33話「アクアフェイト・ダイレクト」
「な、なんだとぉぉ……!」
「お前はレイジじゃないが、ぶっ殺させてもらうぜぇ、あのレイジの仲間ってんだからなぁ〜! 見える方の片目もよぉ〜、熱でケガしてロクに見えねぇ、前がよォ!!」
「ま、待って、よせ、俺トシマ、レイジ違う」
「うるせえ! 俺はキレたぜ、レイジを許さね〜! レイジへのムカつきが100ならば、ソレの仲間は70ムカつきだ! ぜってー殺す!」
アビスはがりがりと頭を掻きながらいらつきを露わにし、叫びを散らしてまたも、トシマに重力波をとばす!
「な、なんだ? こんどの重力波は力が弱いようだぞ? 体が吹き飛ばな……ぐおあああ!?」
異変が起きたのはトシマの両手! 両手の指があらぬ方向へとばきばきに折れるのだ、関節が痛む、このままでは手がまるごとグチャグチャになってしまう!
「う、うぉわあぁ螺旋、螺旋ボール! 俺自身を吹き飛ばす!」
螺旋ボールを手から生成、自分側にぶん投げ、回転しながら吹き飛ぶトシマ、とにかくあの化け物、アビスの攻撃範囲から逃れなくては!
「ぐ、ぐはぁ……手首も、折れかけている……あいつは、俺を手から順番にじっくりバキバキに折って殺そうとしていやがったの、か……! とにかく、奴と戦うのは危険極まりない、この大部屋から出るんだ、逃げ……」
腕をかばいつつヨロヨロと走り出し、アビスが居るこの部屋から逃げ出した! どうやらあいつは移動スピードがあまり良くないらしい、まだ追いついてこない!
後ろを見ながら安堵するトシマに、何かが襲いくる! 重力と違い、目に見えるソレは、水!
水のカタマリがトシマに向かって飛んできて、トシマを包み込んだのだ!
「ガボガボ……ゴボッ」
このままではまずい、今度は窒息死を免れない、宙を浮く水の中で、掴むものも無ければ自分を引っ張り上げてくれる仲間もいない!
とにかく螺旋ボールを渾身の力で作り、どうにかするしかない!
相性がよかった! 螺旋の回転力は水を巻き込み弾き飛ばし、トシマは水の中から脱出できたのだ!
「ゲボッ! グハッごほっ、いい加減に、いい加減にしてくれ! 俺はトシマだよ! レイジじゃないんだって!!」
「いいえトシマぁ、私の狙いはあなたそのもの……」
「そ、その声は……」
弾けた水は一箇所に集まり形をつくり、1人の女になった!
その女の名はレイター・ドゥルーフミッグ! トシマが最初に倒した敵である!
だが以前会ったときは、自分自身が水になる能力など持ってはいなかった。これもやはり「直接感」の力だ! レイターは直接感溢れる水能力者になった!
「あの重力男と同じように、み、水人間になったのか、あなたも!!」
「ふふふ、そういうことです、さぁ私に恥をかかせた罪、あなたの息の根の停止で御免被るとしましょう!!」
「いいや、勝つのは俺だね! ダブル螺旋ボールを喰らえ!」
ダブル螺旋ボール! それは、螺旋ボールを二つ同時に飛ばす技!
「無駄ですよ! 実態のないこの私は、もはや螺旋では捉え切れません!」
「いいやちがうね! 何故二つの球を「密着」させて投げたのかをよぉく考え、いや感じろ!」
トシマが投げた螺旋ボールは回転しながら、お互い密着していた! レイターの水の体の中でもそれは変わらぬこと。お次の螺旋ボールは、レイターの水の体を拡散させるためのものでは、ない!
「まさかトシマあなた……熱を、摩擦熱をッ!」
「摩擦熱」! トシマの狙いはそこにあった! 螺旋ボール同士がこすれて生むのは摩擦熱! その熱が、レイターの水の体をみるみる蒸発させていくのだ!
「うぬぅううう、うふ、うははははは!」
「な、なんだ急に笑い出した、ぞ……!? なにがおかしい!?」
「トシマぁ、忘れてはいませんか? 私の能力を……!」
確かにレイターの水の体は熱により蒸発し、煙を発し、沸騰し泡を吹いていた。
しかし、レイターの体が小さくなるような事はなく、現にレイターも余裕そうな顔でほくそ笑み、いや、爆笑している!
