27話「サトリオール・グラジオールとザ・キャッスル その3」
おぼつかない足元でふらつきながら、首を手で抑えレイジは脂汗をにじませエクセルを睨み付ける。
「死……? 俺が死ぬだって……?」
「そのとーり☆君はレイジだからこそ死ぬのだよん、レイジと言う名で無ければ殺せはしなかったかも? 君はレイジになったからこそ殺せるのだ☆ さぁてレイジ、冥土の土産に君だけに教えてあげよう私の能力、私のオーパーツ。おっとその前に……」
エクセルは右手を大きく上にあげ、その瞬間城から今までに無いほどの量の石がシェーヌ、エルス、アリシア目がけて飛んでくる!
「くそっ邪魔よあの城の攻撃ィ! レイジを助けにいけない!」
「シェ、シェーヌさん! レイジはどうなったんです!? 遠くに居たから全然見えなくて、無事ですよね? 私はあのアビスという男と戦ったときも守られてばっかりで今回も……」
「アリシア……さ、さぁ私も遠くてよく見えなかったわレイジがどうなったのか、互角に渡り合えてるようには見えたかな……ねぇエルス?」
「えっ!? えぇそうですよ、首を突き刺されて血なんて出してませんでしたよ!」
「エルスやっぱ黙ってて」
アリシアの必死な姿に、咄嗟にレイジの状況を隠してしまったシェーヌ。
いやしかしレイジがそう簡単にやられるわけもあるまい、こんなところでおしまいな冒険があるわけがない。
もしここで死があるなら、何も達成できないまま死があるなら……それは冒険なんかではない、放浪の末の死は意味を成さない。
もしかしたら、グルンガストという町であのスカーレットという女が口走っていたこと「終われなくなってしまった冒険」とは。死ではないだろうか。
冒険者の死を目の当たりにしたからこそ、スカーレットは恐れ、冒険を放棄した。
ならば”元冒険者”であるという組織OPTのボスは、冒険の果てに何を思ったのか……何を悟りこの組織、オーパーツ集結という凶行に及んだのか。
レイジは今、逃げようもない果て。全ての集結の果て……”死”を突き付けられていた。
「私のオーパーツはR……”リアリゼーション”悟りを意味する言葉だよ。見えるかい? 私の額には目玉のカタチをしたオーパーツが埋め込まれ、脳に達してる、外す事は永久に叶わない☆ 私はね、虚空に向かって質問をすると”100%の正解がこの頭に入ってくる”たとえば今はそう”無傷でレイジを殺すにはどうすればいいですか”って質問しただけ☆」
「悟り……? 100%の正解、そんな能力が……」
「わかった? 私にはどんな能力者も絶対に勝つことはできない、私は無傷を保証されていて、あなたたちは死を決定づけられている」
ここで判明したエクセルの能力、その実態は悟り。
絶対的な結果が降り注ぐこの能力の前には、どんな力も無力同然である。レイジもまたそれに同じ。
レイジは茫然としていた、出血によって思考がままならないゆえかわからないが……。
だがレイジには死への未練がある。
守るべき妖精、もとい相棒が居る。
悟りがなんだ神がなんだ、そんなものは知らん、諦めるわけにはいかない。首の出血を抑えるその右手を放し、エクセルを見据えるレイジ。血戦だ。
「勝負だ……エクセル!」
「いよっしゃキタコレ一番乗りだぜボス部屋ァ!」
「ちょっとジャント! 何勝手に突っ走ってんの!? みんなと合流してから進まないと危険だよ!」
「まぁ俺なら大丈夫だってプロトス、いち早くボスの元へと辿り着いてカチドキをあげてやるぜェ」
「いやジャントが大丈夫でも僕は大丈夫じゃないって! また洗脳みたいなことされて体をめちゃくちゃに使われるのヤダよ!?」
「ヘッそれも含めての大丈夫だっての、死んでも守るぜプロトス」
「ジャント……そこまで僕の事を……!」
「当たり前田のなんとかって奴だぜ、俺たち冒険者は皆、相棒が居るからこその冒険者だろ? 相棒のことなら死んでも守る! 失えば冒険を続けるのもどうなるかわかんねぇしな」
「うん、そうだね! 仲間が居るからこそこの危険な地に足を踏み入れる事ができたんだからね……あれ、しかしみんな遅くない? そろそろ僕達に追いついてもいい頃だと思うんだけど」
「ほんとやな、何を道草くってんだあいつら? 敵なんて1人ぽっちも居なかったってのに」
組織本部である城。なんとか内部に潜入できたジャントとプロトスはぐんぐん進み、明らかになんかありそうな、巨大な円の形をした部屋に辿り着いた。
地面には白と黒のみで描かれた、ダーツの的のようなアミダ的な模様がある。
しかしながら今の所は何一つ気配もしないしトラップも作動しないので、ジャントは周りをキョロキョロと見渡しながら、来るのが遅い仲間達を待つ。
「ジャント!」
「お?」
やっと顔を現したのはトシマ。続いてノドカ、ウツリ、ガレンも現れる。
しかしそれっきり、残りの四人は一体……?
