70 武親、魔法を試してみる
特別講習終了後、俺達は別の校舎にある訓練場を訪れていた。
「威力増強!」
「お、やってるッスね」
そこでは、士官候補生たちが懸命に汗を流しながら訓練に臨んでいた。
「突撃!」
「おおっ!」
そして候補生達が、一斉に目標物に向かって前進。
見事、勢いよく破壊することに成功する。戦場さながらの迫力に、俺達もついつい見とれてしまう。
「お~! すっご~い!!」
「あの戦の兵よりも威力が凄くない? 中野館や勝山館で対峙した兵とは大違いね」
「ふっふっふっ、それが士官候補生が優秀たる所以ッスね。それに今のは、魔法で攻撃力を上昇させてからの突撃ッスから、威力が高いのは当たり前ッス!」
俺達の前で堂々と勝ち誇るラウラ。
すると季貞がさらに興味を示したようで、候補生の練習をさらに近くで見学しようと彼女の左に移動する。
「……某も試したいでござる」
試したい、つまり魔法を使ってみたいということか。どうやら士官候補生の姿を前に燃えてきたようだ。
「季貞さん、やりますか?」
「拙者も同じく」
「宗継さんも……」
季貞と宗継が挑戦するのか。だったら、ここは……
「俺もお願い、ラウラちゃん」
乗らない手は無い。俺も魔法のコツを早く知りたいしな。
「武親さんまでッスか? と言うことは、この流れでレスノテクさんも……」
流れを読んだラウラが、後ろにいるレスノテクのほうを向く。
「あんたたちから先にやってていいよ。アタシは後でやるから」
しかしレスノテクは遠慮がちに、俺達に先に順番を譲った。
ではお言葉に甘えて、先にやらせていただこう。
「武親、季貞、宗継。お前たちは余も後ろから監督するぞ」
「頑張ってね~」
同じく後方から慶広とリシヌンテの声援を受けつつ、俺達も魔法の訓練に臨んだ。
◆◆◆◆◆
「では、魔法を発動させる手順なんッスが、技名を唱える前に1つ始動キーとなるものが必要ッス」
「始動きー、とな? それは如何なるものにござるか?」
「魔法は普通に技名を唱えるだけでは行使できないッス。もしそれで行使できてしまうなら、至る所で魔法が暴発してしまうッス」
「暴発……でありますか」
「そこで始動キーとなる短めの呪文が欠かせないッス。始動キーの役目は、自分の中にある魔力を利用できる状態に持っていく所にあるッス」
へえ、そんな仕組みがあるとはな。でも確かに理に適っているか。
技名だけでホイホイ魔法を発動できたら、今頃、士官学校の校舎は瓦礫の山となっているだろうからな。
「始動キーってのは、自分で設定出来るのか?」
「それは難しいッスね。出来ないことはないッスが、言葉の組み合わせによって使用可能になる魔力量が大きく左右されるッスから。少なくとも王立士官学校の生徒は、『魔力よ、湧きあがれ!』が指定された始動キーの形ッス」
「別に、何でも良いように感じるでありますが」
「……今の所、これが王国内では一番魔力を引き出せる形とされているッスから」
『魔力よ、湧きあがれ!』ねえ。これは重要事項だ、忘れないうちにメモしないと。
しかし言葉の組み合わせを問題とするならば、もっと使用可能となる魔力量が多くなる組み合わせも存在しそうだな。
いずれ、模索してみるか。
「もっとも、猊下をはじめ教会関係者の使う魔法には、始動キーのほかにもう1つ長めの呪文が必要となる技も多いッスが」
「へ~、じゃあボクがふだん不思議なチカラを使う前に唱えていたのも、その“しどうきー”なのかなっ?」
「自分はその戦いにはいなかったから分からないッスが、そうかもしれないッスね」
とラウラの説明が続いている所で、慶広が訝しげな表情を浮かべて考え込んでいた。
「……変だな。余が陰陽の術を使う時は、札さえあれば始動キーの必要性など皆無に等しかったが」
「あれ? そうッスか、それは初耳ッスね。……もしかしたら霊的な能力を秘めている道具を使えば、始動キーは不要なのかもしれないッスね。ただの推測ッスが」
重要事項追加。
始動キーは魔法的な能力を秘めている道具で代用可能、と。
「でラウラちゃん、始動キーを唱えて魔法を発動させるのが一般的なのか? 霊的な道具なしに唱えていない人もいた気がするんだけど」
「それは中・上級者向けの運用方法ッス。そう言う人たちは、声に出さず心の中で唱えているッスね。初心者や初級魔法しか扱えない人は、口に出して唱えるのが一般的ッス」
「なるほどね……」
つまり俺達は、始動キーと技名の両方を口に出さなければならないということか。
大筋は何とか理解した。『習うより慣れよ』、後は実践だ。
◆◆◆◆◆
「ぬう、上手く出来なかったでござる……」
「拙者らはやはり、筋がよろしくないでありますか……」
「王国軍、マジパネェ……」
校舎内の廊下で、俺と季貞、宗継は落胆して項垂れながら歩いていた。
一応練習はしてみたけど、魔法を扱い慣れない俺や季貞達は結局魔法を上手く発動させることは叶わなかった。
それでも俺はなんとか、数回に一回は小さな現象を巻き起こせるまでには成長。だが、他の3人は全くからっきしだった。
改めて俺は、王国軍の練度の高さを思い知ったのであった。
「こう考えると、リシヌンテはやっぱり凄いよね。それに引きかえアタシなんて……」
「レスノテク……」
「1日でコツを掴める人はほとんどいないッス。まだまだこれからッス!」
「そうだ。余も小さい時は、1か月かけてようやく今の武親の水準に達したのだ。余達はまだ若い、鍛錬を積む時間など腐るほどある」
「ま、それもそうよね」
慶広、その小さい時ってのは転生後の話か? それとも前世「知恩院海翔」として生きていた頃の時代か? ま、深くは突っ込まなくていいか。
「ところで、小平藤兵衛尉は恢復したでござろうか?」
「季遠か……。様子を見に行こうか」
季遠、脇腹の傷は大丈夫なのかな……。そこまで大きな傷ではないと思うけど、お見舞いに行ってやるとするか。
俺達は、室が用意されている士官学校近くの宿に向かう前に、医務室へと向かった。




