32話「テールズ・G・アビス・ダイレクト」
組織OPTの本部、その最下層には部屋があり、人がひとり居た。
部屋というのは、一面黒い石造りで床には沢山の本と、ガラスの破片のような白と灰の欠片くずが散乱している……ただそれだけ。とても人が生活する場所とは思えない。
まるで狭すぎる宇宙、だが、その部屋の真ん中には椅子が置いてあり、そこに人がたったひとり腰掛けている、ひとりの人はそこに居た。
彼の名はヂディバロ・チロシンキナーゼ。組織OPTの大ボスであり頂点、ジャント達冒険者に刺客を送り込んできた悪の張本人。
彼は「狭い世界が好き」なのだろう、彼はその質素な小宇宙の中で、虚しく一人瞑想にふけっていた。
ただ少し上を見上げた、位置的に、上で戦っているのはジャント達であるのだが。
彼は何を思うのか、冒険者に何を思うのか、恐らくそれが全て明かされる事は無いのだろう。
チロシンキナーゼは思うだけ。
恐らく、言わない。
どう思っても、届かなければ意味がない。
チロシンキナーゼはそれを分かっているのかもしれない。
彼の小宇宙の中に、ジャント達は突然現れる彗星の如く天体に観測される。チロシンキナーゼはそれを掴み取り、哀れにくしゃくしゃとすり潰したのち何を思うだろう。
ただ、チロシンキナーゼの心情を言葉であらわすならば、ほんの一部を明らかにするならば「自分は絶対に負けることはない、冒険者が足掻こうと、最終的な結果は変わらない」ただ、それだけだった。
場所は変わり、ジャント達五人とジョルディ&ジュニエイトが対決している大部屋。
「よぉ〜しプロトス! 鬼神色は黄色、電撃でいくぜ! あの女は炎を暑がった、属性攻撃には弱いと見たね!」
「了解! 行こう!」
まず先手に走ったのはジャント、大剣プロトスに電気を帯びさせ特攻をきめる!
しかし冒険者はジャント達だけに攻撃を任せておくほど冷たい連中ではない!
「おいガレン、もう一度いくぞ! こんどはあのジョルディとかいう奴に捉えられないくらいのスピードで走れ!」
「あぁ〜、いいぜ、いいけどテメー振り落とされるんじゃアねーぞォ!!」
トシマはガレンにまたがり、螺旋ボールを生成、ジョルディ目掛けて突進する!
先ほどよりも速いスピード! これなら奴の攻撃が捉えきれないかもしれない!
一方、いきなりノドカとはぐれ呆然としていたウツリは、大鎌を片手におろおろしていた。
「うぁあ〜、わ、私はどうすれば? ノドカ帰ってきて〜!」
見かねたジャントは即座にUターンして走り、ウツリをとっ捕まえて腕を引いて連れて走る!
「おめえなぁ! 今は戦いのさなかだぜ、ボヤボヤしてると後ろからばっさりだ! あとお前はあの…ジョルディとかいう爆弾男に狙われてんだぜ、せめて俺たちのサポートに徹してくれよなァ〜!」
「あっ、あ、はい分かりました! で、私はどうすれば?」
「おメーなァ〜〜!! 指示待ちかよォ〜! どんだけあのノドカに頼りっぱなしだったんだよォ〜! えっと確かお前は鉄を放って操るんだったか!?」
「はいそうです!」
「よーしじゃあ俺は今から電気を流す、あのジュニエイトとかいう女にな! お前はあいつに向けて鉄をたくさん放て! 鉄は電気を通してくれるつまり! あいつは電撃に囲まれ全方位攻撃になるわけだ!」
「え? ジャントさんってさっき……炎使ってませんでした? ノドカが言っていたけど、多重能力ってありえないらしいですよ? ジャントさん頭の中に鳥とか飼ってます?」
「うるせーなーお前ー!! 今はそこ関係ねえから! 誰が鳥の巣ヘアーだ! いいか、今は戦いだ! 戦いの中でクエスチョンのラッシュはNGなんだよォ〜!!」
そんなこんな走りながらやりとりしてる間にジャントとウツリの目の前にはもうジュニエイトが!
相変わらず無表情でどっしり構えていやがる、よし作戦決行だ!
「鉄くらえーっ!」
「よーしいいぞ黄の鬼神色、電気だくらえー!!」
「ぬぅん!」
とても女とは思えん重鈍な気合の声ののち、ジュニエイトは渾身の力で巨大剣を振るう!
「すげえパワーだなあの野郎、いや乙女! 剣を振るうだけで風圧とか漫画かよ!」
「うわっこれじゃ私のとばした鉄が吹き飛ばされてしまう!」
「いいや平気だ、電気の方があいつの動きより早いぜ、あいつの体がゴムでも無い限り電気に包まれて終わりだ!」
刹那、電撃がジュニエイトを包みこむ! 爆発炎上にも近いソレは、明らかな致命傷になるのは必須だ。
「な……おいマジかァ!」
煙が晴れ、そこに立っているのは無傷のジュニエイト、本当に無傷。どこにも傷も焦げも火傷も無し、無敵の化身かこいつは。
「無敵の化身かこいつはあああ!!」
忘れてはならないのが、ジャントとウツリ、ジュニエイトの距離は遠くないということ!
