80 蝦夷地帰還
今回から武親視点に戻ります。
1562年3月。
俺達がクヌーテボリで謀反の知らせを聞いてから2週間後。待ち遠しかった脇本館に到着した。
この直前、俺達は軍をまず二手に分け、脇本館を目指す一団と志苔館に向かう一団とに分割した。
さすがに、7万もの兵力を蝦夷地の狭い街道で動かせないからである。
蝦夷地の使節団は、松前に近い脇本館から奪還を目指すグループに入った。
まさか、こんな形で蝦夷地に帰ることになろうとはな……。人生とはわからないものだ。
「脇本館は……特に襲撃を受けてはいないようだ」
脇本館は何時だか守継にお礼をした時と同じく、そのままの状態であった。
だが何やら中が騒がしい。季広さん達がいるのだろうか?
「鷹姫は蠣崎家当主としての地位を狙っているからな。松前さえ落とせば、残りの館に兵力を割く必要はない。けど……」
「王国の兵が志苔館に向かっているかもしれないッスね」
話し込む俺達に、ラウラが割って入った。
「あれ? ラウラちゃんなんでここに……」
「実は自分、希望で今月から第2師団に転属することになったッス。もう一度最前線で鍛え直すことに決めたッスからね」
「そしてそれは、私も同じですっ」
ラウラの後ろから、ラグンヒルまで顔を見せる。
「ラグンヒルさんまで……」
「あの時のような無様な姿は晒しません! これは約束です」
「ああ! それ自分が言おうとしたのに……」
騒ぎ立てるラウラとラグンヒル。すると俺達の横から、慶広が鬼の形相で俺達を睨む。
「……緊張感を持て」
「よ、慶広。ごめん……」
その眼には、岩をも砕きそうな凄まじい眼力を秘めていた。
そうか……慶広は兄を2人も失っているんだもんな。あまりはしゃぎすぎるのも考え物か……。
「中に入るぞ」
「ああ」
俺達は脇本館の中へと入っていった。
◆◆◆◆◆
「おお、慶広! 生きておったか!」
「父上、少々暑苦しいでございます……」
中に入ると開口一番、季広さんが慶広に抱き着く。
そんな季広さんの目には涙が。普段は当主として威厳を示さなければならない彼の涙は、蝦夷地の厳しい現状を語っていた。
「ぬう、まさかここで小童の顔を見ることになろうとは……」
「この状況で、あからさまに嫌な顔をしないでください」
相変わらずだな、広益のオッサンは。
蝦夷地が鷹姫達に蹂躙されているかもしれないのに、オッサンの性格はブレがない。感心するよ、ある意味。
「もっと早くに駆け付けぬか、小童」
「無理言わないでほしいです。蝦夷地と王国は、船で最短2週間かかるので」
「しかし、よもや謀反人の拠点に身を寄せることになろうとは……」
「む、謀反人……」
広益のオッサンの発言に、宗継は思わず身をすくめる。
いや、確かに脇本館は守継の拠点でもあるけど……宗継の前でハッキリ言うことは無いじゃないか。
「止めよ、広益。今為すべきは、蝦夷地の奪還じゃ」
「はっ、お館様」
ふう、季広さんナイス。止めなかったら、何時まで経っても俺に纏わりつきそうだったからな、広益のオッサンが。
さて、愉快なほのぼのタイムは終了だ。早い所、俺達の作戦を伝えて行動に移さないと。
「して、陣容なこれ以上ないほど立派なものじゃが、如何に動かす? 蝦夷の街道の狭さは、お主達も知っておろうに」
「それなんですが……既に策はあります」
「ほう、申してみよ」
俺達は季広さんに作戦の概況を伝えた。
今回の作戦はこうだ。
現在、脇本館には35000、志苔館には35000の兵力がある。
志苔館の兵はわりと広大な函館平野に大きく展開できるとして、問題は脇本館の部隊だ。
そこで今回は、まず20000の兵力を知内まで進める。
交通の要衝であるため一戦を交える可能性が高いが、奪還後、函館平野に向かう部隊と松前に向かう部隊に分かれる。
函館平野には慶広が、そして松前には俺が季広さんを奉じて向かうことになる。
そして慶広が函館平野に到着した後、志苔館から出撃した35000の兵と共に、第4師団が展開していれば挟撃。
俺が松前についた所で、脇本館から船で沿岸に待機している兵と共に、徳山館の奪還を目指すという寸法だ。
ちなみに徳山館を奪還した後は、勝山館、江差、城丘(現・厚沢部町)を経由して函館平野北部に進出。慶広の部隊に加わる。
この作戦にした理由は、1つ目は慶広のほうが魔導師との戦いに向いているということ。
そして2つ目は、慶広曰く「松前に余が向かうと、肉親を殺された恨みで正常な判断が出来なくなる」と思っているかららしい。
館内には、脇本館に避難した大勢の和人とアイヌでごった返している。
宗継から伝えられたとおり、蠣崎領全体に鷹姫達の勢いは及んでいると考えるべきだ。
「情けない話じゃが、儂らはお主達に頼るほかない。よろしく頼むぞ」
「はっ!」
季広さんの激励を受け、俺達は脇本館近くの本陣に戻っていった。




