35話「オール・タイム・ロウ その2」
「ジャント、砕けろ」
「うッうおわああぁ!!」
ジャントは大剣をジュニエイトが振り抜く巨剣から守るように構える!
「無駄よ、私の剣はオーパーツでも砕く、そして砕けろ」
凄まじい威力の水平斬りがジャントに炸裂する!
「ぐくっ、うああぁ!!」
その威力の凄まじさ、プロトスを砕きそしてジャントをも両断する勢い! だが!
「策は講じてあったぜ! 青の鬼神色、氷の能力で地面を凍りつかせた! 滑りが良い地面は! 本来俺をバラバラに砕く程の威力を受け流し、ダメージを半減させる! 刀の名人も、地面に固定されてない畳は切り裂けないのと一緒さ!」
「ぬ、こしゃくな」
「こしゃくなのはまだまだこれからだぜ! プロトス! 鬼神色氷の弾丸をあいつに放つぜ!」
「了解だ! 銃に変形!」
ジャントは氷の弾丸を無数に撃ち放つ! 攻撃を防ぎながらの攻撃!
だがしかし! 相変わらずジュニエイトにヒットしたはずの攻撃群は、何事もなかったかのようにジュニエイトの体に触れた途端に地面にポロポロと落ちていく。
「く、やはりだめか! ジャント、安全を考慮して大剣に戻るよ!」
「炎、電気ときて次は氷、か。無駄よ、私には如何なる攻撃も効きやしない」
ジュニエイトはそう言うと地面に力なく落ち散らばる氷の弾丸を足でいとも簡単に砕き、大剣を構えジャントを睨みつける。
ジャントはしばらく何も喋ることなく、ジュニエイトの顔から目を背けず、数秒経ったのち唾を飲んだ。
「ダメだったか、やっぱり……!」
「ジャント、何のこと?」
「俺は氷の弾丸の中に、紫の鬼神色、麻痺毒の効果を付加させていたんだ。レイジと戦ったアビスとかいう無敵バリア能力者は、足元が弱点だった。このジュニエイトというやつも、地面との接着面である足の裏だけがウィークポイントなんじゃあねえかと思ったんだが……違うみたいだぜ。万事休すか、本当にあいつは無敵のようだ」
「ジャント、それはまだわからないよ、ジュニエイトの行動をよく思い出して見るんだ。彼女は電気の臭いに不快感を示した、そして呼吸もしているようだ。空気や臭いは微粒子だ、最小と言える細かいものだけは、ジュニエイトに通用するんだ、きっと!」
「おいおいプロトス、悪いが俺の鬼神色に、微粒子を操る能力は無いぜ?」
ジャントが頭を悩まし、次の一手を考える刹那、ジュニエイトの突進が再びやって来た!
そして、同じ手ではない! 剣を下方向に構え、斬り突き上げる気だ! 水平斬りなら氷でなんとかなるが、縦方向の斬撃は防ぎ手がない!
「ま、まずい! むしろ防いだら俺は奴の腕力で空中に投げ出され、そこを突かれる!」
ジャントが咄嗟に選んだ鬼神色は茶色! 地面を揺るがす能力を持つ鬼神色で、ジュニエイトの足元を狂わせ、その隙に逃げる作戦!
「無駄よ、あなたがなにかしてくることは……予想外、ではない」
ジュニエイトはジャントに剣が届く距離……の数歩手前から、剣を振りかぶり……投げるッ!
渾身の剣投げ! ジャントの鬼神色の範囲外からの攻撃である。地面に力を加えてるジャントはもはや予想外、全くの丸腰にジュニエイトの剣が飛んできたというわけだ!
「な、何ィー! な、投げる奴があるかァー!?」
「うおおぉ! ジャント危ないッ!」
「おい! プロトス!! 何を!」
突如プロトスは大剣の姿から、盾の姿に変化し、ジャントの前に立ち塞がった!
身代わり、ジャントに死なれるわけにはいかないという無心の身代わり!
「ぐあぁぁあぁあ!!」
だが、地面をも安易に砕くジュニエイトの怪力乱心に勝るわけもなく、防げるわけもなく、硬化を施されたプロトスの体は安易に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「プロトスぅ!!」
「よそ見してる暇があるのか? 剣はプロトスに行ったが、当の私も突進してきていると忘れてもらっても、困る」
「てめぇ! よくも、よくも俺の相棒を!」
ジャントはすぐさまプロトスからジュニエイトに向き直し、拳を握り締め、迫り来るジュニエイトに迎え撃つ。
女でありながらジャントを越えるその長身、体格。誰もが臆するであろう状況に、ジャントは怒りで勝った。
渾身の拳一撃を、ジュニエイトに向けて放つ!!
だが!