「アレ、お前らだけ? レイジとかシェーヌはどうしたよ? 城に入るの間に合わなかった?」
「いや違う……敵が現れたんだ! 丁度ジャントと入れ替わる感じの絶妙なタイミングでね……シェーヌさん達が戦ってるよ」
「ウッソだろお前、俺は誰も見てねぇぞ? 敵が居たってんなら気付くはずだ! なぁプロトス? もしかしてアレか、ノミみてーに小さい敵ってんじゃねーよな?」
「ジャントの言うとおり……でも実際敵が現れたっていうなら信じるしかないよ」
敵が既に現れていたとは、そう驚き後ろ髪を雑に掻き焦りを見せるジャント。
ノドカはこのただっぴろい部屋を見渡しながら、そのジャントに向かって口を開く。
「敵はレイジの攻撃もシェーヌの攻撃も簡単に避ける隙の無い人間だった。それがジャント、お前をやすやすと見逃すとは思えない、もしかしてわざと通してやったとは考えられないか?」
「あん? つまりなんだ、俺は導かれてるってことか? ……まさか!」
「心当たりがあるのか?」
「うん、ジャントじゃなくて僕だけど……僕もまたオーパーツで、この組織のボスが僕を欲しているみたいなんだ」
ウツリとガレンはプロトスをまじまじと見つめながら口々に言う。
「ハェ~まじか、となると組織のボスが直々に奪い取りにくるってのも考えられるなア」
「うんうん、なんでスライムが喋ってるの? って思ったけどそういうわけなんだね!」
「ここに犬の癖に喋ってるしょうもない奴が居るけどね」
「うるせーぞトシマ」
「まぁ狙われてるって分かってんならある意味やりやすいぜ、プロトスを全力で守ればいいんだからな! さて問題はあいつら、だよなぁ……無事かなァ」
場所は移る、組織の本拠地である城……の入り口付近に。
居る者は五人、エクセルという女。シェーヌとエルス、レイジとアリシア。
在る物は一つ、エクセルに味方する謎の城、組織OPTの本部そのものである。
「グハッ……ぐっ!」
「もう立っていられないようだね~レイジ、確かにその出血量、死までは鼻毛の一本も抜く時間は無さそうだね☆ 私はそのペンで具体的に首の何処を刺したかは分からない、けれど私は「悟りの能力」に従って行動した、それゆえに最も血が出て最も早く死ぬ一部分に刺さったのは間違いないね~☆」
「このペン如きで、俺が……死ぬ? 俺は死ねない、アリシアを守らなきゃいけない!」
「フーン、そりゃあ無理だな~レイジはここで死に、アリシアは君の死を目の当たりにして絶望するのさ。それはそうと、それは私のペンだから返したまえ☆」
「うッぐッ意識が朦朧として光線も放てないッそんな、そんなッ俺が死ぬなんて嘘だ! こんな、こんなペン如きで!!」
「あはは見るも無残だ、意識も朦朧かな? ペンに八つ当たりはやめなって、腕をペン先で切っちゃってるじゃないか。さあそろそろ君愛しのアリシアちゃんが現れて……」
結果だけ言えば、レイジはエクセルに負けた。
手加減も出し惜しみもしてはいない、光線を放ち瞬間移動し気を察知し身体能力も念力で強化して翻弄した、つもりだった。だが勝てはしなかった。
絶対的な結果を、確実に連れてくる悟りの能力に勝てる者は……居ないのだ。
だがそんな現実認めてなるか!