即座にジュニエイトの巨大剣の大振りが迫り来る!
「ロングカーマー!!」
ウツリの鉄の大鎌の刃を伸ばす技、ロングカーマーでジャントもろとも包み込むようにして守る!
盾の役割にはなったが容赦無くぶっとばされる二人、ジュニエイトの剣に真っ二つにされるよりずっとマシだが、壁に激突し地面に叩きつけられた。
なんとか立ち上がるがこのままでは勝ち目が、無い! 攻撃も防御も完璧、シンプルに強すぎるジュニエイトになすすべが、無い!
そしてジュニエイトは!
「地面が焼けてこげくさい」
こげくさがってるのみ!
一方、ガレンとトシマは!
「あァ〜ん? 何やってんだお前ら」
「な、おいガレン何止まってんだよ! おい!」
「よーしチャンスだ二人まとめて致命傷不可避の爆発起こすぞ〜」
「ちょ、ちょっと待って! 待って待って! おいガレンいい加減にしろよ、衰えか!? 年なのか!?」
「ちげーよ! 体が押さえつけられるように重いんだよ! まるで重力波でも受けてるみてーに! しかも、いつの間にか地面が濡れてて滑って踏み込めねぇ!」
「ええー! なんだよその、重力使いと水能力者に同時に襲われてるみたいな感じは! あのジョルディとかいう奴はこんな技ももってたんか!?」
なんと急に動けなくなっていた!
完全に動けないガレンとトシマに、突如ウツリが叫びを散らす。
「二人とも危ないッ!!」
「おいガレンンンン! ウツリさんからの警告ってことは爆発が一秒足らずで来るぞおおおおオアアア!」
「うるせーバカ分かってる!!」
「仕方ねー背水の陣だ!」
「うわらば!!」
トシマは手に持つ螺旋ボールをガレンにぶち当てる! その衝撃でガレンは吹き飛び、トシマは地面に転がってジョルディの爆発攻撃を回避した。
「よっし!」
ジョルディは思わず舌打ちをしたのち、またもウツリを睨みつける。こちらの能力を察知されてはとても都合が悪いし、腹が立つ。
一方ガレンは、二度目のトシマ誤爆ゆえか、なんとか体勢を整え着地成功、こいつはトシマを睨みつける、そりゃもう怒りと苦悶。
しかし当のトシマは地面に這いつくばり、動けない状態と化していた!
「な、なんだ!? 俺も動けなくなってしまった! 地面に吸い込まれるような感覚、が!」
その瞬間、トシマの居る地面に亀裂が入り、穴が空き、トシマは哀れにもそのまま落下し下の部屋に行ってしまった。
ガレンが駆けつけるよりも先に、その地面は修復され元通りと化した、ガレンが地面を叩いても蹴ってもびくともしない。
「おっ、トシマも消え失せたか、へへ、俺たちに風向きがきてるなぁこいつはよォ〜!!」
「おいトシマァ! おいコラどこ行ったんだ! 帰ってこーーーい!!」
……一方、トシマは! 下の部屋の地面に激突し痛がっていたッ!
「いてぇ」
「レイジいいイィ見つけたぜエエェェうひははァ〜! 許せねぇぞォ〜!」
トシマのすぐ近くに立っていたのは、体の半分近くが包帯に巻かれ、片目に眼帯をつけた男、どうやらこいつはレイジのことを知っていてレイジにうらみがあるようだ!
彼の名は「アビス・エンプティロード」ッ! なんと、レイジが最初に戦った、あの重力の能力者! だが様子がおかしい、彼は、宙に浮いている!
「だ、誰ですかあんたぁ! 俺はトシマです! レイジじゃないですよぉ!」
「なにィ〜!? お前レイジじゃ、ないのかァ〜! ンンン悪いなァそりゃあ! 間違えちまったかぁ、片目が見えなくてよォ、レイジに負けた時に熱で片目が皮膚と溶接されちまって片目しか、見えなくてよォォォォ!!」
そう言うとアビスは怒号と共に、衝撃波のようなものをトシマにぶつけた!
「うぐぅおわあああ!!」
トシマの体は宙を舞い、壁に叩きつけられ、力無く地面に落ちる。
「ぐ、ぐあぁ……ちくしょぉ、螺旋ボールぅ!!」
突然の出来事で攻撃が遅れたが、すかさず螺旋ボールで反撃!
ティミミアとの戦いで証明されたこの螺旋ボールの能力。回転のエネルギーはどんな壁も装甲も超える、重力さえも回転には敵わないのだ!
だがしかし!
「効かんなぁ〜! 螺旋など、回転など、ボールなどおおおお!」
効いちゃいないのだ、それどころかアビスの体をすり抜け、螺旋ボールはもっと遠くの壁にぶち当たりはじけた。
何故なのか、このアビス、まさか実態がそこに無いというのか!
「直接感だ……戦いに敗れ本部に戻った俺は、ボスから直接感を頂いた! 俺の能力は進化し、俺の体は、重力そのものになったのだ!! うはははは!」




