20 信長戦死の影響
第3章、スタート。
1560年12月、松前。
ここが交易の港であることは、今までにも散々説明したらわかることだろう。
そして交易の港に入るのは、何も商品ばかりではない。“情報”だって手に入る。
それも、史実とかには載ってないような面白ネタとかあって、結構楽しいんだよな。
だが、呑気なことばかりも言ってられない。この歪んだ世界には歪んだ事実も伝わる。
その一つは、『織田信長戦死の報』である。
◆◆◆◆◆
「織田信長が……桶狭間で戦死したか」
「ああ、そうだな」
元の世界では戦国一の英傑であったはずの織田信長が、死んだ。
今川義元の軍勢によって奇襲を見事見破られ、あっさり討ち取られたという。
このことは、今後戦国時代の行く末に多大な影響を及ぼすことになるだろう。
「話によれば、今川軍は尾張を蹂躙しているそうじゃないか」
「残りの織田家の人間も、抵抗はしているが風前の灯火。多分、全員討ち死にも時間の問題だろう」
報告によれば、信長の兄弟は皆、尾張の北方は美濃、斎藤道三の領地のすぐそこで抵抗しているらしいが、きっとこれは長くもたないだろう。
こうしてこの世界の歴史は、俺たちが元いた世界の歴史から、完全に離れてしまった。
いや、「完全ではない」のかもしれない。信長が死んだことで、豊臣秀吉が出てくる可能性はほぼ無くなったが、他の武将は未だ健在。
史実を辿ればその人の性格や行動パターンは、まだ掴むことができるのだろう。
「……慶広、あんたはこれをどうみる?」
「……天のお導き、といったところか?」
「だとしたら、ミネルヴァさんたちが手助けしてくれたわけか」
「……」
何にせよ、とりあえず俺たちの第一目標『天下統一』はこれでやりやすくはなったワケだ。
ならばこの機会、逃す術はない。
すると慶広は、俺にある意見をぶつけた。
「だが武親、信長は死んだが、他にもっと手強い『敵』はいるのかもしれん」
「手強い……『敵』?」
正直言ってこの時俺は、織田信長以上の強敵を見つけることができなかった。
確かに、武田信玄や上杉謙信、毛利元就に今川義元、北条氏康といった名だたる戦国大名は生きている。
だが慶広が言いたいことは、その人たちのことではなかった。
「今、ここには余と武親、2人の“転生者”がいる」
「それが……どうしたんだ?」
「考えてもみろ。もし転生者が2人もいる、ということは、他の場所にも“転生者”がいるのかもしれん。もしそうだとしたら、そいつらはどの戦国大名よりも恐ろしい敵になるやもわからない」
「!」
それまで俺は、転生者は2人だけだと考えていた。
けど確かに、今まで気づきもしなかったが、言われてみればその通りだ。
もし転生者が他にいるとすれば、その人たちはもしかしたら俺たちと同じく、「戦国時代の知識を持って転生している」可能性もある。
そうなれば、第二、第三の「信長」が出てくることも有り得る。
そうなれば、そいつらこそが一番の難敵だ。
信長は、あまりにも有名だからな。
それに、この仮説から言えることがもう1つ。
転生者が他にいるとなれば、「神々の結束も一枚岩ではない」ことだって考えつく。
それぞれが対立候補を立てて争うということになれば、最後に誰か1人の大名になるまで、戦い続けることになる。
神々が奏者ならば、俺たち“転生者”はさしずめ、サーヴァントといったところだ。
もっともあれはトーナメントで、今現実にあるのはバトルロワイヤルだけど。
けどそうなれば、『世界征服』どころか『天下統一』すらままならなくなる。
「なるべく、そうならないことを祈るよ」
「ああ、余も心で念じよう」
それに本音を言えば、あの信長が簡単に戦死するとはやっぱり思えないんだ。
史実でも、普通は考えつかない「逃げの一手」で金ケ崎を脱出したんだからな。
その日、俺たちの胸に大きな不安を残して1日が終わった。
しかし俺たちは“転生者”と対立する以前に、大きな外敵と戦わなければならなかったのであった。




