不敵な笑みの下、弱者は潰れる
『【目潰しのモンスター】の討伐を確認』
『【ヒーローのモンスター】の討伐を確認』
『【銃殺のモンスター】の討伐を確認』
3:41PM
レベル4モンスターの3体全ての化質反応消失を確認。
「いやァ………今日はスッゲェ楽しい一日だったなァ ! 」
「───確かに、本職らに被害はなし。結果から言えば、間違いなく大勝利でありますね! 」
オペレーターから任務終了が告げられる。
【狼男】の2人は戦いを振り返り、皆の無事を喜びつつ、やりがいのある今日この日を祝福した。
「…………終わったね終わったね」
「────そうですね」
【フランケン】の2人は戦いが終わった事に安堵し、いつも通りの調子で言葉を交わす。その普段と変わらない、という大きなしこりに───バンタンは少し戸惑いながら。
「第一ッ!!ヌードポスターをわざわざ部屋に飾る方がおかしいのよ!!引き出しにでも突っ込んで必要な時にだけ出して、出せばそれでいいでしょうッッ!!」
「確かにそうかもなぁ!!ノックもせずに勝手に部屋に入りだすお前の良識の無さには劣るとも思うがなッ!?」
【ミイラ男】の2人はまだ喧嘩をしていた。
少しづつ、緊張感が緩んでいく。警戒をしていないわけではないが、深刻にそれをしているわけではない。ちょっとした目配りを欠かさずに、【狼男】と【フランケン】は場を離れていく───
新暦106年 1月27日 3:42PM
イーストリア東部にてレベル4の化質反応を確認。
背後で蠢き、膨張し。形作りながら、その気配は周囲を刻む。
ウールネスは、ミリーは───
バンタンは、ツナグは───
倒れ伏し、力の全てが空に溶かれた、怪物の残り滓を顧みた。
「カッコ悪いお前らは………………カッコいいこのオレがお仕置きだあああああああああああ!!!!!!」
【狼男】の背後に立つのは、安っぽい赤のダサスーツ、劣悪なデザインの覆面を身に纏い、カッコ悪いポーズを何の恥ずかしげもなく見せつける、【ヒーローのモンスター】。
「………………今までのボクではアナタ達を殺せないので。アナタ達を殺せる新しいボクへと生まれ変わりました」
【フランケン】の後ろで蘇ったのは、4m程の体にピチッと合ったスーツを着こなし、長く太い砲塔を下腹部から反り上がらせる変態殺人紳士、【銃殺のモンスター】。
「え…………?あれ…………?」
「ん…………?えっ、今何が起こっているのよ」
突如、近くで爆発する濃厚な化質の気配。マミィとパイロは喧嘩を中断し、異なる2つの方向を交互に見る。そして、視線はさっき自分達が討伐した、モンスターの方へ───
『………………………』
舞い上がる炎が両者の拳を握る素振りで消失し、火の中でうずくまるその者の姿が明瞭に見える。
しかし、彼女【目潰しのモンスター】であったその者に、復調の兆しは見られなかった。
『………………?』
【ミイラ男】の2人は首を傾げて互いを見やる。討伐した筈のレベル4モンスターが復活するこの異常事態、何故か【ミイラ男】だけがその例外である事に、疑問を覚えた。
「よっぽど森を駆け回るのが楽しかったんだなァ………!!何度でも戦ろうッッ!!次も負けねェぜェェェ!!」
『【ヒーローのモンスター】の復活を確認 ! 【ヒーローのモンスター】が、蘇ったであります!!』
己の正義を取り戻した【ヒーローのモンスター】は、迷いなく【狼男】に立ち向かう。そして、ウールネスはそれに嬉々として相対し、ミリーは即座に司令部に報告を行う。
「はぁ〜!?もぉ何々ぃ!?」
「………………はぁ……………」
性欲が復活した【銃殺のモンスター】は自信満々に【フランケン】に迫る。そして、バンタンは変態の再来に憤り、ツナグは重いため息を吐き出した。
そして、【狼男】対【ヒーローのモンスター】、【フランケン】対【銃殺のモンスター】の戦いが再開される───
「ニャハハ ! ヒーローたるもの不撓不屈は当たり前………マジで折れね〜か、試していいかぁ〜!!」
【狼男】の前に割って入るは骨頭の大男。【メッサーズスケルトン】、パルトコーツ。彼は、筋骨隆々の大きな肩に下げたドラムショットガンを手に取って、銃口を真っ直ぐと【ヒーローのモンスター】に向けた。
