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不破一族の多世界征服記~転生者一族の興亡史~  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
3章 対ミュルクヴィズラント王国戦争
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32 アストリッドからの改宗勧告

 おおおお、やっぱり部隊長だったか。しかし、これまた第1師団と来たもんだ。

 第1師団と呼ばれるくらいなんだから、王国側にとっては重要なポジションの軍だろう。ブレンダも第1師団の所属だったしな。


「俺は不破五郎武親だ」


 さすがにこちらも名乗らないには礼を失するので、俺は皆より前に出て、儀礼的に名前を明かした。


「不破五郎……武親。ああ、ブレンダが『1人だけ武勇に長けているのがいた』って話の人でしたか」


「なんだ、知ってたのか」


「む、武辺者はこの某じゃぁ!」


 オッサンうるさい。


「でも、こんな幼気(いたいけ)な少年とは思いませんでしたよ。その小さな体で、似合わぬ重責を負わされているですこと」


 小さな体は余計だ、全く。

 確かに今の俺の身長は5尺(151.5㎝)だけどよ。前世はもっとあったんだよっ。

 この時代の栄養状態が、そこまで良くないだけの話だ。


 だが似合わぬ重責か。それは言えてるかもな。

 前世に失望して自殺したしょうもない自分を、あの例の女神達によって戦国武将に転生されたが挙げ句、『世界征服』の使命まで与えられて。

 もっとも向こうはそんなことは知らないだろうが、『似合わぬ重責』という評価は当たってるよ。

 

「……ところで、さっきから詠唱の度に聖女神様、聖女神様言ってたけど、誰のことだ? もしかして、ミネルヴァやフレイアのことじゃないだろうな?」


 俺は白の修道女、アストリッドに質問した。

 するとアストリッドは、ややハッとした表情でこちらを見返してきた。


「これは……驚きですね。この私めの国とは異質の文化圏で、その名を聞くとは」


 いや、それは違う。


「み、みみ、みね……?」


「五郎? それは一体なんじゃ?」


「――戦の後で説明します」


 俺が単純に西洋の神話にも精通した状態で、この世界に転生したから知ってるだけの話。

 今のところ、徳山館で戦闘中の慶広以外、誰もわからないことだ。


「あなたも、随分この世界にとって異質な存在のようですね。周りの方は、あなたの言っていることが理解出来ないようですよ?」


「それは光栄だな」


 しゃあない、後で蠣崎軍側の皆にはしっかり説明しておこう。

 今はそれよりも、アストリッドの答えが聞きだい。


「それにあなたの推理も、間違いですよ。その2名は、私めどもが信仰する数多の神々の一部に過ぎません」


「そうか」


 ええと確かミュルクヴィズラント王国の宗教は……ああ、フルホルメン大佐の要求文書に書いてあった、“パトロヌス教”か。

 どうやら聖職者の格好はキリスト教風だが、中身は一神教じゃなく多神教のようだな。


「聖女神様の名をお出しするのは、私めども下界の者には憚られることですが、何も知らない異教徒のために敢えて教えておきましょう」


「前置きはいい。早く教えろ」


「――“メルティーナ・カエキリア”。それが畏れ多き聖女神様です。」


 聞いたことのない神様だな。

 どうやらミネルヴァやフレイアは共通の存在でも、『ミズガルズ』特有の神々もいるようだな。


「その表情、まるで聖女神様のことを存じない顔ですね。ミネルヴァ様やフレイア様は知ってる癖に」


「あっそうかい。何分、変なところで無知なもんでね」


「――ならばあなた方に、ここで1つ条件を出しましょう」


 条件? いきなりここで何を言い出すんだ、アストリッドは?


「ここで、パトロヌス教に改宗してください。敵であっても、無知なあなた方をこの私めが正しき方向に導いて差し上げます」


 ちっ、特定の宗教に凝り固まって、驕り高ぶっている。聖職者には多い、『自分の宗教こそ絶対』の人間だな……。


「もしここでパトロヌス教に改宗するのであれば、あなた方が降伏しようとも受け入れますし、逃走しても私めたちは追撃しません。どうですか?」


 げ、俺たちを釣ってきているよ、この人。

 確かに日本の神道と通ずるところはあるけれど、でも状況を考えてみろ。

 お互い刃を交わして、死闘を繰り広げている状態だ。

 これで蠣崎軍側が「はい、改宗します」なんて言うわけないだろ?


