34話「オール・タイム・ロウ その1」
「トシマが、帰ってこねぇぜ! なんなんだ一体!」
円形に広がる大ホール的大部屋。この場所でトシマは突如姿を消し、戦闘の状況が絶望に近くなっていた。
ガレンはトシマが落ちて行った地面をガリガリと爪で引っ掻くが何の手応えも無い。
「ぐ、この俺ガレンと、ジャントとプロトス、ウツリだけか、今戦えるのは!」
ガレンは戦況を眺め見てみた、こちらは四人、ガレン以外は能力者である。向こうは二人、能力はオーパーツで強化されている。
ガレンは正直、不安を抱いていた。四人がかりでドラゴン能力者のティミミアを間一髪倒せた事はあるが、今の戦況はアレに比べ明らか不利! かきたくもない汗がガレンの体を巡っていた。
「行くぞオラァ~!」
突如! ジョルディはいきなり物凄いスピードで走る! 狙いはジャント!
まるで獣並み、そのスピードに対してジャントは反応が一瞬遅れた! 大剣を振って対抗するには、間に合わない!
「こんの、野郎ォ!!」
大剣を振れないなら、その拳に頼る! ジャントは左腕でジョルディの短剣に対抗した、刃の横を殴りつけ、ジョルディの腕ごと軌道を逸らし、すれ違いざま蹴りをお見舞いしてやった。
「よっしゃあざまあみろこの野郎! いきなり刃向けて来やがって、怖かったぞこの野郎!」
遅れてやってきた冷や汗を垂らしながら肩で息をしてガッツポーズを高く掲げる。
だが突き飛ばされたジョルディはニヤリと笑いを浮かべ、突き飛ばされたスピードのまま壁に向かって走る!
「ハ! 馬鹿が、ジャントよォ狙いは最初からお前じゃないぜ!」
壁に激突すると思いきや、まるで虫のようにダダダッと壁に足をつけ、ジョルディは壁を走った。
その狙いの矛先は……ウツリ! あまりにも急な出来事で、ウツリもまたジョルディの動きに反応できていない!
「な、なんて身体能力だあの野郎! いや、だがあいつは最初天井から降り立って現れた! 異常な身体能力の高さを注意するべきだった!」
「俺の爆発を見切れるたぁ厄介なことこの上ないぜ! くたばれ女!」
「うぅッ!?」
そのまま壁を蹴って跳躍、ウツリがそれに気付き大鎌を振ろうとしたときには時すでに遅し、ウツリの喉元掻っ切るコースの短剣が……!
「おっと甘いぜェ~! ヒャハハ!」
「な、なアにィ~!?」
直前! ガレンが超スピードでウツリを背中に乗せてジョルディの攻撃範囲外へダッシュ! 流石犬と言ったところ。
「あじなまねを! 首輪の無ぇ畜生犬のくせにやりおるぜ!」
虚しくも空振りした短剣攻撃の勢いでバランスを崩すかと思いきや、ジョルディはその勢いのまま短剣で地面に目一杯力を込めて着地する。
そのまま手前側に一回転し、前転を披露したと思いきやすぐさま地面を踏み込みガレンを追いかける! この男、スピードを一切殺してはいない!
「うおお、ガレンありがとう! 助かったよ!」
「ハッ礼ならいらんぜ、いや善意を俺にくれるってんなら俺を畜生呼ばわりしたあいつに「お見舞い」くれてやれッ!」
「オーケー! 私の鉄鎌の攻撃軌道は自由自在、スピードが乗ってる分、鋭いのをお見舞いするよ! くらえッロングカーマー!」
ウツリが走るガレンに乗りながら大鎌を構え刃を伸ばす技、ロングカーマーを放つ!
ただ放つのではない、狙いはジョルディの走ってくるコースの足元! 低空攻撃!
「ちイィッ! ボスから聞いていた要注意能力者はジャントとレイジなもんでよォ鉄鎌の女や速い犬に関しては初見だったぜ!」
持ち前の跳躍で難なくウツリのロングカーマーをかわすジョルディ! 短剣をウツリに向け突っ込んでくる!
「初見殺しには程遠いぜッ! てメーの鎌はよ! イソギンチャクみてーに大量の刃があるならば見切るのは不可能だったが……鎌の刃は一本だけだろが! それは一発避けられたら詰みだって事なんだぜ! 自分の能力をよーく知るんだな、無闇に振ると、こうなるんだぜ!」
「ヒャハハ! 何調子づいてんだジョルディ、自分をよく知るのはお前だぜ、空中に居て身動きできねぇお前をなぁ!」
ジョルディはガレンの嘲笑を受け、空中で自分の周りを確認する、ウツリの伸びる刃はかわしたはず、ガレンは走るだけで遠距離攻撃を持ってはいない、ジャントならジュニエイトが相手をしている。
そのジョルディの様子を確認し、ウツリはジョルディに向け言葉を飛ばす。
「言ったはずだよ、私の鉄の鎌は自由自在! 気付かないのか、刃の先端を操作してあんたの背後から刃を追わせていることに!」
「な、なにィ~! こいつ!」
そう、ウツリは伸びる刃を自在に操作できる。例えそれが空中であろうとも、それがロングカーマー!
一度かわしたと油断しているジョルディのスピードに追いつく速さで、切っ先がジョルディの背中を追っているッじきに追いつき……切り裂く!
