クラスマッチ前後譚~神様にとっての栄養素は、バランスよりも好物云々が重要らしい*前編~
毎回のこととなりつつありますが、久々の投稿です(=゜ω゜)ノ
クラスマッチ編もそろそろ終盤へ突入していきたい……そんな今日この頃。
*
「現状では、音信不通。とは言え、週が明ければ授業も始まる。加えて、何もせずに横になっているからといって、傷の治りはそれほど大きくは変わらないと思う。ましてや時間は有限だ。そうだ――――巌に行こう」
「「「「却下」」」」
見事な四重奏は、ほとんど寸分の狂いもない。
一拍も挟まずに返される辺り、おそらく向かい合う面々がそれぞれに予期していた部分が少なからずあったのだろう。
さても、儘ならないことである。
そこまで意思を交わしていながら、一致に至らないのは他ならぬ自分の傷が所以である。解せる。
「日帰りの旅行促進キャンペーンじゃないんですから、さり気なさを装っても無理がありますよ。そして同意を得られるはずもない」
「傷だらけになることを防げなかったのに加え、未だ満身創痍の君を山登りに連れて行ったとあっては……。四人分の首が一気に跳びかねないよ。ということで、却下」
「以下同文、ですよ。姫様」
「敢えて言葉にするまでもないね。昨日の今日で『証』が見つかっただけでも、本来は良しとするべきだろうさ。それにあの糞神がこれから行って起きている保証もないよ」
初めに瓢箪君からの丁寧な解説兼にべもない解答。続いて、風狸青年からの笑えない話。間に高麗の省略が入った後には、周防様の尤もな補足が行われた。
一々頷けるだけに、向けられた当人はそれ以上何を言えるだろう。
掛け布団を徐に引き上げて、ごろんと転がる様はまるで中途半端なオトシブミのよう。
横目に見上げた空は、夕暮れに染まりつつある。
「しかしだね……このままでは出席も危ぶまれるばかりか、日和一同、歪みすら力尽くで突破してきそうな予感がひしひしと……」
「止めて。先ぶれの如き文言を貴女が呟くと、それはそのまま僕らの死期に直結するから」
それにしてもである。
一体、空間を歪ませるほどの『原因』とは何であろうか。
逆に『何』であれば、それが可能であろうかを考えていった方が早そうである。
「……話題を変えよう。今回の歪みの原因、誰か思い至るモノはいるかい?」
少女の問いかけに、やや間をおいてから二色の翼の一方が口を開いた。
風狸青年である。
「可能性だけを挙げていったら、両手の指くらいはいるだろうね。消滅、まではいかなくとも歪ませる位なら……もっとかな。兄さんも、やろうと思えば出来るだろうし」
後半でぼそりと呟かれた身内ネタが怖すぎて、迷わず沈黙で貫き通した。
ここは決して掘り返すなと、自分の直感が告げるのだ。
「ただ、歪みが在りつづけているとなれば話は別だろうて。一時的に歪ませるならともかく、日を跨いでもまだ影響を残し続けているあたりを鑑みれば、それ相応の数に限られよう」
周防様がここでも、的確な補足を放り込んでくれる。
まるでそのタイミングを予め見越していたかのように、高麗がその嘴を鳴らした。
「姫様。オカルト界において歪みを継続させ続ける程の力を有するモノは、ある程度まで数に限りがございます。そうしたモノたちは、凡そ神の位に等しい。一言で神と言えど、その神力は千差万別。今回の件、空間に影響を及ぼす能を有している点に着目すれば自ずと、導き出される対象は片手の指程まで絞れましょう」
それでも片手の指ほどは存在するのですね。
いやはや、改めて思うことでは無いのかも知れないが……想像するだに恐ろしいね、オカルト界。天変地異も身内ネタになり得る辺り、洒落にならない。
自分で振った話題ながら、若干後悔し始めている。
「皆さんが粗方対象を絞り込んだところに、もう一点だけ補足させて下さい。この山に棲むモノとして、この山……いえ、正確にはここ一帯ですね。ここに古から存在する協定と、本来ならば打ち消されるはずの相互作用が、今回は除外されている点を見ていけば。結果的に『対象』はいずれかに絞られるかと」
まさかの早期解決の予感。
どちらにしようかな、状態である。
どうやら瓢箪君は既に解決の糸口をつかんだ模様。
しかし、その発言が齎された後の周囲の空気が曰くありげだった。
何やら、非常に複雑そうなそれであり。
発言の当人すら、そこから先は進んで口を開きたい様子ではない。
――――察するに、二本指のいずれとも一筋縄ではいかない怪異なのであろう。
それはそうだ。
それもそうだ。
元を辿れば、高麗の発言にも見て取れる。