 時を考えろ、時を。


「何を異なことを申されるか。かような場面にて、異国のわけもわからん神を信じよなどと申されても、某には到底出来んわあ!」


「アタシはあんたの言う宗教には、共感するよ。でも、アタシたちの集落を占拠しておいて、そんな傲慢な要求、受け入れるわけないじゃない!」


 やっぱりそうなったか。アストリッドさん。あんたの交渉、失敗に終わったようだぜ。

 もっともアストリッドの表情から察するに、もとから成功するとは思ってなかったみたいだが。

 一応、提案だけはしてみたって感じだな。


 ……ん? でも待てよ。

 中野館主の季連も、志苔館や宇須岸館の将兵も捕縛されたってことは、降伏した彼らはもう改宗した後なのかな?


「あら、それは残念。でも今は意地で抵抗しているあなた方も、いずれすぐに改宗することになりますよ」


 王国軍め、こちらに対して連勝して天狗になってやがる。だが、こちらはもう手駒が足りなさすぎる。

 このままでは、アストリッドの予言がその通りになってしまうぞ……。



 敵の大軍勢によって、幾度となく窮地に追い込まれる蠣崎軍。

 しかしここで、まるで俺たちのピンチを嗅ぎつけたかのように、王国の聖職者部隊が背後から何者かに襲撃され始めた。


「くっ……」


「だ、誰だ?」


 襲撃のあった地点では、王国軍の修道士達が次々と謎の砲撃を受けて空中に飛散。そう、隕石の衝突を直で受けたように。

 完全に現場には俺たち数人しかいないと、高をくくっていたアストリッドたち。

 だからこそ、音もなく忍び寄ってきた相手に意表をつかれて、混乱がウイルスよりも速く伝わった。


「あなた方、お静まりなさい! 手負いの獅子を前に、みっともない声をあげてはなりません!」


 アストリッドの統制も、一時利かなくなる始末。


「一体、誰が……」


「あ!」


 援軍に来た人物に心当たりのない俺たち。

 しかし、すぐそばにいたレスノテクだけは、聖職者部隊の後ろの人物を見て、パァと笑顔を咲かせていた。 


「――リシヌンテ!」


「レスノテク~! 待たせてゴメ~ン!」


 レスノテクの先には、アイヌ風の巫女服を纏った、緑のロングヘアーの元気な少女が1人。

 太陽のスマイルを持って、こちらに参上してきた。


「その名、お前も蝦夷の者に御座るか?」


「うん、そうだよ~。それに、“蝦夷”なんて言い方は止めて欲し~かなぁ~」


「む、それは失礼」


 これまた、この戦場に相応しくない陽気な子だな。無邪気な笑顔が、眩しく写っている。

 けど彼女の後ろ、槍を持ったアイヌの兵士たちが大勢いる。

 まさか、彼女が率いてきたと言うのか?

 

「あ、ボクの名前はリシヌンテ! チリオチの首長・チコモタインの娘で~す」


 ……はっ、なるほど。

 この子がレスノテクが言ってた『親友』、リシヌンテか。だが正直、態度を見るに、指揮能力に問題がありそうな気がしないでもない。

 血みどろの舞台に似合わない、ひまわりのような性格。

 が、レスノテクが援軍にきてくれて笑顔になるくらいだ。実際は見た目以上に、結構戦える奴なんだろう。


「今の敵は、あの白い服と紺の服の人たちなんだよねっ?」


「そうよ。一緒にやってくれる?」


「もっちろ~ん! 行こ、レスノテク!」


「よっしゃあ! 派手に散らすわよ!」


 おお、アイヌコンビがいい感じに意気投合している。俺も負けてはいられないな。


「くっ……」


 だから、なんでこういう時に限って体が痛むんだよ。俺にも共闘させてくれよ……。


 だがリシヌンテ率いる援軍が来たことで、再び優勢は蠣崎軍側に傾いてきた。やり返せ! 2人とも。

 そしてさっきレスノテクを救出して、怪我と体の痛みを悪化させた俺は、情けなく応援に回ったのであった。

 レスノテク同様、リシヌンテも本作オリジナルの架空の人物です。

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