72 山賊出現
日中の農村視察は数日間に及び、さらに夜は翻訳作業や魔法の練習に勤しむ俺達。
勿論のことながら、体力的に限界であった。そしてようやく、俺達は士官学校近くの宿に戻ることになったのだ。
「某も好い加減、疲労困憊にござる……」
「ああ……心身が辛いであります……」
「意識混濁にて候……」
しかしその足取りは覚束ない。全員、2日目の出発時の様にフラフラしながらなんとか前進している状態だ。
「あ、あの……大丈夫ッスか?」
「は、はははは……。大丈夫だってラウラちゃ~ん、俺達は大丈夫だよ~……」
「明らかに大丈夫ではありませんね。肩をお貸ししましょうか」
「そ、そうするか~……って、おおっ!?」
やべ、道端の石に躓いちまった。くそ、顔面から地面に激突してすげえ痛い……。
「間抜け面を晒すな、武親」
「待て慶広、誰が間抜け面だって?」
「そんなに鼻血を流しながらボロボロの顔を見せられたら、誰だって間抜け面だと思うだろう」
渋々、慶広に指摘されて自分の顔面に手を当てる。
すると、確かに鼻のあたりから大量の血液が流れ出ていた。
「ねえラウラちゃん、紙とかない? このままじゃ、道路が血まみれになりそうな気が……」
「仕方ないッスね……。誰か、紙を携帯している隊員はいないッスか?」
ラウラが呼びかけると、小隊の中の1人が手を挙げた。
「あ、はい。私持ってます」
「ありがとうッス。武親さん、これで止血するッス」
「おお、どうも。これで服も血だらけになくて済む……」
そうして、応急処置用の紙を手渡された時のことだった。
「――おい、そこの珍妙使節団」
「!?」
突如、背後から野太い男の声が。
ふと後ろを振り返ってみると、そこには三国志の関羽のような髭を生やした、見た目もふてぶてしい山賊の頭目が。
しかもその頭目の後ろには、何百人もの部下が大勢いた。
って、珍妙使節団って、俺達の羽織袴姿のことを指しているつもりなのか。
それに珍妙って言うな。俺が「珍妙丸」と呼ばれていた頃の恥ずかしい記憶が甦ってしまうじゃないか。
……あ、顔が火照って鼻血が余計止まらん。
「どうせ血まみれになるなら、オレ様達の手でさらに豪快に血飛沫をまき散らせてやるぜ。おう?」
「あ、あの人たちは……」
「曲者にござるか!?」
俺達が乳酸まみれの体に鞭打って戦闘態勢に入る中、ラウラはどうも山賊の頭目に見覚えがあるらしく、カッと目を見開いていた。
「賊ごとき、拙者らの手で討ち果たすであります!」
「ボクも戦うよ~!」
「アタシだって!」
「助太刀致すで候」
「へっへっへっへ……随分とやる気じゃねえか。オレ様達に逆らうたあ、良い度胸じゃねえか」
ちっ、それにしても条件が悪いな……。
俺達は全員あわせて50人もいない。しかも蝦夷地からの使節団は動きが鈍っている人間ばかりだ。
対する向こうは『瞬間兵力検索』の結果、300人程。屈強な男で構成されている。
「ところでラウラちゃん、あの山賊に見覚えあるのか?」
「頭目のゴッドフリード・ディンケラは、アイオニオン大陸でも有名な山賊ッス。略奪、殺人何でもござれの悪名高い男ッス」
「おいおい、それはちょっと紹介が乱雑すぎやしねえか? オレ様は別に無差別に追剥や人殺しをしているわけじゃねえ。襲う価値のある奴だけに狙いをつけているんだぜ」
襲う価値か。察するところ、俺達が使節団であることをいいことに、珍しい物品を持っていると睨んで襲撃に踏み切ったんだろう。
「それにオレ様達は、首都クヌーテボリに集まる特産品に目が無くてなあ。だが首都は常にテメェら親衛隊が大勢常駐しているもんだから、なかなか手が出なくてよお」
「それで、首都で国王と謁見を果たした余達の姿を見つけ、追剥に来たのか」
「ああ。だが思った以上に宝物の宝庫じゃねえか。なにせ護衛の任に当たる親衛隊が、全員女なんだからよ!」
「!」
まさしく即物的な性格と言える。いや、俺も確かに言えたタチじゃないんだけどさ。
ただ、あいつらはラウラたちを捕まえるや否や、強姦しかねない危険性がある。言っとくが、俺にはそんな趣味ないからな。
まあいい、適当に山賊に関する情報を獲得したところで、今度はゴットフリートとか言う山賊の頭目の能力値でも測定してみるか。
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名前 ゴッドフリード・ディンケラ
HP 13800/13800
MP 811/842
攻撃 1277
防御 1251
魔攻 723
魔防 706
敏捷性 225
名声 38874
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ゴッドフリードはパワータイプか。物理的な攻撃力や防御力に長けているようだ。
だが、敏捷性はそこまででもない。少なくとも、俺や慶広、レスノテクのほうが素早さに優位性がある。
魔力量もそれほど多くないし、小回りの利く俺達としては、相手の統率を掻き乱す戦術をとるべきだろう。
そう考え、俺が山賊に近づこうとすると、ラウラが左腕で俺の動きを制止した。
「ラウラちゃん?」
「……自分たちは、陛下から皆さんのお護衛の任を賜っている身ッス。なのにその任を果たさず、逆に皆さんに守られてしまっているようでは、王国軍人として罪に値するッス」
「だから皆さんは、私たちの戦いを見守ってさえくれればいいのです」
「されど……」
そうだ、ラウラたちは俺達に魔法や王国の常識、風習を教えるためだけに来ているわけじゃない。
あくまで彼女たちの本来の仕事は、護衛なのだ。
「――わかった、任せるよ。頑張って」
だから俺は、ただ彼女たちの背中を押す言葉をかけることにした。
「武親さん……。了解ッス! じゃあ小隊の皆! これから賊を追い払うッスよ!」
「おお!!」
「とはいえ、危なくなったら余達も参戦する。危機を前に敵前逃亡するのは、日ノ本の武士として大いなる恥だからな」
さて、ラウラたちが山賊と戦っている間に、俺達も英気を養っておかないとな。
完全に元気ハツラツ、となるまではさすがに回復しないだろうが、少しでも有利に戦いを進めるのに休憩は悪くない。
それに彼女たちの戦振りにも注目したかったからな。じっくり拝ませてもらうぜ。
俺は護衛小隊が抑えきれなかった分の山賊に何時でも対処できるように、刀の柄に手をかけておくことにした。