「効かんな」
やはり、ジュニエイトの体には傷一つ無し! ジャントの拳はジュニエイトにピッタリくっついているはずなのに! 効いてはいないのだ!
そして戸惑い困惑するジャントに、ジュニエイトのカウンターパンチが炸裂する。
「ぐはあッ!!」
力無く吹き飛び、地面に背中から叩きつけられ、叫びをあげる。
いかなるパワーにおいてジャントは負けていた、ジュニエイトに勝つ術は、毛頭無いように感じた。
「プロトスは、私の剣をまともに食らって剣ごと壁にめり込んでいるな、いよいよ死んだかな、ジャント、ダウンしているところ済まないけれど、あなたも死んでもらうとしよう」
「嫌なことだぜ、そいつは……!」
「ほう、まだ立ち上がるか、仲間の為に? 自分の冒険の為に?」
「いいやもっと単純で目の前のことさ。俺たちは生存フラグを立ててここにやって来てるんでな、ここで死んだら嘘だぜ!」
「なるほど……あなた達はどうも、バカなことに人数を多くかけてやるクセがあるみたいね。そうして、それが死への恐怖を鈍らせているというわけ、死ぬ瞬間まで気がつかない毒だというのに」
「いいや、毒じゃない、プロトスが俺を守ってお前と鉢合わせてくれたおかげで!
俺は! お前の能力をようやく知り得たぜ! 言うのも恐ろしいことだが!」
ジャントは肩を震わせ、プロトスが居る壁の方へサムズアップをする。
声は返ってこないが、くすみのないプロトスの黄緑色が、ジャントの頭の中にきらきら輝くように感じた。
「お前の能力! それは”触れた物の時間をほんの一瞬だけ止める能力!!”触れて分かったぜ、触れた瞬間、視界がほんの一瞬ズレる! 絵が一枚抜けた映画のフィルムみてぇに! 不自然にズレる! お前の無敵の秘密は完全なる時間の停止によるものか! どんなパワーがあろうとどんなベクトルだろうと時間が止まれば全てが止まり無になる! そうだろ!」
「……そうよ、私の能力。名前は『オール・タイム・ロウ』オーパーツはタイプT(time)でも、分かった所でどうしようもないものよ、この世界は時間に包まれている。どんな物も人も、時間という鳥籠に囚われていて、しかし籠から離れてしまっては死んでしまうので時間から離れることはどんなものも叶わない」
「自分の能力に対処法は無い、なんてことを言いたいわけかよ。だが聞き飽きたぜ、そうやって自分を必要以上に最強だって主張するスタイルは! 俺たちは時間に囚われているのかもしれねぇ……だが俺たちは自由だぜ、最初から籠に囚われてなんか無ェ、それが俺たち冒険者だッ! なぁそうだろプロトスぅぅぅ!!」
ジャントは右手で目を覆い無心に叫ぶ! もうプロトスはいつものように答えてはくれない!
ぐしゃぐしゃに溢れる涙だけが、ジャントの顔をひたすらに濡らした。
……プロトス、覚えているか? 俺たちが初めて出会ったときのことを。
お前は隕石みてーに、凄い勢いで町外れに落ちてきやがったよなぁ。その町外れってのは俺の秘密の修行場だったんだがよ、派手に壊してくれたよなー。
黄緑色の体した変なスライムで、新手の魔物だと思ったぜ、でもいきなりお前は喋ったんだ「プロトス」ってな。
変幻自在のお前と、鬼神色の俺。敵なしだったよなぁ。どんな魔物もバッタバッタと……。お前が俺を冒険に駆り立ててくれたんだぜ?
それが、どうしたよお前。
地面にドロドロ広がって遊んでねぇで……いつもみてぇに……。俺を戦わせてくれる武器に、なってくれよ。
「ジュニエイト、かかってこいよ」
「言われなくともかかっていくつもりよ、しかしあなたは丸腰で戦うというの? この私に」
何せジャントは武器を失ったわけだ。肉弾戦以外に戦闘の選択肢はあるまい。だが、武器を失くしたのはジュニエイトも同様。
プロトスを仕留めた大剣は壁にめり込んでしまい、回収するには少しばかり時間がかかるはずだ。
「プロトスを潰した罪は、必ず償わせるぜ……お前の身でもってな!!」
「物を殺めるのが罪? それならそんな罪いくらでも背負っているわ」
「違ぇ! 俺の相棒だからだ! 俺にとってお前は重罪だからだ! 真っ黒だからだ!」
「ふん、人でないものにそこまで執着するなんて面白い人ね、いいわ。この私が叩き潰してあげる。あなただけじゃない、他の冒険者も全て。黄泉の川がいっぱいにならなければいいけど」
ジュニエイトはジャントに突進する! 筋肉の躍動、迫る巨体。だが今は驚愕も萎縮もするつもりは無いし、現に!
