34 白熱する両者
「な……」
さすがにリシヌンテが放った一撃は、蠣崎軍と王国軍双方にとって衝撃であった。
――ただ1人の例外、レスノテクを除いて。
「レスノテク……?」
「――もっとも、怪しげで強力な攻撃技術持ってるのは、こっちもだけどね」
レスノテクは驚かないどころか、飄々とした態度で胸を張って勝ち誇っている。
まさかこの子、すでにリシヌンテの一撃のことを知っていたのか?
これはもしかして……いやいや。それは有り得ないだろう。
俺は頭の中で色々な仮説を思い立ったが、すぐに打ち消す。
「つくづく小賢しい連中ですね。こんなに思い通りにならない戦いは、久しぶりですよ」
一方、アストリッドは歯軋りしながらイラついた表情で、レスノテクとリシヌンテ、2人を睨み返す。
久しぶりって、アストリッドは戦争では苦戦したことが殆ど無いってのか? 嘘臭いセリフだな。
「それはどうも。こっちは必死なんだからね」
「負けないよ~!」
何にせよ頼もしいなあの2人は。そして他のアイヌの人たちも。
それに引き換え、和人は頼りにならないな。あっさり次々やられていくんじゃ、しょうもない。
でも、このままじゃ和人の誇りに傷がつく。だったら俺が中心になって、誇りを取り戻してやる。
「……母上、もう十分です」
「大丈夫なのですか?」
「大丈夫です。俺の闘志にも火がつきましたから」
母上のマッサージの甲斐もあって、体の痛みはだいぶ治ってきた。右肩に微妙な違和感はあるが、今戦う分には気にならないだろう。
それより、俺もアイツにはやり返したいことが存分にあるからな。
俺は鎧を直し、刀を抜いて立ち上がった。そして咆哮を挙げた。
「アストリッド! 覚悟ォ!」
咆哮と同時に、俺の足がアストリッド目掛けて一直線に駆動する。
いい感じだ、体が軽い。これなら十分にやれるぞ。
「シスター・アストリッドには、指一本触れさせません! 立ち止まりなさ……キャアアアア!」
アストリッドを守るため、聖職者兵が俺の進路を遮る。
だがそれは無意味。一度勢いがついた俺は止められない。俺は槍で修道女達をたちまち蹴散らしていく。
「ふおおお!」
「来ますか、少年」
邪魔者がいなくなり一気に距離を縮める俺。単純にいけば、このままスピードで彼女を押せるはず。
しかし、そう単純にはいかなかった。
「――幻影」
「む?」
俺は明らかに無防備なアストリッドに、一太刀浴びせる。
悲鳴を上げる彼女。同時に、アストリッドの体からは大量の血が出る……はずであった。
ところが、彼女の体は幽霊のように俺の目の前からスッと消えていった。
「……は?」
俺はアストリッドがいた位置を茫然と見つめる。
手応えはあったはずなんだが、これは一体……。まさか――
「残虐なる鎖」
「ぬふっ!」
一瞬の思索にふけっている隙に、突然後ろから魔法の鎖が俺の首を絞めつけた。苦しさのあまり、俺ももがき始めずにはいられなかった。
「これもブレンダの報告通り、所詮は猪武者でしたね」
「……」
ビンゴ! さっきのは分身だったんだ……。
しかし、わずかなタイミングで分身を創り上げるとは、コイツもチートが過ぎるぜ……。
――ま、俺もだけどな。
「ふん!」
「あら」
俺は剛力を誇る腕力で鎖を掴み、強引に引きちぎる。
どうやら、うまく引っかけたことに油断して、魔力の供給が十分じゃなかったようだ。
もっとも、本人はあんまり驚いてないみたいだけど。
「それを言うなら、この鎖も所詮はヤワな代物だったな」
「……猪武者の分際で、何をほざくか」
「百裂裂き」
「キャアアア!」
だが一度油断すると、すぐには取り返せない。俺と戦いを繰り広げようとして、背後から大量の白刃を浴びるアストリッド。
この魔法は……リシヌンテのだな。
「いいぞ、リシヌンテ!」
「ふっふ~ん、えへん!」
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名前 アストリッド・フォーゲルクロウ
HP 3205/8737
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急所にあたったらしく、HPが一気に減っている。
不意をつくこの戦い方、リシヌンテも相当ベテランだな。見た目に似合わず。
「蝦夷もなかなかやるもんだな!」
「達者なものだ……」
「ぅ……ウオオオオオオオ!!」
敵の部隊長に大ダメージを与えたリシヌンテ。
攻撃が派手だったこともあり、生き残った蠣崎側の兵士達から歓喜の声が。
くそう、カッコいいじゃねえか。俺も後で、2人からアイヌ流の戦い方教えてもらおうかな……。
俺は斜め前に立っているレスノテクとリシヌンテを見つめながら、そう思った。
「ふふっ、ふふふふふふふ……」
しかしホッとのしたのも束の間。アストリッドのいた方角からは、不気味な笑い声が聞こえてきた。
「なんだ? こんな血みどろの戦場で、笑っている……?」
「――まったく、つくづく小賢しい割に、愚かな連中ですこと……」
「は?」
「さっさと降伏すれば、身の安全は保障してあげましたのに……ふふふふふふ」
笑い声の主はアストリッド本人。彼女の周りには、いつの間にか聖職者部隊の兵士が全員集まっている。雰囲気が随分怪しくなってきた。
それに、愚か? 言ってる意味がよくわからん。自分の土地守るためなら、全力で戦うのは普通のことだろ?
ちょっと苦戦したからって愚痴ってるとか、そっちのほうがよっぽど愚かじゃん。
しかし程なくして、俺たちはアストリッドの言葉の真意を思い知ることになる。
「――もう、あなたがたの命運は決しました。今すぐこの場で全員埋葬してあげます」
「なんだと?」
埋葬? どういう意味だ?
そっちだって、かなり疲弊しているじゃないか。そんな余裕、あるとも思えないけど。
だが次の瞬間、俺たちは彼女たちの膨大な量の魔力に圧倒せざるを得なくなる。
「ふふふ、これを見て恐れおののくがいいですよ」
そう言ってアストリッドは、草むらの下の地面に杖を刺し呪文を唱えた。
『天にまします聖女神様よ、かの不届き者を希望ごと押し潰し給え。崩壊する大地……!』




