28 意地
俺は突撃した。再びブレンダ目掛けて。
だがさっきと違い、闇雲な猪突猛進でもなかった。
「行かせん!」
俺の目の前に、王国軍兵士が再び大量に立ちはだかる。
さっきは手こずった相手。が、精神を集中させた俺の敵ではない。
「雑兵は……どけい!」
「ぬおっ……!」
俺は刀で次々と敵を散らしていった。箒でゴミを払うように。
獣人部隊が出てきた時は捉えられなかった動き、今は鮮明に見えている。
「うおおお!」
「来るか少年。哀れな」
だがブレンダはその様子に狼狽えず、再び魔法の詠唱に入った。
歳の割に結構戦慣れしているのか、冷静な対応だ。
「空間障壁」
やはり来たか、魔法で。だがその行動は既に計算済みだ。
俺は空中に出現した障壁を展開される直前に、一瞬立ち止まった。
「な……!?」
てっきり一直線に愚鈍に来ると思っていたのか、ブレンダは一瞬戸惑った様子。
そして完成直前の障壁に送られていた魔力に、僅かに隙が出来たようだ。
「スキあり!」
「あ!」
俺は刀で障壁を叩き斬った。障壁は綺麗な白い破片を舞わせて、地面に消えていった。
「私の障壁を強引に突破するとは……」
「余所見している場合か?」
「な!」
俺はブレンダの腹に一振りの刀を浴びせた。
「きゃあああ!」
ブレンダは軽装備な服を斬られて、地面にへたり込んだ。
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名前 ブレンダ・ラーゲルクヴィスト
HP 11754/14880
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「くっ、敵に悲鳴を聞かせるなんて……」
「はっ!」
「うっ!」
思ったより可愛い声だったな。が、聞き惚れている場合じゃない。まだだ!
俺は再び刀を持って追撃に入る。
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名前 ブレンダ・ラーゲルクヴィスト
HP 9965/14880
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だが今度は避けるタイミングを早めにとったのか、刀は掠るように命中。
俺は正確にダメージをブレンダに当てられず、中途半端な一撃となる。
「さすが獣人だな……」
人間である俺じゃ、獣人の動きの予測がつきにくい。体のしなやかさでも負けている。
だが、攻撃力はこっちが上だ!
そうして俺が次の手を練っている瞬間、ここでブレンダが反撃した。
「神速の爪」
「ぐほっ!」
目にも止まらぬスピードで、俺の甲冑が削りとられていった。
再度、豪快な爪痕が刻まれていく。
今のは……目で追えなかったぞ?
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名前 不破武親
HP 13853/18420
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「なんて威力だ……」
俺はその傷に、あろうことか見入ってしまっていた。
ジンジンと痛みが体に伝わっている筈なのに。
しかしブレンダは、そんな俺に息つく暇を与えない。
「疾走する刃」
「ぐわ!」
「荒れ狂う大嵐」
「がはっ!」
やべえ、攻撃魔法のラッシュだ……。しかも風を利用した強力なヤツばかり。
獣人らしく、速さを生かした技の数々。
だが、そろそろブレンダのMPも限界のはずだ。こんなに撃って、保つはずが無い。
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名前 ブレンダ・ラーゲルクヴィスト
MP 532/2049
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残り約4分の1か。
もう間もなく、激しいこのラッシュも続かなくなりそうだ。
今はひたすら防御して、MPが尽きるまで耐え抜くほかないようだな。
しかしブレンダも自分の限界を察したのか、ここで麾下の獣人部隊に命令を下した。
「全員、一斉に掛かれ」
「おう!」
俺が一瞬で蹴散らしたことで、一時的に観客と化していた周囲の敵兵たち。
けどブレンダの号令が、もう一度彼らを動かした。
そして部隊長だけに戦わせられないと、一気に俺に襲いかかる。
「はあ!」
「ごっ!」
敵の槍がレーザーのように、俺の体を貫かんと刺さる。
心臓は免れたが、脇腹からさらに激しく出血する。
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名前 不破武親
HP 7011/18420
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「これ以上は危険か……」
いや、1対1ならまだやれる範囲だ。だが、ここは既に大量の王国軍兵に包囲されている。
茂別館も占領されてしまった頃合いだろう。撤退のために血路を開くには、これ以上のダメージは喰らってはいけない。
「むふっ……」
背中も矢が既に沢山刺さっているし、ここはもう逃げるしかねぇ……。命が無くなったら、それでこそ逆転出来ない。
俺は苦渋の決断を下した。
「何だ……? こっちを向いているぞ……?」
とうとうブレンダの首を諦め、俺はここでついに転進。
さっきの計略地点に当たる後ろの森まで、一直線に獣人兵の防御を、最後の力を振り絞って散々に打ち破る。
俺1人だけで、孤独に。
「――どけどけどけどけどけどけっ……!」
「まだ、こんな力が残っていたとは……」
いや、今の俺は気力だけで押している。
相手の将を倒せなくって、それに大事な兵を全員死なせてしまって、悔しさをぶつけているだけさ。
俺は目に涙を浮かべながら、必死に森を目指した。
もうすぐでこの死地を脱出できる。
ブレンダを仕留めることは出来なかったが、王国軍の戦力を減らすことは出来た。
兵を半ば見殺しにしたのは、残念だったけどな……。
ふと茂別館のほうを窺うと、王国の軍旗らしきものが屋根から上がっていた。
どうやら王国軍は、空城の計には引っかからなかったようだ。
こちらの兵力の低さが、見透かされているのか?
それとも、単純に圧倒的な戦力に自信を持って、伏兵を警戒しなかっただけなのか?
だがどちらにせよ、今の俺には茂別館を奪還する力は無い。俺は再起のチャンスが来る時を信じて、森の中に潜伏した。