【ヒーローのモンスター】の頭が、散弾によって打ち上げられる。一粒一粒に波々と込められた化質は、【ヒーローのモンスター】の肉体に浸透し、衝撃をダメージとして還元。無数のペレットが肉に食い込み、裂傷を与えた。
そして2発3発と、息つく暇もない発砲の連続。【ヒーロー】の肩や胸へ目掛けた連射は、その上体を何度も押して体勢を崩していく。
「なんだその顔怪物め…………!悪の面構えじゃないかァァァァァァァ!!」
しかし、パルトコーツは人間だ。扱える、引き出せる化質の量は道具の力を借りてもレベル4モンスターには到底及ばない。赫映晶火薬の威力をそのまま全てダメージに変えるには、化質の出力が足りていない。
【ヒーローのモンスター】はその眼光をパルトコーツ一人に向け、腕を振り被りながら向かい来る散弾をかき分けるように距離を詰める───
「人様の顔をディスるような番組は!とてもお子様方には見せらんねぇ〜なぁ!コンプライアンスぅ~!!」
【ヒーローのモンスター】の踏み込みと合わせるように、パルトコーツは大きく一歩、射撃を中断して前に出た。飛び道具を印象づけてからの接近、結果生まれた距離感は至近であった。近すぎるその距離は間違いなく銃火器で戦うには適していない、がしかし、パンチにしても至近故に充分な加速が見込めず有効とは言えなかった。
【ヒーローのモンスター】の思考が停滞する。想定を欺かれた事によって、最適を探そうとする頭の働きによって───結果、ダサいマスクと不気味な頭蓋骨が見つめ合う、異様な刹那は時間以上に時を消費した。
【EXCEED】
意識的に操作された化質は、生物の運動を過剰化させる。パルトコーツが使用したこの技は、その性質を高める技術である。
上体の下降は落下のようにごく自然と、折り畳まれる足の動きは設計通りの動作のように滑らか────パルトコーツの姿勢の下げるその動きは【EXCEED《超過》】によって、疾く美しく刊行され、【ヒーローのモンスター】の視界から抜け出す役目を果たす。
そして、スライディングで、【ヒーローのモンスター】の足元を過ぎ去るパルトコーツは、すれ違いざまに自らの肘を、モンスターの膝の裏に押しつけた。
膝に込めた、起立の意思がスッと抜けていく。全身にみなぎっていたその力が、膝から輪を広げるようにして、忽然と消えていく。
膝を後ろから押すことによる転倒。突如として人の立つ力を抜くこの技は、頭を強打させてしまう可能性がある危険な行為。しかしながら、頭を打つまでのこの過渡は、【ヒーローのモンスター】にとって非常に安らかな時間であった。
頭にひしめいていた混乱が、天井から差す照明の眩さによってかき消されていく感覚。背を包む浮遊感は、不思議と彼に心地よさを与えていく。
【INPACT】
けたたましい銃の一声が、そんな一時の平穏を突き破る。コントロールされ床に向けられた発砲の威力は、物を下から上に持っていく力となり、パルトコーツはそれに追従して飛び上がった。
「ニャハハ!」
奇妙な笑い声が、【ヒーローのモンスター】の顔に乗っかる。一瞬限りの気の抜けた表情、それすらも許さんとばかりに、パルトコーツの散弾が【ヒーローのモンスター】の頭に真正面から食いつく。そして散弾は、【ヒーローのモンスター】の後頭部を硬いコンクリートに叩きつけさせた。
「───!?………何故撃てない!?」
自らの眼の前に立つ極上のごちそう。その2人の内臓を一目見て愉しむべく、【銃殺のモンスター】は腹に力を込めた。しかし何故か、発砲の手応えが、弾丸の蓄えが感じ取れない。
その理由は、先ほどツナグが行った事と同じ。尻に位置する吸引口を、クレイを用いて塞いだのだ。───目にも止まらぬ速さで。
そして、それを行ったのは、【銃殺のモンスター】と【フランケン】の間に立つ男…………【メッサーズスケルトン】アラボネ•バッツバックであった。
キビキビとした歩みで近づいて来るその男に、【銃殺のモンスター】は目が離せない。
今、アラボネが前にしているのはモンスターの粋、レベル4モンスター。それも、殺害を旨とした特段危険な手合いだ。本気を出さない、そのような選択肢は当然存在しない。
故にアラボネは、それを証明するかのように、普段より着用している手袋を外してさらけ出した。───肉の一片も不随しない、自らの骨の腕を。