「私の能力は水の放出! あなたは摩擦熱で私を蒸発させようとしたようですが、蒸発よりも早く私が水を放出すれば、体良く補えるというもの! 無駄でしたね!」
「あーそうかい! なら今さっき俺が投げた二つのボールは見えてるか!? あんたの目に!」
「なに?」
レイターが嘲笑している中、トシマは更に螺旋ボールを投げていた!
二つの螺旋ボールはレイターの目に止まらぬほどの速度で動いていた!
「なんですかこの不規則な軌道の螺旋ボールは……そうかトシマ、あなたもオーパーツを使っているわけですね? 恐らくは軌道変化のオーパーツ、私を取り囲むような軌道で操作して、私の攻撃を防ごうとでも?」
レイターはまたもひとつ嘲笑をトシマに向けた……!
「ぐふあ!」
だが向けたのは嘲笑だけにあらず、レイターの能力は水の圧縮でもある! それによる水の弾丸! いや、ひとつひとつの弾がとてつもなく大きくなっている、これは水の連続大砲!!
「俺の螺旋の力で、防げないッ!!」
トシマの体は傷だらけになり、血を噴き出す、ダメージはみるみる蓄積されていく! 前回の強さとは比にならないこの威力、直接感の真髄!
「死への印籠を渡してあげましょうか! あはははは!」
「また、あんたは……! 間違えてるよ、言葉を……!」
「なんだと?」
トシマは水の連続大砲を受けながらも、いつものトシマに似合わないようなしたり笑いを浮かべていた!
「それに俺の狙いは、あんたを動けないようにするわけではない……! この狭い通路だからこそ、地下だからこそ出来る技を、あんたにぶっ放してるってことに気づかないのかぁ〜っ!!」
「なにをたわごとを! 水の体の私に有効な手立てなど万が一にもありません! それにっ! 私が言葉を間違うなどと、侮辱も甚だしい!!」
レイターは内心慌てていた、レイターは直接感能力であるこの水の体での戦闘経験はとても浅いというせいもあり、自分が至っていないゆえの弱点を突かれているのではと内心に不安が少しだけ現れた、ほんのすこし寒気がした! だが、トシマのハッタリというのもありうる。レイターはトシマに突っ込む!
「ふん! なんの考えがあるかは知りませんが勝つのは私ですよ! あなたの螺旋ボールは私の水の体は弾けても、ダメージにならないのですからね! よってあなたが投げたこの二つのジグザグボールはまったくの無意味! また水に取り込んで、窒息死か出血多量で、死ねぇ!」
レイターはトシマの螺旋ボールに体を弾かれながらも無理やり迫ってきた! ああこれが性的な迫りなら嬉しいことこの上ないが……。
なんて現実逃避もつかの間、レイターの弾けた水から「パキパキッ」という、まるで氷が砕けるような音が鳴り響く、いやていうか氷が落ちてきて割れた。どこから現れた氷なのだろうか、レイターに氷の能力は無い。
「トシマぁ、なんですか一体何をしたのです? 今の氷はなんですか? 私の体から弾けた水が氷になったのか?」
「その通り、あんたの体は凍りついているということ! 細かい水の方が早く凍るというだけの話! あんたの体は今、凍りつつある! 俺の螺旋ボールの回転と、高速のジグザグ軌道は「風」を生み「熱」を奪った! そしてこの地下狭道、温度を補うものは無しだ!」
「な、なんだとおおおお!? またしてもきさまあああ!!」
レイターは全力でトシマに近づこうとするが、直前でこときれた。いや、こと凍った。
レイターの氷像がここに完成というわけだ、貰い手募集中。
「ハァ、なんとか勝てたが……いつまでも凍らせられないし、この怪我でガレン達の所へ戻って加勢できるのか……!?」
壁にもたれて項垂れ、呼吸が荒くなっているトシマ。一瞬の戦いでここまでの負傷、ますますガレン達が心配になってきた。
「んな心配をしてる場合かあああ? てめえはよおおおお!!」
瞬間。凍りついたレイターは音をたててバラバラに崩れ地面にぼろぼろと落ちた。
奴がきた。アビス・エンプティロード!
「このひとまだ追いかけてくんの!? おれレイジじゃないよ! ていうか、あんた! 今ぶっ壊したのは仲間だぞ!」
「知るかアアァァア!! 壊されるってことは雑魚なんだろおがあ! 負ける奴が悪いんだよ! てめえも敗北的奈落に突き落としてやるぜえええ!」
「うああっ! どうしたら、一体どうしたら! 重力の体の人間て! みんな、聞いたことある? 重力で作られた体の敵って聞いたことある!? 無いよね!? 倒せないよね!?」
トシマは息を切らしながらよろけつつ、全力で逃げる、捕まったら終わりだ、取り込まれたらグチャグチャにされて死ぬ!
