88 江差の戦い その1
しかしここで疑問が1つ。
(1200人……? おかしいな、確か季広さんや季貞の話では2000人いたはず。いくら季広さん達やアイヌの人が抵抗したからと言って、そこまで減るようには思えない……)
王国軍兵士の強さ、特に魔法技術の高さは身に沁みてわかっている。
それに前回と違い、相手もこちらの戦力については把握しているはずだ。つまり、前回より損害少なく戦えているはず。
とすれば、他の数百人はどこか別の場所に……まさか。
「? 今度はどうしたッスか、武親さん?」
「これは俺の予想なんだけど、2000の兵が全て江差にいるわけじゃない気がするんだ」
「……え?」
「では、他にはどちらに?」
「……多分、江差からさらに北上したセタナイに向かっていると思う」
「何、瀬田内にござるか!?」
そして狙いは、セタナイのアイヌと瀬田内館の和人。
推測するに、館主・工藤祐致の元に重季と直季は匿われているはず。
人間の完全なる抹殺を狙い、かつ後顧の憂いを絶つ。第4師団にしてみれば一石二鳥だ。
「どのみち、25000の兵が全て江差で戦えるわけじゃない。鴎島を占領したら、10000前後の兵をセタナイに回すようヴィクトリアに伝えてこよう」
「了解! 戦闘が始まったら、急いで伝えていきます!」
「頼んだ」
さて、あと俺達が立ち向かうべきは1200の兵だ。
誰が率いているかはわからないが、規模的に師団長直属の部隊でないのは確実。
しかしわからないな。何故、相手は兵を江差に置いたんだ?
俺だったら、史実の戊辰戦争でも戦場となった中山峠(現・北斗市、厚沢部町境界)に兵を伏せるんだけどな……。
「へっくちっ……! にしても寒いッスね……」
「へっくしゅ! ……私も犬の獣人として、雪は好きなんですけどね」
ただ、俺達も作戦を考える余裕は消えつつある。
なぜなら、さっきから少しずつ降っていた雪が、徐々に吹雪くようになってきたからだ。
さっきまで伝える機会を逃していたが、実は街道は積雪でいつも以上に狭まっていた。
おかげで進軍速度は低下。徳山館から江差まで一週間もかけて移動していたのだ。
「情けのうござる。魔法とやらで寒さは防げぬのか?」
「いや、防いではいるッスけどね……寒いものは寒いっす」
アイオニオン大陸の寒さは蝦夷地のそれと変わらない。
だが、降雪量の違いにより、王国軍は想像以上の寒さに悩まされていた。
前世、インターネットで得た情報だが、北海道や青森県の寒さには更に北方に暮らすロシア人でも耐えられないらしい。それも、雪の多さに原因があるそうだ。
まあ、王国の首都・クヌーテボリは寒くても結構晴れて乾燥している日ばかりだったしな。
一方、かれこれ14年間蝦夷地で生きてきた俺達は慣れているので、特に何ともない。
もっとも戦国時代の常識としては、雪に埋もれている季節に軍事行動はちょっと有り得ないんだけど……事態が事態だし、仕方ない。
「そうか……む」
「どうしました、備中守さん?」
「策が……思いついたでござる」
「本当ですか?」
では備中守さん、その策の内容をお聞かせください。
「先んず某がこのまま浜沿いに前進し、敵を誘い出す。その隙に、五郎達は南から高台に上り敵兵を背後から突きだす。そこに遠距離魔法とやらを叩き込む」
「高台の北で、壊滅に追い込むわけですか……」
しかし、言うは易く行うは難し。
南から高台に向かうには、雪に深く埋もれた道なき道を行かなければならない。
「敵も背後から敵が来るとは思わぬだろう。奇襲を狙う相手に、こちらから逆に奇襲するでござる」
「奇襲返し……それはなんか面白そうですね」
「そうだろう、そうだろう。それでは検討を祈る……グビグビッ……ぷはぁ!」
酒をまたも飲み下す季貞。だが判断力は健在のようだ。
「だから酒は……まあいいか。では、俺のほうからも頼みますよ!」
「しょ、承知致したでごじゃる~……」
あ、酔いが回った。判断力は健在……なのか? 急に不安になってきたぞ。
こうして俺達は、二手に分かれて第4師団を叩くことになった。
◆◆◆◆◆
「とは言え……歩くのしんどっ!」
「脚がとられるッス……」
だが案の定、俺達の進軍はさらに困難を極めた。
普通に進んでいてはにっちもさっちも行かないため、音をなるべく立てずに雪を踏み固めて道をつくる始末。
行軍速度は、最低レベルまで低下した。
「皆、急いで道を作ってくれ!」
「了解!」
これで奇襲とか、マジ出来るのかよ……。
まあ、最悪出来なくても俺の部隊だけでも向こうの兵力は上(実は2500人ぐらい引き連れている)。
踏み固められていない雪原の上という条件は一緒だし、まあ十分には戦えるだろう。
もっとも、かなり戦況はぐずつくだろうがな……。
どうしようもなくなったら撤退して季貞に伝令を送って、代わりに高所の利を得させるとするか。
「……武親さん。あそこ、見て下さい」
「あれは……!」
西洋風の軍服姿……間違いない。遠くに見えるのが第4師団の兵士だ。
どうやら全員、日本海に顔を向けているようだ。
「では行きましょうか」
「ラグンヒル、ちょっとタンマ。少し確認したいことがある」
奇襲したいところではあるが、他に伏兵がいないかチェック。
……ん? これは……。
「ラウラちゃん。少しこっち来て」
「どうしたッスか?」
「第4師団の兵が、俺達の東にいる」
「え……! そうなんスか!?」
「どうやら相手も、南から攻められる可能性を考慮していたみたいだ。だが、相手が悪かったな」
『瞬間兵力検索』の結果、俺達の東に総勢400人の大隊を発見した。
どうやら、高台に上ろうとした俺達を挟み撃ちにするつもりだったのだろうが、俺の目は誤魔化せない。
「そっちのほう、任せていいか?」
「上官に聞いてみないと分からないッスが……取り敢えず伝えておくッス」
「任せたよ」
さてと。ラウラも送ったし、これで準備は本当に完了した。あとは攻撃だ!
「全軍、攻撃開始――!」