彼が持つオリジナリティは、生来で関わった者全てから驚嘆と多かれ少なかれの恐怖心を引き出してきた。
だから、他人から向けられる奇異の視線に対して、不要な感情を抱くことなど今更ない。ただ、今回ばかりはほんの少しの驚きを感じざるを得なかった。
何故なら、それはアラボネにとって始めての経験であった為。むき出しの骨の腕よりも、歩む音に観点を置いた考え方が、ファーストコンタクトで行われた事は。
「どう‥………言う事だ………?内蔵が────ないぞ…………!?」
【銃殺のモンスター】の動揺は、190に達する身長に不釣り合いなアラボネの歩行音の軽さから端を発し、骨の腕を考察に加えて、導かれた推測によって起こった。
そしてそれは、事実と狂いなく合致する。
アラボネの体は、両腕、両足、胴体………即ち首から下全てに肉が付いていない。彼の肉体に臓物は含まれておらず、血液も頭1つ分が最大量。【銃殺のモンスター】は震撼した───ある意味で、世界一の博愛主義者である己の性癖に、微塵もミートしないアラボネという男の存在に。
「な、なんだ……お前は……!?──化け物め………!!ボクはお前の事なんて好きじゃないっ………!構う気なんてないッ!!消え失せたまえ!!」
「───貴方の意思など尊重いたしません。………ただ、お時間は取らせませんのでそこはご心配なく」
アラボネが【銃殺のモンスター】にかけた言葉はそれのみ。以前も以後も、そのひと言以外を送ることはなかった。
瞬間、アラボネの腰に下げられた、二振りの短刀が逆手で抜かれる。
そして、【銃殺のモンスター】の首筋に2本の血の線が走りだす───
「───!?」
突如首元で広がる液状の熱に気が付いた瞬間、右足に更に2つの痛みが刻まれた。
「………!??………ッ!!」
己の口から降りてくるうめき声だけが、情報としてもっともらしかった。思考よりも速いペースで傷が増えていく。流れる血の本数が次第に数え切れなくなっていく。
与えられた切傷はさして重いものではない。アラボネが切り裂けたのは薄い皮1枚と、その奥の血管だけ。ダメージはないも同然の些末な程度。モンスターを死に追いやるには、火力不足も甚だしい。
しかし、負わされる裂傷の、実状を追えないその恐怖心は…………ダメージ以上に、【銃殺のモンスター】追い詰めていた。
何か考えがあったわけではない。恐らく心の叫びを自分なりに汲み取って、【銃殺のモンスター】は足を一歩後ろへ下げる判断をした。
結果、持ち上げた足が地にたどり着くよりも前に、クレイのロープで繋がれてしまい、体のバランスをアラボネの意に明け渡す事になる。
「バンタン•ランジャン。腕を」
すべりおちていく【銃殺のモンスター】の世界。彼にとって緩慢に過ぎる転倒の合間、アラボネはバンタンの右前腕を受け取り、風のように走り去る機敏な動きを執り行った。
そして【銃殺のモンスター】は、ツナグが肉薄しメイスが顔面に激突するまでの一部始終を目の当たりにする。
「ウールネス ! そいつをあっちに投げるであります!!」
パルトコーツによって床に追突させられれた【ヒーローのモンスター】を、ウールネスは拾い上げる。───からの投合。ミリーが指差したその気配に目掛けて、思いっ切り。
【ヒーローのモンスター】が床に叩きつけられ、摩擦でスーツが削られ始めるのと同時。アラボネはしじみ汁のラインを踏み越えた。
「折角森まで足を運んで、獲物にありつけないなんて哀しいよなァ……!!譲ってやるぜェ!!」
「やっちゃえやっちゃえ〜!!」
バンタンの右手に砲塔を掴まれた【銃殺のモンスター】は、バンタンの右前腕に向かって高速移動。右前腕が置かれたその棚に、【ヒーローのモンスター】と隣り合うようにして体を押し付けられる。
アラボネが、再度しじみ汁の線を踏み越えたその時。プカプカと浮かぶそのしじみ汁の輪が熱を取り戻し、湯気を放つ。その湯気は高く高く、その白い姿を損なう事なく舞い上がり、【ヒーローのモンスター】を、【銃殺のモンスター】を、そして棚の頂上であぐらをかき不敵に笑う────〝酒呑童子〟を閉じ込めた。
「じゃはは!───〝一献〟」
3:45PM
【ヒーローのモンスター】、【銃殺のモンスター】の討伐を確認。




