61 方向性の違い
パーティー終了後、俺達は男女別に寝室に案内された。
まあ、夜の間に間違いが起こってしまいないようにとの配慮だろう。
ともあれ、ようやくフカフカの布団にありつけるぜ。
もっとも、ヨーロッパ風の異世界だから布団じゃなくてベッドだけど。
「かように寝る位置の高い布団は初めて見たでござる」
「しかしながら、中々に寝心地の良さそうな布団でありますな」
「快眠必至にて候」
ベッドも初体験の季貞、宗継、季遠の3人。
しかもそのベッドは、豪勢なことに天蓋付だった。
さすが、伊達に巨大な宮殿を建てていない。俺、世界征服やめてクヌーテボリ宮殿に住み込もうかな……おおっと、冗談冗談。
夢の中で、2人の女神に叱られちゃう。
◆◆◆◆◆
各自がベッドのそばにあるテーブルの下に荷物を置いた後、俺と慶広は宴の席で伝えられた2人の神託の内容について話していた。
ちなみに季貞達3人は、掛け布団に入る間もなく夢の世界に突入した。
「しかしだな武親。この世界樹の異常によってできた世界が、滅亡の危機に晒されているとは恐れ入ったな」
「でもさ慶広。具体的な時期を教えてもらっていないということは、本当に滅亡に至るまでには時間があるとも取れるんじゃないかな」
この時俺は、普通なら逆境と捉える「滅亡」を、逆に好機と捉えていた。
「滅亡」という単語を用い、「自分たちは世界を滅亡から救う勇敢な正義の味方」であると言う風に、味方の鼓舞に利用しようと考えていたのだ。
21世紀とは違って、この時代の日本人はまだまだ迷信深い人が大半。それは、未だにブレンダを「化け猫」呼ばわりしていることからもわかるだろう。
従ってアストリッドとリシヌンテの神託は、宣伝に使えると思ったのだ。
これが上手くいけば、季貞達のみならず、蝦夷地にいる皆の気持ちを天下取りに向かせることが出来るかもしれない。
俺がこのように考えたのには、ある背景があった。
実は戦国時代の人間は、その大半が本気で天下を狙っていたわけではない。
「あわよくば」と考える人は多かったのだろうが、実際は周辺の大名との領地争いや内部分裂に悩まされそれどころではない。
無論、俺と慶広以外の蝦夷地の人間も例外ではない。
ではなぜ、ゲームやドラマ等では「大名が挙って天下取りを本気で狙っていた」という設定にしているかと言えば、そっちのほうが盛り上がるからである。
ゲームで本気でない相手を叩き潰したところで、「ヌルゲー乙」としか思わないだろう?
確かに、京周辺の大名であれば天下の実権を握ることもあるが、その方法はあくまで将軍を擁立して後見人になるという方法。
自分が足利将軍家にとって代わろうなどとは、考えも及ばなかっただろう。
そう、ただ1人を除いて。
それが、かの織田信長である。彼自身は最初は足利義昭を将軍に立てたが、数年で京から追放するまでに至った。
義昭は毛利氏を頼ったが、結局、政治の表舞台からは引き摺り下ろされた。よって室町幕府を滅ぼしたのは、他ならない信長である。
そして、この信長亡き世界においては、俺達蠣崎家がその役目を代行するという手筈なのだ。
もっとも個人的には、異世界系の作品に出てくるような「勇者」になりたいという願望で動いているんだけどね。
俺は以上の考えを慶広に伝えた。
「さすが生粋の歴史オタクだな、武親。さすがの余もこの点だけは見落としていたぞ」
「歴史オタクだけじゃない。俺は二次元オタクでもあ……」
「それはさておき、余達が戦わなければならない理由がまた1つ増えたな」
俺の発言をさて置くなよ。
でも自分の世界が滅亡しかねない以上、それを防ぐためにも、世界征服を絶対達成さなければならないのは同感だ。
トントンッ。
その時、寝室のドアがノックされる音が聞こえた。
「む? 誰であるか?」
「俺が出よう」
ドアを開けると、そこにはメイド服姿にポニーテールをした赤い髪の少女が1人立っていた。
「君は?」
「自分は、蝦夷地の使者の世話と護衛、そして教育を任された王国親衛隊所属のラウラ・ミュルダール少尉という者ッス! これからよろしくッス」
「あ、ああよろしく」
ラウラ・ミュルダールと名乗るその少女は敬礼した後、運んできたお茶をテーブルの上に次々と置いた。
「おや? そこの3人は、もうお休みッスか?」
「余達は長い船旅と宴で疲れ切っている。今は静かに眠らせておくのが良いだろう」
「ところで君は親衛隊所属って言ってたけど、なんでメイド服姿なんだ?」
普通、親衛隊の人と言ったら軍服を着ていそうなイメージがある。
だが今のラウラはそうではない。給仕姿なのは何故?
「自分は確かに親衛隊所属ッス。でも自分が指揮している小隊の仕事は、基本的に前線でも後衛にあっても親衛隊員のお世話をすることッス。だからメイドの仕事はお手の物ッス!」
「なるほど。とすると、護衛のほうは……」
「あと、自分の小隊は親衛隊の移動中に殿を任されることも多いッス。だから、戦いのほうも大丈夫ッス!」
「ところで余が気になるのは、“教育”という部分なのだが」
教育と言うことは、今日紹介しきれなかったミュルクヴィズラント王国の案内を、明日からはラウラが担当するということか?
まあ、彼女も仮にも士官なんだ。知識のほうに問題は無いのだろう。
しかしラウラの言う教育は、もう一つの意味があった。
「国内の名所や歴史の教育のほかに、自分が7人に“魔法”を教えることになったッス。だから自分のことは、“教官”と呼んでほしいッス!」
なるほど。確かにヴィクトリアやイングリッドは王族としての公務があって忙しいのだろう。
ブレンダも軍の任務で、アストリッドも聖職者と軍の両方の仕事で多忙なのは想像できる。
だからこそ、俺たち専用の教導官としてラウラが抜擢されたわけなんだな。
しかしなあ、自分より危なっかしそうな女の子を教官と呼ぶには抵抗があるな。
ここは1つ、彼女をイジってみるとするか
「わかった。じゃ、これからよろしくラウラちゃん」
「ああ! “教官”と呼んでほしいと言ったばっかりなのに!」
「まあまあ、そう怒ることは無いだろう、ラウラちゃん」
「うう……。じゃ、ラウラちゃんでいいッス……」
あ、結構あっさりと折れた。勢い任せの発言だったのかな?
「……ぬ、声が五月蠅いでござる……」
「これでは、安眠できないであります……」
「却って、目が冴えてきたで候……」
ラウラが暴れ回ったおかげで、眠りについていた季貞達が起きてしまった。3人とも全員寝起きの顔である。
「丁度良い。武親、季貞、宗継、季遠。効率的に疲れを取るために風呂にでも入ろうではないか」
「それなら、宮殿内に大浴場があるッス! 準備が出来次第、自分が案内するッス!」
うっ、お風呂か。また、湯ノ岱温泉の時みたいにならなければ良いんだけどな……。




