63 魔法の発動特性
季貞がようやく落ち着きを取り戻したところで、俺達は大浴場にて諸々の話をしていた。
「ところで、お前たちに教育係がついたとのことだが」
「ああ。ラウラ・ミュルダールという親衛隊所属の少尉のことか」
「ラウラ・ミュルダール……聞いたことが無い」
ようやく混浴という非日常体験に慣れてきたブレンダも、ラウラのことは全く知らない様子。
そりゃあ、同じ王国軍でも所属している部隊が違うんじゃ面識はないよな。
そもそもラウラは恐らく士官学校を卒業したばかりで、知名度もほとんどないに等しいはず。
「わたくしも存じ上げない方ですわね」
「それでも父と母が選定した人物じゃ。信頼のおける者に違いはなかろう」
「……そうなのかな」
うーん、寝室の件と言い脱衣所の件と言い、ラウラは真面目でいてどこか抜けているイメージがあるんだよな。
本当にあの子、頼りになるのか? さっきは士官学校卒だから安心だろうと思ってたけど、心配になってきた。
もしかしてヨアキム国王も、蝦夷地の人間の教育係はあの程度で十分とでも思っているのか。
「失礼なことを言うでない、武親殿」
「あれ? 聞こえてた?」
「ええ。それはもうばっちりですわ」
「ボクの耳にも聞こえたよ~」
「戦場に立つ者として、無様なまでに不用心」
やばいやばい、脱衣所と言い大浴場と言い、今日の俺は思ったことがそのまま口に出てしまうみたいだ。気をつけないとな。
「王国軍の将官になるためには、クヌーテボリから南に50㎞進んだところにあるセーデル王立士官学校を卒業せねばならぬ」
「わたくしたちも全員士官学校の出身でしてよ。そして王立士官学校の勉強と訓練の厳しさは王国一とのこと」
「だから、いくら無名の士官だからって甘く見ない方がいい」
「う、ごめん……」
つい圧倒されて、謝罪してしまった。別にこちらが悪かったわけじゃ……いや、悪口だったか。
俺はばつが悪くなって、一瞬お湯の中に顔を沈めた。
◆◆◆◆◆
「なあ、1つ訊いて良いか?」
「誇り高きセーデル王立士官学校を傷つけた人の話なんて、聞くに値しませんわ」
「わーってるって! だから謝ってるだろ!」
「それに混浴とは言え、胸をジロジロ見つめる殿方とは」
「そ、そそそ、それは関係ない!」
「ふふふ、冗談ですわよ。ごめんあそばせ」
王女だからって、人の心を弄ぶなよ全く。
「それで少年。訊きたいこととは」
「あ、ああ。あのさ……魔法って、使う人によって発動特性とかあるのか? それとも発動条件さえ整えば、誰でも同じ魔法を行使できるのか?」
俺はふと、勝山館での戦いのことを思い出した。
王国軍から矢を集めるために作った藁人形に向かって、鷹姫が俺を殺すために釘を打ったあの一件。
結局、俺の体はあれからずっと無事のままだ。
ただ昔から日本では伝統的な呪術だけに、もし魔法が存在する世界なら何かしらの効果があっても良さそうな気もしている。
この質問にはヴィクトリアが答えた。
「発動特性はあることにはありますわね。例えばわたくしなどは、雷属性や光属性、闇属性を得意としておりますわ。またブレンダは風属性や炎属性魔法の優秀な使い手でしてよ」
「種族ごとに得意な魔法とか変わるのか?」
「種族によって多少の得手不得手はありますわ。けれども今日、他種族との交流が進み、種族特有傾向は消えつつありますの。先ほど申し上げた発動特性も、努力次第では克服できるものも……」
「ただ、同種族でも個人によって魔力の限界容量にはかなりの差がある。どこまで克服できるかはその人次第だ」
努力次第では発動特性を克服できるのか。素質さえあれば、あらゆる属性の魔法を使用出来るようになるというわけか。
ただ、鷹姫は典型的な日本人だ。俺の経験上、日本列島の住人の大半が魔法の素質のない人間ばかり。
結局、彼女が呪術を発動できなかったのは、単純に素質が無かったからかもしれない。
「それは良いことを聞いた。余もそろそろ、陰陽の術の他にも『ミズガルズ』の魔法を習得したいと思っていたところだ」
「オンミョウの術とな? それは何じゃ?」
「興味をそそられる内容ですこと」
「私にも是非教えてほしい」
「基礎を語るだけでも相当に時間がかかるのだが……」
「新三郎様! 拙者も教えを乞いたいであります」
「右に同じにて候」
「某を置いていくな~……うえっぷ」
「ボクも知りた~い!」
「そうだな。では今日の所は、さわりの部分だけでも教えておくか」
そう言えば、慶広も魔法……というか陰陽の術を習得していたな。
イングリッドや宗継たちに混ざって、俺も教えてもらおうっと。
それから、慶広による陰陽道についての講義が始まった。
が、基礎の基礎だけで時間を大幅に費やしてしまい、気づいた時には全員霊泉の中でのぼせてしまっていた。
皆、どんだけ集中して聞いているんだよ。思ったよか、季貞達3人が奮闘していたし。
俺なんか知っていることだらけで、途中からブレンダや王女様たちの美しい素肌に見とれていたというのに。あのもっちりスベ肌とか、見事なプロポーションとか。
……あ、これはこれで結構俺得だったね。
「ああもう! 扇ぐこっちの身にもなってほしいッス!」
脱衣所の床に寝そべってラウラに扇いでもらいながら、そんなことも考えてみたりした。




