81 知内の戦い
脇本館の本陣で作戦の確認を行った後、35000の兵は幾つかの部隊に編成された。
部隊長は以下の通り。
松前方面の主な部隊
・蠣崎季広(副将は南条宗継)
・不破武親(副将はラウラ・ミュルダール、ラグンヒル・ガルバレクなど)
・厚谷季貞
・リシヌンテ
・ヴィクトリア・カルロッテ・ミュルクヴィズラント
亀田方面の主な部隊
・蠣崎慶広(副将は長門広益)
・小平季遠
・レスノテク
・イングリッド・ティルダ・ミュルクヴィズラント(副将はブレンダ・ラーゲルクヴィスト、アストリッド・フォーゲルクロウなど)
志苔館にいる部隊
・フルダ・ウルリヒなど
部隊の編成が完了した後は、ついに出陣となった。
とは言っても、狭い浜辺に35000の兵は一箇所に駐留できないため、陣形は南北に延びている。
そこで、順次兵士に声をかけ、自分の部隊を実際に造っていく形式となった。
最初の戦場となるであろう知内までは、それほど距離は無い。
だが、数はこちら側が完全に優位。知内にそれほど第4師団の兵力があるとも思えない。ここは一気に叩く!
反乱軍も蝦夷地の地理をあまり把握していないだろうから、地形的な戦術はそれほど採らないと考えるべきだろう。
そう言えば、知内と言えばリシヌンテの父・チコモタインが治める集落があるよな。大丈夫なんだろうか……?
「皆の者、出陣じゃあ!!」
「おお!!」
季広さんの轟く号令。それに呼応する兵士達。
こちらの王国軍は、季広さんに刃を向ける人はいなさそうだ。
そう言えば、味方側が数で勝る戦いは初めてだな。
兵力が多いからって油断しないように気をつけないと。
「……ところで、なんで俺の副将にラウラちゃんとラグンヒルさんがいるんだ?」
「ええ? ダメッスか?」
「まあ、もしかして照れ屋さんなのですか?」
「いや……第2師団旗下だから、てっきりヴィクトリアの下に就くものかと」
「貴方がたが並ぶと、お似合いだと思ったまでですわ」
そう言ってヴィクトリアは、俺達3人をニヤニヤと見つめる。
それに返すように、ラグンヒルも朗らかな笑顔を向ける。
ラウラは緊張して、まじまじとヴィクトリアを見る。
おいおい、半年前の士官学校での戯れをどこで知ったと言うんだ? ヴィクトリアさんよ。
「そ、それでは! い、いいい、行ってくるッス!」
「リシヌンテさんも忘れちゃいけませんよ。殿下♡」
さらにラグンヒルは、俺の右腕とリシヌンテの左腕をギュッと掴んで離さない。
「ふふふ、勿論忘れてなどいませんわよ」
「? ボクがどうしたの~?」
「さあ! 進軍だ!」
このままだとその場で話し込んで足が止まってしまうと判断し、俺はさっさと号令を出した。
しかし、周囲の兵士達もまた、彼女たちと同じく俺達のほうにイヤらしい笑みを浮かべてくる。
いや、もう考えまい。さあ作戦開始だ!
◆◆◆◆◆
脇本館から知内までは1里(約4キロ)もない。
俺達は第4師団に対し、鶴翼の陣形を取る。そして一刻も経たないうちに、掃討戦は開始された。
「全軍! 突撃だああああ!!」
「了解!!」
今回、先陣を切ったのはなんと俺!
兵を獲得した俺達は、さながら水を得た魚。
小さな平野部に僅かに展開する反乱軍300人を排除するのに、それほど時間は掛からなかった。
「不破五郎武親! 推参!」
「虎の威を借る狐ごときが……ぐおああああ!!」
特別な策を弄さずとも、俺の槍と味方の魔法が反乱軍兵士を次々と撃破していく。
え、俺も魔法を使えって? そうだな、練習がてら使ってみるか。
俺は刀を2本抜き、両手でそれぞれ構えた。
「食らえ! 斬葬!」
「ぬおあああああ!!」
「ひ、ひいいいいぎいぃゃあああああ!!」
俺が長い間鍛えた腕力と、王国で鍛錬を積み重ねた魔力。
それらが合わさり、刀の斬れ跡から発生した波紋が、遠くの山々まで一直線に飛んでいく。
同時に、直線状にいる反乱軍兵士も一斉に宙を舞った。
「五郎! 某の功を盗らないで頂きたいでござる!」
「まあまあ、良いではないか季貞。味方の活躍は喜ばしきことであるぞ」
「鬼神の如きにて候」
俺達の通った後には、第4師団兵士の屍が残るのみであった。
ふう、取り敢えず魔力の発動に成功して良かった……。
「ひ、ひいいっ! 降伏だ! 我々は降伏する!」
戦闘開始から僅か数刻。これといった激しい抵抗も無く、敵の現地指揮官はあっさり白旗を上げた。
戦闘の結果、味方の戦死者は無し。
一方、反乱軍兵士は300人中217人が戦死。73人を捕虜とした。
10人ほどは行方不明とのことだが、おそらく松前と木古内に伝令の為に逃げたと考えるべきだろう。
まあいい。むしろその10人を利用して、第4師団中にこの大軍の存在が知られれば、相手の戦意は大いに喪失することも期待できる。
結果、残りの部隊の降伏にも繋がるというわけだ。ならば、無理に捕えないほうが好都合である。
「お味方、勝利!」
「うおっしゃああああ! 勝ったあああ!」
もはや、当然の結果と言える。
だが、これはあくまで蠣崎領奪還の第一歩。むしろここからが本番と言えよう。
そうだ、リシヌンテはどうなったんだろう……?
◆◆◆◆◆
知内の集落は、完膚なきまでに焼き討ちにされていた。
実は脇本館には、この集落から避難してきたアイヌが大勢いた。
しかし一部の人は逃げることを良しとせず、果敢に反乱軍と対峙していったという。
その結果、今の知内には炭になった家々と、全身黒こげの死体が転がるのみ。
そんな中、戦の後真っ先に集落に向かっていたリシヌンテの姿を発見した。
「お父さん……お父さん……」
だがその時のリシヌンテには、いつもの活発さは微塵も感じられなかった。
どころか、これまで一切見ることのなかった大粒の涙が、彼女の頬を次々と伝っていく。
そのリシヌンテの腕には、無残に切り刻まれた男の遺体。
「リシヌンテ……これが君の父の……」
「う、うん……。うっ……うう……うわああああああああああん!! お父さああああああんっ!!」
瞬間、リシヌンテは数十里の果てまで届きそうなほど大きな声で号泣した。
父・チコモタインの遺体を前に、彼女はこれまでにない悲しみを感じたのだろう。
俺も彼女の様子に、涙せずにはいられなかった。
(くそ……)
俺とリシヌンテはその晩、知内の集落で共に泣き明かした。