「ぐくゥ~……てめェー!!」
悪あがきか、手に持つ短剣を目一杯ウツリに向けてぶん投げた! 無駄だ、その刃がウツリを捉えるより先にウツリの刃がジョルディを切り裂く。
人が力を加えない空中の刃なら、大鎌の棒の部分て防ぐには事足りるのだ。
「思い知ったか! 生まれも知らない私は、ノドカに出会い、訓練されて強くなったんだ! お前らのような悪いやつに負けるわけがないんだ!」
ジョルディは空中でありながら、悔しさを隠すためなのか、顔をウツリから逸らし俯く、降伏の印か悪あがきの言葉も出ては来ないか。
「完敗だぜ……!」
ジョルディは言葉を続ける。
「お前がな!」
「なに!?」
ウツリは驚いた、何故そんなセリフを吐ける!? そう思った刹那。
ウツリの側頭部付近に爆発が起こる。
「ぐああ!?」
そのままバランスを崩し、視覚と意識が朦朧とした一瞬、ジョルディが投げた短剣が!
ウツリの胸部を引き裂いた! 飛び散る血と共に地面に崩れ落ちるウツリ。
能力者が倒れれば、能力により操作、維持していたものや力は消える。 鉄の切っ先は力を失い消失した、ジョルディに到達することはなく。
「な、なにィ~!! なんで爆発が、いや! 爆発を何故見きれなかったんだウツリはァ!」
ガレンは自身の上で崩れ落ちていったウツリを見上げ、目を見開き驚きの声を漏らす。
それもそのはず、ジョルディの爆発攻撃はみんなには見えも聞こえもしないが、特別耳の良いウツリにだけ聞こえ、予知し、避ける事ができた! だのに今、ウツリは爆発を無防備に体に受け、そして今の戦闘不能に至る。
「ククッ犬畜生よォ、てめぇさっき俺に「自分をよく知れ」だのと、言ってたな。知ってるぜ、俺は俺の能力の弱点を、よ~く知ってる、昨日今日で能力者になったんじゃないんでなァ!」
ジョルディは跳んできた勢いのまま、呆然とするガレンの顔面を蹴り、吹っ飛ばす!
「ゲブァ!!」
そして華麗に着地し、ウツリの返り血を浴びた短剣を手に取り戻し、おもむろに自分が装着するマフラーを手で大袈裟になびかせる。
「ヒヒ、耳が良い、能力も扱えてる、まあまあ強い奴だったよ。しかし一枚、いや、俺の方が何十層にも上手だったわけだなァ」
その時、ジョルディのマフラーから金属同士、またはガラス同士が擦れるような音が小刻みに聞こえてくる。
「このマフラーは何種類もの金属と鉱石がブレンドされて作られている、こいつらが擦れて聞こえる音は、普通の人間にはただの物音にしか聞こえねぇ。だが、特殊な音、広い音階とかを聞き分けられる人間には、無意識のうちに不協和音として耳に入ってくるって訳さァ~、モスキート音って言うんだっけか?」
「なにィ、それでウツリが反応出来なかったってのか!」
「そうだぜ、話も理解できるとは賢い犬畜生だな!」
その瞬間、ガレンの右足から右胸部にかけての位置に爆発が起こる!
「ぐわぁ!」
爆風で吹き飛び、壁に叩きつけられるガレン。そして間も無く地面にうずくまる。
「グッ、うぐぅ! 脚が、俺の脚が」
「右足は負傷したなァ~、動物いたぶるのは趣味じゃねぇんだがさ、生かすわけにもいかねェのよ」
ジョルディは短剣を振りかぶり、全力でぶん投げた。そしてそれは、ガレンの腹部に突き刺さる!
ガレンと地面が、剣を介して地面と繋がってしまった、磔となったのだ。
「うぐァァァ!!」
「ヒヒ、犬の断末魔近し声っつうのは、クゥ~ン、なんていう可愛げありきのものじゃあねぇのか~?」
「ぎ、にげきも、てめぇ……!」
「あぁん? なんだって? にげき?」
「一撃で、トドメを刺さなかったどころか、二撃でも俺を殺さなかったな、てめぇ! 俺が半生で胸に刻んでる戦闘の鉄則は! 脅威となるものはとっとと仕留めろ! だ! 俺を数十秒でも生かした事を後悔させてやるぜヒャハハ! 犬の断末魔がクンとかアンとか言ってたな、ジョルディ! 犬の鳴き真似することになるのは、のちにお前だぜェ!!」
そう叫びを散らすガレンに、ジョルディは何一つ答えはしなかった。ただニヤリと笑い、その様子を見つめる。
ガレン、ジャント、プロトス、ウツリが激戦を繰り広げる組織の大ホール。
ガレンとウツリがジョルディと対峙する中、ジャント&プロトスとジュニエイトは!
「ぬおおおぉぉ!!」
女とは思えぬその巨体! 巨剣を振り回し、地面を叩き割るジュニエイト!
そしてすぐさま巨剣を再び振り抜く! 狙いは、一撃目で砕けた地面の破片を! 二撃目でジャントに向けて吹き飛ばす為である!!
「ぐぉあぁぁぁ! 脚がッ!!」
ジャントが咄嗟に守れたのは頭部と上半身のみ、足元がお留守だとでも突きつけるようにジャントの脚を無数の岩石が砕く!
「あの女ァ、攻撃が豪快すぎるぜ、圧倒的純粋なパワー! 特殊能力とか技術とか言ってた今までの流れをぶった斬るほどのな!」
ぐらりとバランスを崩すジャントに、ジュニエイトは間髪入れず突進してくる!
足は遅いのだろう。
巨体だから。巨剣を持っているから、鎧を付けているから。
答えは、否! 足が遅くなるリスクがあるのなら、最初から戦場に剣も鎧も付けては来まい。
ジュニエイトには、それらが枷となるには不十分過ぎるほどの! パワーがある!
巨体とは筋肉の表し! その筋肉はパワーをひたすらに生み出す! ジュニエイトが一歩踏み出した重すぎるスタートダッシュは、ジュニエイトをミサイルの如く加速させた!
そのスピード! ジャントの動体視力を、あざわらう!!




