31話「地下深くへ」
場所は変わり組織内の広大ホール。
そこにはジャントとプロトス、トシマとガレン、ノドカとウツリが居て、新たな敵、ジョルディとジュニエイトと対峙していた!
だが先手を取ったのはジョルディとジュニエイト、彼らの能力は未知だし、未だに実態を掴めていない。
ジョルディという男は何も無い空間に爆発を起こすことができる、そしてトシマとガレンにダメージを与えた。
ジュニエイトという女は、とんでもない防御力をもっている、ジャントの攻撃が一切通らなかった!
「よーっす冒険者の諸君よォ〜! 組織本部に乗り込んでくるたぁなかなかに豪快な連中だなぁオイ! おメーらも引けない負けられない勝たなきゃならねぇ理由があるって感じか? だがよォ〜、この俺も任務としておメーらを潰さなきゃなんねーわけだ! 全力で潰させてもらうぜ、スチール缶、いやアルミ缶みてーによォ〜!」
ジョルディは前髪をくしゃくしゃといじり、視線をなめらかに動かし冒険者たちを視覚的に舐め回す。
ジョルディはとある貧民街にて育った、そこでは力が全て、力こそ富へ直結するものであり、つまり勝利は精神と肉体両方を潤す肥やしであった。
彼は勝利の為なら手段をもいとわない、そんな世界の中に生きており、そうして貧民街で頂点に君臨した。
その王者の元に現れたのは、そのジョルディより遥かに強い、つまり圧倒的な強者。
名はチロシンキナーゼと言っていた、ジョルディはそいつに負けたのだ。
だがジョルディは人生初の敗北で、全てを失い貧困の渦と闇の中に突き落とされるものだと、とめどない絶望がやってくるのを肌で予感し、心で恐怖した。
「お前のその強さ、私の役に立つ……私の砦となれ、右腕となれ、矛となれ」
ジョルディは何一つ奪われることは無かった、その男のその言葉を心に受け、その言葉に我が人生と勝利の肥やしが費やされることを苦としなかった。
ジョルディは彼を崇拝した、自分の世界は既に、チロシンキナーゼへの世界へと塗り替えられた。
「尻尾を巻いて逃げ出すのなら……今の内よ、まあ逃がさないけれど。いかに今まで我々の組織幹部を倒してきたあなた達冒険者でも、私たちのコンビネーションの前には逃げることも勝つことも叶わない、今あなた達に出来る事は、負けるまで頑張って戦うことだけよ」
一方はジュニエイト、ゆっくりとジョルディに近づきつつ言葉をただひたすらに呟く。女性とは思えない長身と鍛え上げられた肉体。
そして左肩と胸、膝下と背中を覆う武装、2m以上はありそうな巨剣を地面に引きずりながら轟音を響かせ、無機質な表情ながら自信ありげな口調を保ち、巨剣を振り上げ肩に担ぎジョルディと並び立つ。
彼女ジュニエイトはとある戦闘民族の末裔である。その戦闘能力の高さ故にあらゆる国家や企業から暗殺や戦争への配備の依頼をいくつもこなしてやってきた、戦いの中に生き戦いを愛し戦いに死ぬ、淡白ながら何より強い戦いの民族でああった。
ジュニエイトも例外ではなかった、彼ら民族は生まれた瞬間から試練であり、だがジュニエイトは強く、敗北を知らない絶対的な強者となっていた。
もちろん彼女にも家族は居たが、病気になったものは置いていかれ、戦いができないものはとても生きていけないし、戦いは止まないゆえにいつ死んでもおかしくはない世界だったもので、たった1人の弟以外は全ていなくなった。
だがその弟も魔物に殺された、弱くはなかったが死んだ。
ジュニエイトはここで敗北を味わった、家族を守れなかったのだ、あの時ああしていれば、ああ、時間が止まってしまえばよかったのに、弟を助けられるのに。ジュニエイトは呆然と無残に散らばる弟の死骸を眺め、ありもしない弟への救済を思想していた。気が付けば横には男が立っていた。
「強さとは力だ、お前のその強さは何のためにある、守る為だろう。お前の力は必ず役に立つ、私の左腕となれ、要塞となれ、そしてこの残酷な世を塗り替えるのだ」
ジュニエイトにはそれが、その言葉が救いであるような気がした。いや、それ以外にはこの世界には何も無い。
時間は残酷にも進むしかないのだ、ジュニエイトは何も言わないまま、そのチロシンキナーゼという男について歩いた。このただならぬ人ならぬ者は、私に生き甲斐というやつを与えてくれるかもしれない。
ジュニエイトもまた、チロシンキナーゼを信仰してしまっていた。今はもう懐かしい記憶の中に居るが、弟によく似たジョルディを横目で見つめ、彼女は守れなかったあの戦いの敗北を忘れるため、剣を片手で前に構えた。
「のやろォ〜! 俺を一度ぶっ飛ばしたぐらいで調子に乗るんじゃねーぜ! なあプロトス! 俺は女にボコられるのはコレで二度目だぜ、泣いていいか?」
「泣いてる暇なんて与えてくれるほどおしとやかな女性とは思えないよ、さっき炎を暑がっていたし勝機はある!」
一方ジョルディの爆発攻撃を受け転倒したトシマとガレンも立ち上がり、攻撃してきやがったジョルディを睨みつける。
「あんのやろー、よくも俺たち名コンビに傷をつけてくれたよ……なぁガレン!」
「何が名コンビだてめー、そもそも俺がぶっ飛んでこけたのはてめーの螺旋ボールのせいだわ」
