21 久々の女神たち
ある夜。俺の夢の中に、例の2人の女神が登場した。
「……また……この夢か……」
「――この夢か……じゃないでしょ、武親くんさ」
ミネルヴァが、寝ている俺を見下ろすように立っていた。
て、これまた不機嫌そうな顔してるな。
「この前の戦、あれ何なの? 無様な姿晒してさ、もっとしっかりしなさいよ!」
「は、あれ見てたの? て言うか、再会して早速説教かよ!?」
こちとら、実戦経験なんて皆無だったんだぞ? むしろ自分でも、よく敵の首を捕るところまでやったってのに。
「あたしたちが与えた能力をまともに生かさないから、ああなるんでしょうが。しゃんとしなさい、まったく……」
「でも、懸命に戦っている時の武親さん、結構格好良かったですよ……?」
うんうん、さすがフレイアは良いこといってくれるね。それでこそ士気が維持されるってもんだ。
「それにあなたは軍神。それは戦い慣れているはずでしょう。しかし……」
「ああもう! それ以上喋らなくていいから。武親、今度はきっちりね。いいわね?」
「ラジャー」
ま、神様からしたら、俺なんて戦闘力が高いだけの人間。そりゃあ、戦がだらしなく見えるかもしれないけどさ。
初陣の戦国武将に、期待し過ぎだ。
「――ところで、こうしてわざわざ夢に出てきたってことは、ただの中間報告。ってわけでも無さそうだな」
下らない痴話喧嘩で忘れそうになってたけど、仮にも向こうは神。
暇つぶしに、俺みたいな奴の所にホイホイやってくるほど、お気楽な身分でも無いはずだろう。
「変に鋭いわね。でも、当たりよ」
「実は近々、蝦夷地に『ミズガルズ』の民が迫ってくるようなのです」
「……マジ?」
10年以上ぶりに出てきたな、『ミズガルズ』。
アイヌの武装蜂起の鎮圧に夢中になってて、少し忘却状態にあったけど。
けど、今さらながら『ミズガルズ』の民たちって、どんな人たちなんだ?
「なあ、『ミズガルズ』ってことはさあ、やっぱり俺たちと同じ人間が住んでいるのか?」
「違います」
「え?」
いやいや、『ミズガルズ』は北欧神話じゃ人間が住む世界の筈だろ?
それを、その当事者の1人であるフレイアが否定するって、どういうことなんだ?
「確かに人間族が中心の世界ではあります。しかし……」
「実は世界樹の異常で最初に繋がったのって、『ミズガルズ』と異種族の国『アールヴヘイム』なんだよね」
「げ。ということは、この戦国の日本は『ミズガルズ』とだけでは無く、『アールヴヘイム』とも融合しているのかよ?」
「は、はい。そうです」
アールヴヘイム。
アールヴとは、ファンタジーでお馴染みのエルフのこと。
つまりファンタジーな種族が沢山存在している世界のこと。さらにフレイアの話し方から、『ミズガルズ』と『アールヴヘイム』が合体したことで、多種多様な種族が暮らすようになった、てことか。
「……上手く利用出来ないかな、その人たち」
「さ、さあ?」
敵には出来るだけ回したくないな、正直。
「ところで、1つ質問がある」
「何?」
「この、戦国時代の東アジアと『ミズガルズ』が融合したのって、西暦で言うと何年なんだ?」
俺がこの話を聞かされてから、しばらく心に引っかかっていること。
それは、“融合の年代”である。
俺が生まれた1548年前後、この時期は戦国の中でも重要な時期と言える。
1542(もしくは1543)年は、鉄砲が伝来した年。
そして1549年。フランシスコ・ザビエルがキリスト教を布教し始めた年にあたる。
つまり、思想と戦闘手段を中心に、大きな転換が起こった年代なのだ。
「そうですね……西暦にして1540年。といったところでしょうか」
「1540……年」
「そうだけど、それがどうしたの?」
この話が本当だとすれば、転換のきっかけすら無い状態か。古来の戦法が、以前幅を利かせている感じだ。
これは、こちらが優位に立てるチャンスだな。
何故なのか。
鉄砲には、火薬が必要になる。しかしその火薬の原料である硝石は、日本では採れない。
だから、海外から輸入する必要が出てくるのだが、ここで問題がある。
それは、安定して供給できる最東端の貿易港が、蝦夷地から遠い町、大坂近くの堺だからだ。
だが『ミズガルズ』との融合が起こったことにより、鉄砲が製造されることは多く場合無くなった。
多くの場合なので、もし転生者が大名なり重臣なりをやっているところだったら、その限りではないが。
だが取りあえず、鉄砲が活用出来る出来ないでの有利不利は無い。天下統一のチャンスは、ある。
「……とにかく、さしあたっては『ミズガルズ』に注意だな」
「頑張るんだよ!」
「ウス!」
さて、鬼が出るか蛇が出るか。今後の展開に注目だ。




