29 敗走
茂別館を後にした俺。
先に撤退した一族の元へ険しい山道の中、ひたすら歩を進める。
本当は、茂別館のすぐそこを流れる茂辺地川を渡りたいところだ。だが対岸の狭い平野部には、王国軍兵士のテントが夥しく張られている。
1人で襲撃するのは可能だが、万が一ブレンダみたいな強力な指揮官でいたら、今度こそ命を落としかねない。
これ以上のギャンブルは、失敗するのは目に見えている。
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名前 不破武親
HP 5813/18420
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俺は道中、ステータス確認と『瞬時検索』を使って戦況を確かめる。
大分手傷を負ったな。無茶し過ぎたか。
が、相手の兵力も2000人減って12000人。約140人の小隊で、むしろよくやったよ。
でも、相手の勢いは恐らく止まらないだろうな……。
俺は対岸に王国軍がいなくなる上流まで、登っていった。
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2時間後。
ようやく長い道のりを経て、俺は一族の元にたどり着いた。皆一様に俺の姿を見た瞬間、嬉しさ半分、心配半分の表情を浮かべた。
「……よく、戻ってこられたな」
「……はい」
長兄の広治が、一番先に声をかけてきた。
「敵の勢力を弱めることは出来たのか?」
「なんとか……」
続いて次兄の季治に、成果を尋ねられた。
「五郎! その顔の焦げ痕のようなものは何だ?」
「焦げ痕……ですか?」
三番目の兄の光益に指摘され、俺は気になって頬を触った。すると、顔から炭となった薄い皮がポロッと地面に落ちた。
「いてっ……」
そして皮が剥がれ落ちた箇所が痛み出す。
これはきっと、ブレンダの『灼熱嵐』を浴びたせいだな。
それ以外にも甲冑には深い爪痕。刀はヒビが縦横無尽に広がり、もはや使い物にならない。
が、俺のことは実はどうでもいい。俺は皆に、謝らなければならないことがあるんだ。
「それより父上、すみません。兵を、貴重な兵を……1人残らず全員死なせてしまいました………」
兵力があまりに足りてなかったとは言え、勢い任せに杜撰な指揮をしてしまった。
あまつさえ、1人残らず戦死させてしまったことは、詫びなければならない。
俺は一族の代表たる父に対して謝罪した。しかし父は怒らなかった。
「良い……良く頑張った……」
「でも俺は……」
「全滅は予想するに易いことに御座った。ワシこそ、年少の五郎を置いていってしまい、申し訳のう御座る」
反対に父も俺に向かって謝罪した。
普通なら、威厳のためにも長兄の広治にも頭を下げない父が、この時ばかりは低頭だった。
「父上……」
「立派でしたよ、五郎……」
「母上……」
さらに母は俺を慰めるように、そっと抱き締めた。母親らしい包容が俺の心を温める。
「後、さっき伝令があった。志苔館と宇須岸館(現・函館市)も陥落したそうだ。防衛に当たっていた将兵は、みんな捕縛されたらしい」
「そう、ですか……」
最後に一番下の兄、家政が他方面の戦況報告に入った。事態は早くも深刻な状況であった。
くそ王国軍め、オーバーキルもいいとこだぜ……。
少数で多勢に勝つ時は、たいてい多勢側の士気や行軍に問題がある場合が多い。
だが今回、向こうの兵は数も質も蠣崎軍より完全に上。さらに強力な攻撃魔法まで使用可能とか、反則過ぎるだろ……。
しかし、志苔館と宇須岸館も陥落。そして茂別館も陥落したことで、東側は全滅してしまったようだな。
蠣崎軍は窮地に陥っていた。
「皆の者。ここで暗い顔してもどうしようも御座らん。ワシらはとにかく勝山館を目指して、落ち延びるしかない」
さしあたって目標は勝山館か。
だが徳山館や脇本館のある海岸線沿いはもう王国軍の占領下、もしくはそれに近い状態だろう。
と言うことは、緑生い茂る深い山々を渡っていくしか道はなさそうだ。
「しかし父上。勝山館を目指すにしても、どこで休息をとるべきなのでしょうか?」
至極当然の疑問が広治から上がる。
確かに今、俺たちの手元に食糧は殆ど無い。険しい山岳越えを想定するなら、栄養補給は必要だ。
「まずは一旦、中野館(現・木古内町)を目指す」
「中野館、ですか?」
「左様。あそこは海岸よりも奥まった場所に御座る。敵も中野館まで攻め入るには時間がかかろう」
どうだかね。王国軍は機動力でも蠣崎軍を上回っている。今頃は蹂躙されているものと考えたほうが、戦況にも合致していると思うけど。
「では皆の者。参るぞ」
「御意!」
だが、もう道は残されていない。
俺たちは父についていくしか方法は無く、中野館から勝山館を目指してもう一度歩み始めるのであった。
実際には、志苔館も宇須岸館も、そして中野館も1512年の段階で廃館になっています。(アイヌの武装蜂起による)




