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不破一族の多世界征服記~転生者一族の興亡史~  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
3章 対ミュルクヴィズラント王国戦争
31/206

30 猛々しき迎撃隊

 日が開けて翌日。

 俺たち一族は大樹の根元で野宿し、再び中野館目指して進んでいた。

 しかし野宿したせいか、体の疲れはあまり取れず、それどころか寝違えた時の痛みが付加されてしまう始末。

 

「五郎、大丈夫か?」


「兄上、俺は大丈夫です。先を急ぎましょう」


 でも立ち止まってはいけない。 

 こうしている間にも、戦況は徐々に悪化しているはず。

 俺達がちゃんと戦える態勢を整えられるところまで、事を運ばないと。

 体の痛みは気力で耐える! 俺は王国軍のみならず、自分の肉体とも格闘していた。



 ◆◆◆◆◆



 小一時間ほど歩き、僅かに平野が、と言うよりは谷に平地を微妙に足した地形が見えてきた。

 一応この辺りが中野館の所在地のはず。

 だが一面、木が鬱蒼と生い茂っていて、一目見ただけではどれが中野館かはわからない状態だ。

 

「中野館はどこかしら?」


「それより母上。なんか随分と騒がしくはありませんか?」


「え? ……あら、本当ですね」


 今俺達は、中野館近くを流れる中野川の上流に潜伏している。

 そして少し下流側からは、何やら法螺貝や叫び声などが耳に入ってきているのだ。

 まさか蠣崎軍か? それももしかして、想像よりも善戦しちゃってる系?


 そうやって少しばかり様子見していると、一際大きな、そして聞き覚えのある声が下流から飛ばされる。


「全軍! あるだけの矢を射抜くのじゃ!」



「かの声は、もしや……」


「父上?」


 父は何かに気づいたのか、徐に下流側へと歩き始めた。

 兄達が制止するも止まらず、半ば追いかけるように父の跡をついていった。



 ◆◆◆◆◆



「全軍! 攻撃を一時中止せよ! 敵を限界まで引きつけてから、攻撃再開じゃあ!」


 豪快に采配を振るう2人の人影。

 そこにいたのは、見慣れた甲冑姿のオッサンと、見慣れない1人のアイヌの少女がいた。


「長門殿?」


「――兵部少輔殿? かような地でどうされたか」


 げ、ここで広益のオッサンの登場かよ。オッサンこそこんな所で何してんだよ?


「情けなき話に御座るが……ワシらは、茂別館から逃げてきてしもうたのじゃ」


「ふむ、先ほど某の所に参った伝令が言っていたことは、本当だったのか……」


 どうやら東の3つの館が落ちたという報告は、もう中野館以西(こっち)にも伝わっていたわけか。


「長門殿は何故こちらに?」


「お館様が、中野館の防衛に当たるよう命じられたのじゃ」


 仮にも猛将であるオッサンを、本拠地の徳山館に置かなかった?

 よっぽど、徳山館は将が揃っているようだな。兵は不足しているくせに。


 でもおかげで、ここでは東部における悲惨な戦況をものともしない応戦ぶり。

 王国軍側が苦戦しているのが、敵の悲鳴だけでもよくわかる。


 が、それより気になることがもう1つある。

 

「このアイヌモシリを、見知らぬ兵に荒らされてはならない! 正確に敵を迎撃せよ!」


 広益のオッサンの横にいる若干茶髪の少女、一体、どこから引っ張り出したんだ? て言うか、誰?


「あ、あの……君……」


「なんだ? 今は戦中だ。話は後で聞く」


 うわ、堅物って感じの女の子だな。目の前に集中しているのは理解できるけど、素っ気ないな……。

 