『神』の位に等しいモノ。
身近に数名、それに近しいもしくは直結するモノたちを知った上で敢えて言おう。
大きすぎる力を有するモノに関わるということは、それ相応の覚悟を求められる。
良くも悪くも、それが及ぼす影響が自らの周囲だけに留まるとは限らないからだ。
だからこその、逡巡。
大いなる共感を持って、賛同できる心理である。
「……ふむ。話題を振っておいてあれだが、今日の謎解きはここまでにしておこう。類推の時点では、滅多なことを口にするのもあれだ、うん。一先ず打ち切りで」
「……空気を読むのはいいけど、あれって何さ。幾らなんでも多用しすぎ」
聞こえない聞こえない。
あれと言うのは、つまりあれであって他の何でもないのだから。
今の自分は完成間近のオトシブミが如く、布団に包まる他ない一怪異に過ぎません。
これ以上の質問は後日にして貰いたい。
もそもそと布団へ潜り込み、すうすうと寝息を立て始めるオトシブミ……否、少女を余所に周囲は顔を見合わせる。
危機察知能力は寧ろ優れていると言っていいにも拘らず、学内外いずれにおいても様々を引き寄せてゆく少女の有様は、もはや言葉にもならないのだろう。
無言のうちに交わされたそれにより、絞り込んだ『対象』に対する認識が一致していることを改めて確認に至る一同。
同時に彼らの内心もまた、ほぼ同じ心情であることが分かる表情だった。
――『海神』ならばまだ、手の打ちようがあるのですが。
――『境界』いえ……『辻神』であった場合がこの上もなく厄介ですね。
――いずれにしても、厄介なのは変わらないのではありませんか。
――青瓢箪だね。まぁ、旧御三家を知らない以上はその認識も仕方のないことではあるか……
小声で声を交わし合う彼らの背に、西日差す午後のひととき。
次に少女が目を開けた時には、何故か瓢箪君の顔色が普段と比べても三割程度青くなっていたことも。その所以も。
今はまだ明かされぬ、月見里の里の一日目であった。
*
「――――で? どうしてそこから更に四日も経ることになったのさ?」
「うん。絶妙の間で語りを分断してくる手腕には惚れ惚れしてしまうよ、モッ君」
夕風を背に受けながら、クラスマッチ開会の時を待つ現在。
聴衆はいつしか、モッ君だけではなくなっているものの。
掻い摘んで話す分には、それほど時間はかからない。
ただし、全てを語るとなればその限りではないだろう。
場合によっては、クラスマッチの合間中語り通しても終わらないかもしれない。
――それは、可能ならば避けたいところ。
髪を一結びしながら、頭上を仰ぐ。
既に報せは届いた頃だろう。
遠からず、祖父の奏でる来訪音が学び舎に響くのは必至。
既に避けられぬこととして、待つことを選択した自分ではあるが。
正直に言おう。やはり内心は遠い目をしている。
「傷自体はね、幸運なことに二日目でもう殆ど目立たないくらいまで治っていたんだ。昼前には山頂の巌を訪ねるつもりでいたのだけれど、周囲は懸念が拭えなかった様子でね。結果的に『証』を山頂に持って行けたのは夕刻のことだった」
空白の四日間。
それは神の再興と『神酒』探索もとい尾根の旅。
その末にようやく、歪みから解放され。
同時に手にした、目覚めの顛末。
時間の許す限りは、さくさく進めていこう。
合間合間にクラスマッチ中継を挟みつつ、クラスマッチ閉幕までには『咎』の因果が白日の下に晒されることを願って。
――――役者が揃い踏みするまで、あと僅か。
*
「――――なるほど、ね。まさに瓢箪から駒が出て来た訳か。納得した」
「得心頂けたようで、何よりです。ところで、緑麗様」
「……ん、どうした?」
「私の親指は、枕ではないのですが……」
ゴロンゴロンと、先ほどから手の平で寝返りを打たれている現状を言葉で表すのには、相応の苦悩を経ております。
そんな夕刻。山頂の巌前。目の前には一寸法師も斯くやといった風情の神がおりますれば。
――――言葉に迷うのも、道理。うん。これは正常の範囲内。
内心でそう言い聞かせつつ、周囲の視線は色々と物語る。
それは要するに、憐憫にも似た何か。
「……想像していたより、相当神力を失っているようですね。このままでは早晩、神としての存在を保てなくなっていたのでは?」
「……最悪、寝ている間に存在すら保てなくなっていたかもしれないねぇ」
眠り過ぎて、そのまま永眠とか全くもって笑えないのですが。
しかし何より、呼びかけに答えてくれたことが何よりだ。四人の内、誰だったかは分からないまでも「奇跡のような確率だ」と呟いていたのはつい先ほど。うん、本当にそうだねと内心で同意していた。
