74 次代を担う若者達
「……良かった。目を覚ましてくれたですね」
目を覚ますと、そこには白い天井と犬耳を動かすラグンヒルの顔が。
「ラグンヒルさん? それにここは……」
体を起こし周りを見渡すと、そこは王立士官学校の医務室。
多くのベッドが整然と並べられている中、俺の近くには使節団の皆をはじめ、護衛小隊の隊員の姿もちらほらと確認できた。
だが、ラウラの姿は何処にも無かった。
「一昨日、いきなり倒れたものですから仰天しちゃいましたよ。その後は私が武親さんを抱えて、このベッドに運んだのです」
「ああ、そうかそうか。何せ、眩暈しちゃったもんでな……一昨日?」
「はい」
あれ? 俺そんなに長い時間寝ていたっけ? ディンケラ山賊団との戦いから、もう2日が経ったのか。
どうやら俺の体内の乳酸は、想定以上に蓄積していたようだ。……よく過労死しなかったな、俺。
「あのゴッドフリード・ディンケラとかいう山賊はどうなったんだ?」
「この士官学校の校長、フルダ・ウルリヒ少将率いる第3師団が討伐に向かったそうです。ただ、相手は大物の山賊。恐らく今回の討伐で捕縛したりは出来ないでしょうね」
「そうか……」
士官学校の校長は、通例その国の軍隊の将官が務めることが多いから、そこは特段ツッコむところでは無い。
しかし、一昨日の戦闘で山賊団もその規模を急激に小さくしているにも拘らず、捕縛は困難なのか。
考えられるのは、既に拠点を移動したか、他にまだまだ部下を大勢引き連れていたかのどっちかだ。
それよりも――
「ところで、ラウラちゃん……ミュルダール少尉の様子はどうなんだ? さっきから全く姿を見ていないんだけど」
「そ、それは……」
はて、一昨日のことが相当ショックだったのか?
仕方ない、2日も寝たおかげで体力は満タンだし、ラウラを探しに行くとするか。
◆◆◆◆◆
「ここにいたのか、ラウラちゃん」
「た、武親さん……」
2時間も無人で静かな校舎中を探し回り、ようやくある校舎の屋上でラウラの姿を発見した。
そんな彼女は、体育座りの格好で顔を膝の間に埋めながら、しかし目は空を見つめている。その目元には、涙の痕が。
「こんなところで、一体何を……」
「……グズッ……グズッ……」
俺が理由を問いただそうとすると、彼女は涙を流し始めてしまった。
「じ、自分は……! み、皆さんの護衛を任された身なのに……! 誇り高き……親衛隊の一員なのに……! なのに……結局自分は、あの山賊に対する恐怖心を抑えきれなかったッス……」
「ラウラちゃん……」
「皆は恐れることなく、戦ったのに……。そ……そんな自分が……惨めで、不甲斐なかったッス……!」
「それは違うな、ラウラちゃん」
「!」
そんなに自分を責めるなよ、ラウラちゃん。
俺の目にはしっかり映っていたぜ、あんたがちゃんと山賊団と戦おうと立ち向かった姿を。
「むしろ、初陣でよくあそこまで健闘したと俺は感心している。実戦って、結構難しくて上手くいかないことも多いしさ。……確かに仲間を沢山失っちゃったかもしれないけど、俺としてはあんたを褒めたい」
「た、武親さん……」
「慶広じゃないけど、俺達はまだ若い。次の戦いでちゃんと勝てばいいのさ」
「う……うう……うわああああああああん!!」
ラウラは、俺の胸元に飛びついて号泣した。
ラウラはチビな俺よりも一回り大きい女の子だが、この時は彼女のことが今までで一番可愛く思えた。
「よしよし」
俺は子供をあやすように、再び彼女を慰めた。
「――まさに女たらしだな、武親」
「よ、慶広! なんでここに……」
ラウラをあやしていると、背後から慶広の姿が。
「何、ラグンヒルから武親がラウラの所に向かったと聞いてな。彼女と一緒にお前を探しに来たのだ」
「あらあら隊長、羨ましい限りですね」
「ら、ラグンヒルさんまで!?」
慶広の横から、ラグンヒルものそっとその姿を現す。
しかも、ニヤニヤしながら俺達のほうにむけられた彼女の視線は、どこかキラキラと輝いていた。
「が、ガルバレク軍曹、これは……」
顔がポッと赤くなるラウラ。だが――
「それでは……私も混ぜてください!」
「え、ええ!!」
ちょっとラグンヒルさん、タンマ……。
このラウラを抱きかかえている状況で、さらにラグンヒルにも抱きつかれるようだったら、俺揉みくちゃになっちゃ……。
「えい!」
ラグンヒルがダイブした勢いで、俺は2人の体に挟まれるように横に倒れた。
う、う~ん……。これは何て天国……。というか、ラグンヒルさんの尻尾も可愛い……。
するとこの騒ぎを聞きつけたかのように、次々と使節団一行が屋上に登場してきた。
「な、ご……五郎!? 新三郎様、これは如何なる仕儀の顛末にござりましょうか!?」
「あ、逢引き……でありますか……」
「破廉恥至極にて候」
「ちょ、ちょっと! は、離れなさいよアンタ! 何やってるのよ!」
「お~、面白そ~っ! ボクにもやらせて~!」
「ちょ、ちょっと……助けてええええ!!」
季貞達が俺達の様子に赤面しながら硬直する中、ラウラ、ラグンヒルに次いでリシヌンテにまで抱きつかれる始末。
ああ、抵抗する気も起きない。もういいや……成り行きに身を任せちゃえ!
その後、俺は屋上でしばらく3人と仲良く(?)じゃれ合う格好となるのであった。
「もし間違いが起きちゃったら……責任取ってくださいね。私も、隊長の分も♡」
「ふ、不束者ッスが……よ、よろしくお願いしま……」
「責任って、な~に~?」
「ちょっと、冗談は止めいっ!」
「はっはっはっはっはっはっ!!」
◆◆◆◆◆
――こうして、異世界『ミズガルズ』において使節という名の青春を謳歌している俺達。
道中で、様々な人や街と接触してきた。色々な物や事件にも遭遇した。本当にいい経験をさせてもらった。
そしてここで出会った様々な経験や人が、後々の世界征服事業において重要な役割を担うことになっていく。
――しかし本格的な世界征服への長旅が始まる前に、もう一度だけ本拠地・蝦夷地の騒動を片づけなければならなくなることを、この時の俺達は知る由も無かった。
この後、閑話を2つはさんでから第5章に入ります。




