初から作れては居ない」
「なんだとォ……」
レイジはテレポートでチロシンキナーゼの背後に瞬間移動。そしてサイコビームを放つ!
「……無駄だ。お前は俺の時間の中に居る」
チロシンキナーゼはそれさえも見切っていたのか、あっさりと『クロノスタシス』で避けていた。
「レイジ、お前は何故仲間が居る所まで逃げ切らなかった? お前は心底で仲間のことを『弱く、役に立たない』と思っている、信用などしていないのだ」
「何が、言いたい……何故俺にとどめを刺さない? お前の目的はなんなんだ……!」
「俺はただ、お前たち冒険者には『傍観者』になって欲しいだけなのだ。俺の冒険の目的は『世界を終わらせること』オーパーツがあればそれは叶い、そして全員消える、それを見届けて貰いたい。ただお前たちに『傍観者』になって欲しいのだ」
「何故それが俺たちだ!」
「お前らは俺にとって最初で最後の、敵だからだ」
瞬間、光の矢がチロシンキナーゼを貫く、全くの死角、背後からの一撃。
「なーにダラダラ喋ってんのよあんた」
「シェーヌ!」
その攻撃の主はシェーヌ! 待つことが酷く嫌いな彼女はノドカとトシマを引きずってレイジを探していたのだ。
シェーヌは倒れこみ意識を失っているチロシンキナーゼにトドメを刺そうと、光の矢を5本一気に装填して構える。
「一生狭い世界でやってなさいバーカ」
容赦無く全てを撃ち放つ、五本全てがチロシンキナーゼを捉える!
ようにも見えたが、彼のオーパーツから霧のようなものが現れ、その光の矢を飲み込んでしまう。
「このオーパーツの中のエネルギーが、チロシンキナーゼを守っているのか……!」
レイジの言う通り、これは捧げられたエネルギーの具現化! 贄となったエネルギーはチロシンキナーゼの体の一部。
チロシンキナーゼが死ぬことを、エネルギーは認めない!
「エネルギー? なにそれ?」
「こいつのオーパーツ能力だ、エネルギーと生命力を吸収し、そしていつでも取り出せる」
「ん? 『しまう/とりだす』みたいな? ムラビトォ〜?」
「ノドカは俺が運ぶよ、2人ももってきたのは重かったろう力を貸そう」
「苦笑いしながらスルーすんな」
レイジは念動力で足を動かし、半ば強引にその場を立ち去る。シェーヌと共に。
これからどうするかは考えていないが、とにかく今は意識のないチロシンキナーゼから離れることを考えていた、とにかく勝てないことだけは明確だったからだ。
そんな複雑な心境のレイジの耳元でシェーヌが大いに叫ぶ。
「うわっ!? えっ!? レイジッ!? その手に持ってる手はなに!?」
そういえばレイジは謎の手を持ち歩いていたのだった。そりゃ驚くのも無理はない、レイジは腕を持ち歩く設定のキャラではないし。
「いや、これがわからんのだ、手が落ちてたから何故か持って歩いてしまって……」
「……レイジの名前の由来ってもしかして『クレイジー』?」
「狂ってると言いたいのかっ!」
その瞬間、レイジがもつ謎の手がピクリと動き、それに驚いた二人は手を空中に投げてしまった。
かとおもえば、手は空中に留まり、留まったかとおもえば、空間に穴を開けよったのだ。
「この能力は……!」
するとその穴の中からスカーレットが飛び出し、地面に力無く落ちる。
この手はスカーレットの腕、亜空間を開けることができるのはスカーレットの腕のみ。亜空と現世を繋げる条件は満たしたというわけだ。
「スカーレットは亜空間に逃げ込んでいたのか……! だが酷い出血だ、はやくなんとかしないとやばいぞ!」
「とは言ってもねえ! 治癒能力をもってるのは上に居るジャントだけ、ここまで怪我人が増えたら上の階からジャントを連れてくるしかないわ!」
「早いところチロシンキナーゼから離れたいところだが……それしか無いな、ここは任せておいてくれ、シェーヌの方が健康体だから速い」
「任せときー! トシマはここに置いておくからちょっと待ってなさいっ、帰ったらダメよ!?」
「どこに帰るの」
シェーヌは身軽になった解放感と共にダッシュで上の階を目指して走る!
そしてあっという間にエルスやジャント達が待つ上の階へと辿り着いた。
「あたし、参上っ!」
「あっ、シェーヌさんっ!? 無事だったんですか!? ていうかあれ、この下の湖に落ちたはずでは……」
シェーヌのいきなりの帰還に素っ頓狂な声をあげて驚くエルス。
「おう、無事だったか……シェーヌも」
そう言葉を放ったのはジャントだった、意識を取り戻していたようで、壁に持たれかかりぐったりしていた。
シェーヌが「まあね」と二つ返事をしつつ辺りを見渡すとアリシア、ガレン、ウツリも無事であり、ひとまず安心。
「さてしかし、ジャントにはお願いがあるの、下の階でレイジもスカーレットもトシマノドカも重傷患者なのよ、ジャントの鬼神色の力が必要でね」
「あ? あ〜……わかった、俺も重傷患者に近いからよ……俺も回復したいから誰かそこに落ちてる剣取って、動けない」
「アイアイサー」
シェーヌは地面に落ちてる剣を拾い、ジャントの所へと歩く。
鬼神色・精の力があれば人間の回復が可能だ、ジャントが復帰すれば仲間は皆救われる、万全の体制へと戻るのだ!
だが、この部屋には1人『侵入者』が居た。この部屋に『潜む』誰かが、心の中で呟く。
「ククッ、馬鹿な奴らね、私の変装に全く気づかないなんて、さァて誰から殺してあげようかしらァ。まあ順当に、最も憎いあのガキからブチ殺すとしますかねェ、こいつら一行全員重体と確認できたとあれば怖いものは無イイイィ」
『ソイツ』は右腕の爪を突如伸ばし、さながら五本の鎌のようなソレで『ジャント』の顔面と首に斬りかかった!!