「うおああああ!!」
ジャントは自ら数歩踏み出し、右の拳を大きく突き出す!
「凄い勇気ね、でも無駄よ」
ジュニエイトに触れることすら叶わず、ジャントは逆にジュニエイトの拳を顔面に受け吹き飛ばされる。
「ぶっ、ぐあぁッ!!」
そして地面に倒れ伏せて、また立ち上がる頃にはジャントはもうフラフラだった。
脳震盪を起こしているし鼻血は噴き出す、ほんのちょいと背中を押せば気絶も止む無しなほどの状態。だった。
「そこまで必死に立ち上がられるとかわいそうになってくるわね、でも私に慈悲は無いと思って頂戴」
ジュニエイトはゆっくりと歩み、プロトスを仕留める際にぶん投げた大剣を掴み取り拾う。
そして駆け足でジャントに向かい剣を振りかぶる!
「うおあああああ! ふざけんなああああ!」
ジャントはジュニエイトの一太刀を寸前で避け、握り込んだ拳を! 『ジュニエイトの剣』にぶつける!
「流し込む! 赤色の鬼神色!」
「ほお! 私は剣を握っている、だからその剣を通じてなら私に攻撃が通ると思っているのかしら?」
「ぐく、全力で鬼神色を流してんのに……効かねぇ! なら電気だ、電気の鬼神色!」
ジャントの鬼神色はジュニエイトに微塵の痛みを与えることはできなかった。
ジュニエイトと密接しているその剣を攻撃しても、熱や電気を流しても、効き目は無い!
「無駄よ」
「ぐあ!」
ジュニエイトはジャントの髪の毛を鷲掴みにしてそのまま吊りあげる。
「ぐ、はなせ!」
「まだそんな大声を出す余裕があるとは……痛めつけ足りないようね、とどめを刺してあげるわ」
「させるかァ……! うおあああ!」
ジャントはおもむろに服の腹部を開き、ベルトの金具を引きちぎる、一部が鋭利になっているその金具で、腹部を切り裂いた!
「なに? いきなり自傷して、早死にしたいのなら手伝ってあげるわ!」
ジュニエイトはジャントの変動お構い無しに右腕で渾身のパンチを腹部にお見舞いする。
ジャントは吹き飛び、壁に背中から激突する。
「げぶっ、ぐぐ……あぶねえ……!」
「なに? 私の拳をまともに受けて無事だと?」
「緑の鬼神色、植物だ……ここに土はねえから、俺の血肉を苗床として根と葉を生やさせ、一種の鎧として体に巻きつけたってわけさ……へへ、見てるかよプロトス、俺1人だって頭は回るんだ、ぜ……!?」
ジャントはジュニエイトの攻撃を防ぎ、してやったりといった表情を浮かべていたが、それもつかの間。
突如ジャントの体に巻きついた植物は霧のようになって消滅し、ジャント自身もがくんと崩れ落ちた、体が……思うように動かない!
「ぐぅ、な、なぜ……俺はまだ戦えるはずだ……! 鬼神色が、出ねぇ!」
「ふ、やはり良く出来ているものね、能力っていうものは」
ジュニエイトはジャントのその様子を見下しにやりと笑う。
「鬼神色を操って数種類の力を使う……一見多重能力で便利な力に思えるけれど……所詮は『色』を操るに過ぎないってわけね、プロトスという能力を引き上げるアイテムがあったからこそ今まで強く戦えていたけれど……渾身でひり出した『絵の具には尽きがくるものよ』あなたは虹色の絵の具を体の中に持っているに過ぎない、絵の具が無くなれば絵は描けないというわけね」
「なんだと……!」
「色の体力、名付けるなら『カラードライフ』ってところかしら? ジャント、あなたは自分が思ってる以上に1人では何も……」
「ああそうさ、俺は! 1人では何もできねえ!」
「ん?」
急に姿勢を正し、叫ぶジャント。彼の体力は底なしか……いやそれ以上に!
ジャントは何か手に握っている! その細長い何かは……!
「俺は相棒が居なきゃ……ふたりじゃなくちゃあ、戦えねえ、だから! 力を貸してくれるよな! 『相棒』!!」
「相棒……? バカな、お前の相棒は死んだはず……なんだその『剣』は」
ジャントが吹き飛ばされた壁は、プロトスが死んだ場所だった。
そこに落ちていたのは、片手剣、小型ながらしっかりと剣の形をしている。そしてジャントは瞬時に理解した、これはプロトスの体の一部なのだと。
ジャントを守って盾になった瞬間、同時にプロトスは剣も作っていたのだろう、自分が無事でなかったときに、ジャントの力になるように。
「剣なんて作る労力割かなけりゃ死んでいなかったかもしれねえのに……ひまなやつだな、プロトスよォ! ありがとよ、礼を言っても言いたりねぇ」




