46 揺らぐ仮説、揺らがぬ味方
「死ね! お邪魔虫!」
鷹姫が叫びながら、藁人形に釘を打ち込む。
俺は緊急停止をかけるも完全に間に合わず、呪術は実行された。
「ぐっ……!!」
果たして、結果は如何に……。
「……あれ? 何とも……無い」
意外な結果に、俺は途端に拍子抜けした。
鷹姫の呪いは、結果として何の異変ももたらさなかった。
改めて体中を触ってみるも、どこもおかしなところは無い。痛い箇所も無いし、特に変調をきたしてもいない。
俺はホッと胸を撫で下ろす反面、自分で立てた仮説に対する信頼性が揺らいだ。
「間違ってたのか……?」
まさか仮説は正しくなかった?それとも、単純に発動条件が合致していなかっただけなのか……。
「五郎。如何した?」
「い、いえ。なんでもありません」
「鷹姫様。お言葉ですが少し慎まれてはどうですか?」
「ちっ、なんで……ブツブツ」
もしくは……その人によって、“発動特性”があるだけなのか。
いや、だとしたら何故王国軍の兵士は、同じような魔法を一斉に発動させることが出来る?
わからない。しかしこれで、魔法に関しては振り出しに戻ってしまったな。
今日はもう遅いし、一応、明日の戦闘では俺のほうでもう一回試してみる。でも、期待はできないがな。
◆◆◆◆◆
翌朝。
勝山館に籠城する蠣崎軍は、朝の腹ごしらえを済ませ、今日も王国軍と対峙していた。
全員手には弓、背中には昨日大量に奪取した王国の矢を装備。一丸となって、フルホルメン大佐の部隊を迎え撃つ。
「さあ、今日も我慢の時ぞ。だが、勝利を信じて耐え忍ぶのだ!!」
「御意!!」
今日も味方の士気に問題は無し、と。
おかげで、それなりに策をすんなり実行に移せて助かる。
「進めい! 魔法も自在に扱えぬ劣等民ごとき、叩き潰せい!」
「おおおおおおお!!!」
そう感心していると、早速王国軍が剣や槍を持って勝山館に接近。
しかも今日は、雰囲気が違う。そのまま数の多さに任せ、今にも館ごと蠣崎軍を押し潰しかねない、鬼気迫る勢い。
昨日の『借箭』が相当悔しかったのか、一気に片をつける気だ。
つか劣等民だと? あの野郎、なめやがって……。魔法使えるからって調子に乗るなよ。
「うう……岩を転がせえ……」
一方、高所の利を得ているのは蠣崎軍。
勝山館前の坂を駆け上る王国軍に向かって、厚谷隊が大きな岩を転がす。
昨日の再現か。ていうか季貞、よく見ると二日酔いしてね?
「う、うわああああ!」
「馬鹿の一つ覚えが……。同じ策が、このモルテン・フルホルメンに通用すると思うてか!」
「む!?」
「破壊!!」
さすがに昨日と同じ手は通用せず、フルホルメン大佐が魔法で岩を一気に打ち砕く。
しかしそれは計算のうち。
「発射!!」
岩はただの目隠し。
死角を幅広く作って、その隙にアイヌの弓兵を配置。そして岩が打ち砕かれ視界が明けた瞬間、斉射。
「ぐわあああああ!!」
昨日に引き続き見事な命中率。
おお、それにしてもよく飛ぶなあ。急ごしらえの蠣崎軍の矢とは質が違う。
きっちりプロの職人によって拵えた、って感じだな。
とはいえ、いつもより飛んでいく分、むしろ扱いにくて外しそうな気もするけど。
アイヌはアイヌで驚異の順応性がある。彼らもまたプロの腕前だ。
「くっ、前に進めん!」
しかも今日は矢の数も過去最多。まるで『レッドク○フ』のワンシーンみたいだ。
「おのれ……第一陣撤退! 撤退!!!」
「よし、門を開けよ! 背中を見せる異国人を、追い込むぞ!!」
そして撤収し始めた瞬間を狙って、今度はチート能力を持つ俺を筆頭に追撃開始。白兵戦は任せとけ!
「う、うわあああ! 後ろから敵があああ!!」
「そぉりゃ、そりゃそりゃそりゃああ!!」
俺たちはひたすら槍を振るった。
失速した王国軍に変わって、今の勢いは俺達にある。
おかげでフルホルメン隊の前衛は、反撃することも出来ずあっという間に散り散りに。
ただし大佐は逃げ足だけは速く、追うことができなかった。
ふっ、だがさすが俺。前世と違って、もう武に長けていない俺ではない!
俺は高らかに勝ち誇った。逃げる敵兵を指差しながら。
「はーっ、はっはっはっはっは!! これが俺の実力だああ!」
「――まったく、不甲斐ないですこと。劣勢の寡兵ごときにやられたい放題とは」
そんな俺たちの近くから、突然ある1人の女性の声が聞こえた。
「ん……?」
俺は声のした方角を振り向いた。
そこには、プラチナブロンドでお嬢様結びの見目麗しい1人の姫騎士。
大きめの剣を片手に、白い馬に乗っていた。
今度は誰だ……?
「鋭利な雷光」
「ぐおっ……!!!」
するとその姫騎士は、雷撃によって瞬時に味方の兵をすべて仕留める。
「え……!?」
あまりに刹那的。
人一倍、動体視力に優れている俺の目が全く追いつけない。
そして“気がつけば”、全員その場に倒れていた。
なんだよ……あまりに呆気なさすぎる。本当に誰なんだ、あんた。
「――あら? 何故貴方だけ立ち上がっているのですの?」
「……」
だが、これだけははっきりしている。
この姫騎士、今まで戦ってきた相手の中でも『格』が違う。
単純に戦闘能力だけではない。どこか、気品漂う容姿と所作。その一つ一つの質が、あまりにハイレベルだ。
俺は恐怖を通り越して、彼女に見とれていた。
「このわたくしに、相当見惚れてしまったようですわね。そこの貴方」
普通ならムカつくその言動にも、まったく反論する気すら起きない。
間違いない、この姫騎士は“本物”だ。
「名前が……聞きたい」
「わたくしの名前を?」
「是非……」
「……宜しいでしょう。互いの名を名乗るは人を統べる者の礼儀。ただし……」
「ただし……?」
「名前を知りたいのならば、まず質問したほうから答えなさい。そうすれば教えて差し上げますわよ」
人を……統べる者。やはり、只者ではないな。
それにここで名前を教えあったところで、この人は卑怯な真似はしなさそうだ。
俺は躊躇することなく、名前を言った。
「不破五郎武親、だ。あんたは?」
「わたくしは王国軍第2師団長、ヴィクトリア・カルロッテ・ミュルクヴィズラント、ですわ」