「そこな二名、聞こえているよ。隠す気もないのに、わざわざ声を潜めるな。聞く方が面倒だろう。……さて、話を本筋へ戻そう。日和の末、我の求めに応えたそなたの意図、確かに受け取った。信頼に足り得ることを身を持って示したそなたの望みを叶えるのに、異存はない。――――ただ見ての通り、我は最盛期の神力を既に失っておる」
ええ、巌からの登場シーンを見る限りそのように感じられましたと。
まさか素直にそのまま口に出すわけにもいかず、神妙な面持ちで頷き返した。
因みに、巌の割れ目から小さな手が這い出て来た時のホラー感はそれなりでした。
ぱっかりと巌自体が崩れ落ちるイメージを抱いていた周囲が、ある程度の距離を置いていたのが結果的にとても切ない感じを増長させる一因でもありました。
神の目覚めというよりかは、寝起きを起こされて布団(巌)から這い出て来たワンシーンとして暫くは夢に出そうだ。
そして、現状。
手招きされて、そろそろと歩み寄っていけば手の平を出すように言われた。
その求め通り、手の平を出したら何故だろう。即席のクッション的な使用例として、居心地の良い個所を探してゴロゴロされている。
手の平に、神。
和むところか、これは。
全くもって、心の置き所が見えてこない。カオスだ。
「神力を取り戻していない現状では、出来ることにも限りがある」
「そうなのですか……」
「その『証』もそうだな……全盛期の半分ほどの神力が無くば、封印を解くことすら儘なるまい」
「……半分、ですか。ちなみに今は全盛期に比べるとどれくらい消耗されているのですか?」
「今か。そうだな……あの頃を百とすれば、今は八くらいか」
「そうですか……、八…………はい?!」
「うむ。もう少し起床が遅れていたら、そのまま消滅していたかも知れぬ」
十分の一ですらないとは、とんだ切迫具合である。
手の平の表情からはまるで感じられない逼迫感。寧ろ、今もって眠たげである。
揺るぎないよ、この神。
いいの、それで。
死因が睡眠過多って。
助けを求めるような心地で、周囲を見渡せば一様に半笑い。
いやいやいや、違う。そんな諦観をもって返されたら、こちらが困る。
「結論から言えば、そなたは意図せず我を消滅から救ったという訳だ。日和の末よ、我儘を承知でひとつ頼みを聞いてもらいたい」
「……私自身には、期待されるほどの能はありませんが」
「――――ほぉ。面白いことを言う。まさに周囲と自身の評価が食い違っておる良い例だ。そなた自身の評価はさておき、我からすればそなた以外に頼める怪異が他にいないだけのこと」
そなたに引き受けてもらえない折は、このまま緩慢な消滅を迎えるまで。と。
遠回しに脅迫といってよい発言を受け、それでも尚溜息を隠しておける忍耐は無かった。
そして同時に、引き受けないという選択肢も――――無い。
「どのような依頼でしょう?」
「諦めの良さは、日和に在って異質か――。ふむ、やはりそなたを待って正解だったな」
万華鏡のような、妙なる色彩を持つ双眸が微笑を形作る。
手の平に乗るほどの童子の姿をした緑麗神。
彼は、手の平の上から見上げるようにして少女に願いを告げた。
――――そなたに、供物の調達を頼みたい。
「供物、ですか?」
「そう、供物だ。捧げられるモノとそれを捧げる信仰心の二つ。これが神としての形を保持するのに欠かせない栄養素なのだよ」
「……栄養素って。そもそもバランスの取れた食生活が神に必要でしたか?」
「いや、必要不可欠ではない。だが、好物はある。好物を捧げられれば、通常よりも神力を大幅に増強することが可能となる」
緑麗神曰く。
彼の好物は――――極上の神酒。なるほど、豊穣を司る神らしい一品である。
「特に、西の尾根に湧き出る『秘酒』が有れば尚良し」
「かなり具体的な指示が来ましたね……。因みに西の尾根とここを往復するのに、どのくらいの日数が掛かりますか?」
「片道なら、早朝に出て人の足では夕刻に着くくらいの距離だったと思うが」
神力を十分の一以下まで落としているとは言えど、そこはやはり神。
ここ一帯に生じている歪みによって、翼を封じられている現状。
そこを配慮した上での回答を受け、どうやらいずれにしてもこの『依頼』を完遂しなければ、進めないばかりか戻ることすら叶わないことを知る。
まさに、後にも先にも退けない。
休日の定義について、歪みの起因が明らかになった暁には懇々と説明を加えたいものだと本心からそう思った。
