48 背水の一騎打ち
「この……大馬鹿者があああ!!」
「ぐえっ」
王女たる姫騎士に決闘を申し込んだ俺。
しかし勝山館に帰還して報告すると、俺は早速大目玉を食らった。それも広益のオッサンと鷹姫に。
「兵をむざむざ全て死なせるとは、どういう指揮をしとるんだ!!」
「そうよそうよ! それもよりによって、守継様の大切な大切な兵士を! どう責任を取るつもりなんですか!」
くそう、俺だってよりによってこの2人に叱られるなんて思ってもみなかったぞ。
だが今のは無理もない。俺は潰してしまったんだ。これから蠣崎軍がとる予定だった籠城作戦を。
本来俺たちは当面の間、以下の作戦を実施するつもりであった。
まず、敵が館に攻めてきたら弓矢を別の計略とともに使って相手を退け、撤退を始めたら城門を開けて背後から追撃。
ある程度、王国軍が退いたら館に戻り、また敵を迎え撃つ。
この繰り返しを実行するつもりだった。
しかし今日、ヴィクトリア王女によって追撃用の兵士はことごとく全滅してしまった。それも作戦1日目で。
「お2人とも、心中お察しいたすが、五郎が悪かったわけでは……」
「だから! 某は此奴に追撃させるのは否だと申したのだ! 某が率いておれば、かような結果にならずに済んだのだ!」
いや広益のオッサン。それは違う。
仮にそうすれば、オッサンの首が1つ、王国軍の功績として持っていかれることになっただけだ。
というより、俺か慶広じゃなかったら、みんな同じことになっていただろう。
「それで五郎は結局、その女子に一騎打ちを申し出た。で、よろしいか」
「……はい」
近接戦に強い兵が少なくなった以上、王国軍の兵力を削るのに時間がかかってしまう。
その分、門を破壊することに戦力を集中することになるだろう。弓兵だけでは、門を突破された時点で敗北は確定。
俺達はもう、王女との一騎打ちに賭けるよりほか無かった。
◆◆◆◆◆
「――来ましたわね」
「……ああ」
翌日。
俺とヴィクトリア王女は、約束した場所に定刻通り到着した。お互い地面に立った状態で、完全装備で正対する。
「本当はわたくしとしては不本意ですが、戦う以上は手加減致しませんわ。よろしくて?」
「ああ、当然だ」
周囲には、決闘の行く末を見守りにきた双方の兵士が、一同に結集している。
本当にこれで、蠣崎軍と王国軍の勝敗が決着する。それも俺自身の手で。
俺は背水の陣に立たされた。
彼女は俺より敏捷性が高い。
だったら戦うコツは、“後の先”をとることだ。俺は慶広に言われた教えを再確認し、準備の構えをとる。
――そして間もなく、運命の一騎打ちが開始された。
「はああっ!」
「む!?」
しかし電光石火、猛スピードで王女の剣が俺の槍をへし折らんと斬りかかってくる。
なんて速くて重い一撃だ。今までの相手とは圧力が違いすぎる。
「くっ……はっ!」
俺はやっとのことで、彼女の剣を振り払った。
だが、想像以上にエネルギーを消費してしまう。それに腕の痛みがジンジンと骨まで響いている。
「甘い!」
「ぬお!」
今度は彼女の剣が、右に左に、俺の胴体目掛けて薙ぎ払われる。
避ける俺もスレスレで回避するのがやっと。
「ぐほあっ……!」
中でも渾身の一撃が、俺の具足に命中。
剣圧で具足には大きな傷がつき、体は後方に押し飛ばされてしまう。
「どうしました? まさかこの程度で、このわたくしに勝つおつもりでしたの?」
「……!」
そんなつもりはない。つもりはないのだが、実際に闘ってみるとその威力に全く押され負けてしまう。
これが女の力なのか? そもそもまだ、魔法を使ってないじゃないか。
「はぁ!」
「ぐっ!」
「そりゃ!」
「ごほっ!」
「たああ!」
「なっぷ……!」
その後も俺は、防戦一方だった。
「手加減はしない」との宣言通り、ヴィクトリア王女は容赦なく俺の体に、華麗な剣裁きを浴びせ続けてくる。
彼女は突出して圧巻だった。
数分後には、俺の甲冑は叩き割られたガラス窓のような傷の模様が。反撃の余地は皆無に等しかった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「まったく呆れる男ですこと。このわたくしに勝とうなどとお思いになるとは」
「ハァ……ハァ……」
「でも、これだけわたくしの攻撃を浴び続け、未だに立っていられたのは貴方が初めてですわ」
そうか。それはどうも。
でもいつもの俺であれば、やっぱりとっくの前にぶっ倒れている頃合い。
それでも立っていられるのは、譲れない「世界征服」という夢があるからだ。
「まだ……負けてない……!」
「そして、その折れない心。この2つは敬服に値しますわ」
だが、諦めの悪さを言葉にはするものの、心はもう9割が折れていた。
くそう、この俺ですら一矢報いることすらかなわないのか。これじゃあ、コタンシヤムの時と同じじゃないか……!
「あの武親様が……」
「もう駄目だ……」
味方の兵士にすら同情されている。
これが俺の姿なのか……? あの2人の女神にチート能力を授けられた、俺の姿だってのか……?
「ですから敬意を込めて、わたくしがトドメの一撃をお見舞いいたしますわ」
完全にピンチに陥り、俺は地面に立つのがやっと。
そんな中ヴィクトリア王女は、途轍もない必殺の一撃を静かに己の体内にチャージしていた――




