47 ヴィクトリア王女出現
「わたくしは王国軍第2師団長、ヴィクトリア・カルロッテ・ミュルクヴィズラント、ですわ」
名前を告げられた瞬間、俺は相手に悟られぬよう静かに驚嘆した。
王国軍第“2”師団長……?
いやまさか、だってさっきの兵士たちを率いていたのは、第「4」師団連隊長のフルホルメン大佐のはず。
普通に考えるならば、ここで登場すべきは同じ第4師団の師団長だろう。
が、この高貴で誇り高い人物が、この場面でそんなつまらない嘘をつくとも思えない。
この戦い、まさか師団が2つも参加しているのか?
「待って……じゃあ、今の兵力は……?」
俺は授けられたチート能力、『瞬間兵力検索』をつかって勝山館周辺の兵力を確認する。
「な……ウソだろ?」
勝山館に籠城中の蠣崎軍は、アイヌの増援もあり600人ほど。
むしろ8割がアイヌといって良い。和人の兵は連戦でその大半が死傷している。
そしてミュルクヴィズラント王国軍はっと……28000!?
待てよ。昨日偵察してきたとき、上ノ国の港にそれだけの兵士を移動させられるほど軍艦は多くなかったはずだぞ?
せいぜい、8000前後が限界だろうと見積もっていた。
じゃあ、彼女たちはいつの間に……?この未明のうちに到着したということか?
だが王国と松前・上ノ国周辺までは、大佐の話によると船で2週間。とてもすぐに到達できる距離じゃない。
とすれば、もともと俺たちの目視できない場所に、予め待機していたとでも言うのか?
なぜ? 想像以上の苦戦とはいえ、常識的に考えて、わざわざ援軍を派遣する必要のない圧倒的優位な兵力差。
となれば、もっと別の目的が……? わからない。
「……」
しかも驚嘆した点はそれだけではない。
ヴィクトリア・カルロッテ・“ミュルクヴィズラント”……!?
それって今回相手している王国の名前じゃないか。
それに、わざわざ国名を姓とすることが出来る人物は、並大抵の身分では不可能。極めて限られている。
ならば可能性はだだ1つ。それは国を治める上流階級の頂点、『王族』だ。
「ヴィクトリアさん、あなたの身分は?」
俺は恐る恐る目の前の彼女に訊ねた。すると彼女は、ニヤリと笑って答えた。
「ミュルクヴィズラント王国第2王女、ですわ」
俺は改めて、王国の蠣崎氏攻略に対する本気度を思い知った。
将来、ヴィクトリア王女たちの本国にとっては辺境にしかならない土地。
普通なら、主要な軍の幹部をここまで大量に派遣する必要性のない未知の異国。
だが現実は、王国直属ともいうべき第1師団と2回続けて戦闘。そして今、俺の正面には王女クラスの大物が立っている。
そこまでして、この辺鄙な土地が欲しいのか。
けど理由はわからない。とにかくわからない。今回はわからないことが多過ぎる。
「一応、戦闘力も測ってみるか……」
俺は続いて、ステータス確認を実施した。
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名前 ヴィクトリア・カルロッテ・ミュルクヴィズラント
HP 42400/42400
MP 6387/6452
攻撃 2213
防御 2175
魔攻 2480
魔防 2379
敏捷性 625
名声 29640
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なんだよこれ……この数値の高さは。
俺が感じた『格』の違いは、しっかりステータスにも表れていた。
年齢は、大方俺より3、4くらい上。なのにここまで差が有るなんて……。
「それより、貴方が噂の方かしら? 破天荒な戦ぶりの割に、なんと小さな体……」
俺が圧倒的不利な状況を前に、思考停止に陥っていると、ヴィクトリア王女は俺をみて再び口元をニヤリとさせる。
なんだろうこの目……。単純に敵意をもって俺たちを見ているわけでもなさそうだ。
じゃ、その瞳の奥に何を企んでいる? こんな弱小の俺たちに対して? 読めない、全くもって読めない。
「貴方、今日はもう帰りなさい」
「なに?」
「貴方はこんな所で、命を散らすべき人間ではありませんわ。無論わたくしも」
「? どういう意味だ?」
彼女はそう言い残し、馬を引き返して占領中の上ノ国の町に向かった。
「ま、待って!」
どういうことだ? この周囲に蠣崎軍の兵がいない今、俺を討つ絶好のチャンスだぞ?
それに彼女、俺が蠣崎軍中でも随一の武力を誇っていることは知っているようだ。
今討ち果たせば、こちらの士気が大いに下がり一気に勝利が近づく。彼女の戦闘力なら出来ないことではない。
なのに、見逃した……? 一体あんた、何を見据えている?
「――あと1つ。わたくしはあのエルフの大佐を、“監視”しております。そのことをお忘れなきよう。では」
「……」
俺は、ヴィクトリア王女の発言の意味を再び呑み込むことができなかった。
あのエルフの大佐、フルホルメンのことか? しかもあいつを、“監視”……?
訳が分からない。ヴィクトリア王女とフルホルメン大佐は味方同士だろ? なぜ、そんなことを?
「待て」
今日は、あまりに不可解なことだらけだ。正直、俺は頭が盛大に混乱している。
だがここで引くわけにはいかない。俺はヴィクトリア王女に声をかけた。
「ストップだ。ヴィクトリア王女」
それに、これだけはハッキリしている。
ここでこの王女を討てば、蠣崎軍の勝利が近づく。それだけは紛うこと無き事実だ。
「明日、この場所で一騎打ちを申し込む」
俺は、決闘を申し込んだ。
「……? 何故、せっかくの命を散らしたがるのです?」
無謀なのはわかっている。けどな、
「俺にはあるからな」
「?」
けど、ここで諦めてはいけない。
――「なあ、あんたはこの世界に“秩序”を打ち立てたいと思うか?」
――「当然だ」
――「誰も成し遂げられない『偉業』をよ」
約束したんだ、慶広と。そして自分と。
――「じゃ行こうか、珍妙丸よ。オレ――余たちの『覇道』を!」
――「合点承知の助!」
俺は凛として、見得を切った。
「どうしても譲れないものが、さ」