骨と肉を、ひとつひとつ重力空間にばらまかれ、粉微塵のミンチセットのできあがりだ!
「トシマしゃがめ!」
「え!?」
突如響き渡る男の声、トシマは言葉のままスライディングの要領で地面に這いつくばった。
「働けオーパーツタイプK! ロックオン!」
声の主はノドカ! 前回スカーレットと共に地下に潜った為、トシマと同じ階に居合わせたのだ! 首にかけるオーパーツタイプK(鍵、能力封印の能力をもつ!)を発動した!
「な、なんだとッ!? 俺の体が……元に戻っ……!」
なんとノドカは錠前型のオーパーツタイプKの引き金を引いただけ! それでアビスの能力は封印された! アビスは力なく地面に落ち、自分の体を触り唖然としている。やはりこのオーパーツ、効力は本物だ。敵の能力射程外から、敵の能力を封印できる厨設定アイテム!
「どうやら力は本物みたいね、オーパーツタイプK、これならボスも容易に倒せそうだわ。あ、トシマ大丈夫?」
「スカーレットさん! ここにいるってことは、また俺たちを助けにきてくれたってわけだ?」
「うふふ、まぁそういうこと、ノドカがもつあのアイテムでボスの能力を封じにいくのよ! ところで、彼はどうしてやろうかしら」
スカーレットはツカツカと歩き、ローブをひるがえしながらアビスを見つめる。
「お前らぁ……この俺の力を、どうしやがったぁああ!!」
アビスは逆上しスカーレットに掴みかかる、ギョロギョロと動く片目で、睨みつける!
が、スカーレットは表情ひとつ崩しはしない。当に決めた、こんなおぞましい組織に屈しはしないと。トシマ達冒険者に協力するのだと、終わりかけていた私の冒険はトシマ達のおかげでまた始まった。
こんな一面ボス風情に、倒される私ではない。
スカーレットはゆっくりとアビスの頬に触れ、撫で、口に手を入れる。
「うごぉアアッ!?」
「消えなさい、あなたのパーツ全て亜空に放り込まれない内にね」
「歯ガッ、歯が、ぐえぇっ!」
アビスはスカーレットの能力、小さな物を亜空間に収納する能力により「歯をひとつ消された」。その激痛により仰け反り、叫びを散らしながら元来た道を逃げ出した。
なんとか敵を蹴散らし、安堵するトシマだが、散乱する氷の塊を見てノドカに向けて頼み事をする。
「ノドカさん、あなたの能力でこの氷を元通りに戻せないですかね? 一応人なんです、これ」
よく見ると血が滲んでいるその大量の氷を見て、ノドカはけわしい表情で言い放つ。
「できないこともないだろう、が、これはお前を襲ってきた能力者じゃないのか? 恐らくは水能力者か、トシマの能力で凍らせたのか? 存命させて反撃されたらどうする?」
「多分助かったとしても、能力を扱えるほどの体力は残されてないと思います……情けとかじゃなくて、ただ人が死ぬのはただ、胸糞わるくって……」
その優しさがトシマだ、彼ら冒険者は人殺しにここにやってきたわけではない。
自分たちに課せられた使命と、世界を脅かす脅威を阻止する為だ。
「それもそうだな、一応元に戻しておくぞ。それはそうと、どうするトシマ、上に戻るか? 俺たちと共に下にいるボスの所へ向かうか?」
ノドカは磁力の能力でレイターの体を寄せ集め、元通りに施した。
そこでオーパーツタイプKを使い、レイターの水氷の身体は元の人間体に戻ったが意識は無かった。
「俺は……信じます」
「ん?」
「ジャントと、プロトスと、ガレンと、ウツリさんを、信じます!」
「ってことはトシマ……」
スカーレットは少し明るい表情に顔が切り替わり、トシマの顔を正面から覗き込む。
「俺も同行させて下さい、スカーレットさん、ノドカさん。ボスを無力化して、組織OPTを消滅させる、それは俺の師匠からの指令なんです、俺が成すべきなんです、だから行きます!」
三人はそれぞれを見つめ合い、そして決意を新たにした。
組織を終わらせる為、ひとつの物語に終止符をうつため、そして三人は走り出した、ボスへと続く道を探して!