 でもアイヌらしく弓の腕は達者だ。一度に5本いっぺんに発射し、どれも正確に命中させている。

 相当、訓練を積んできたんだろうな。


「長門殿。かの少女は何者じゃ?」


「ここら一帯を治める、蝦夷の女首長だそうだ。名前はレスノテクとか申してたな」


 レスノテクと呼ばれる少女。

 周囲のことには関せず、ただ冷徹に矢を王国軍に向けて放ち続ける。


「ぐっ……」


「撤退、撤退だぁ! これ以上の犠牲は危険だ!」


 谷の下から、王国軍司令官の命令が聞こえる。


 コタンシヤムの乱の時は敵だったアイヌが、今回はこの蝦夷地、いやアイヌモシリを守るために共闘してくれている。

 にしてもスゴいな。あれだけいた王国軍を退けたぞ。

 味方となれば、なかなか強力な戦力になる。


「とりあえず、凌いだか……」


 ここにいるアイヌの兵は約500人。

 それに対し、広益のオッサンが率いてきたと思われる和人の兵は150人。

 たった650人で撃退したのか、あの大軍を。


「さっきは悪かったね。アタシはレスノテク。リコナイ(木古内)の首長よ」


「俺は不破五郎武親。よろしく」


「あ、アンタがあの『蠣崎家一の武辺者』とか言われていた人? 光栄だわ」


「ど、どうも……」


 ちょっと前の仕事モードから一転、わりと気さくに話しかけてきたレスノテク。心のスイッチのオン・オフが上手い子のようだ。

 

「この500の兵は、レスノテクが連れてきたのか?」


「それは少し違うわね」


「え?」


「ここにいる兵の半分は、チリオチ(知内)の首長・チコモタインさんが預けてくれたものだよ」


 今、蠣崎家との交易の関係で、蝦夷地東部のアイヌの代表になっているチコモタイン。

 今回は、彼も協力を仰いでくれていたのか。さすがに、ミュルクヴィズラント王国は共通の敵になるか。


「アタシの集落も、敵の占領地になっているんだ。だから、アタシはそれを取り戻したい」


「同感だ」


 そうだ、ここは和人以上にアイヌにとって大切な土地。そりゃ、故郷のために必死に戦うよな。


「あ、言い忘れてたけど、後でアタシの親友も参戦するんだ。そっちもよろしくだね」


「へぇ、親友か……」


 父上。この様子だと、勝山館まで逃げる必要は無さそうですね。

 立派な戦力がいる。まだ蠣崎軍は死んでない!


「ところで、中野館を治める佐藤彦助季連さとうひこすけすえつら殿はどこじゃ?」


 中野館は代々、佐藤氏が治める拠点。

 現在の当主は佐藤季連。本来の史実なら徳山館にいるはずなんだけど、なんか中野館(ここ)も元の史実とは違って再建されているし。

 まあその分、支配地が増えているからいいけど。


「……実はな、彦助殿は子息ともども、捕虜になってしまわれたのじゃ」


「ほ、捕虜ですか……」


 随分捕虜になる武将が多いな。ばっさり首を取ったりしなかったのか?

 

「志苔館や宇須岸館の将も、捕虜になっていると聞くが……」


「某の見立てでは、どうも向こうは生け捕りを命じているらしいのじゃ。討ち取ることよりも遥かに困難なはずの生け捕りを、何故か敢えて敵は実行しておるのじゃ」


 生け捕りを命じている?

 確かにこちらとしては、味方武将が戦後も減っていなくて一応は安心できるが。

 けど、わざわざ生け捕りにする狙いって何だ? 王国側に寝返らせようと、工作しているのか?


 いや、そんな必要は無いはずだ。

 そもそも兵力差は再三伝えているように圧倒的。戦に勝つためだけなら、そんな手間は省くべきなんだ。


「もはや向こうは、戦の全面的な勝利を確信して、占領後の工作を行っているのか……」


 縁起でも無いことをいうな、父よ。

 それじゃ、こっちはとっくに負け確定と言ってるようなものじゃないか。

 確かに『もしもの時』のために、有事のことを考えるのは必要だが。


 でももし王国側がその気なら、その物量に物言わせた自信、俺が打ち砕いてやる。属国になんて、なりたくないしな。

 俺は茂別館での敗戦の悔しさも相まって、戦意が沸騰するように急上昇した。

 

「ぐっ……」


 が、体の痛みが俺の戦意を抑える。

 今は無理しちゃいけない、ってことか。仕方ない。明日は俺が先頭に立って、次こそ王国軍を蹴散らす!


「とにかく、現在は臨時で某が中野館を預かる身となった」


「左様に御座るか?」


「兵部少輔殿も他の皆もお疲れじゃろう。今日は某と蝦夷の兵の戦ぶりを肴に、ここでゆっくり休むとよい」


 優しい言葉をかけつつ、オッサンが俺を睨みながらそう言った。

 あの『どちらがより活躍するのか』という勝負のこと、まだ覚えていたんだな。

 悔しいがオッサン、今日のところはあんたの戦い方を見せてもらうよ。

 

 俺たち一族は中野館の東の山から、長門広益とレスノテク、この2人を中心とした戦いを見学することになった。

 レスノテクは、本作における架空の人物です。

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