「わりぃ、チームアタックOFFの設定にしてなかった」
「ゲームじゃねえんだよッ!!」
一方とくに何もされてないノドカとウツリは、ジョルディとジュニエイトが攻撃体勢に移らないかと警戒の目を緩めない。
「二人一組か、厄介なのはどちらも能力の本質が不明な所だな。聞いてやれば教えてくれるほど簡単なようにも見えない、奴らは何か大きな物を背負い、その人生を全て組織に費やしているかのような、恐怖も迷いもマイナス的な物は全て無いような澄んだ目をしている……」
「大丈夫だよノドカ、私たちは色んな能力者を倒してきた! 世界を渡れるとんでもないやつもドラゴンに変身できるやつも、他の冒険者の人たちもいろんな奴を倒してきた、だから今回もなんとかなるよ!」
ジョルディは即座にウツリを睨みつけ指差して物を言う。
「なんとかなる……!? あァそうだオメーだ、オメー確か俺の攻撃を予知しやがったな!? 俺の攻撃ってのは聞こえねーし見えねー、そういう感じなのに、耳がいいから聞こえるだとォ〜、厄介極まりねぇ! なぁジュニエイト!」
「私の能力には関係ない」
「ああそうか! よしじゃあアイツ始末するとするぜ!」
ジョルディは噛み合ってない話はとりあえず置いといてウツリを睨みつけるその目を動かすことも指差すその指を動かすこともなく……つまりとくに何もしていないような感じだった。
「またこの音だ……しかも狙ってるのは私じゃなくてノドカだ! 危ないノドカぁ!」
「な、なんだとっ!」
ウツリはやはりジョルディの攻撃直前の音を聞くことが出来るようだ。
狙われていたのはウツリと見せかけて少し後ろに立っていたノドカ! ウツリは即座にノドカを弾き飛ばし、ノドカは攻撃範囲外へ!
直後何も無い空間に爆発が起こり、近くに居たウツリは吹き飛ぶ。
「うぐあぁっ!」
「大丈夫ですかウツリさん! このマットに着地して!」
「おいこらトシマ俺を床に押し付けんじゃねー! コラァ!」
ウツリはガレンの上に着地して事なきを得た。
ノドカは、ジャントたちが入ってきた入り口側付近に飛ばされ、立ち上がりすぐにウツリに駆け寄ろうとするが……。
「ジョルディ……あなたがよけいなことしたせいであのメガネだけステージから外に出た」
「あ、マジごめんあそばせっス」
「誠意が感じられない」
ノドカはウツリのもとに戻ることはできなかった!
いつの間にか見えない壁が形成されており、殴っても蹴ってもビクともしないのだ、この状況……ノドカ以外はこの部屋に閉じ込められた状況となる!!
「な、なんだこの壁は……目には見えないが確かにある! 硬いかべというわけではない、殴っても蹴っても痛くないし、腫れもしない。まるで、この壁に触ると力が無に変わるようにピタッと止まってしまうのだ……どういうことなんだ!」
壁を突破できないことに苛立ちを募らせるノドカの背後に、突如現れる五人!
シェーヌ、エルス、レイジ、アリシア、スカーレットだった。
「あらノドカじゃない、どうしたのそんなところで固まって……」
「あなたは確かシェーヌ、それにエルスとレイジとアリシア……あ、スカーレット、ケガは大丈夫なのか?」
「え、うんまあね、それよりノドカちょうどよかった! あなたにお願いがあるの、これを受け取って」
スカーレットは手に持つ謎の物体(首にかけるネックレスであり、錠前の形をした真っ青な塊がぶら下がっている)をノドカへと渡した。
「これはオーパーツタイプK……能力を封印する能力を持ったオーパーツよ、これをボスに使えば私たちは勝つことができる!」
「妙に唐突な話だが……俺でないといけないことなのか?」
「ええそうよ、私たちの中でオーパーツをつかえるのはレイジ、そしてノドカ、あなただけなの。生憎ながらレイジは首に深い傷があって、首に装着するそのオーパーツは使えないのよ……だからノドカ、あなたにはとても危険な役回りをさせてしまうことになるわ」
「組織のボスの能力を封じるために、俺がこのオーパーツの能力で先手を取るしかないということか……!」
ノドカはオーパーツ・タイプKをしっかりと握りしめ、ジョルディ、ジュニエイトと戦う冒険者とウツリを見つめ、覚悟を決める。
自分にしかできないとなればやるしかあるまい。
「分かった、俺がやろう、ところでボスはどこに居る?」
「地下に居るわ、このホールから下に出れば……きゃ!?」
そう喋るスカーレットの足を、何者かが掴み取る。モグラの形をした魔物……! 地面を破壊し這い出してきたのだ。
そしてレイジ達の背後からも無数の魔物たちが現れた、まるで操られているかのようにレイジ達を襲う!
「その手を放せ!」
ノドカはモグラの魔物をスカーレットから引き剥がし蹴り飛ばす。スカーレットは静かに礼を言うと地面に手をつけ、モグラがやってきた穴を更にひろげる。
「ノドカ、この穴から下に降りて! 私もすぐ付いて行くわ、ここからボスの所へ行くのよ!」
「分かった!」
「ノドカ、スカーレット、この魔物たちは俺たちに任せろ! ボスの事は頼んだぞ!」
レイジたちの言葉に無言でうなづき、ノドカとスカーレットは地下深くへと向かった……!