レイジは残る体力全力でエクセルに飛びかかる!
「ありゃっ結構タフネスだねぇ、仕方ないなぁどうせ死ぬ輩だが認めさせてやるよ私の能力! 今私が無傷でレイジを殺すにはどうしたらいいですかー!」
レイジに飛びつかれ、渾身の握力で両肩を握りしめられ、それでもなお焦りの表情ひとつ見せぬエクセル。
それどころか口角はみるみるあがり、レイジの顔との距離数センチといった状態で口を開く。
「今、私の頭に応えが返ってきた☆ 右足を後ろにずらして、思いっきり蹴り飛ばせだってさ」
「たったの……それだけで何が!!」
エクセルは淡々と今発言した言葉を実行する、だがその行動が分かり切ってるレイジは、エクセルの首を狙って肩に置いてる手をずらす。
もう技などは言ってられない、殺し返すしかない、絞殺してやる。 アリシアをこの世に置いてけぼりにはできない。
だがその瞬間レイジの首から血が噴き出した。
力無く地面に倒れ伏せてしまう。
「おっナイスポジション☆」
エクセルが振りかぶった右足の着地点に、レイジの頭部は置かれていた。
そのままレイジは何の防御もできないままエクセルに蹴り飛ばされる。
レイジがこの瞬間までにできたのは……エクセルに返り血を浴びせた事ぐらい。
「シェーヌさん! 城からの攻撃が止んでますよ、レイジさんに加勢しましょ!」
「ええ、土煙ごときで私達を止められるもんですか!」
「レイジ……お願い、無事で居て!」
一方シェーヌ達は。
城から打ち出されるレンガ群の攻撃は一先ず止んだ……土煙がうざったいがレイジの安否が一番大事だ!
シェーヌは走りながら、思考し困惑し、ただ焦った。
「(なんなの……!? あのエクセルって奴の能力は心を読む、テレパシー系の力じゃないの? どうしてあのレイジが負けていたのよ!)」
「シェーヌさん、とりあえず私のハードネスを皆さんにかけておきます、これで私以外は安全です!」
「ええありがとう、ならエルスの事は私が守るわアリシア! あなたは確か炎を放てたわね」
「ええはい、ソフトボールくらいの球なら狙ったところに飛ばせます!」
「上等! もう集中砲火くらいしか思いつかないわ。私の光の矢と、アリシアの炎の球で!」
この世界にソフトボールという単語があるのが少し妙だがとにかくそういうことだ。
彼女らがぐんぐん走ってエクセルの方へ向かう最中に、煙はとうに晴れ……シェーヌ達にも向こう側の状況が明らかになる……。
「レ、レイ……ジ?」
アリシアから漏れたのはレイジの名だった。
共に旅をしてきたかけがえのない「相棒」レイジの名だった。
単騎決戦と言わんばかりにエクセルの元に特攻したレイジは今……。
「どこに行ったの……レイジ? ねぇ、レイジ!」
アリシア達が見た光景、それは巨大な城を背景に立ち尽くすエクセル。
というか、エクセルだけがそこには居た、水筒をぶちまけたかのように地面に広がる鮮血があり、しかしレイジは居ない。
どこに消えたのだろう、それとも消されたのか? エクセルの能力がソレなのか? アリシアは困惑した、それと時を同じくして激昂した。




