37話「クロノスタシス その1」
「くゥゥゥ~……ジュニエイトォ! ジュニエイトォ~!!」
叫びを散らすジョルディ。彼がジュニエイトの援護に迎えなかったのにはひとつ理由があった。
意識を取り戻したウツリのロングカーマーの攻撃が、ジョルディを背後から襲い、足止めしていたのだ。
そして爆発攻撃をしようとするジョルディをガレンがスピードで錯乱。結果ジュニエイトはジャントに敗北したのだ。
「てめぇらアアッァッ!! ジュニエイトをッ俺の相棒ヲヲヲ!!」
「私を倒したと思ったか! ノドカと旅を終わらせるまで、死ぬわけがない! あんたは油断したんだ!」
「ヒャハハハボケカス虫くずやろー! 俺を見くびったなこのやろーヒャハハ!」
シェーヌは横の髪を梳きながらジョルディに叫びを散らす。
「相棒を失った悲しみを噛み締めろ! あんたみたいな悪党の数十倍の苦しみを! ジャントは味わった、そして勝ったんだ! さぁ、あんたが負ける番よ!」
組織OPT本部の地下のそのまた地下、最深部に居るボスを討つ為にノドカとスカーレットとトシマは走っていた。
突如飛び出してきた虫の魔物を『反発蹴り』で吹き飛ばしたノドカは口を開く。
「ボスの部屋までは随分ひまなようすだな、魔物以外は何も居ないのは助かる!」
気味がわるいので地面に落ちた虫の魔物を、螺旋ボールで吹き飛ばしたトシマも息を切らしつつ喋り出す。
「ボスは俺たちの接近に気づいているだろうか、スカーレットさんが言うにはボスの能力は戦闘特化の攻撃能力なはず、だから気の察知とかそういうのはできないと思うけど、最深部に居るのが『ボスだけとは限らない』しなぁ……」
先陣をきり、トシマとノドカを案内しつつ走るスカーレットも、トシマの言葉に反応し口を開けた。
「そうね、ボスは自分の力に慢心しつつも、警戒を怠らない抜け目なさも持っている……そして人を信用することは決してない……組織の面々は皆、ボスにとっての都合のいい駒、実験材料に過ぎないわ」
「ってことはボスのそばに能力者や味方は居ない……ってことですか? いやーよかったよかった」
「違うわ、トシマを襲ってきた『アビス・エンプティロード』と『レイター・ドゥルーフミッグ』のように、私達冒険者に『純粋単純な恨み』を抱いた奴をけしかけてくるはずよ、ボスへの謀反を考えないような恨みだけの能力者……」
「なるほど、それは用心しなければならないな、ところで俺がひとつ気になるのはこの魔物達だ、何故俺達を狙って襲ってくる? 飼いならせるものでもあるまい、誰かが操っているのか?」
「魔物を操る能力者……そんな奴は組織の幹部には居なかったはずよ、私が知らないオーパーツ使いが誕生した可能性もあるけれど、すくなくとも私が組織に居た時はそんな能力……」
突如スカーレットは眉間にしわを寄せ、深刻な顔つきに変わった、しかしそれを言葉にするでもなく。「いや、思い違いだったわ、多分別の能力者がどこかにいるのでしょう」とでも言って、今の話を打ち止めにしようとしたその瞬間。
ものすごい音が鳴り響いた、スカーレット達が向かっている道の向こうから、こちらへ向かってくる継続的な打撃音のようなもの!
そして壁を何者かが凄いスピードで走ってくる、動物なのか人間なのか!
「な、なにかくるわッ!!」
「なんだあのスピード!? 新手の魔物かぁ!?」
「トシマ、スカーレット、攻撃に備えろ!」
三人が臨戦態勢を取る中、その迫るものはスピードを一切殺さず……。
「ヒヒヒッ邪魔だ邪魔邪魔ァ〜!!」
「ッ……! 言語を……! 人間か!?」
突如喋ったその物はトシマ達との応戦とは別の目的があるらしく、凄い勢いですれ違い消えて行った。
「な、なななんだ今の! 人間だったのか、敵なのか!?」
「恐らくは敵、か、すれ違いざまに肩をやられた」
ノドカの左肩には、浅いものの、刃で切り裂いたような傷が出来、血が滲んでいた。
「ノドカ大丈夫!? でもあいつ、私たちに興味が無いみたいね、私たちが来た道を逆走して消えて行ったわ」
「スカーレットそれって! 上で戦ってるみんながヤバイってことじゃあ、この事を知らせた方がいいんじゃ!? みんなに!」
「あの速度ではどうしようもないわ、上にはジャントも居る、レイジも居る、大丈夫よ。『あの女』は彼らに任せましょう、急ぐわよ!」
スカーレット達はただひたすら突き進み、そうしてついに辿り着いた……組織のボス『チロシンキナーゼ』の部屋の目の前に!