無断欠席の恨み、これは割合と根が深いのだ。
何はともあれ、神酒探しの旅である。
もはや無断欠席は避けられず、神の再興に駄目元で取り組むのも致し方なし。
そんな少女の悲壮な決意を余所に、着々と整えられた出発の準備。
夜明けとともに、二色の翼と案内役の瓢箪君とともに出立することとなった。
因みに周防様には、この旅に同行して頂かないことでお願いした。
未だに歪みが残っている現状を鑑みた上で、緑麗様と共に残って貰うように伝えている。
山野の安定は、この状況では欠かせない。寧ろ優先事項だ。
首尾よく『神酒』を手に緑麗へ戻っても、肝心の神が神力を使い果たして消滅していたとあっては目も当てられない。
それも含めての、要するに保険だった。
受験戦争でいうところの、併願のような。
安全策に万全を期すことに、全員が全員異論はなかった。
よし、ここに来てようやく息が揃ってきた。
幸先は、悪くない。
――――と、そう思っていた時期もありました。
具体的には、出立して道の半ばくらいまでは非常に穏やかな旅路であったのですね。これが。
しかし、雲行きが怪しくなったと思ったら次の瞬間には豪雨。
おお、これが所謂ゲリラか。と。
辛うじてびしょ濡れにならずに済んだのは、ひとえに大きな翼が傘代わりになってくれたからである。具体的には、風狸青年の献身的な双翼のお蔭です。
過ぎ去った雨雲を横目に、木陰に身を潜めていた瓢箪君が「いつになく天候が不安定だな…」と呟いていたのが印象的でした。
山の天候は、時に女性の心情に例えられることもありましたね。そういえば。
ふと兆したそれに、唯一の女性視点として複雑な思いにとらわれること数刻。
ぬかるむ山道を、瓢箪君の的確な指示を受けつつ進む間は何となく感傷的な思いにとらわれておりました。
思えば、あの一連の流れの中に所謂『兆候』に近いものがあったかもしれません。
突然の雨。ぬかるんだ山道。普段からの不運気質。
この三つが揃って、何も起こらないなんてことがあるだろうか、と。
事実、ないんですね。これが。
翼を封じられているが故に、尚一層の細心の注意を払っても避けられぬとは之如何に。
咄嗟に、月見里の里で貸してもらった外套兼雨合羽を巻き付けて転がったものの。
全身を襲う痛みと、浮遊感。
視界の端を掠めた、景色の揺らぎと違和感。
――――はい。滑落いたしました。それはもう、見事な弧を描いて。
反転した視界と、震えた耳朶。誰の声かもわからないままで。
二色の翼が、風音を伴って開かれたのも。
瓢箪君の、息をのんだ音も。
全て、聞こえていました。
幸運と言えば、それが岩場や崖ではなかったことくらいでしょうか。
木々を突き抜け、枝葉を降りながら。
湿り気を帯びた地面をひたすらに転がり落ちていった先。
漸く、止まったところで視界に広がる赤茶けた地面。
隙間から、恐る恐る顔を出して全身の無事をまず確かめた。
そうして分かることが一つ。
山間の民が織る外套には、想像をはるかに超える防御力が込められているらしい。
「……ここは、どの辺りだろう?」
無事を確かめた後に、周囲を見渡して思わず零れ出た呟き。
先ほどまで歩いていた一帯は樹齢を重ねた広葉樹が、空を覆い尽くさんがばかりに枝葉を広げていた。
一方、現在はどうか。
そろそろと顔を上げれば、木漏れ日の隙間。覗くのは、蒼穹。
……おかしいな。雨雲は去ったとはいえ、直前まで曇天といっていい空模様だった筈。
対照的な景色が広がっている上、針葉樹特有の香りにも満ちている。頭痛がしてきた。
――――またか。またなのか。
転がり落ちても、五体満足であるのは喜ばしい。諸手を挙げて外套を掲げ、その場で讃えてもいいくらいだ。
ただし、状況が状況である。
飛ばされるのは、二度目を数えた。
何が理由かは知らないが、どうしてか自分は歪みと相性が良いらしい。嬉しくない話だ。
とは言え、一度目よりか、二度目の方が冷静に受け止められる。
日々着々と成長している自分を実感できるというものだ。
うん、でも前回と今回では大きな差がある。見過ごせないほどの、大きな差が。
つまりそれは、飛ばされた先に誰もいないこと。目印になる物もなく、見当もつかない。
今回は正真正銘の遭難だ。
泣いてもいいですか。
内心の声は、表したところで誰にも拾ってもらえそうにない。
次回で神酒探しの旅から帰還したいところ……その後は、クラスマッチ中継を挟んで、時間軸を現在にまとめていこうと思います(/・ω・)/
それではまた、お会いできる幸運を願いつつ……




