半壊と降臨
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時は少し遡る。
ここ数日で歩き慣れた道を辿り、家の前まで歩いてきて止まった少女の視線の先。
何か、焦げ臭いなとは思った。
隣の家のわんこが犬小屋のなかから出てこないらしい。
隣の奥さんの宥めるような声を遠くに聞きながら、思う。
うん。遅かった。
少女の見つめる先で、社宅だというその家は半壊していた。
果たして全壊していないだけましなのか。
家の屋根が約半分吹き飛んでいるため、半壊と称した訳である。
庭に散らばった残骸。
流石に困った様子で佇む母。
それらを交互に見た後は、ひとまず深呼吸だ。
「で、どうしてこうなったの。母さん?」
まずは事情を聴くことにした。
……しかしながら、こうしている今も疑問だ。
ここまでの惨状に、なぜ誰も集まらないのか。
謎だ。
まさかオカルト界ではこの程度大したことはない……のか。
そもそも警察は存在しないのか。
是非その辺りは確認しておきたい。
しかし今は、それより前にすることがある。
母から状況を聞き出さないと。
何をするにしても、まずはそこからだ。
「すまん…………なんか、爆発した」
そうか。
…………何かが爆発したんだ。
普通に生活していたら、この規模で爆発が起こるということは考えにくいんだけどね。
ただ、この母なら或いは……と、思わせる何かが母にはある。
そこは娘が保証する。
うん。何かが可笑しいね。
地下に不発弾でも眠っていたのかと、思わず疑いを抱くほどの惨状ではあるが。
とりあえず、この時点ではっきりしているのは一つ。
何かが爆発したものの、幸いなことに母は掠り傷程度で済んだらしいこと。
さっと視線を巡らせる限り、目立った外傷も無い。
「頭を打ったりはしていないね…?」
「ああ。大丈夫だ。咄嗟に風圧をいじって爆風は相殺したから」
随分と玄人な母である。
家が爆発した程度、火傷もせずに切り抜ける辺りが一般を逸脱している。
まぁ、ひとまず安心した。
いや、安心するところが違うのか…
「父さんはまだ知らないんだね?」
「…………うん」
何だかいつになく気まずそうだ。
珍しいこともある。
しかし、この状況は流石に連絡しないとならない。
詰まるところ、会社の持ち物だからね。
器物破損……か。
もう日も傾いてきた。
あと半刻もすれば、日が沈む。
今夜の宿も確保しなければならない。
「母さん、携帯は?」
「………………」
無言で差し出されたモノを見て、溜め息を溢した。
これは、駄目だ。
大破した携帯が無惨すぎる…
こうなれば仕方がない。
少女が自分の携帯を取りだし、父にその場で連絡を取ったのは言うまでもなかった。
Pulll******・・・・・・・
幸いなことに、2コール位で繋がった。
『はい。どうしたの? 呉葉から連絡なんて珍しいね』
『父さん、今家です。』
『うん?』
『家が半壊したから、今母さんと庭に待機してる』
『………はんかい?…………半壊?!』
父の驚愕が電話越しでも伝わる。
無理もない。
付け加えるなら、少し「半壊」の変換に時間が掛かったみたいだ。
『屋根が半分くらい飛んでるよ。庭に散乱してる。近隣に怪我人はいないみたい』
『いやいやいや、何でそんなに冷静なの。呉葉、え何。母さんは無事なんだね?』
『お望みなら替わろうか? ん、……あぁ。ごめん父さん。母さんちょっとまだ混乱している。今は替われないって』
『時雨が混乱?!……そうか、余程ショックだったんだね』
いや、何その驚き方。
本当に夫婦なのかなこの二人……
家が半壊したら、普通は混乱する。
しかし母の拒否姿勢は、傍から見ていてもこちらが退く勢いだ。
どれ程替わりたくないんだ。
『身体は無事だよ。気まずくて苛々してるみたい』
『………そう。いつも通りで良かったよ。呉葉、会社に報告してこれから帰るよ。もう暫く母さんと庭で待っていてもらえるかい?』
いつになくまともな父の提案に安堵して、了承の返事を口にしようとした。
けれどもその前に、奇妙なものが視界に入った。
思わず目を凝らす。
夕空に揺らめきながら近づくそれは。
飛行機、ヘリ、怪鳥、巨大昆虫の何れでもない。
うん?
選択肢が後半から変?
そこはまず思い出してみよう。
原点に立ち返れば簡単な話だ。
ここは、オカルト界だからね。
ともあれ、それは確実に近付いてくる。
全体像が把握できる頃には、それは丁度真上でゆったり浮かんでいた。
それは一般に龍と呼ばれるもののようである。
近づく程に、何やら鱗同士が擦れ合っているらしいところまで見えるようになった。
楽の音のような不思議な旋律が響いてくる。
『おーぃ。呉葉さん? 今から帰るよ?』
父の声が右から左へ抜けていく。
ごめん、父さん。ちょっと返事どころでないよ。
通りすぎるかなと思ったけれど、どうやら違う。
目的地はここらしい。
ぐるりと、空でとぐろを巻くようにした後、庭へしなやかに降り立ったそれは見ている間に輪郭を曖昧にして人の形を取っていた。
庭一杯に広がっていた鱗が消えた後には、二人のひとが立っていた。
隣に立つ母が呟く。
「……当様、母様……」
まさかである。
何だこの展開は。
うん…………なんだ、つまりは纏めよう。
『…父さん? あのね、母さんの両親が来訪しました』
まだまだ続く半壊騒ぎ……ヽ(´o`;
次回は里帰りを予定しています。
読んで頂いている皆様に感謝を込めて。
学園生活二日目まではまだまだ長いです……