ボスの部屋に辿り着くまでにいくつの階段を降りてきただろうか、直線距離にして地下30mほどであろうか。
最深部の階の周りは透明の壁に包まれていた。そこから見えるのはまるで、海の景色。地底湖と直結したつくりになっているというわけだ、まるで水族館のような気分が味わえる。
「わぁ〜すごいっ! 水圧とかどうなってんだろ、とにかくすごいなぁ!」
「浮かれてる暇は無いわよトシマ、準備はいいかしら」
「あぁ、兎にも角にもボスの『能力』を封じる事が先決だな、俺が持つオーパーツ、タイプKで」
「ええ、それがあれば敵の能力を封じられるわ」
「だがひとつ注意することがあったな、アビスという能力者を退け、トシマと合流したあと、上で戦ってるジャント達の元へと俺たちは戻った。オーパーツKで、あの見えないバリアを消失させることが出来ないかと思っての事だ、だがダメだった、バリアを消すことは出来なかった」
「そう、オーパーツKはあくまで『能力者本人の能力の発動を止める能力』であって『能力者が出したバリアや物を消すことは出来ない』能力者本人がオーパーツKの射程距離に入っていなければならないというわけよ」
「ノドカが俺を重力使いから助けてくれたときは、距離的に3mくらいだったかな」
「ああ、射程距離は恐らく5mに満たない程度……だろう」
「一気に近づいて有無を言わさず能力を封印するのよ、そうすれば勝機はある、さぁ、行くわ!」
スカーレットは勢いに身を任せボス部屋の扉を蹴破り内部へと侵入する。その後なだれこむようにすかさずトシマとノドカも突っ込む!
内部は薄暗い、三人は部屋に入るやいなや、すぐさま三手に別れ直進し、ボスを探す。必ず居る、なにかおぞましい気配がしてならないのだ。そうして部屋の薄暗さに目が慣れてきたその瞬間……。
ボスは、居た。
部屋の真ん中にある質素な椅子に腰掛けていたのだ、そしてゆっくりと立ち上がり、迫ってくる三人に向かい立った。
その姿、異様。背中に何か巨大な物を背負っている、こいつの後ろに『門』でもあるのかと思うような、甲羅でも背負っているのかと思えるような物。光を不気味に放っている。この異質感、オーパーツに違いない。
「もう来たのか、歓迎しよう。上で「Time」の能力者と「Lamp」の能力者を向かわせたはずだが、掻い潜ってきたというわけか」
そいつは慌てる様子もなく両手を広げて、目を見開き歯を見せて笑っていた。
「たいむ?らんぷ?わからんがとにかく何かしてくるぞこれは!」
トシマの思わず漏れ出た叫びと……同時に!
「いや、何もさせない! ロック・オン!」
ノドカがボスにオーパーツKを発動した!
「とりあえず螺旋ボール!」
トシマは能力の封印が成功したことを視認してすかさず螺旋ボールをぶん投げる!
だが慌てすぎてぶざまにも外す、ボスは特になにもしてないのに!
「あちゃ〜」
「こらトシマ! ばか!」
「ごめん」
「お前ら、この俺に何をした?」
スカーレットとトシマの夫婦漫才的な雰囲気に割り入るように、ボスからの質問が投げかけられる。
スカーレットは亜空間を開きながら、ボスへと睨みをきかせ、応える。
「ボス……いや、チロシンキナーゼ、あなたの能力は封印されたわ! オーパーツKによってね! そして躊躇はしない、三人がかりだが滅多打ちにさせてもらうわよ!」
「オーパーツK……確か、能力の封印か。倉庫に隠していた、はず。あらかじめ準備していたのか、裏切り者が結託していたということか、すごいもんだ」
スカーレットは亜空間から複数の物を一気に引きずり出した!
数々の銃! スカーレットはそれを手に取りすかさずぶっ放す! 更に剣、槍、鋭利な鉄屑も飛び出してきてチロシンキナーゼを襲う!
「これは防げん、防げないなら避けるまでだ」
随分冷静な物腰で語っているが、チロシンキナーゼは全速力で走りながら、部屋の壁を蹴り壊しつつ超逃げてる。
「うごわ」
壁の向こうへ逃げる直前に銃弾と鉄屑が命中、されども勢いを止めず必死に逃げる逃げる。
「トシマ、追いかけるぞ! 消耗させ確実に潰す!」
「おう! 今度は外さないぞ!」
「行くわよみんな!」
ノドカは地面から集めた砂鉄で作り出した剣を構え、トシマは螺旋ボールを二個作り両手に準備、スカーレットは銃(どこで手に入れて亜空間にしまってたかはわからないが)を構えながらチロシンキナーゼを追う。
こいつ1人さえ倒せば組織は分散する、トシマの師匠の言う、世の破滅も無くなる、平和な世界の為にあいつは『倒さなくてはならない!』




