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59 文化の違い

 が、パーティーが始まって間もなく、俺達の間で問題が発生した。


「ぬう……この道具の使い方が解せぬ……」


「拙者も分からないであります」


「同様にて候」


 出席者が食事にありつき始めた頃。

 テーブルの上に置かれたフォークやスプーンを前に、季貞と宗継、季遠の腕が止まった。

 

 それもそのはず、彼らにとっては生まれて初めての洋食(正確には洋食風と言うべきなのだが、見た目・味ともに殆ど変わらない)。フリングホルニ号の中では、蝦夷地から持参した戦用の保存食等で過ごしていた。

 実際、前世の歴史おいても、幕末の遣欧使節団の成員も似たような体験をしていたんだ。

 この展開は想定のうち。正直、「やっぱりか」という感想しか浮かんでこない。


「こっちはパクパスイ(アイヌ民族のスプーン)みたいなものだってのは理解できるけど、もう一つのはね……」


「ね~、パスイ(アイヌ語で箸)ってないの~?」


 レスノテクとリシヌンテも、慣れない食事の前にやや苦戦気味であった。

 

「余たちは前世のお蔭で、まったく苦労はしないがな」


「でもさ、使い方ぐらいはちゃんと教えたほうがいいんじゃね?」


 一方、俺と慶広は前世でテーブルマナーは習得済み。

 周りの人達とほぼ同じように、スプーンやナイフ、フォークを正しく使って料理を平らげていく。


「あら? 手が止まっている方が数名おられますわね」


「どうしたのじゃ? 口に合わぬのか?」


「そういうわけでも……あるとも言えず、ないとも言えず」


 そして季貞達を見て、ヴィクトリアとイングリッドは心配の声をかける始末。

 

 ただ、「口に合わない」という部分は無きにしも非ず。

 今回の料理には、豚や牛等の肉を使ったものもある。

 だが戦国の日本人にとってそれは、日常触れることないもの。そもそも日本では、仏教の浸透とともに次第に肉食が忌避されるようになった。

 それに先述した幕末の遣欧使節曰く、中には「臭気が強く脂っこい」と嘆く人もいたそうだ。


 狩猟採集民族出身のレスノテクとリシヌンテはともかく、季貞達はどう反応するのか。ともあれ、お互いの食文化に対して良い交流の切っ掛けにはなりそうだ。


「ええい! 飯を食えぬなら、その分酒で腹を満たしてくれようぞ!」


「あ、ちょっと……」


「その理、また解せず。なれど、自分も酒を嗜みたいで候」


「……あ、そう。もう好きにやってください」


 結局その後、俺と慶広が事情を説明して、季貞達は日本から持ってきた箸を使わせてもらうことになった。



 ◆◆◆◆◆



 パーティーも進み、少しは打ち解け合ってきた頃。

 ヨアキム国王をはじめ王国の人達が、少し突っ込んだ会話をし始めてきた。


「さて、ここらで朕の本題に参ろう。先の戦争、我が軍は予想以上の痛手を被った。そこで質問なんだが、お前たち蝦夷地の兵は、如何にして大陸最強と謳われた我が軍に損害を与えたのかね?」


「それも寡兵で善戦したと娘からの報告もありますわ。どれほど優秀な魔導師を大勢擁していたのか、私も知りたいですわね」


 こういうところの感覚は、やはり異世界の人間ならではと言えるな。あくまで魔法の存在が前提。

 確かにリシヌンテは魔法を何故か扱えていた。それは慶広もきっとそうだろう。だが慶広が言うには、今回の戦では魔法を使うことは皆無だったらしい。

 

 その上、それ以外の人間は、俺も含めて魔法を発動させる術を知らない。

 それに類する物は言い伝えや迷信によるもので、実際に「魔法」と言う形では出てこないのだ。


「ま……まどうしとな? それは、如何なるものにござるか?」


「拙者も分からないであります」


「ご教授願いたいで候」


「――なんだと!?」


 そして季貞と宗継、季遠の反応に、当然のことながらミュルクヴィズラント王国の王侯貴族たちは一斉に耳を疑った。


「もしや、魔導師を知らぬと申さぬじゃろうな?」

 

「冗談言わないで。あれだけの戦闘力、一級の魔導師を雇っていなければ発揮できないはず」


「わ、私めの采配は、魔法を知らない者に劣っていたということですか……? ああ、聖女神様……」


 将官の中には、この意外な事実に自信を喪失しかけている者すらいた。


 ううん、これは俺と慶広がチートし過ぎたかな。無駄に活躍し過ぎて、日本の実像との間に齟齬を来たしている。

 もっとも俺や慶広のチート能力は神様譲りだから、ある意味「魔法」と言えなくもないが。


「武親、どうやってこの場を乗り切るべきだと思うか?」


「いくら知識があるからって、俺達の口から直接説明するわけにもいかないだろ」


「確かに、それでは余たちの転生の事実を説明せねばならず、無用の混乱をきたすであろうな」


「だからわざと知らないフリして、王国の人に魔法を教えてもらった方がスムーズに行く気がするんだ」


「何話してるの~?」


「おうわ!?」


 俺達のヒソヒソ話にリシヌンテが割り込んできた。まさか今の話、聞こえていたんじゃないだろうな?


「こ、こっちの話だ」

 

「そ、そうそう。リシヌンテたちは食事を楽しんでて」


「むう~」


 俺は半ば強引に、リシヌンテを俺達の元から引き離した。

 

 それから暫くの間、「魔法を知らない」蝦夷地の住人に対して、多くの貴族の間で物議が醸し出されていた。

 その様子は、魔法が当たり前でない蝦夷地の住人との接し方を議論していたように感じた。

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